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負け組


「明日カラオケ行くから遅くなるね。友達の誕生日パーティーだからプレゼントも買わなきゃ」



水香が母さんにそう言っていたのは昨夜の話だ。

なのにあの馬鹿は自分の財布を玄関の靴箱の上に置きっぱなしで学校に行っていた。

大方、中身を確認しようと鞄から出したまま入れ忘れたんだろう。


「大和、学校まで届けてあげて」


今日、俺の高校は設立記念日で休み。

完全に寝起きの俺は母さんの言葉にあからさまに顔を歪めるが、背中を向けてキッチンに立っている母さんには見えていない。

あきらめて溜め息をつく。

残ったトーストを無理矢理口に突っ込み、麦茶を流し込んで立ち上がった。


別にこれといった予定もないし届けてやるか。優しいな、俺。


それを水香にメールすると、今まさに授業中であろう彼女からハートの絵文字だけが送られてきた。

たかがそれだけでテンションが上がってしまう自分もどうかと思う。








春先とはいえまだ寒い。

若干イライラしながらも水香の高校の近くまで来た。

するとタイミング良く携帯が鳴る。電話だ。



「あ、もしもし大和?今どこ?」



水香の後ろがざわざわと騒がしい。多分休み時間だろう。


「もうすぐお前の高校着くよ」


「分かった!じゃあ靴箱まで来て!」


「はぁ?お前が校門まで来いよ」


「無理!だって休み時間あと3分しかないもん!早くね!」



電話は強制的に切れた。

怒りにまかせてこのまま帰ろうかと一瞬思ったが、いやいやと自分をなだめて仕方なく靴箱の方まで歩いた。

私服で余所の高校に入るなんて居心地悪くて仕方ない。そういう人の心境、分かってるんだろうかあの馬鹿女は。いや、絶対分かってねぇな。



靴箱近くまで行くと、他の生徒が珍しそうに俺のことをチラチラと見ては去っていった。

男子校の俺にとっては、学校内に女がいること自体新鮮だった。

うわ、あの女スカート超短けぇ。パンツ見えんじゃねぇ?なんて考えてるところに水香の声が俺を呼んだ。


「ありがとう大和!超助かったよ!」


笑顔で駆け寄ってくる水香の姿を見た途端にさっきまでのイライラが一気に吹っ飛んだ。


「ほらよ、忘れんなよ馬鹿」


そう言って投げるように財布を渡す。彼女はもう一度、ありがとうと笑った。


「まさかあんた中身抜いたりしてないよね」


「は……おまっ信じらんねー……人の好意を」


「うそうそ。愛してるよマイブラザー」


「……」


上手く丸め込まれた気がするのは絶対気のせいじゃない。


じゃあな、と足早に離れようとした時視線を感じて思わず振り返る。

目が合ったひとりの男子生徒。

4、5人が固まって廊下を歩いている輪の中でそいつだけが俺をじっと見ていた。

えらく整った顔立ちをしているそいつは、すぐに視線をそらして何事もなかったかのように歩いて行った。


まぁ俺、私服だし。そりゃ見るわな。



「どうしたの、大和」


「え?いや、別に」


「あ、他の女の子見てたんでしょ。うわー幻滅。大和変態〜」


「はぁ!?……お前、はるばる届けに来てやった俺によくそんなこと言えるな。おい、ニヤけんな。違うから」


「ごめんごめん。だって大和がうちの高校にいるの、何か嬉しくて」



休み時間が終わるチャイムが鳴る。

じゃあね、と今度は水香がそう言って去って行った。


あぁくそ、やっぱ可愛いよな、あいつって。









負け組

(惚れた組とも、言う)





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