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幕間 例え、ハリボテでも。 其の二。

 ――わたくしは一体……。


 わたくしが目を覚ますと、昔住んでいた家の中に居ました。


「しゅっぱつしんこーですのー!」


 ――あれは……昔のわたくし?


「あらら、走り回ったら危ないわよ? エミリーヌ」


「あ! おかあさま!」


 幼いわたくしが振り返った先には、ご病気で亡くなったはずのお母様が立っていました……。


「エミリーヌ、ご飯の時間ですよ」


 ――お母様……。もしやこれは、わたくしの過去の記憶でして?


 そして場面は移り変わり食事中、幼い頃のわたくしはお母様に聞きましたの。


「おかあさま、おとうさまとはいつあえるんですの?」


 わたくしがそう聞くと、お母様は顔を曇らせながら答えましたわ。


「ごめんなさいエミリーヌ……。きっと、もうすぐ来てくれるわ……。やっぱり、父親が一緒に居ないと寂しいわよね……。本当にごめんなさい、エミリーヌ……」


「おかあさま、ないてるの?」


 ――本当にこの頃のわたくしは……!


 お母様は名家の三女でした。しかし、その家が経営に失敗して借金の型のような形でお父様に妾として拾われ、そしてわたくしが生まれましたわ。

 父は滅多にわたくし達の住む家へは寄らず、何も知らなかった頃のわたくしは寂しい思いをしておりましたが……。


「そうだ! おとうさまに絵をつくってプレゼントするんですわ! そしたらきっと……」


 ――おやめなさい! そんなことしたってあの人には……!


 わたくしは止めようと手を伸ばしますが、届きませんでした。


 そして、幼い頃のわたくしは画用紙にクレヨンで絵を描き始めましたわ。


「できましたの! おとうさまとおかあさまとわたくしが手をつないでる絵! これを今度、おとうさまとあえたときにプレゼントして、おとうさまにもっといっしょに居てくれるようにおねがいするんですの!」


 


「きゃッ!」


 そして場面が移り変わると、書斎で幼いわたくしが父に平手打ちをされた所でした。


「ひっ、ひぐっ。どうしてですの? わたくしはただ、お父様と……」


「軟弱な! それでも我が娘か? 碌に研鑽もせずに、媚びることだけ覚えるなどと……」


 父はそう言うと、わたくしが描いた絵を破り捨てましたの。


「あっ……」


「エルザ! 俺は娘をこんな媚びへつらう軟弱者に育てろと言ったか!? 今まで一体どういう教育をしていたんだ!」


「申し訳ありません……」


 父はお母様を怒鳴りつけると、書斎から去っていきましたわ。


「おかあさま、ごめんなさい。わたくし……わたくしは……」


「謝るのは私の方よ、エミリーヌ。ごめんなさい、貴方は何も悪いことをしていないわ。私がもっと強ければ貴方を庇ってあげられたのに……ごめんなさい……ごめんなさいエミリーヌ」


『いいえ、違いますわよ? 悪いのは弱いわたくしですわよね? ねぇそうでしょう?』


 その瞬間。時間が止まり、幼い頃のわたくしが語り掛けてきました。


『いつもいつもおかあさまの陰に隠れてばかりで、泣いてばかり』


 幼いわたくしはそう言うと、いつもわたくしを蔑んだ目で見つめ罵声を浴びせてくる兄弟姉妹達に次々と変化しました。


『アナタみたいな無能、生きててどうするの?』


『弱虫は消えろよ!』


『妾の子は近づかないでくださる? わたくしまで穢れてしまいますわ。少しは分というものを弁えなさい』


『お前が父上の跡を継ぐ? 無理無理。精々母親と同じように何処かに嫁がせたり妾として渡すくらいしか、お前の価値なんてねえんだよ。喜べよ、俺が当主になった暁にはお前みたいなゴミでも有効活用してやるからさ』


 ――やめて。


『おかあさまが亡くなった後も、弱虫のまま」


『お父様……わたくしは!』


『黙れ。モンスターが怖いなどと抜かすのは、兄弟姉妹の中でもお前くらいだぞ。このような軟弱者に育てるなど……。エルザめ、娘の教育も十分にしないまま死におって……』


 ――やめて!


