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幕間 私の初恋

 私は端的に言えば退屈していた。


 日本。そこには世界でも有数のエンフォーサー育成機関であるイザナギ学院がある。

 私は修行として3年後、イザナギ学院に入学する事が決まった。今私はその入学決定と日本とサンチェス法国の友好アピールとして、様々な場所で日本の人気なエンフォーサーの方と観光している様子を撮影されていた。


「どうしました? ソフィア王女殿下」


「いえ、何でもありません。尾野さん」


 彼は日本のAランクエンフォーサー、尾野真司さん。Aランクエンフォーサーにしてはちょっと頼りない気がする、流石にそれは失礼か。

 どうやら彼は昨日まで行方不明になっていたらしい。そんな人で本当に大丈夫なのか? とは思ったものの、キチンと気配りが出来てそれでいてこちらが困るようなこともしない、優しい人で内心ほっとしていた。


「それにしても暇ね……」


「休憩入りまーす!」


 どうやら休憩みたい。スタッフさんの声を聞きながら私はある事を思いついた。

 

 ――そうだ。休憩の間だけ撮影を抜け出して自由にこの遊園地を回ろう


 私はすぐさま実行に移した。

 スタッフさんや護衛のSPにはトイレと偽り、机に置いてあったテーマパークのマスコットキャラが描かれたTシャツと、これまたマスコットキャラの描かれた帽子を深くかぶって目元を隠し、私は無事に撮影を抜け出すことに成功した。


 ――今私は自由なんだ!!


 私は貴重な一人で居られる時間を嚙みしめ、遊園地に繰り出した。



 少しアトラクションを楽しんだ所で、私はお腹が空いていることに気が付いた。アトラクションを探している最中にフードコートを見つけていたので、私はそこに向かうことにする。


「いらっしゃいませ!」


「すいません、この……テュポ君特製から揚げ6つ下さい」


「あいよ! テュポ君特製から揚げ6つ入りましたー!」


 私は早速テーブルに着くと、何となくマスコットキャラ特製と書いてあるから頼んだ食べ物を食べ始めた。


 ――あぁ、私この国に来てよかった。


 これがジャパニーズから揚げ、美味しすぎて一瞬で完食してしまった。

 私が空になった皿を見つめ、もう一度注文しに行こうと立ち上がった時、黒い恰好をした男たちに囲まれているのに気が付いた。


「何ですか! あなた達!」


 私が目の前の怪しい男たちに尋ねると、私の目の前の男が名乗りを上げた。


「我々はウロボロス! ダンジョンという神たちが生み出した遺産を独占せし反エンフォーサー協会に抗う組織である! ソフィア王女、お前には捕まった同志を解放する為の交渉材料になってもらう!」


 どうやら彼らは最近噂になっているテロリストの様だ。

 私が一人になるのを狙っていたのだろうか? もしただそれだけで攫いやすくなると思ったのなら、彼らは思い違いをしている。

 彼らが私を捕まえようと動き、私もいつでも魔法を撃てるように構えると、いきなり私を囲んでいた男の一人が遠くに吹っ飛んでいった。


 突然の事に私も男たちもポカンとしていると、怪しい付けひげとサングラスをかけた不審者と私と同じくらいの男の子が、私と男たちの間に割って入るように現れた。


「あなた達一体! ……尾野さん!? と、えーっと」


 咄嗟に誰か尋ねたものの、不審者の方は尾野さんだということに気が付いた。あれで変装しているつもりなのだろうか。

 私がもう一人の男の子に名前を尋ねると、男の子はこう答えた。


「コイツの弟子で、友達の鈴木悠馬だ。よろしく」

 

 どうやら彼は尾野さんの弟子らしい、Aランクエンフォーサーとその弟子が助けに来てくれるとは心強い。


「ソフィア王女殿下、お怪我は?」


「いえ、大丈夫です」

 

 心配してくれた尾野さんに怪我が無いことを伝えると、悠馬君が男たちを挑発しだした。

 銃持ちもいるこの状況で挑発とは、中々変な人だと思う。


 彼の挑発が終わり、男達が怒って飛び掛かってくるかと思ったけど、先頭のフードの男が止めたが、その後結局戦闘に入った。


 尾野さんと悠馬君が何か作戦を立てているが関係ない。私一人でもなんとかなると高をくくり、尾野さんのアシストを受けながら男たちの大半を片付けてフードの男に私は言い放った。


