17◆反応0
事情聴取は遅くまで掛かり、やっと終わったと思ったら翌日にもう一度緊急部隊の詰め所まで来て欲しいと頼まれた。バリケードの件も含め確認したいことがあるという。
緊急部隊の詰め所は陸軍司令本部の建物の中にある。この辺りは官公庁の施設が立ち並んでいるので、有事の際に動きやすいように陸軍司令本部内には常時専門部隊が待機しているらしい。
受付で呼ばれたことを伝えると、奥から昨日も会った片目の軍人が出迎えに来た。
「よお、ご足労すまないな」
「確認って何?もしかして何か疑ってんのか?」
「違う違う」
松本は流架の言い草にむっとすることもなく、笑って理由を話す。
「あんたの身元は退治屋紹介所に照会かけたらすぐわかったよ。上位の退治屋らしいな、道理で一次対応がいいはずだ」
「そりゃどーも」
「そんでそっちのボウズなんだがな、あんたも言ってたが神力使っただろ」
「俺はそう見たけど」
「昨日、俺とうちの隊員も見たが、やっぱ神力じゃねえかってなってな。神力ったら皇んとこくらいにしかいないだろ。ちょっと色々教えて欲しいんだよ」
「いや、俺能力者じゃねえよ」
神力がどういうものかよく解っていないが、どっちにしたって康は身に覚えがないのだ。
「その傘が小道具なのかもしれねえから鑑定させてくれや。もちろん、鑑定結果は伝える」
持って来てほしいと言われた傘も、昔から応援の時に振っているただのビニール傘だ。これが推し球団の四番が使っていたバットとかなら不思議な力が宿るのもわかるが、選手のサインすら入っていない傘に何の力があるというのか。
詰め所の扉は開いており、中には軍服の女性が一人待っていた。
「初めまして、白隊礼央教育隊長の安西と申します。流架さんと早瀬康くんね」
「出た、美魔女。おい康、油断すんなよ」
美女は油断ならない、流架が肝に銘じていることである。ちなみに流架の中ではヒビキは美女に入っていないらしい。安西は「褒めてくださってありがとう」と笑うが、松本はあながち間違っていないとから笑いである。
松本の話の通り、康の能力者としての力と小道具の鑑定だが、これは装置があればすぐに終わる。本当は能力者が一緒にやれば細部までわかることがあるのだが、数値を出すだけならば能力がなくても可能だ。
「やっぱ0だなぁ」
「小道具は?」
「こっちも反応なしだ」
松本と安西が話しているのを「ほらな」と康は聞く。すぐに帰れるかと思ったがそうじゃないらしい。
「反応0なのに神力を発動したということね、不思議でならないわ」
「…確かに」
「流架さんと康くんはご家族ではないのよね。旅の仲間なのかしら」
「あん?ああ、まあそういうとこだ」
話を振られ、流架が答える。
「二人で白隊の入隊試験を受ける気はない?」
「はぁ?」
「随時隊員は募集しているし、流架さんの腕前は確認済みだから簡単な筆記だけで私が通すわ」
「いやいやちょっと待ってよ、俺は軍隊なんてぜってーごめんだ」
「あら、あなたが思っているほどガチガチではないわよ?白隊はまだできたばかりで慣例みたいなものは一切ないのがやりやすいわ」
「むーり、俺は好きな時に好きな場所に行きたいの」
「そう、残念ね。じゃあ彼は?」
安西は康の保護者は流架であると思い、流架に尋ねる。
「能力0だろ、それで白隊なんて務まるかよ」
「オカシ対策の戦力にならずとも、教育隊運営の手伝いでもいいわ」
「は?なんで?」
たった今鑑定結果は出たはずだ。能力者としての素質もなければ、特別な小道具の使い手のわけでもない康を勧誘する理由がわからない。
「私は能力者じゃないので、能力者に意見を聞いたのだけど。神力が発動した理由が明解ならそれでよし、不明であれば尚よしって回答だったわ」
「はぁ?」
「「わからぬもの」には敬意を払うべきだってね。きっとそこに何かがあるから。そういう世界に生きているのでしょう、あなたたちは」
流架はオカシという目に見える存在と対峙はしているが、戦う時はいつも見えない何かを感じ、自分の考えの外で体を動かす感覚がある。きっと他の能力者も同じだろう。そう思うと、納得できる気がするのだ。