『誰もわたくしを必要としてくれない、あぁ。可哀想なわたくし』


『お前には、失望したぞエミリーヌ。俺の前から消えろ』


『こんな娘、居ない方が良かった』


 お父様とお母様がわたくしを感情の無い目で見つめる。


『ねえ。エミリーヌさんって無能らしいよ』


『えー? どうしてここに入れたの? まさか賄賂? あの人の取り柄なんて家柄くらいだもんね!』


 Aクラスのお友達だと思っていた人たちが、わたくしの陰口を叩きながら嘲笑する。


 ――待ってくださいまし! もっと強くなりますわ! それにもう弱音は吐きませんの! だから!


『皆貴方を見捨てたんですのよエミリーヌ』


 ――うるさい!


『弱虫のエミリーヌはいつも一人ぼっち、誰にも見向きもして貰えない』


 ――うるさい! うるさい! うるさい!


『お前みたいな、無能。反吐が出るぜ、さっさと俺の前から消えろよ!』


 ――貴方も、わたくしを蔑み見捨てるのですわね。鈴木悠馬……。


『可哀想なエミリーヌ。だけど、わたくしなら貴方を強くして差し上げられる。わたくしならば誰もが貴方を求めるようになるくらいに、高みへ登らせてあげられますわ。もう何一つ価値のない自分なんて嫌でしょう? わたくしならば貴方を理解してあげられますわ。わたくしの名前はハスター、わたくしと一つになりましょう? そうすればわたくしは貴方に力を与えて差し上げますわ。さぁ手始めに、まずは目の前の敵を倒しょう? そして、憎き地球の神と人間に復讐を!』


 ――敵……鈴木悠馬はわたくしの敵。人間はわたくしの……!


 気がつくとわたくしは護身用のナイフを、目の前の鈴木悠馬に突き刺していました。


「鈴木悠馬……貴方もわたくしを見捨てるのですの? わたくしなんて家柄以外、なんの取り柄も無いですもの。皆……皆敵ですわ……信じられるのはハスター様しか……」


 目の前の鈴木悠馬は刺されたのにも関わらず、苦笑いしながらわたくしの涙を拭き、言いましたの。


「なぁエミリーヌ。お前は知らないと思うけど、俺はお前に何度も助けられてるんだぜ? 色んな事に失敗してふさぎ込んだ時、お前のちょっと抜けてるせいで失敗しても、直ぐに立ち直って高笑いをあげるその姿を見て救われた。そしてお前の自信満々な姿を見て、いつも元気を貰ってたんだ」

 

「あ……」

 

 ――この手。お母……様? 


 頭に置かれた手の感触に、わたくしは在りし日のお母様の言葉を思い出しました。


 ――エミリーヌ、貴方のちょっとおっちょこちょいな所も。転んでも直ぐに立ち上がれる所も。ちょっと見栄っ張りでいつも元気なところも全部愛してる……だから、自分を嫌いになんてならないで。強くなんてならなくていい、何もかも完璧になんてできなくていい。自分ではわからないでしょうけど、貴方には良いところが数え切れないほど沢山あるのよ? だから笑って、エミリーヌ。貴方は私の宝物よ。


 ――コレは敵の罠ですわ。耳を貸さないでくださいまし。


 ――罠? 違いますわよ。彼は泣きじゃくるわたくしをいつも慰めてくれた、お母様と似た目をしてますもの。


「どんな時でも元気よく、人を引っ張ってくお前が俺には眩しかった。例えお前のアレが見栄だったとしても、お前のその姿に救われたんだ。だからさ、そんなへこたれた顔すんなよ。エミリーヌ。何があろうと、俺は絶対にお前を見捨てねぇ。もっと自信を持て、お前は凄い奴なんだ。俺に元気をくれたいつもの姿を見せてくれよ」


