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20◆きっとまだ大丈夫

康は白隊しろたいの安西へ連絡を入れると、すぐに礼央れおの試験の手配をしてくれた。礼央れおへはこの前からよく顔を合わせるシラの隊員が連れて行ってくれるらしい。

出発する日は流架も次の仕事へ行くのでヒビキに倉庫の鍵を返却する。


「はい、二人ともお弁当~」


朝から見送りに来たヒビキは弁当箱を二人に渡す。ちなみに流架が一人で泊まってた時にこんなサービスはなかったのだが。


「うっ…母ちゃん、ありがてえっ」

「誰が母ちゃんよ!」


怒るヒビキに、泣きまねをやめた流架がぎゃははと笑うと黒いバイクに跨った。康もまた荷物と流架の間に上手いこと挟まる。


「んじゃまたな~」

「ばかー!事故るなよ!」


手を振っているヒビキに二人は手を振り返し、倉庫街を出た。バイクは先日訪れた陸軍司令本部の建物へ向かって走る。目的地では康を下ろすだけでいいのだが、エンジンを止めて流架もバイクから降りた。別れである。


「じゃあ、しっかりやれよ」

「ああ」

「ダメだったらすぐヒビキんとこ行けよ」

「わかった」

「俺も今の仕事終わったら一旦また幣星べいせい来るからよ」

「そん時は教えてくれよ、奢るから」

「稼げてるかわかんねーのによく言うぜ!」


流架は真剣な顔でそう言う康の髪をかき混ぜて笑う。


「本当に世話になった」

「…あのさ、康。俺は基本的に一人旅だしそれが性に合ってるんだけどよ。お前とちょっとだけだけど過ごしてみて、なんつーかなあ、弟がいるってこんな感じかなってちょっと思った」

「………」

「いや、俺家族いねーからよくわかんねえんだけどよ。…なんか何言ってるかわかんねえな、ハハ。じゃ、行くわ」


流架は柄でもないことを言ってしまったと、照れ隠しに急いでバイクに乗った。


「流架!」


思いがけずに掛けられた大きな声に流架は康を振り返る。


「…ありがとう」


康の言葉には、世話をされたことへの礼とは別の意味もある。人が自分を家族のように思ってくれたことは、きっとすごく、ありがたいことだ。そういった意味を、流架は康の一言からちゃんと汲み取った。


「…じゃな!」


急発進で走り出した流架を、康は見えなくなるまで見送っていた。


***


陸軍司令本部の地渡りのじん白隊しろたい教育隊のある礼央れお駐屯地にも繋がっているのだが、陣は利用者申請が必要であり、突発の客である康の申請はしていない。よって礼央までは神己かむいが送っていくことになった。


「俺は古都神己ことかむい、よろしく。仲間になるかもしれないから康でいいか?」

「ああ」

礼央れおまで行くのに危機区ききくを渡るけど、二度だし、俺も対処はできるから心配しないでくれ。あと途中で地渡りのじんがあるから使っちゃおうと思うんだ」

「なんかよくわかんねえけど、任せる」


神己かむいが準備しているのはサイドカーつきの原付バイクである。


「途中一回安全地帯で昼食にして、そこからじんまで走って礼央れおのバリケードまで飛ぶ。どっかで昼飯買って行こうぜ」

「俺、弁当作ってもらった」


康の言葉に神己の動きが止まる。


「…もしかして、倉庫にいた美人?」

「そう」

「いいなー!!!」


そう言った神己かむいの言葉は心底羨ましそうである。


「料理上手?」

「めっちゃうまかった」

「いいなー!!!」

「一緒に食う?」

「いいの!?」


ヒビキのくれた弁当箱はずっしりと重く、2食分はありそうだ。


「いいよ。思ったより早く着くみてえだし」

「わあ~楽しみ!」


花が咲いたように笑う神己かむいはキラキラと美しく「美少女」と言っても通じそうであるが、そんな彼は美人に弱いらしい。不思議なものだ。

礼央れおに着くまでの道中、神己かむいも自分一人で自活をしなくてはならない身分だと聞いた。住んでいた村を叩き出されたのだという。


「そりゃまたひでえな」

「ほら、俺ってシラだろ?物心ついた時からご神託とかやっててさ。俺としては単にそこら辺から教えてもらったことを伝えてただけなんだけど。ある日ぷっつりそれができなくなっちゃって」

「いや、だからって」

「いや…村に大災害が起きちゃって…予言できなくてさ…」


神己かむいの話に康は言葉が出ない。そもそも災害の責任など個人にはないだろう。これ以上の内容は神己かむいも言いづらそうなので康も突っ込んだことは聞かない。


「そっか」

「あ、いや俺のことはいいんだよ。だから、俺も訳アリだろ?お前もきっと大丈夫だよ。俺って基本グータラだけど、どうにか軍でやってるし」


励ましてもらう過程で嫌な話をさせてしまった。だけど神己かむいが軍でやっていけるのは能力者として高いスキルがあるからだろう。同じ訳アリでも大きく違うと康は思ったが、気持ちは有難く受け取ることにして「どうもな」と礼を言う。


大丈夫でも大丈夫じゃなくても、どうにかして食って生きていかなくてはならない。とりあえず目の前にできることがあるなら行動するのみだ。

空を見上げると快晴だ。ビルに切り取られることなく広がる空を眺めるのは気分がいい。


気分がいいと感じるなら、きっとまだ大丈夫ということだ。

一旦ここまで。また書き溜めたら更新します。

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