この愛をわかって
披露宴が終わり、花嫁から両親への手紙を見てもらい泣きしている水香を連れて会場を出た。
プチギフトを渡しながら見送りをしている美和ちゃんと、その旦那。幸せそうで何より、だ。
うちの両親は相変わらず親戚の挨拶で忙しく動き回っている。あんたらの結婚式でもないだろうと言いたいが、居たら居たでめんどくさそうなのでそのままにしておいた。
やっと涙を拭いた水香と見送りの列に並ぶ。皆順番にプチギフトを受け取って行き、ついに俺達の番になると美和ちゃんは大きな瞳で俺を見つめた。
「本当に大和だ! 男前になったね!」
「どーも。結婚おめでとう」
はい、と美和ちゃんが俺と水香に小さな包みを渡す。水香は子供みたいに喜んでいた。
「また近々遊びに行くからね!」
美和ちゃんが言うと、水香が笑顔で頷く。俺も笑って、手を振った。
「お母さんからメールだ」
外で親を待っていると、水香がそう言った。冬の夜は寒い。子供をこんな所で待たせて何やってんだ、あいつら。
イライラを抑え、なんて? と聞けば、メールを読んでいる水香は困ったように眉をひそめる。
「今日はお父さんと二人きりでレストランに飲みに行くから、子供は先に帰って寝なさい。だってさ」
「そういえば親父も、結構酔ってたな」
「結婚式に触発されたんじゃない?」
「バカ夫婦だな、まじで」
半ば呆れながら、やっと帰れると息をついた。適当にタクシーを拾い、二人で乗り込む。
後部座席から夜の街を眺める水香は、いつもより綺麗に見えた。
「いいなぁ、結婚式」
静かな車内で水香が呟く。
「結婚してぇの?」
「そりゃあ、いつかは」
「ふーん」
「私も結婚式で、ウェディングドレス着たいよ」
その相手は、自分じゃないかもしれない。その可能性の方が遥かに高い。
それでも俺は、言わずにはいられなかった。
「じゃあ、しよう」
そう言えば、ぽかんと口を開けたままの水香が俺を見つめた。
一テンポ遅れて、は? と言う。
「……誰が許してくれるのよ」
「多分誰も許してくれねぇだろうな」
「当たり前じゃん……」
「なら2人で挙げればいい。誰も知らない土地で、小さな教会借りるんだ」
「そんなの、無理だよ。だって、」
「できるよ。人を殺したわけでもねえし」
ガラス窓に写る夜のネオン。静まる車内で、景色だけが騒がしく通り過ぎて行った。
水香は真っ直ぐ俺を見つめている。だけど思えば、彼女は俺の瞳に写る自分の姿を見たんじゃないだろうか。姉としてじゃなく、普通の女としての自分を見出したのかもしれない。
タクシーの運転手が、ミラー越しにちらりとこちらに目をやった。彼の目には俺達がどう映っただろう。姉弟として映ったのか、それとも――。
「……最終的にハッピーエンドで終わるなら、私は何でもいいかな」
わざとふざけた口調で水香が言ったから、だから俺はあえて真面目に答えた。
終わるよ、と。
「終わるかな、」
彼女は目をふせた。長い睫が列を作る。
投げ出された水香の手を握った。小さくて、冷たい手だった。
家の前でタクシーを降り、スペアキーを水香が取り出した。
ドアを開け玄関に入った瞬間、俺は水香を抱き締める。電気もつけず静まり返った家の中で、姉弟同士が抱き合うなんて誰が見てもおかしいって。
そんなこと、分かってた。初めから。
分かってて、好きになったんだ。
「私は……バッドエンドだと思う」
「それでも俺は、水香が好きだよ」
「大和、好きだけじゃやっていけないんだよ」
水香はそう言ったけど、俺はそんなことないんだって思いたかった。お互いが好きだと強く願えばそれだけで全て解決するような優しい世界だとは思っていない。それでも何を言われても、俺たちを認めてくれる世界もあるんだって、信じたかった。
この愛をわかって
(たとえそれが、ハッピーエンドじゃなくても)