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第20話 もっと強く

「ギャアァァ! いてぇ! いてぇよォ!?」


「クソ」


 俺はサモナーの男に切りかかった。

 一撃で決めるつもりだったが上手く力が入らず剣が滑り、サモナーの男の左肩を切り落とすだけにとどまる。

 そして俺はそのまま力尽き倒れた。


「もう一撃……」


 痛みで泣きわめく男にとどめを刺そうと、這いつくばりながら腕に力を入れるが動かない。


 ――頼むよ神様。あと一回で良いんだ、俺に立ち上がる力をくれ!


 しかし、何度足掻いても手足に力が入らない。


 俺が何度も立ち上がろうとすると、冬香が駆け寄ってきた。


「ダメだ……逃げろ……!」


「置いてなんか……! 置いてなんか行けるわけないじゃない! 絶対にアンタを連れて……」


「グガァァァァ!?」


 その時、後ろから瀕死になったベヒーモスの怒り狂った声が聞こえてきた。


 ――クソッタレ! あれで死なねぇのか……!


「逃げろ冬香!」


「イヤ! 絶対に置いてなんか行かない!」


 俺が嫌がる冬香を逃がそうとしていると、先ほどまで肩を抑えてうずくまっていた男が血まみれで立っていた。


「オイテメエら、よくもやってくれやがったな。このザコ虫風情が……! もう嬲り殺すのは止めだ、出てきやがれベヒーモス」


 男がそう言った瞬間、地面が赤く光りもう一体ベヒーモスが出てくる。


 ――これは……いよいよ無理だな。


「行け冬香。俺が一緒だとお前は逃げ切れねぇだろうが、お前一人なら逃げるだけなら何とかなんだろ。俺が少しだけ時間を稼ぐ! さっさと行け!」


 そして俺に覆いかぶさり庇おうとする冬香を横に突き飛ばし、温存しておくつもりだった残り少ない魔力を使い、少しだけ使えるヒールでギリギリ動けるようにしてベヒーモスに特攻しようとした。


「ダメぇ!!」


 冬香が叫んで止めようとしてくるが無視して、剣を構えて足に力を入れる。


 その時。


「無事……とは言えないようだな、遅くなって悪かった。もう大丈夫だ、よく私の弟子を守ってくれた。心からの感謝を」


 空から降ってきたのは、待ちに待った援軍。望月茜だった。


「オイお前。随分とまあ俺の弟子とその友達を可愛がってくれたらしいな?」


 男は茜に睨みつけられると、錯乱したように男は喚く。


「望月茜ぇ!? なんでここに! 先輩達はどうした!」


「ん? あの不快なピエロ共か? それならホラ」


 茜はそう言うと、血まみれのピエロの帽子を地面に放り投げる。


「ヒッ!? や、やれ! ベヒーモス達!」


 俺が慌てて剣を構えると、茜が手で俺を制した。


「全く、動くのもやっとだろ? 無理に動こうとするな、俺に任せておけ」


「いや、だけど……」


「なに、この程度私一人で十分だ。少し脇にずれて見てろ」


 そう言われ、俺は冬香の隣によろよろと移動した。


「大丈夫!?」


「あ、ああ。大丈夫だ」


「心配かけさせんな馬鹿ぁ……!」


 そう言って冬香は座り込んだ俺の左腕に勢い良く縋り付いて泣いていた。

 余程怖かったのだろう、小刻みに震えているのがわかった。


 俺は思った。とりあえず腕折れてるんで、滅茶苦茶痛いから悪いけどどいてくれませんかね、と。


 そして俺はゆっくりと意識を失った。最後に瞳に映ったのは月明りと自分の放った魔法の光で照らされた、戦女神のような望月茜の姿だった。




「さて、君は入退院の記録でギネス世界記録でも狙ってるのかね?」


「えっと……ハハハ」


 俺はまたもや病院に入院していた。


「左肩の脱臼に腕部も骨折、あばら骨も二本骨折。全く、もし肺に突き刺さっていたら大変な事になっていたよ」


「も、申し訳ありません」


「とりあえず、魔法で治りも早くしておいたから。全治二週間、キチンと安静にするように」


「はい……」


 そう言って先生は去っていった。




「失礼します……まさに重傷って感じね」


「ほっとけ」


 冬香は見舞いに来て、包帯でぐるぐる巻きの俺を見るなりそう言ってくる。


「ゴメンゴメン。お見舞いのフルーツ、ここに置いていくね」


「ん? あぁ、助かる」


 前回ソフィアがお見舞いのフルーツを入院中に置いて行った時は、超弩級の高級メロンを置いて行ったことがあって困ったが、冬香の持ってきたのは一般的なものだった。


 少しホッとしながら、俺はベットの横にある椅子に座った冬香と向かい合って話し始めた。


「とりあえずあんたの怪我は、交通事故で負ったことになったわ」


「助かる」


 学校にせよなんにせよ、怪しい奴らと揉め事になって怪我したと言うより、交通事故に遭ったと言った方が何かと便利だ。


「それで……あのサモナーの男の事なんだけど」


 冬香曰く勝ち目が薄いと悟った瞬間、ベヒーモス二体をおとりに何かの道具を使ってその場から消え去ったらしい。


「暫くは襲ってくることもないだろうけど、『もし襲われたら連絡しろ、1分以内に駆けつける』って師匠が」


 そう言って冬香は茜の連絡先の書かれた紙を手渡してきた。


「あいよ」


「それと……助けてくれてありがとう。後何も出来なくってゴメン」


「良いって、気にすんなよ」


「ありがとう……」


 そう言うと、冬香は急にもじもじし始める。


「そ、その……あの時のアンタはすっごくカッコよかった!」


「え。お、おう……」


 ――そういう事ド直球で言われるとこっちも恥ずかしくなるんだが……。


「だから、私はアンタの……悠馬の隣に立って一緒に戦えるように強くなりたい! あれ? だから……だから……その、えっと。今日から私と悠馬はライバル同士よ!」


「お、おう?」


「ああもう私の馬鹿……」


「なんか言った?」


「と、兎も角早く良くなるといいわね! それじゃあ!」


 そう言い残して冬香は病室を去っていった。


 ――なんだったんだ? 一体……。


 


 俺が呆然としていると、何やら黒いオーラを放った姉さんが病室に入ってきた。


「ヒッ! ね、姉さん!? 落ち着いて!? 人間話し合えばきっと分かり合える!!」


 しかし、姉さんは近づいてくると無言で俺の頬を引っ張る。


いひゃい(痛い)いひゃい(痛い)


「待ってたのに帰ってこなかった」


 姉さんは俯いて上手く表情が見えない。



「碌に理由も話さなかった」



「悠馬の好きなもの作って待ってたのに無駄になった」



「心配した」



「無事に戻ってくるって約束破った!」


 そう言って俺の頬から手を離し、姉さんは俺に抱きついて泣いた。


「心配した! どうしてお前はそう自分を大切にしてくれないんだ! 家族だろ!? お願いだ……こんなに私を心配させないでくれ! もしお前が死んだら私は……私は!」


「ごめん……」


 そう、だよな。姉さんは普段しっかりしているけど父親とほとんど会えない、ほとんど一人ぼっちの寂しがり屋なただの女の子なんだ。

 もし俺があの時、特攻して姉さんをまた一人ぼっちにしてしまっていたら……想像なんてしたくない。

 

 ――強くなろう。姉さんを心配させずに、色んな人を助けられるように。そして誰にも負けないよう最強に。


 俺に抱きつき泣き続ける姉さんを見ながら、俺は心の中で誓った。


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