食足りて
「おぉうい!皆!戻ったぞ!」
提督の大きく嬉しげな声が響く。その声に反応して、家々から人が飛び出してくる。彼の人徳には目を見張るものが有るなぁ・・・。
「お帰りなさいていと・・・何ですか!?その馬鈴薯の量は!?どっ・・・何処からか盗ん・・・いやっ抑も艦を出さねば外には行けないし・・・」
「はっはっは。盗んできたなどとは人聞きの悪い」
「では・・・一体全体この山のような馬鈴薯は・・・」
「あぁ。プルーナが作った畑があったろう?そこで収穫されたものだ」
「そんな!だってあそこで採れた馬鈴薯は・・・」
そうだよねぇ・・・皆疑うよね。だって・・・前回採れた馬鈴薯は数は少ないし、小さいし・・・。しかもこんな短時間での収穫だ。信じられないのも分かるよ。
「お主達が疑うのも無理はない。が、アルフレッド殿のお力によって、この収穫量と相成った。アルフレッド殿。皆に何か言葉をかけてくだされ」
「あぁ・・・。ここにある馬鈴薯は、皆さんから頂いた貝殻と海藻を肥料に育て、収穫しました」
「にしては、育つのが早くないか?」
「ごもっとも。ですが、私の持つ植物魔法を使って成長速度を調整させていただき、この量の馬鈴薯を収穫できる結果と成りました」
「・・・では、今後もこの量が供給されると考えて宜しいので?」
『「マァ ミズヤリヲワスレナケレバ コノバイハ シュウカクデキマシタケドネ」』
小声でさんちゃんが驚きの一言を伝えてくる・・・そっか・・・水遣り忘れてた・・・。
「・・・どうしたのですか?急に黙り込んで」
「いえ・・・この量の安定的な供給には少しお時間をいただきますが・・・概ね心配はありません」
「でも・・・馬鈴薯だけじゃぁねぇ・・・」
「あっ!ご心配なく。他の野菜なども育てていく予定ですので。種類は増えていくかと思います」
「なるほど・・・では・・・」
「ですが」
「「「・・・」」」
「皆さんの中に、農業経験者がいらっしゃいましたら、開墾のお手伝いをしていただきたいのです」
「「「・・・!」」」
「皆さんのお力無くして、食糧供給と栄養改善は叶いません。ご理解とご協力を」
にわかに騒ぎ出す人々。やれ経験者はいるのか。家庭菜園なら。俺は食べる専門だから・・・と言った声が聞こえてくる・・・。
「アルフレッド様。大丈夫でしょうか」
「すまぬアルフレッド殿。我々は海の上での生活が長く・・・」
「ストルネ殿。お気になさらず。カレン。なんとかなるさ。大丈夫だよ」
2人とも気にしすぎ。いざとなったら私がやるさ!土いじりは元々好きだから大丈夫!
『「アルフレッドサマ」』
「ん?なに?」
『「ワタシノ ハイメンカメラ ヲ ミナサンニムケテミテクダサイ」』
「ん?こう?・・・うえぇ!?」
さんちゃんの言うままにやってみると、表面にはそれぞれが持つ技術と経験が映し出されていた。
「・・・これは・・・むやみに使うと顰蹙をかうね・・・」
「ん?どうしたのじゃ?」
「あぁ・・・エレンも見てみるかい?」
「どれどれ────!これは。多用せぬ方が良いじゃろう」
「だよね・・・でも今回は」
「使うしかなかろう」
そう言って、共犯者?を増やし(悪いことをしようとは考えていない)農業経験者を探していく
「中々見つからないね・・・(おっ?あの2人・・・)」
「銃槍術や航海術、砲術にとやはり戦闘経験が多いのう。技術の横に表示されておる数は、経験の深さを表すと分かるのじゃが・・・名前の横の二桁の数字はなんじゃろうな?」
『「ソレハ トウニンノ ネンレイデス」』
「へえぇ!年齢まで分かるんだ・・・皆私より年下だね」
「古代森人のお主と比べるな!お主と比べると誰も彼も赤子同然じゃ!」
「たはは・・・」
「どうしたのです?エレン」
「あぁカレン。実はな─────」
「アルフレッド様らしいと言えばらしいですね。いくら森人族の中では若者と言っても、普人族を前にしたら、歩く歴史書ですからね」
「あはは・・・」
もう・・・私を年寄り扱いして・・・。まだたかが2300歳じゃないか!そりゃぁ・・・小さい頃から戦争に参加していたけれどさ・・・。