「あまり私を舐めないで頂戴!」

 

 しかし、男はその余裕そうな態度を崩さない。


「えぇ、舐めてはいませんでしたよ? まさかここまでとは思いませんでしたが。ククッ、素晴らしい。これならばきっと!」


「何を言っているのか分からないけど、これで決着をつけさせて貰います」


 私は狂人に何を言っても通じない。ただの狂人の余裕だと思い込み私はフードの男に魔法を放ってしまった。


 そして私の放った魔法が何か見えない壁のようなものに当たり、跳ね返ってくるのが見えた。


 その直後全身に雷に打たれたような激痛が走り、私は意識を失った。



 お……ろ。オイ、起きろ!


 私は誰かに体をゆさぶられて目を覚ました。


「あれ? 私……」


「起きたか」


 どうやら私達は捕まってしまったらしい。取り乱す私とは違い、悠馬君は私の質問に答えてくれた。その時。


「シッ! 誰か来る! 少し寝たふりをしててくれ」


「わかったわ」


 どうやら男が様子を見に来たようで、男が悠馬君の胸倉を掴み殴ろうとしたその時、悠馬君が男に頭突きをして相手を気絶させた。

 

 悠馬君自身は、痛くはないのかな?



 そして私達は縄を解き、悠馬君は置いてあった剣を装備して出口を探して廊下を進んでいると、正面から銃を持った男が来ているのが見えた。

 私達が咄嗟に角で息を潜めていると、悠馬君に魔法を撃つように頼まれた。


 私は魔法を使おうとした。だけどその瞬間、先ほどの魔法が跳ね返ってくる光景と全身に激痛が走るあの感覚がフラッシュバックして来た。


 結局、出口に辿り着くまで私は悠馬君の足を引っ張り続けた。


 そして出口を見つけて喜ぶ私たちの前に、絶望は訪れた。


「おやおや。お喜びの所申し訳ありませんが、貴方達がお帰りになる事などできませんよ?」


 出口の前には、あののフードの男が立ちふさがっていた。


「クソ、最悪だ」


 悠馬君は剣を抜いて構え、私にこう言った。


「ソフィア! 基本俺が戦闘するから、ソフィアはバフ系のスキルがあるんだったらかけてくれ! 後はダメージ受けたら治癒よろしく!」


 私は只頷く事しか出来なかった。

 

 そして悠馬君はフードの男に切りかかった。


 ――さすがはAランクエンフォーサーの弟子ね、私と同じくらいの年なのに私の国の見習い騎士よりも素早い!


 私が悠馬君の動きに内心舌を巻いていると、男は悠馬君の剣を腕で受け止めるとそのままはじいた。


 私が驚愕していると、男はこう名乗った。邪神教団の幹部と。


 その瞬間、私はパニックに陥った。


 邪神教団。言わずと知れた世界の敵で、その幹部ともなると一国を一人で滅ぼせるほどの力を持つ者すらいると言われている。


 しかし悠馬君はそれを聞いても平然としているばかりか、相手を挑発し始めた。


「ほ、ほう? 言ってくれますねぇ、私が最弱……このオレが最弱だとォ!? ふざけるなァ!!」


 激怒したフードの男改めエリクが、短刀片手に悠馬君に襲い掛かるが悠馬君はひらりと躱した。


「わ、悪かったって。ただつい思ったことがポロっと」


「貴様ァァ!」


 彼は相手を怒らせないといけない病気なのだろうか、エリクが放った暗器を剣ではじいたは良いモノの、その内一つが掠って悠馬君の頬から血が出ていたので、念のため毒を警戒してヒールをかけたその時。


