第8話 運命の日
あの勝負から二週間とちょっと……
「へへッ、カバンなら僕が持ちますよ? 師匠!」
学校にいる間、俺は質の悪いストーカにここ二週間付きまとわれていた。
「いや、良いから……」
俺のカバンを持とうとする兵藤の顔を手で押しのけながら、俺はウンザリした顔で言った。
「いえいえ! 師匠の荷物持ちは弟子の仕事ですから!」
「だから弟子にした覚えはねぇて言ってんだろ!?」
――しかし、まあ。倒した直後は闇討ちくらいされると思ってたけど、想像の斜め上だったな……。
――……四六時中付いてくるし。我、こういう暑苦しいノリ嫌い。
俺とロトは心の中で溜息をついた。
話は再び二週間前に遡る。
勝負に片が付き、鹿見先生が捨て台詞を吐いて訓練室から引き揚げた後。
「おい、真司。コイツ置いてかれてるぞ」
「あ、ホントだ。めんどくさいし適当に起こしといてよ。起きたら勝手に居なくなるだろうし。僕Eクラスの皆に剣術教えとくから」
「それで良いのか、教師……まぁ良いか」
俺は倒れた兵藤に近寄ると、木刀でつついた。
「オイ起きろ。お前置いてかれてんぞ」
俺が暫くつついていると、兵藤は呻きながら起き上がった。
「どうして……どうして僕が負けたんだ……本当に君はEクラスなのか? あの動き、Eクラスに配属されるような実力じゃあ……」
「あぁ、それな。実は俺、ステータスの計測ミスでEクラスに配属されたんだよ」
「……本当のレベルは?」
付けていた腕輪を外すと、俺はステータスカードを兵藤に見せた。
「な、ななな? レベル123!? こんなの、Sランクエンフォーサー並じゃないか!?」
「ま、そういう事だから。負けたことに関しては落ち込むな。ただ、その腐った性根は直せ。後花音に謝れ。以上」
「な、何故だ!? 一般人はダンジョンには……まさかAランク以上のエンフォーサーの弟子! だけど一体……」
「悠馬なら僕の弟子だよー」
真司は、Eクラスの皆に素振りさせながらそう言った。
すると、兵藤は震え始めた。
「お、オイ? 大丈夫か?」
震え始めた兵藤を見て、俺が恐る恐る手を伸ばした瞬間。
「お願いします! 鈴木悠馬さん! いや師匠! 俺を弟子にしてください!」
兵藤はそう言いながらダイナミックな土下座を披露した。
――あっ、土下座の瞬間頭打ったなコイツ。涙目になってるし。というか急に何を……。
「いや、それ以前に花音に……」
俺が言い終わる前に、兵藤は花音の前に瞬間移動したかのような速さで土下座していた。
「申し訳ございませんでした花音さん! どうぞ僕に出来ることならば何なりとお申し付けください! 全霊を掛けて遂行し、償わせて頂きます!」
「え、えっと……」
突然の出来事で混乱している花音の前へ割り込むように真司は立つと、兵藤に質問した。
「ところで君はどうしてそこまで強くなりたいんだい? 僕には君がずっと精神的に追い詰められてるように見えたよ? 入学式の時もそうだったけどね」
――お前あの場に居たんかい!