「アルくん?提督が呼んでるよ?」
おっと・・・考え事をしていたら、ストルネ殿に呼ばれていたらしい。
「ありがとう。行ってくるね」
「うん!」
「呼ばれているのに気が付かず・・・」
「なんの!それで・・・皆がアルフレッド殿にお礼をと」
「「「アルフレッド様。此度は食料生産への道筋を作っていただき、ありがとうございます!」」」
一言のズレもない・・・。この人達の一糸乱れぬ謝辞。ストルネ殿は凄いな。
「いえ。皆さんから提供していただいた海藻と貝殻。そして何より、畑を作っていたプルーナ殿のお陰です。こちらこそ感謝を」
「「「・・・!」」」
感謝に感謝を返す。私が頭を下げることは、王族としては余り褒められたものではないけれど・・・それでもこのひと月余りの間、食糧不足に悩まされながらも一人の落伍者も出さなかったストルネ殿以下、彼らには尊敬の念を込めても頭を下げないと言う理由はなかった・・・。
やっと食糧不足の解消に目途が立ったからだろうか、脱力する者、すすり泣く者、仲間と抱き合う者で、集まっていた広場は溢れた。
「ストルネ殿」
「何でしょう」
私は、まだ若干目が赤いストルネ殿に呼びかけ、先程目星を付けた2人を呼び出してもらう。
「この2人で間違いは無いですかな?」
1人は小柄な女性。もう1人は、若干痩せてはいるものの恰幅の良い男性。2人とも目が赤い・・・。食糧不足はこれ程までに深刻だったのか・・・。
「はい。こちらのお二人で間違いありません。お名前をお聞かせください」
「はっはい!わたしはリジアと申します・・・すっすみません。」
女性はリジアさんと言うのか。
「ぼかぁラパって言います。宜しくお願いしますだ」
男性はラパさんね。まぁ・・・さんちゃんを通して知っていたけど・・・いきなり名前で呼ぶと怪しまれるからね・・・。
「この二人が?」
「はい。リジアさん、ラパさん。率直に伺いますが、農作業の経験がお有りですか?」
「はっはい。実家は果樹栽培をしておりました。すみません」
「ぼくの家では、蕪や砂糖を作っていただよ」
へぇ!さんちゃんに偽り無しか!
(『「ウタガッテイタノデスカ サンチャン カナシイデス」』)
ごめんごめん・・・。でも・・・ラパさん砂糖も作ってたのかぁ・・・。
「お呼びした理由は、農作業の事なのです。お二人には、プルーナさんのお手伝いをしていただきたく・・・」
「「ええぇ!中佐のですか!?(大きな声を出してしまってすみません・・・)」」
「お嫌ですか?」
「そんな!一兵士がやって良いことなのか・・・声もかけにくかっただから。驚いてしまったのですだ」
「わっわたしもっ。中佐のお手伝いができるのはとても嬉しいです!」
「なら話しは早い!プルーナさぁん」
「はぁい!」
「この二人が・・・って目を細めないの。プルーナさんの補佐に回るから宜しくね」
一瞬、目を細めたプルーナさん。2人とも緊張しちゃうから・・・。本当に裏表がしっかりしているなぁ・・・。あっ2人とも敬礼してる。
「じゃっじゃぁ・・・向こうでやることを教えてあげてね?」
「はぁい」
そんな・・・猛獣を前にしたみたいな顔で私を見ないで・・・。あんまり厳しくしちゃだめだよプルーナさん。
「あっちはよしっと・・・ん?どうしましたストルネ殿」
「いえ。ふとこの島に来たひと月前のことを思い出してしまいまして────」
「なるほど。・・・少し崩れても誰も何も言いませんよ。カレンもエレンも他の方と話していますから」
「ご厚意痛み入ります。────この島に遭難して翌日のことか。運良くプレズモがこの島に寄った。その時に、この島の位置と換金可能なもので衣服や食糧を買った・・・相当勉強してくれたようでな。生きていけるだけの食糧と衣服を何度も届けてくれた。支払いは助かってからで良いと言って・・・な」
「さすがは動く商会。ん?では・・・ここまで危機にならないのでは?」
「それがな・・・彼が何時も使う港が時化で船を出せない時があった。また反対に、この島の天候も荒れた。それが20日程度続いた」