 エリクがミラージュデコイを使い、私達をかく乱した。だけど、一体だけ私に向かって来てそれが本体だと分かった。

 私は咄嗟に攻撃魔法を放とうとしたものの、先ほどの光景がフラッシュバックして固まってしまう。

 エリクはそんな私の致命的な隙を突き、私目掛けて短刀を突き出した。

 私はどうすることもできず目をつむったが、一向に何かが突き刺さるような感覚は来ない。

 私が目を開けると、そこには私を庇って脇腹に短刀を突き刺された悠馬君の姿があった。


 エリクが悠馬君に突き刺した短刀をより深く押し込もうとするが、私は悲鳴をあげる事しか出来ない。


「大丈夫。俺はそんなにヤワじゃねぇ!」


 だけど悠馬君はそんな私に笑いかけると、自らの腹部により深く短刀が食い込むのも構わずに、どこからともなく取り出した暗器で、エリクの左目を突き刺した。


「な、言ったろ? 大丈夫だって」


 痛みに耐えかねたエリクが短刀を離すのと同時に、悠馬君はよろよろと後ずさって壁に背中からもたれかかるように座り込む。


 私は、急いで悠馬君へと駆け寄った。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 血がこんなに!? 私のせいで……」


「気に病むなって。それよりもアイツの左目は潰したんだけど、攻撃魔法使えそうか?」


 私が一瞬攻撃魔法をエリクに使おうと考えた瞬間、またあの光景と痛みがフラッシュバックしてくる。

 そして、私はみっともなく叫んだ。


「ダメなの……力になりたいのに! 今も考えただけで手が震えちゃうの!!」


 私の言葉を聞くと、悠馬君は自分の腹部から短刀を抜き立ち上がった。


「待ってよ!? そんな傷で動いたら君が死んじゃう!!」

 

 引き留めようとする私に、悠馬君は問いかけた。


「なあ、ソフィア。また魔法を跳ね返されるのが怖いか?」


「うん……」


「もうアイツの邪眼が使えなくてもか?」


「うん。さっきから私、君の足を引っ張ってばっかり……だから私は君の役に立ちたい! けど」


 情けないことばかりを私は言っている私に、悠馬君は私にもわかるくらい冷や汗をかいて、痛いのを我慢してるはずなのにそんな素振りを見せないようにしてこんな約束をしてきた。


「大丈夫、役に立つとか立たないとか考えなくてもいい。そんなの関係なしに俺がお前の盾になってやる。アイツからも、お前自身の魔法からも。そしてこの先どんな敵が相手でもどんな不幸な出来事からも、魔神からだってお前を守ってやる。だから大丈夫、約束だ」


 どうして!? 私にはわからない! なんでこの人はこんな私を、足を引っ張るばかりで情けない私の事をこんなになってまで助けようとするの!? そんな約束私にはして貰う資格なんてないよ!!


「どうして君はそこまで……今日会ったばかりなのに!」


 私がそう聞くと、彼は満面の笑みで答える。


「それはお前たちに救われたからだよ。お前は知らなくても、悲しい時や何もかも上手くいかなくてやけくそになった時も、お前らから沢山の元気を貰った。だから、今度は俺の番だ」


 わかんない! わかんないよ! 私には君を助けた覚えなんてない! ただ私が助けられただけ! なのにどうしてそんなに君は!


「待って!」


 私は咄嗟にもうボロボロなのに立ち上がって、エリクに向かおうとする彼の手を掴んで止めようとしたけど、振りほどかれてしまった。


「やめてよ……お願いだからやめてよ……私なんかの為に君が命を懸ける必要なんてないよ!」


 そう叫んだ私の目に、満身創痍で突撃する悠馬君に向かって暗器を投げようとするエリクの姿が映る。


 私は攻撃魔法を放とうとしたけど、やはりあの光景と痛みがフラッシュバックしてきた。

 だけど……私はあの人をこんな所で失いたくない!


 私は阻害する全てを無理やり振り切って、魔法を放つ!!


「ホーリーパニッシュメント!!!」


 私の放った魔法はそのまま、暗器ごとエリクの肩を消し飛ばした。


「お前もやりゃあできるじゃん」


 そして、悠馬君はエリクにスキルを放つ。


「ガキ風情にこのオレ……が……」


 そのまま悠馬君はエリクが息絶えたのを見届けると倒れた。


 私は悠馬君に駆け寄り、泣きながら呼びかける。


「全く、勝ったんだから泣きそうな顔するなよ。結局守るつったのに、最後はお前に守られちまったな」


 そう言って悠馬君は意識を失う。


 私は泣きながら彼に治癒魔法をかけ続けた。

 色々とひどい一日だったけど、これだけははっきり言える。


 私は君に、生まれて初めての恋をしました。






 

 



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