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第33話 学園祭一日目。 其の二。

 テュポパークの特設ブースに着くと、ソフィアは一目散に駆けだした。


「あ! あったあった!」


「おーい! 走ると危ないぞ」


 ――それにしても……。


「俺、テュポ君に恨まれる事何かした?」


 ソフィアがから揚げを買う列に並んでいる間、俺は特設ブースをふらふらと見回っていたのだが何故かテュポ君に睨みつけられていた。


 ――当たり前だろう。


 ――なんでだよ。


 ――あれはテュポーンだ、神の気配を漂わせているお前が睨まれるのは当たり前だろう。


 ――何を言ってるんだお前は。


 ――なっ! 信じてないな! 何故かあんなふざけた姿になっているが、あれはゼウスと互角に戦って地上に追放された怪物だぞ!


 ――またまたぁ……。


 ――ロトの言う事は本当だぞ?


 ――アウァリティアまで……。


 俺がテュポ君に睨みつけられながらソフィアを待っていると、あるアナウンスが流れた。


『これよりブース内のレース場にて行われる、特別レースの参加者の募集を開始致します! 優勝者にはなんと、最大10名様まで招待いただける三泊二日分の温泉旅館無料券と、テュポ君特製から揚げ一年間食べ放題パスポートをプレゼント! 二人一組先着五組まで! レース場横の受付にてエントリーお願いいたします! 奮ってご参加ください!』


 その瞬間、俺は光の速さで飛んできたソフィアに腕を掴まれた。


「えーっと……もしかしなくても、今のアナウンスで言ってたレースに参加するつもりだったり?」


「勿論!」


 笑顔でそう言うソフィアに引きつった笑みを返しながら、俺は腕を外し逃げ出そうとする。


「目指せ! から揚げ一年間食べ放題パスポート!」


「めんどくさそうだし遠慮しときます。それじゃあ良いパートナーが見つかることを祈ってるよ。俺は脇で応援して……バカな!? 俺の方が物理攻撃力は強いはずなのに、びくともしないだと!?」






『さあ始まりました! 出張クレイジーコンペティション、特別レース。イザナギ学院杯! 果たして、誰が温泉旅館無料券とから揚げ一年間無料パスポートを手にするのか! 実況は望月茜学園長にお越しいただきました。よろしくお願いします』


『こちらこそよろしく』


 結局ソフィアに引きずられ、俺は泣く泣くレースに参加していた。


『さて、望月学園長。注目の選手はどなたでしょうか? 今回は一般客の方々のエントリーもいらっしゃいますが、中々に個性豊かな選手が集まりましたね。というより警備は大丈夫なのでしょうか、少し心配になってきました』


『いや、ホントにびっくりするぐらい危ない絵面だな。一般客の定義を聞きたいくらいだ、まあうちの学院の生徒も数名混じっているが……。俺は何と言っても、あの金色の全身鎧の馬鹿とソフィア王女のペアを推したい。恥ずかしいのか何なのか顔を隠しているが、戦闘力だけで言えばアイツがダントツだろうからな』


「ねえ悠馬、どうして龍装を発動させてるの?」


「むしろこの状況で素顔参加できるお前の方がおかしいわ! だって……」


 俺が周りを見渡すとそこには、何故かゴーカートの上で魔銃を磨く西部のガンマン擬きのペア。


「何見てんだ、あぁん?」


 ジャックナイフを舐めるモヒカン男と、こちらに向かって中指を立てるモヒカン男のダブルモヒカンペア。


「筋肉こそ正義なり!」


 どう見ても世界観を間違えている筋肉ムキムキな上、顔が劇画調で上半身裸のペア。


「ひひっ、この戦い。99.9%で僕たちの勝利です」


 イザナギ学院の制服を着た上から白衣を羽織る、怪しげな薬品をゴーカートに搭載したペア。


 ――マジでなんだこれ。てっきり親子とかカップルとかばっかりだと思ってたけど、コイツラと同列扱いされるのか? 俺はゴメンだからな!


『さあ、改めてルールを確認するぞ。ルールは簡単。妨害工作、精神攻撃、武力行使、なんでもありで先にコースを五周して一位になったペアに、豪華賞品が与えられる。まあほどほどに頑張れ』


 ――うっそだろ、そんな無法地帯的なルールなの? 


