18◆今後の方向性
「うーん…軍かぁ…」
流架が考えあぐねていると、走る足音が近づいて来た。
「すみません、古都です!」
詰め所に駆け込んできたのは昨夜対応したシラだが、軍の作業着ではなく、どうやら官製の部屋着のようだ。
「古都、お前非番だろ」
「いや、鑑定は俺がいた方が絶対いいので…その、寝坊しちゃったけど」
「そうか、悪いな」
「ありがとう古都くん、測定器ではどちらも0なのよ」
神己は測定結果をじっと眺めてブツブツと呟く。
「傘に条件が入ってるんだろうな…ちょっといいか?」
今度は康の手を取り、目を瞑りうんうんと唸る。
「あ~…波動解放…されてない…したら結果変わるかもしれない…でも解放しても正8以上ってことはないと思うから、やっぱり傘だろうな…」
波動解放?一体なんだそれはと康は奇妙な顔をする。シラの少年も手を握って一体何がわかるのだろう。
「流架、お前もこれできんの?」
「無理無理」
何言ってんだと言わんばかりに流架は笑う。能力者のスキルと言っても多岐多様だ。
「バリケードから侵入したオカシも、昨日の玉も神力でねじ伏せて消し去っているから、何か反応するものがあるんだと思う」
「え?あの玉?」
「そう、あれは正直助かったよ。俺じゃ呪詛の効果をどれだけ止められるか解らなかったから。あと強いんだな!俺ならあんな不審者を一撃で倒すとかできないよ」
手を離した神己は、以前バリケードで見せた術を使う際の無機質な表情とは打って変わり、人好きのする笑顔を見せる。
「鑑定結果は文書にしてお渡しする必要はあるかしら?」
「どうする?康」
「いや、別に」
「じゃあ今日はご足労いただいてありがとうございます。流架さんも康くんも、入隊試験に興味が沸いたらいつでも連絡してください」
安西はにっこり笑って二人へそれぞれ名刺を渡し、それを見た流架はぎょっとする。
白隊本部副官長 安西万里子大尉。
(教育隊の隊長なんて名乗っていたが、本体の副官じゃねえかよ)
軍の要職に就けるのなど高貴な身分の者のみだ。高貴なお方には時々出くわすことはあるが、大抵いい気分にはならない。恐らく自分が孤児であるので尚更だろう。
(に、しちゃあ悪くねえ態度だったが)
後から来たシラへの対応を見ても、威圧をしたり理不尽な扱いをしている様子はない。
(軍隊ねえ…)
顎に手をやりふうむと唸る流架は、康の行く先を考えていた。
***
「つーわけで、康。一応白隊の入隊試験の応募要項と、バイトで働く時の条件なんか聞いてきた。結果から言うと悪くねえな」
「マジか」
「私もバー北斗星の店長に聞いて来たわ。住み込みは無理だけど、雑用だったら単発でも仕事はあるから、私の紹介なら働けるわよ」
「マジか」
数打ちゃあたる方式で応募をしまくる前に仕事の話が転がり込んできた。生きるために伝手とかコネは大切である。
まずは白隊の礼央駐屯地にある教育隊だが、ここは幣星に比べてだいぶ田舎にあるらしい。
入隊試験を受けるには身分証明書が必要なので、応募要項はもらってきたが無理だろう。だけどバイトならば清掃や補充など諸々の雑用の募集もしていて、シフト制ということだ。住み込みを希望するなら月8休での勤務が必要。採用試験時の寝泊りは流架が掛け合って無償提供してもらうことで了承を得た。
バー北斗星はステージには売れっ子が立つので人気の店で、人手はあればあるほどありがたい。確かに康がバックヤードに入った時も整理整頓がされておらず、手が足りてないのが見て取れた。社員寮は成人の社員にしか提供ができないが、安い野営場を紹介できるという。倉庫を引き続き使ってもいいが、やはり治安面で不安があるのでヒビキはおすすめしないと言った。給料は白隊のバイトよりも良い。
「どうする?どっちかに決めるか?」
「ああ。まずは住み込みができる白隊の採用試験に行って、ダメだったら幣星に戻ってヒビキに紹介してもらう」
「いいんじゃない?たまにこっちも遊びに来てよ、実家だと思ってさ」
「実家」
思えば見知らぬ土地にいきなりやってくることになったけど、生活や就職の面倒を見てもらったり寝泊りする場所を提供してもらったり、本当に世話になったし感謝してもし足りない。
「確かに…給料入ったらなんか奢る」
初任給で両親に飯を奢るエピソードの話をテレビとかで見たことがあるが、流架とヒビキにはそれをやった方がいいと康は思う。それを聞いた二人は顔を見合わせて笑った。
「俺はお前見送ったらそのまま出発する。退治屋紹介所で俺宛てのメッセージ伝えたら伝言板で来るようになってるから、なんかあったら連絡しろ」
「私も野営場教えておくわ。受付で名乗ったら取り次いでくれるようにしておくわね」
「ありがとう。とりあえず自活できるように頑張る」
仕事が決まったわけではないが、方向性は決まった。0からスタートにしては上出来だろう。康の買ったお茶でひとまず門出に乾杯をした。