「お前あの場に居たのかよ……それと、そこまでわかってんなら別にぶっ飛ばす必要なかったんじゃねえか?」
「うん。僕も悠馬に訳を聞こうと思ってたんだけど、なんか円華さんに連行されて行くのが見えたからね。まぁ後日聞けばいいかと思って。後、それとこれとは別だよ悠馬? 花音に手を出す奴は許さない」
「あぁそう……」
――このシスコン。
「で、君はどうしてそこまで?」
「父親が事故にあって寝たきりで、入院費とか全部母親が払ってて……だけどそれももう限界なんです。なんとかこの学院に入れたので、その分ドロップ品でお金を稼げますけど。やっぱり強くなって、難易度の高いダンジョンに潜らないと稼ぎが足りないので……」
真司はそれを聞くや否や、俺の肩を掴んだ。
「悠馬、彼を助けてくれ」
「え? お、おう? って、ちょっと待て! い、いやだからな!? 弟子とか! 俺そんなの取る気ねぇよ! 大体お前が助けてやりゃあ良いじゃねえか!」
「いや、僕は忙しくて出来ない。モデルの仕事にアイドルとしての仕事、プラスここの学院の教師だからね……頼むよ悠馬」
「お願いします! 師匠!」
俺は頭を掻きながら、溜息をついて言った。
「ったく! わかったよ! 但し俺はお前の師匠じゃねぇ! ただ単に一緒にダンジョン潜ってレベル上げの手伝いするだけだ! 良いな!」
「はい師匠!」
「人の話を聞きやがれッ!?」
そして、話は現在に戻る。
「なぁ兵藤、なんで四六時中付いてくるわけ?」
「いやぁ、師匠に負けてから教室に居づらくって……なによりも、師匠の世話は弟子の仕事ですから!」
「だから師匠じゃねぇし……」
「あ、だけど師匠の青春を邪魔するつもりは無いので安心してください! その時はその場から消えるので」
「余計なお世話だバカヤロー」
「あ、もうそろそろ授業ですね! それでは師匠、また!」
「おう……」
――ええっと……次の授業は校庭でEクラスとSクラス合同魔法訓練か。
「さっさと教室に戻ろ」
その後、俺は教室に戻り。校庭へと移動した。
「えーそれではEクラスとSクラス合同で魔法訓練を行う。と言っても最初だからな、そこに動くモンスター型の的がある。その的全部に当てられたら自由にしてもいいぞ? それが今回の目的だ。油断するなよ? 中にはライカンスロープを模った素早い的もあるからな」
茜はそう言うと、置いてあった椅子に座って俺達を観察しだした。
3分後。
「ぬあー、暇だ……」
「暇ね……」
「暇だねー……」
俺とソフィア、冬香の三人は早々に全ての的に当て終え暇していた。
「なあ」
「なに?」
「暇だし、なんかしようぜ」
「……賛成」
「私も参加するね……」
「花音はー?」
そう花音に呼びかけると、花音はまだ最初の的に苦戦していた。
「ご、ごめん。私まだ全部終わってないんだ!」
「あーそっか、悪い」
そうして俺達は木の棒や校庭の隅に置いてある木刀片手に三人で一つの絵を書き始めた。
「……どうしてこうなんのよ!?」
俺達の前には、形容しがたい何かの絵が出来上がっていた。
「い、いや。俺は確かにテュポ君を書いていたハズだ!」
「私もそうだもん!」
「まずソフィア。デフォルトのテュポ君書こうって言ったはずなのに、どうしてサムズアップしてるわけ? 後テュポ君がウインクしてるのは左目なのに、右目もウインクにしちゃったせいで両目閉じちゃってる……」
「え? だって私の知ってるテュポ君はこうだったよ?」
「……サムズアップしてるのはから揚げのパッケージだけ。で、悠馬。この形容しがたいよれよれの線は何? たこ?」
「失礼な! ちゃんとしたテュポ君の足だ!」
「OKわかった。悠馬の事、これから画伯って呼ぶことにするわ……」
「冬香ちゃん採点が厳しすぎるよ!」
「そうだそうだ! ……まさかお前、テュポ君ファンか?」
俺がそう言うと、冬香は頬を赤らめた。
「ッ! そ、そうよ! なんか悪い!?」
「い、いや。悪くはないけどなんか意外だなって……なんだ?」
俺達が和気あいあいと話していると、突如として暗雲が立ち込めた。
「あれ? 暗くなったな」
「うーん、雨でも降るんじゃないか?」
――まさか!?
そんな呑気な生徒達の会話は、何か落下してきた衝撃と轟音によって遮られる。
「ハハハ! 恐れるがいい哀れな虫けらども! 偉大なる我らが神は復活なされる! さあその頭を垂れよ! さすれば我が下僕として貴様らを生かすこともやぶさかではない!」
降ってきたのは原作で俺を殺す、青白い顔をした下級眷属だった。
ちなみに悠馬のレベルアップが異常に早いのは、二周目からしか使えないはずのレベル上げダンジョン『名もなき地下墳墓』を使っているからです。この世界でレベル100を超える事は普通はほとんどできません。命の危険を顧みずに格上相手に挑み続ける自殺行為をしないと、レベル80からはほとんど上がらないので……