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4◆ここは日帰。日本なんて国じゃねえ

「じゃあ何か?お前がいたのは日本って所でオカシも何にもいなくって、死んだらここに来てたってのか?」

「そういうことになるな」


作り話であるならよくできている。とくに日本の舞台設定はよく練られている。康がそんな作り話をして何の得になるのかは知らないが。本当だとしたら死後の世界に流架が生きてるってことになる。


「いやまてよ、お前死んでないんじゃないか?」


流架の前にいる康はどこからどう見ても生きている。


「そうか?だったら俺、家に帰りてえんだけど」

「いや、帰るってどうやって帰んの?」


そこで黙ってしまう二人である。


「状況を説明するとだな、ここは日帰にっき。日本なんて国じゃねえ」

「言葉が通じるのはラッキーだったな」

「そだね」


話しながら流架は康を観察する。見知らぬ異国にいきなり放り出されたみたいだが、あまり動じてないように見えるのはどういうわけか。最初に見た時もふてぶてしく思ったが、何というか妙に逞しい。

野営場では野菜なんかも売っているので適当に購入し、炊事場で共用の鍋を借りて煮込んだ。それとおにぎりが今日の夕飯だ。


「うまい」

「そりゃよかった」

「あそこで会えたのがあんたでよかった、ありがとう」


おや、と流架は思う。ちゃんと礼が言えるのは育ちがいい。日本がどういうところかはわからないが、学校にも通ってるみたいだし、ちゃんとした家の子なのだろう。それがいきなり無一文(日本円はカウント外)で放り出されたのなら気の毒だ。それでもパニックになることなく、信じられない話ではあるが状況説明は理路整然とできるので、やはりなかなか肚が座っているように思う。


「話はわかった…けど、まーあとは明日考えようぜ」


考えてもどうしたらいいかはわからないので、問題を先送りにすることにした。とりあえず流架は英雄の墓まんぢうを出す。


「美味いぞ、食えよ」

「なんで墓の形してんの?」

「そういう銘菓だから」


康が奇妙な顔をする。やはりどうかしていると思っていた自分の感性は間違っていないようだと流架が一人で頷く。だけど食ったら美味いのだ。

流架が持っているのは一人用のテントだが、康が小さいのでどうにか二人収まった。流架は自分の寝袋で、康はレンタルのお泊りセットにあった毛布に包まって寝た。


翌日は朝から曇り空だが、雨は降りそうにない。日が出ているよりこれくらいの方がバイクで走りやすいのでありがたい。

流架は共用の水道で顔を洗い、帰りに物売りのワゴンを覗く。おにぎりがあったのでそれと、一山30完のトマトを買った。戻ると康が起きていて野営スペースの片づけをしていた。


「お前、テント畳めるの」

「キャンプはしたことあるし、昨日見てたからなんとなくわかった」


昨日のテントの設営の時、元の形からテントを立てるまでの工程を見て覚え、その逆をやってみたのだろう。


「惜しい、これは外す」

「あ、そっか」


些細なことでも学習する気持ちがあるのはいいことだ。どんなことがいつ何時役に立つかわからない。テントを片付けたら、テーブルとベンチのある場所へ移動し朝食にする。


「とりあえずお前、文無しじゃねーか。ちょっと日本円とかいうやつ見せてみろ」

「おう」


康がポケットから財布を取り出し中身を確認すると、五千円札が1枚、千円札が2枚と小銭が数枚入っていた。


「球場行くつもりだったから結構入れてんな」

「結構入れてても使えなきゃ意味ねえのよ」


流架が札を手に取ってじっと見る。古銭収集が趣味のやつに心当たりがあるが、そこで買い取ってはくれないだろうか。


「おし、今日は工業地帯にいくぞ」

「職探しか?」

「いい心構えだな。でもまずはそうじゃねえ」


流架は康に札を返すと今日の予定を組み立てる。古銭収集が趣味のやつは朝からやってる飲み屋の親父だ、今から行っても会えるだろう。

自分の金を減らさないためにもまずは訳あり少年の路銀の確保だ。最悪、本人が言う通り工業地帯のどっかの工場に放り込んでもいいかもしれない。


受付に行くと、朝に発表された近辺の危機区の状況が黒板に書かれている。危機区のレベル変更はなし、レベル以上のオカシが現れている情報もなし。

野営場が用意している溶岩板ようがんばんに差しておいたバイクの熱源を抜き、流架と康はバイクの置いてある駐車場へ向かう。野営場に持ち込んでいた荷物を積んで、二人はまた走り出した。

より安全なルートはバリケードの中だが、今日は目的地まで危機区を走ることにした。それが最短距離なのである。

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