「頑張ろうね、悠馬!」


「えぇ……もう既にリタイアしたいんだけど」


 俺はゴーカートのハンドルを握りながら呟く。


『それでは、3、2、1。スタート!』


「「「「テュポ君特製から揚げ一年間食べ放題パスポートは俺(僕)達のものだ!!」」」」


「お前ら揃いも揃って温泉旅館じゃなくて、から揚げ一年間無料パスポート狙いかよッ!」


「先手必勝! バレットストリーム!!」


 ガンマンがスキルを発動させた瞬間、弾丸の雨が降り注ぐ。


「ギャァァ!」


『おっと!? イザナギ学院科学部チーム、早速脱落です!』


「ソフィア!」


「分かってる! アイギス!」


 展開されたアイギスによって守られながら、俺は他のチームの様子を伺った。


 ――マジでか。一般人じゃなくて、もれなく全員逸般人じゃねえか!


「え……なにあれ」


 俺とソフィアがコーナーを曲がりながら視線を他チームに向けると、そこには弾丸の雨を全てナイフで弾いていくモヒカンチームと一切びくともしない筋肉ダルマチームが目に入った。


「ヒャヒャヒャッ! 俺達をリタイアさせたきゃこの百倍は持ってきなぁ!」


「この程度では俺たちの筋肉に傷一つ付けられんぞ! そらァ!」


「この化け物共め! ぐあぁぁッ!」


『更に先制攻撃を仕掛けた荒野の魔弾チーム、筋肉愛好会チームに弾き飛ばされて場外へ! 早速二チームが脱落してしまいました! もうそろそろ二週目に差し掛かりますが、解説の望月学園長。この展開をどう見ますか?』


『まあ科学部にはこのメンツは重すぎたな、最初に脱落するであろうことは容易に想像できた。それにしても、全員身体能力バグってるのか? マトモな突破方法を使ったの、ソフィア王女と金色の馬鹿の愉快な謎の騎士Xチームしか居なかったぞ。つーかなんだ、愉快な謎の騎士Xって。ネーミングセンス皆無か』


 俺はゴーカートのハンドルを握りながら振り返ると、ソフィアをからかった。

 

「だってよ、王女殿下」


「しょうがないでしょ、咄嗟にそれしか思いつかなかったんだから……って、前前!」


「ん? ってぬわッ!?」


 一周回ってきたせいで先ほどリタイアした科学部のばらまいた薬品を踏み、思いっきりスリップした。


「あ、危なかった……無事かソフィ……ア」


「わぁ、から揚げの妖精さんだぁ……」


 俺がソフィアを心配して再び後ろを振り返ると、目をぐるぐると回すソフィアが目に映った。


「ソフィアさん!? しっかりしてくれ! から揚げの妖精なんて何処にも居ないから! だから……抱きつくのをやめろォ!」


 ナニとは言わんが当たるのだ、背中に! 断じて鎧の部分解除出来ないかな? 当たってる所だけ、なんて考えてないからな!


 そして俺が真正面を向くと、よろよろと走行する筋肉ダルマもとい筋肉愛好会チームが目の前に居た。


「筋肉はァ」


「無敵ィ……」


「筋肉はァ……」


「最強ゥ……」


 目を回しながらも何とか走行する筋肉愛好会チームに、ダブルモヒカンチームが迫る。


「ヒャッハァ! 俺達に薬物は効かねえよ!!」


 ダブルモヒカンチームはジャックナイフを構えると、筋肉愛好会チームのゴーカートのタイヤ目掛けて投げた。


「ぬぐわァァァ!」


 俺はジャックナイフにより、タイヤがパンクしてスリップして来た筋肉愛好会チームをスレスレで避ける。


「危なッ!?」


『筋肉愛好会チーム、歩眼羅仁庵チームの攻撃を受けてタイヤがパンク! そのままスリップして壁に激突してリタイアです!』


『え、このモヒカン男二人組のチームポメラニアンって読むのか?』


「俺達の店、拉麺『歩眼羅仁庵』を夜露死苦ゥ!」


 ――お前らラーメン屋だったんかい!