「えっ!?この島に来て殆どの日数じゃないですか!・・・プレズモさんはかなりの頻度で来ていた。と言うことですか」
「左様。一日おきにこの島に来てくれていた。だからこそ・・・頼っておったのだよ彼に。食糧が後払いでは有るものの、金を払わずに手に入るこの状況に」
「それが悪天候で崩れた。と・・・」
「うむ。最初は、艦橋から天候を確認していたのだよ。2.3日で収まるとの予測他も立った。だからこそ、変わらず食糧を消費していた。だが・・・あれよあれよという間に嵐は発達し、荒天が続く結果となった。その時だよ。プルーナが畑を作ると言い出したのは」
「あの小さな馬鈴薯は・・・」
「まだまだ成長途中だったものだとは思う。食糧の中にあった馬鈴薯を少しばかし持っていき、増やせるように努めると言ってな。儂も農業には明るくない。彼女に畑作業の一切を任せていた。・・・思えば、食糧危機の期待と責任を全て担わせてしまっていたのだ。彼女には相当苦労させてしまった」
「・・・」
「服は洗えば何とでもなった。幸い、井戸の水は涸れておらず、清掃することもできたからな。工作兵が訓練に参加していたのも大きかった。しかし────」
「数々の誤算で食糧危機がおとずれた。と」
「・・・。儂も楽観視しておった。この地域の天候の知識など無いのにな。経験のみに頼ってしまった。日々の研鑽に経験という糧をもって、知恵として絞ることができると言うのに。それを忘れてしまったのだこの愚か者は。だがそんな時────」
「私達が現れた」
「そう。皆で楽観視したことを悔い、祖国に対し詫びようとしていたときにだ」
「なぜ・・・なぜプルーナさんの手助けをしようとは思わなかったのですか」
「・・・先程も申したが、作物に知識が無かった。そのような者が手伝いを申しても、邪魔になるだけと思ってしまったのだ」
「・・・プルーナさんにも農作業の経験は無かったですよ。この島での作業が初めてだったみたいです」
「なんと!それは真か!」
「えぇ。皆さんを勇気づけるために行動に移したのでしょう」
「なんと・・・なんと・・・そうとは知らず・・・儂は・・・」
「ですが、彼女が頑張ったお陰で今が有るのです。彼女にかける言葉は懺悔ではなく感謝と喜びですよ」
「・・・然り・・・。儂は・・・若者にはまだまだ負けん気でいた。しかし、何処かで自分の経験にあぐらをかき、徒に皆の命を危険にさらした。プルーナという若者に知らず知らず支えられていた・・・」
「後悔先に立たず。とは言いますが、それを糧に前に済むことができます。これからも尚、学びましょう。知らないことをそのままにしないでください。知ることに恐怖を覚えないでください。ストルネ殿。貴方の知識や経験は、ここに居る全ての人が求める大切なものです。そこに新しいことを知り、自らが率先して生かしてみてください。生きていると言うことは、学び続けることと同義です。学ぶことを止めると、衰えるばかりになります。一緒に知らないことを自分の糧にしていきましょう。そして、ストルネ殿の母国に帰った際には、ここで学び得た知識を存分に生かしてください。僅かながらですがお手伝いいたしますよ」
「・・・申し訳ない。・・・申し訳ない。頼り切ってしまうことも多々あるかも知れません。アルフレッド殿に返せないほどの恩を受けるかも知れません。ですが今一度、儂に学び直す機会を与えてくださると言うのであれば、この老いぼれの力を是非使っていただきたい」
「えぇ。勿論。頼りにしています。無事に帰るその日まで」
「「「我らも!提督と共に!」」」
わっ!もしかしなくても皆さんも聞いていた・・・?やっちゃったかな・・・。
「アルフレッド様。お見事でございます」
「アルの演説は、やはり凄いのぅ」
「ア゛ル゛ぐん゛!アタシもがんばるよぉ!」
「ありがとう!皆さんも。これからは力仕事も多くなりますが、港の復興とこの島の発展に少しでもお力をお貸しください。必ず必ず!皆さを国にお帰ししますので!」
「「「ハッ!」」」
食足りて忠誠を得た。やる気に満ち溢れているからこそ、彼ら彼女らを裏切ることはできない。私も本気を出さないとね。




