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第14話 お礼

ボーっとしてたら気が付くと午後に……あと一週間は外に出られないんだよな

  俺が目を覚ますと、またもや病院のベッドの上だった。


 ただ前回と違うのは姉さんが俺のベッドに寄りかかるようにして、うつ伏せになって寝ている事だ。


「んん……」


 姉さんはむくりと起き上がると、目を擦りボーっとこちらを見てきた。


 俺は苦笑して、姉さんに声を掛ける。


「おはよう、姉さん」


 その瞬間、姉さんは俺を思いっ切り抱きしめた。


「ムグ!?」


「馬鹿! 危ないことをするんじゃない! 何故か戻ったら悠馬が居なくなっていて、おいて行かれたと思って迷子のアナウンスしてもらってもいないし。ベンチで途方に暮れてたら病院に運ばれたって連絡が届いて、私がどれだけ心配したと思ってるんだ!」


 ――ヤバいヤバいヤバい! その豊かな胸部装甲もマズいが、首が締まる! 息ができない!


「ね、姉さん息できない」


「あ、ああ。済まない」


 そう言うと、姉さんは離れて離れてくれた。べ、別に名残惜しかったりとかそういうことはないんだからな!


「兎も角、心臓に悪いから危険な事はしないでくれ」


「ごめん、姉さん」


「けれど今回の悠馬の行いは立派だった。女の子を、それもソフィア王女殿下を邪神教団の奴らの凶刃から守ったそうだな。家族としては危ない事は止めてほしいが、私は悠馬の事を誇りに思うぞ」

 

 そう言って姉さんは俺の頭を撫でた。


「姉さん……」


「だが! 私を置いてフラフラと他の女の子を追いかけるとは、いい度胸をしているな! んん!?」


 姉さんにアイアンクローを受けながら、俺は叫んだ。


「いだだだだ! ど、何処でそれを!?」


「Aランクエンフォーサーの尾野さんからだ! まさか悠馬にあんな友達がいるなんて、なぁ!」


 姉さんはそう言うと、更に力を入れた。


 ――頭! 頭が割れる! 脳みそが出る! 誰かヘルプッッ!


 ギャアァァァー!?



「うう、俺の頭……俺の頭が……」


「これに懲りたらもう危ないことはするんじゃないぞ」


 そう言ってくれた姉さんに、俺は俯きながら言った。


「ごめん、姉さん」


「ん?」


「多分俺は似たようなことがあったら何度でも、危険だとわかっていたとしても飛び込むよ。……俺は大切な人達を守れるようになりたい! だから!」


 そう俺が言うと、姉さんはため息をつく。


「悠馬、お前という奴は……しょうがない。じゃあ私は、悠馬が安らげるよう色々と頑張るとしよう」


「本当にゴメン」


「出来るだけ無傷で帰ってくるんだぞ、私が心労で死んでしまうからな。そしたらご褒美に悠馬の好きなものを好きなだけ作ってやる。それに悠馬。こういう時はゴメンじゃなくて、ありがとうって言われた方が私は嬉しいぞ?」


「その、ありがとう。姉さん」


 姉さんはニコッと笑うと座っていた椅子から立った。


「それじゃあ私は行くよ」


「え? もう帰っちゃうの?」


「ああ、それに私はお邪魔の様だからな」


 そう言った姉さんの視線の先をたどると、病室の扉に半分隠れてこちらの様子を伺っているソフィアが居た。


「じゃ、早く退院するんだぞ。それでは失礼いたします、ソフィア王女殿下」


 そう言い残し、姉さんは帰って行った。


 それでもソフィアは入ってこない。そのまま立っていられるのも迷惑なので、俺はソフィアを呼んだ。


「何やってるんだよ、さっさと入って来いよ」


「う、うん」


 そしてソフィアを椅子に座らせた。だが何を話していいかわからず、暫く気まずい沈黙が続いた。


「その。今は刺されたところ、痛くはない?」


「おう平気だ」


「そう、良かった……」


 何この空気。


「ああ、そういえば王女殿下に失礼な態度取ってたな。あーなんてお呼びすれば?」


 取り敢えずこの場を和ませる為に、ジョークを飛ばすも空気は変わらない。


「ソフィア」


「え?」


「今更でしょ。ソフィアって呼んでよ、悠馬君」


「それもそうか。んじゃ俺もソフィアって呼ぶから、ソフィアも悠馬って言ってくれ。俺が気絶する直前に散々叫んでただろ? 悠馬! 悠馬!って」


「あ、あれはその……必死で」


 俺たちは顔を見合わせると噴き出した。


「ふふ、全くもう意地悪」


「ああ、俺は意地悪なんだ」


 そうして互いに笑いあって暫く、ソフィアは改まった態度で礼をする。


「改めて。神聖サンチェス法国の第一王女、ソフィア・シャーロット・オリビア=サンチェスとして、貴方に心からの感謝を」


「あーもう。いいって、そんな堅苦しいのなんてさ。ありがとうの一言で十分だ」


 俺がそう言うと、ソフィアは少し笑う。


「うん。本当にありがとう、悠馬」


「どういたしまして」


「ところで、ね」


 そう言ってソフィアは顔を赤くして俯き押し黙った。


「おーいソフィアー? ところでなんだー?」


 試しに顔の前で手を振ってみても一切反応がない、暫くしてやっとソフィアは俺に質問してくる。


「ねえ悠馬、あのさ。最後、悠馬がエリクに突撃する前に言ってたあれって……」


「突撃する前に言ってたあれ……? 盾になるって言った方? それともその後の?」


「両方」


「それならどっちも本心だよ。俺はお前の盾になってやるし、実際お前に昔救われた。どこでかは言わないけどな」


「その、本当に?」


「本当に」


「この先どんな敵が相手でも?」


「あぁ。俺が絶対に守ってやる」


 俺がそういうも、ソフィアは俯いたまま微動だにしない。


「私、悠馬に迷惑しかかけてない」


「ソフィアからしたらそうかもしれないけど、どっちにしろ迷惑だなんて思ってねぇよ」


「悠馬の足を引っ張ってばっかり」


「そんなことねぇよ、実際道中もバフかけたり治癒したりしてくれただろ?」


「悠馬が戦ってる時も、私何も出来なかった」


「最後に助けてくれたじゃねえか」


「私なんか、悠馬に助けてもらう資格なんて……」


「あぁもうごちゃごちゃと! 何回言わせるつもりだ、良いか! 何度だって言ってやる! 俺はお前に救われた、だから俺はどんな時も、どんな相手だろうとお前の盾になって絶対に守る! あぁそうだ! 俺はこの約束だけは絶対に破らねぇ! 絶対にだ!」


 そう言うと、ソフィアは顔を真っ赤にしたまま顔を上げて俺に命令してきた。


「そのままの格好で目をつぶりなさい」


「……何故?」


 今の話の流れから、何をどうやったらそんな指示が飛んでくるのだろうか。


「良いから早く!」


「お、おう」


 俺は渋々目を瞑った。殴られるのだろうか? でも何故? そんなことを考えていると、頬に柔らかいものが当たったような感触がした。


 俺が思わず目を見開き横を見ると、顔が真っ赤なままのソフィアがまたうつむいていた。


「お、お前……」


「お礼よお礼! こ、これはそう! えっと、えっと……騎士たちが手の甲にキスするのの逆バージョン的な! 兎に角、元気そうだから私は帰ります!」


 ソフィアは早口でそう言い残し、逃げるように病室を去っていく。


 その後病室を訪れた真司が、思考停止した俺の表情を見て爆笑したので、とりあえず真司にヘッドロックをかけて気絶させた。

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