第5話 備えあれば患いなし
DLC一弾にて追加されたダンジョン『名もなき地下墳墓』、主人公の先祖たちのお墓の近くにある山の中にあるダンジョンで、未発見ダンジョン。
このダンジョンは少し特殊で、他のダンジョンは適正レベル。こちらの世界では適正ランクだが、それがない。
その代わりに、階層ごとに難易度が違っていて、浅い層であれば初心者のレベル上げに最適、深い層であれば超上級者向けエンドコンテンツ並みの難易度を誇る。
ランダムエンカウント法則さえ知って、出てくるユニークモンスターだけ避ければ、1レべの初心者から300レべの廃人まで使える二周目プレイヤー達御用達のダンジョンなのだ!
その上、このダンジョンは外と時間の流れが違うのでゆっくりレベル上げが出来る。
このことについて考察班が何か言っていたが……俺は検証班だったので、そちらには疎い。
因みに一周目は、そもそも行き先選択に表示が出ない。恐らくヌルゲー化防止なのだろう。
だがここはゲームではなく現実だ! そもそも扉が開かないDLC3弾と2弾のダンジョンは入れないが、このダンジョンは違う。ならばこれを有効活用しない手は無い!
自転車で片道30分。俺は今、ダンジョンの入り口で立ち尽くしていた。
ゲームだったら何とも思わなかったけど、やっぱこえー!! だって地下墳『墓』だぜ? 入り口は炭鉱の入り口みたいになっていて中の様子は見えない。実際中は鉱石の光で明るいけど、やっぱりこれからモンスターのうじゃうじゃいる見知らぬ誰かの墓に入るなんて。
だけどここで立ち止まってたって、しょうがない。俺は覚悟を決めると中に入っていった。
「オラァ! お前らの好きなお酢だぜ! 喰らいやがれ!」
俺は第一層にて、スライムにお酢をぶちまけていた。
え? なにをしているかだって? スライム退治だよ。
公式ガイドブックとは別に発行されていた攻略ガイドブックによると、スライムにはお酢が有効で、エンフォーサー協会も初心者育成にこの方法を推しているらしい。
若干コレジャナイ感はあるが、今の俺の装備、お酢・包丁と何故か家にあった防刃ベストとヘルメットでは、二層以降のゴブリンやらに挑むのは危険だ。
俺がスライムにお酢をばら撒き続けること約三十分、ドロップ品から大体の装備が揃って、レベルも大分上がったのでいよいよ下の層へ潜ることに決める。
因みに、この世界では生まれた時にステータスカードが渡されるそうだ。俺は記憶喪失で、やむを得ない事情により紛失したとして、再発行してもらったとカードを届けてくれた浅野潤は言っていた。
ステータスカードに書かれている項目は五つ、名前・レベル・ステータス・パッシプスキルとアクティブスキルだ。
ステータスは六つ、体力・物理攻撃力・魔法攻撃力・魔法防御力・運・速度だ。ステータスは、レベルアップ時に貰えるステータスポイントを振り分けることで上げられる。
スキルはレベルを上げることで自然に覚えるものや、指定の条件を満たすと覚えるもの、特定モンスターの討伐など覚える方法もまちまちだ。
今の俺の装備は、錆びた鉄の剣・皮の鎧・防刃ベスト・ヘルメット。
ステータスは、この先の事を考えて速度と運特化の回避型にしてある。何故なら、ステータス振り分けで得られる攻撃力・防御力など微々たるもので、主に武器や防具で上げられるからだ。
重戦士ビルドなら兎も角、俺のゲームでのスタイルは回避しながらちまちま削る二刀流スタイルだったので速度と運だけに振った方がいいのである。
二層に降りて直ぐ、俺はある場所の壁をスキルで思いっきり叩きつけた。DLC購入特典で手に入るアイテムを回収する為だ。
その名も、アイテムバッグ改。安直な名前だが何でも入る優れものである。本来ならば、学院入学時にアイテムバッグを貰える。
しかし、このバッグはその改良型。アイテムバッグに物を入れると、通常ならば食料の腐る速度が4分の1になるが。なんとこのアイテムバッグ改に入れたものは腐らない! ゲームだったから気にならなかったけど、腐ってなくとも一か月前の料理なんてあまり食べたいものでもないが。
「あったあった」
早速アイテムバッグに色々な物を移す、大分身軽になったのでいよいよマトモな戦闘に挑もうと思う。
「グゲゲッ!」
――見つけた。
アイテムバッグ改を手に入れた場所から暫く移動した先に、それはいた。
ゴブリン、推奨レベルは3。今の俺はスライム相手にレベル上げしまくったので、レベルは10。
十二分に安全マージンは取れているが、こちらがいくらレベルが高くても一瞬の油断が命取りだ。
俺は、ゴブリンが向こうを向いた瞬間に物陰から飛び出した!
「行くぞ!! パワースラッシュ!」
パワースラッシュ。レベル5から習得できる所謂初期技だが、どうやらレベル3のゴブリンには十分な威力だったらしく、一撃とはいかないものの首にクリーンヒットして、ゴブリンは虫の息になる。
「自分でやっておいてなんだけど相当グロいな、これ。なんだか吐きそうだ。」
俺は、首から大量に血を流してピクピク痙攣するゴブリンにとどめを刺した。その後暫く初戦闘の緊張と、先ほどのゴブリンにとどめを刺した時の感触で手の震えが止まらなかったが、数をこなす内に段々と慣れていった。
ちなみに、まともな戦闘初めてのドロップはゴブリンの歯(武器・薬の素材)だった。