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未来を照らす

大和がくれた香水の匂いを親友が褒めてくれた。

それだけでテンションが上がる私は、やっぱり馬鹿なんだろう。



冬休み。久々に唯と買い物へ行った。

その時唯が私のつけた香水に気付き、いい匂いだと言ってくれたのだ。

まさか大和にもらったなんて言えなかったけど。


唯は中川と順調みたいだ。

幸せそうに笑う彼女は、前よりもずっと可愛くなっていた。



「水香はクリスマス、何してた?」


「マナ達とクラブ。ちょー寂しかったよ!」


「はは。楽しそうじゃん」



そういえばあれ以来マナと連絡を取ってない。電話もあれからかかって来なかったし。


だけど深くは考えなかった。

彼女が今何をしているかなんて、この時は予想もしなかった。



すると唯の携帯が鳴る。

中川だ、と確認しただけで、唯は出る素振りを見せなかった。


「出ないの?」


「いい。後でかけ直すから」



きっと私がいるから気を遣ってるんだろう。唯らしい。


「私に気にせず早く出なよ!」


「いいってば」


「もー!浮気してるって思われちゃうよ!」


「……」



鳴り続ける電話をじっと見つめてから、唯はごめんね、と眉を下げた。

着信が止まり、唯が携帯に向かって話し出す。

隣りで唯があまりにも幸せそうに笑うから、私まで口元が緩んだ。


長くなりそうだったので、口パクであっちの店見てくる、とだけ伝えその場を離れる。

唯も分かった、と口パクで応え、再び電話の向こうの彼氏と話し出した。


ショップの中を適当に物色する。


太一くんと付き合ってる時、私は唯がいようが気にせずすぐに電話に出て話してた。

本当なら唯みたいに遠慮するべきなのに、今思うと自分勝手だったと反省。


分厚いファーコートの値段を捲りながら、私は呆然とそんなことを考えていた。


離れた所にいる唯はまだ話している。



(いいな……)



堂々と付き合えて。誰にも反対されなくて。


私は誰にも言えない。大和が好きだって、本当は誰かに知って欲しいのに。

弟なんかじゃないんだよって、伝えたいのに。




戻ってきた唯は、開口一番に悪いんだけど、と言った。

あぁ、呼び出されたんだな。と私は瞬時に理解する。


「明日から年始まで田舎のおばあちゃんち行かなきゃいけないらしくて……」


「そっか。そりゃ今日しか会う日ないもんね」


「本当にごめんね……」


「いいってば!今日だけ唯を中川に貸してあげる!」



唯が気にしないようにわざと明るく振る舞った。

だけど本当は寂しくて仕方なかった。

中川と付き合ってから、唯が少しだけ遠くに感じる。




唯と別れてから、真っ直ぐ帰るのも嫌だった私は一人ぶらぶらとショップを見て回った。

特に欲しいものも見つからないまま、無駄な時間が過ぎていく。


大和は確か、友達の家に行くとか言ってたっけ。あぁ、本格的につまらないよ。




夕方。仕方なく家に帰ると、予想外に大和がいた。リビングのソファーで寝息を立てている。



「口開いてるし……」


「うるせぇ」


「うわ。起きてたよ」



薄目を開けた大和はどこか気だるそうに私を見た。

それからゆっくり腕を伸ばして私の指先に少しだけ触れた。



「遊びに行ったんじゃなかったの……?」


「今日、母さんパート遅番だろ。だから水香と2人だけになれると思って」


「それで……早く帰って来たんだ」


「でもお前いねぇし。ムカついて寝てた」


「ふっ」


「何笑ってんだよ」


「いや、別に」


何だよ、と腕を引っ込めてゴロンと背中を向ける大和。

何だか可愛くて、余計に笑ってしまった。

私は大和のそばに腰を下ろす。


「唯って覚えてるでしょ?」


「あぁ」


「最近彼氏できたの」


「へえ」


「何か……」


そこまで言ってから言葉に詰まった。

大和がこちらを向く。

少しの沈黙のあと、羨ましいんだろと彼は尋ねた。


「少し。だって唯は、堂々と付き合える。街中で手も繋げるし、プリクラも撮れる」


「じゃあ俺らも街中で手繋ぐ?プリクラ撮りにいく?まぁ、俺プリクラ嫌いだけど」



大和の暖かい手が私の手をぎゅっと握った。

間近で見る大和の顔。

見た目も性格も、いくつ歳を重ねたってちっとも似ることのない私達。


するといきなり、大和がとんでもないことを言い出した。



「俺、大人になったら籍抜くよ」



その言葉に思考が止まる。


籍を、抜く?

それはつまり、姉弟じゃなくなるってこと?


最初に浮かんだのは、お母さんの顔だった。



「そしたら、良くなるだろ」


「……なにが?」


「何もかもが」


「そうかな」


「そうだよ」


「そう……かな」


「……」



当然ながら戸惑った私の顔は大和にも伝わった。


そうかな。本当にそうなのかな。



「私達が良くても、傷付く人は必ずいるよ」



今度は大和が口を閉ざした。


それ以上、私も何も言わなかった。








未来を照らす彼の瞳

(この時どうして、笑ってあげなかったんだろう)





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