 ――まだわたくしを必要としてくれる人が、わたくしの弱いところを見抜いたうえでも、見捨てないで居てくれる人が居ましたのね……。


 ――エミリーヌ。さぁ、早くわたくしと一緒になりましょう? そうすればきっと……。


 ――ご免被りますわ。わたくしを必要としてくれている人が、ここに居たんですもの。勿論強くはなりたいですわよ? けど、お母様や彼が教えてくれた。わたくしの良いところを捨ててまで、強くなりたいとはもう思いませんわ。だから、貴方と一緒にはなれませんの。ごめん遊ばせ。


 その瞬間、わたくしの意識は夢から覚めました。


 ――……え? 血がこんなに……!? 


「鈴木悠馬……? え……あ……ち、ちがう! そんなつもりじゃ!?」


「わかってる」


 彼はそう言うと、わたくしを抱き寄せながら言いましたの。


「大丈夫だから、泣くなよ」


 ――そんな訳がありませんわ!? 今だって辛そうにして! 血だってこんなに!!


「でも……でも! わたくしのせいで!!」


「お前のせいじゃねえよ。悪いのは全部あの得体の知れない合羽野郎だ。俺がアイツを片付けてくるから、お前は自信満々に笑ってろ。だって、俺はお前の笑顔にいつも元気を貰ってたんだからな」


 ――違いますの! 貴方にそんな言葉をかけてもらう資格なんてありませんわ! 他の誰でもない、わたくし自身の心の弱さのせいで……!


「待っ……」


「さぁ、決着つけようぜ!」





 ――わたくしはどうれば良いんですの? 


 わたくしは、金色の鎧を纏い。無数の虫型眷属と戦う彼をただ呆然と見ていました。


 ――わたくしが行っても足手纏いですわよね……。


 その時。彼の言葉が脳裏に響きましたわ。


『何があろうと、俺は絶対にお前を見捨てねぇ。もっと自信を持て、お前は凄い奴なんだ。俺に元気をくれたいつもの姿を見せてくれよ』


 ――貴方が必要としてくれるならば、わたくしは例えハリボテでも強いわたくしを演じて見せますわ! だって貴方が受け入れてくれるとしても、カッコ悪い所ばかり見せたくありませんの!


 わたくしは決心して、魔法を発動させました。


 ――お母様、わたくしはもう自分を嫌いにはなりませんわ。だってお母様と彼が、わたくしの欠点も良いところもまとめて受け入れてくれたのですもの。ですがお母様、それでもわたくしは強くなりたいですわ! 彼の隣で、常に見栄を張っていられるように!


「だから、これはそのための第一歩ですの! 見ていてくださいまし、お母様!」


 そしてわたくしは魔法を放ち敵を焼き払い、いつも通り精一杯見栄を張りながら彼に叫びましたわ。


「貴方の背中はわたくしが守りますわ! だから負けたら承知しませんわよ!」


「あぁ! 絶対に勝つ!」


 ――今のわたくしは、貴方が元気を貰えたと言ってくれたわたくしを演じられているのかしら? でもこれだけは言えますの。


「今のわたくしは絶好調ですのよ! そこをどきなさい! インフェルノ!」


 ――鈴木悠馬! 貴方はわたくしが守りますわ! 


「彼には指一本触れさせませんの! イグニスウォール!」


 ――だから!


「行きなさい! 鈴木悠馬!」


 そして目に映ったのは立ちはだかる全てを薙ぎ払いながら突き進み、遂にハスターの元までたどり着くと、二刀の剣を振り上げ巨大な金色の光の刃を生み出し、ハスターに振り下ろす彼の姿。


「アウァリティア・バーストッ!!!」


 ――凄い……まるでおとぎ話に出てくる、世界を救った英雄のようですわ……。



 

 巨大な光の奔流を放ち、ハスターを跡形もなく消滅させた後。鎧を解除して地面に倒れ込んだ彼に駆け寄りました。


「鈴木悠馬! 無事ですの!?」


「大丈夫大丈夫」


 ――この方はまた強がりを……!