「クソッ! 目を覚ませソフィア!」


 しかし、俺が呼びかけてもソフィアは一向にこちらの世界へ戻ってこない。


「プラズマストライク!」


 俺は魔法スキルを放って相手を妨害するが、全て避けられてしまう。


「遅せぇ遅せぇ! こりゃ一位はいただきなァ!」


 いよいよ三周目に差し掛かったその時、背筋に寒気が走った。


「なんだ!?」


『おっと! ここでテュポ君が乱入だぁ!』


 実況の女子生徒の声が聞こえた瞬間、俺は殺気を感じて咄嗟にハンドルを左に切る。


「ギャァァァ!」


『ここで首位を独走していた歩眼羅仁庵チームに、テュポ君の火炎弾が直撃! これにより走行不能となり歩眼羅仁庵チームはリタイアです!』


『いや、なんだあの威力。あれで死んで無い歩眼羅仁庵チームにも驚きだが、マスコットが出していい火力じゃないと思うぞ』


「死ィィィィィぬうゥゥゥゥ!!?」


 俺は迫りくる無数の火球を直感と本能だけで必死に避けながら、俺は悲鳴を上げる。

 もう既に他のチームは軒並み全滅して後はゴールを目指すだけなハズなのに、俺はこのレースで一番の危機に瀕していた。


「のわァァァァァ!? ソフィア! 起きろ! 頼むから起きてください! お願いします!」


「うぅん……何? って、私なんで悠馬に抱き着いてるの!?」


「んなことどうでもいいから、頼む! 防御を! 防御スキルを展開してくれぇ!!」


「わ、わかった! アイギス!」


「これで何とかなったな……」


 俺がそう安堵の溜息をついたその瞬間、ソフィアの展開したアイギスが一瞬で砕け散った。


「噓ッ!?」


 ――そうだった! テュポ君の放つ火球は一撃でアイギスを叩き割るほどの威力だった!


「こんな所で原作再現なんてせんでもいいわァァァァッ!」


 地面に火球が着弾した時の爆風で車体が浮きながらも、俺は叫ぶ。


「このままじゃジリ貧だ」


「どうするの?」


「もう後は直線を走り切るだけだ。ならば!」


 俺は天叢雲剣を取り出した。


「な、何する気?」


「要は加速すれば良いわけだ……なら、アウァリティア・バーストで飛ぶ!」


「えぇ!?」


「悪いソフィア、ハンドル握ってくれ」


 その後、ソフィアが前のめりになってハンドルを握ったのを確認すると、俺は地面に向かって剣を振り下ろした。


「アウァリティア・バーストッ!」


「ギエッ」


 その瞬間テュポ君が光に飲まれたのを見届け、俺達はゴールテープを空中で切った後地面に落下した。


「グエッ」


「あっ、ごめん」


 俺が頭から落下した後ソフィアが俺の腹部めがけて落下してきたせいで、危うく先ほど食べたホットドッグがもんじゃ焼きになって帰ってくるところだった。


 その後、表彰台に移動した俺達はインタビューを受けていた。


「優勝おめでとうございます! こちらが温泉旅館無料券とテュポ君特製から揚げ一年間食べ放題パスポートです!」


「ありがとうございます!」


「ではそれぞれ、一言ずつコメントいただけますでしょうか!」


「はい! 物凄くスリリングでドキドキしましたが、とっても面白かったです。また来年も出来れば参加したいです!」


「もう二度とやるもんか……」


「ありがとうございました! 優勝者のお二人に拍手ー!」





「もうヤダ、どうしてまだ午前の部なのにこんなボロボロなんだ……」


 俺はベンチでぐったりしながら、水を飲んでいた。


「まあまあ、いい思い出になったでしょ!」


「いい……思い出? まあ良いや。いよいよ選抜戦だな、ソフィアの相手は誰だ?」


「Aクラスの子」


「そうか……お互い頑張ろうな」


「うん!」


 そしていよいよ、午後の部。選抜戦一回戦が始まる!

 時間が足りぬ! お金も足りぬ! 評価も増えぬ……。深夜テンションって怖いね、さっさと寝ます……。

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