森を抜けて
定期的に海岸に打ち付ける波の音。目的地の琥珀海に面した白兎海岸に到着した一行。この後はどうする?というプレズモの言葉を聞き、アルフレッドとカレン。そしてエレンは互いを見つめ、頷く。口を開いたのはアルフレッド───。
「プレズモさん。ここまで一緒に来てくれてありがとう」
「なんでぇ!改まって。コッチこそお礼を言わせてくれ。マルガリテでの一件は世話になった。こんな景色の良いところにも一緒に来ることができた。ありがとうな」
「そう言われると・・・嬉しいです!ただ・・・」
「ん?なんだ?どうした?」
「嘘を謝らなければなりません」
「へっ?嘘?なんだそりゃ?」
「僕・・・いや私のこの姿は、真の姿ではないのです。魔法を解いても他言せずにいていただけますか?」
「あっあぁ・・・商人の矜持にかけて約束する」
「では。《解除》」
アルフレッドの姿が歪んだかと思うと、一瞬で身長180糎。細身でプラチナブランドの短めの髪の毛。くりっとした翡翠色の双眸の青年が現れた。
「プレズモさん。いや。プレズモ殿。姿を偽って申し訳なかった」
「あっアル坊が大人に!?なんで・・・どうしてっ!?つうかよぅ・・・本当にアル坊なんだよな!?」
「えぇはい。アル。ですよ」
「っかぁ・・・こんな色男だったとは。驚いたぜぃ」
思った反応とは異なったプレズモの言動に、困惑の色を見せる三人。
「あの・・・プレズモ様。それだけ・・・ですか?」
「ん?それだけってどういう意味だ?小さかったアル坊がいきなりデカくなりゃぁ誰だってこんな反応だろうよ!」
「あっははは・・・」
「アル・・・この者はお主のことを知らぬらしいぞ」
「ん?なんか間違ったか?俺・・・」
三人の視線に、今度はプレズモが困惑する番となった。視線を彼方此方に向け、時折「なんかやっちまったか!?」と呟く。
「まぁ・・・うん。余り外に出ていなかったし」
と呟くと、その小声を確りと聞き取ったプレズモが、合点がいったようにアルフレッドに話す。
「あぁ!アル坊。ん?アルフレッドどの?」
「呼びやすい方で良いですよ」
「じゃぁアル坊で!いやぁ・・・おらぁよ最初から思っていたんだ。うん。どっかのお貴族様が、お忍びで旅をしてるんだって。はぐらかされた時にピンと来たんだよな。俺の勘がよ!」
「うん。まぁ・・・間違いでは・・・ないかな・・・」
「ん?なんだ?違うのか・・・」
アルフレッドが正解と言うと思って自信満々に答えたプレズモだったが、歯切れの悪い答えにシュンとしてしまった。
「あぁもう・・・焦れったいのじゃ。アル。早う身分を明かしたらどうなのじゃ」
「そう・・・だね・・・。うん───」
「アル様。アル様が思われているような態度をこの方はとらないと思います。大丈夫です。私がついています」
「ワシもいるからな!」
「二人ともありがとう」
身分を明かすことで、少しの時間ではあったが心地よい時間を過ごした関係が崩れるのでは。と危惧していたが、二人からの励ましに意を決したアルフレッド。プレズモを見つめて口を開く
「プレズモさん。私は、アルフレッド・ディ=アルベロ。本王国の第一王子です。身分を隠しての動向。大変失礼致しました」
非礼を詫び、頭を下げるアルフレッド。その後ろに控えた二人も深々と頭を下げる。
「おいおいおい・・・あぁ・・・。王子殿下だったってのか!?ん?俺の言動って不敬罪に当たるのか!?」
「プッ・・・あははは!そんなことになるわけ無いじゃないですか!それよりも、ここまで送ってくださってありがとうございます」
プレズモは、アルフレッドの身分を聞いて何を思ったか、今までの言動を急に気にし始めた。そんな反応が面白く、笑いながら否定したアルフレッド。
「なっなんだ。そりゃぁ安心したぜ・・・。んでアル坊。ここからどこに向かうんだ?」
「えっとですね・・・ここから海を渡って、ライラック島に行くんです」
「ほぉん・・・最近つとに人口が増え始めてるあの島に・・・」
「へっ!?人が住んでいるのですか?」
アルフレッドの行き先を聞いて、気になる情報を話したプレズモに目を丸くしてしまう。
事前情報と違う。そう思ったアルフレッドは、プレズモに島の様子を聞く。