「そんなわけがないでしょう!? 血が……あら?」


「痛い痛い痛い! ……あれ? そういえば、血が止まってんな」


 そして、安心した瞬間。わたくしは気がつくと泣いていましたわ。


「良かったですわ……本当に……もしわたくしのせいで貴方が死んだらわたくし……わたくし!」


「あー、もう泣くなよ。言ったろ、見捨てないって。だから、お前を置いて死んだりなんかしねぇよ。それにまだやることもあるし、何よりも俺が死んだら悲しむ人たちが居るからな」





 その後、わたくしが彼に肩を貸しながら共に校舎まで移動している最中。彼はわたくしに声を掛けてきましたの。


「なぁエミリーヌ」


「なんですの?」


「お前の心の中で抱えてる葛藤はお前にしかわからない。けどさ、それでお前が暗い顔をするってんなら、俺に助けてって言えよ。そしたら必ず俺が、お前の顔を曇らせる奴をぶっ飛ばしてやる」


 ――本当にこの方は、どうしてわたくしにそこまで……。


「本当に、頼っても良いんですの?」


「あぁ」


「絶対、迷惑になりますわよ?」


「んな事気にしねーよ」


「本当に?」


「本当だって」


「感謝……しますわ」


 ――こんなのズルい、ズルいですわ……。


「泣くなってば。俺はお前を泣かせたくて、こんな事言ってるわけじゃないんだからな? 俺はお前のちょっと上から目線で、高笑いを浮かべてるいつもの姿が見たいんだ。だからさ、笑えよ。エミリーヌ」


「はい……はいですわ!」


「お前、泣き笑いとか器用なことするな。初めて見たぞ」


 ――わたくし、ずっと貴方の近くに居たいですわ……。だから覚悟なさい! 鈴木悠馬! 必ず貴方をわたくしの物にしてみせますわ!




 後日。休日にわたくしは彼の家まで、お礼の菓子折りを持って訪問しました。


「ごめんあそばせ。鈴木悠馬さんはいますでしょうか?」


「ん? 悠馬ですか? ちょっと待ってて下さい! 悠馬ー! お客さん来てるわよ!」


「悠馬ならシャワー中だよ?」


「なら、中で待ってもらった方が良いな。私が出るから、ソフィアと冬香はお茶請けとクッションでも用意していてくれ」


 ――随分とご姉妹が多いんですのね……。


 ボーっとそんな事を考えていると。玄関ドアが開き中から、わが校の眉目秀麗完璧超人の生徒会長、全校生徒でも人気の高い浅野円華さんが出てきましたの。


 ――あら? わたくしお家を間違えたりしたのかしら?


「おーいどうしたんだ? 立ったまま待つのは疲れるだろう? 悠馬が来るまで、是非とも中に上がってくれ」


「え、えぇ。お言葉に甘えさせて頂きますわ……。ところで、貴方は悠馬の……?」


「ん? あぁ、姉だよ。血は繋がってないけど、紛れもなく私たちは姉弟なんだ」


 ――わたくしの家と同じように、複雑な家庭事情でもおありですの?


「いらっしゃーい」


「あ、これ。宜しければどうぞお召し上がりください」


「い、いえ。お気遣いなく……。ところで彼女達は?」


 ――わたくしの目がおかしくなっていなければ、一年生で一番の有名人なSクラスのソフィア王女殿下と、同じくらい全校生徒に人気のある。同じSクラス所属の上田冬香さんに見えますわ……。


「ソフィアと冬香は色々と事情があってな、今は我が家で寝食を共にしているんだ」


 ――ふぇ?

 無理やり一話に収めたけど、危うくもう一話分割せにゃならんところだった……。


 前編後編に分けるって決めても、何故か一日の内にどっちも投稿しちゃうんだよな。

 お嬢様言葉は難しすぎるよ!!


 エミリーヌの父親は率直に言ってクズです。まあ主人公の選択次第で改心? はしますが。

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