人口が増え始めたのはここ数ヶ月の間。初めて上陸したのは、嵐によって難破してしまった貨客船。その乗員乗客500名ほどであった。
アレブロ王国と自由都市を結ぶ航路から大分離れた位置ではあったが、たまたま通りかかった船により、救助船が派遣された・・・。
一連の流れに納得した三人ではあったが、人が住んでいると言うことに納得がいかずに、その先を促した。
すると見えてきたのが所謂“不法占有”であった。領主もいない無人島であったが故の出来事ではある。しかし、王国としては許すことができないため、旅の目的にまた一つ課題が増えてしまった格好となった。
ただ・・・人口の確保という課題は解消されたが・・・。
「情報ありがとうございます。とても詳しく知っていると言うことは、何度か訪れたことがお有りで?」
「あぁ。カレン嬢。そんなに怖い顔をしないでくれ。ひと月に一回程度ではあるが、商いをしに行く。かれこれ四度程行ってはいるか・・・」
「わかりました。アルフレッド様」
「うん。これは急いで行く必要があるね。カレン頼むね。久々に思いっきり動いて良いよ」
「はい。少々お待ちくださいませ」
そう言ってお辞儀をして森の中に入っていくカレン。
「恥ずかしがり屋は相変わらずなのじゃな」
「んん?どういうことだ?」
「まぁ。待っていれば分かるのじゃ」
気になる様子のプレズモに待つよう言葉をかけるエレン。
ザワザワ───ガサガザ──・・・
「なっなんだよ・・・この、木を揺らす音は・・・」
突如騒ぎ始めた白兎の森に驚くプレズモ。しあし、他の二人が冷静に話し合っているのを見て、何で落ち着いてられんだよ。と心の中で悪態をついていたその時────。
『アルフレッド様。お待たせ致しました』
「うぇぇぇ!ふぇっフェンリル!」
森の中から現れたのは、白銀色の毛並みに紅色の瞳をした巨大な狼であった。
腰を抜かすプレズモを横目に、待っていない。と告げるアルフレッド。
「おいおいおい!アル坊!知り合いなのかっ!どういうこったぁ!」
腰を抜かしながら抗議の声をあげるプレズモ
「えっ・・・カレンですよ?」
「かっ・・・カレン嬢!?───おいおいおい・・・頭ん中大混乱だぜ・・・あぁうん。よしっ切り替えた!俺は喰われねぇそれだけで安心だ」
『人なんて食べませんよ・・・美味しくないし』
上手かったら喰うのかよっ!というプレズモの突っ込みをスルーするカレン。腰を下ろしてアルフレッドが乗りやすい体勢をとる。
「よっ・・・と!エレンはどうする?」
「そうじゃのぅ・・・」
『飛んで着いてきなさい。この駄精霊』
「駄精霊とはなんじゃ!この食いしん坊狼め!」
「エレン嬢は精霊かよ・・・」
狼と小柄なエレンが口論する中、プレズモはエレンの姿をして更に混乱してしまう───。
「まぁまぁ二人とも・・・エレンは小さくなって、私のポケットにでも入って行くかい?」
「そうするのじゃ!」
『えっちょっ・・・アル様!?エレンに甘すぎませんか!?うらやましぃ・・・』
アルフレッドの言葉に喜色満面のエレンは姿を縮め、さっとアルフレッドの服のポケットの中に入ってしまう。
このやりとりをみていたプレズモは、無言でカレンの胴を優しくポンポンと叩いた。
「さてと二人とも出発しよう。プレズモさん」
「おっ・・・おう!?」
いつの間にか上ってきた月に照らされたシルエットだけのアルフレッドの姿が幻想的であったため、返事が遅れてしまったプレズモ。
「・・・どうしました?」
(見蕩れたなんてぜってぇ言えねぇな)
「いやっどうしたアル坊?」
「これを」
魔法で浮かされて、視線の先まで飛んできたのは、ミスリル銀でできたアミュレット
「おいおいおい!これすんげぇ高価だろ?こんなの貰えねぇよ!」
「いえ。今回のお礼とお守り代わりです!これも何かの御縁です。受け取ってください」
「おっおう・・・」
「それと、肌身離さず付けておいてくださいね」
「おぅ。───ありがとよ!」
「それでは!貴方に幸運があらんことを!ライラック島にいらしたときは是非顔を見せてくださいね」
そう言って、軽くウインクをしたアルフレッドは狼に乗って琥珀海へと消えていった。海面に一筋の光を残して────




