カボロ村
プレズモの操る幌付きの馬車に揺られて2刻半が経った。辺りに広がるのは草原。どこまで見ても草原。そんな景色に飽きてきた時。
「この辺りはな、全てが牧草地なんだよ」
プレズモが唐突に口を開き、説明を始める。
「その昔は緑あふれる森林地帯だったらしいんだが、先の大戦で木が全て吹っ飛んだらしい・・・相当な範囲が消失したために、街を作る訳にもいかず、牧草地にしたらしいぜ」
あぁ・・・朧気に思い出してきたなぁと遠い目をしているアルフレッド。
「ジトー・・・」
「なっ・・・何かなカレン?」
「いぃえ。別に。ただ、この辺りで戦闘はなかったかと思いまして・・・」
「あっ・・・あの頃はさぁ・・・覚えたての広範囲魔法を使いたかったか・・・森に棲む動物を動かして、人が住んでいないことも確認したし・・・」
「やり過ぎかとは思いますけどね。地形と生態系が変わるレベルの魔法は」
「───若気の至りだよ・・・」
「こんなに地形が変わるたぁ、余程酷い戦地だったんだろ───ん?どうした二人とも」
「いやっべつに何でもないよっ」
カレンは無言だが笑顔で返し、アルフレッドは声を上ずらせながら答える。幸いプレズモは、初めて見て感動したんだろう。と勘違いをして馬車を進めた。
「おっ!見えてきた。あれがカボロむ・・・ん?黒煙!何かあったのか!?すまねぇ二人とも。飛ばすから舌を噛むな・・・って────」
「カレン。何があったか分かる?」
「魔物ですね。数は20。村の人々は建屋の中ですね」
「分かった。プレズモさん!馬車を止めてください」
「バカを言え!助けに行くのを辞めるこたぁできねぇ!」
「助けるために止めるのです!さっ早くっ」
「カレン嬢まで・・・分かった!信じるからな!」
そう言って馬車を止め、後ろの荷台からひらりと降りたアルフレッド。草原に立ち一言コメント。
「これから見ることは他言無用です」
急に纏う雰囲気が変わったアルフレッドにプレズモ驚きつつも、ぶんぶんと首を縦に振るプレズモ。
「アル様、数増えました。増援100です。全てゴブリンです」
「ん。」
カレンの言葉を聞き、腕に付けたバンクルから愛用の弓矢を取り出す。
《求めるは風の路。求めるは雷の疾さ。求めるは水の如き苛烈さ。求めるは氷の強さ。氷雨矢!》
詠唱と共に放たれた一筋の光。村の上空で幾筋にも別れ落ちていく。
「残存0です」
「探知ありがとう。やっぱり正確な探知あってこそだよね」
息が合った二人によって遠距離から放たれた矢は村に攻めてきたゴブリンに襲いかかった。
「───!こりゃすげぇ・・・っと二人とも乗ってくれ。村まで飛ばすぜ!」
その一言を受け、二人は馬車に戻り、村までの道を全速力で駆けていった。
───村に着くと、散乱した家財道具や農機具。焼け焦げた家屋など悲惨な有様であった。
「おおぅい!誰かいねぇのかぁ!いたらへんじしてくれぇ─────!」
「アル様」
「どうしたの?」
「斃れているのはゴブリンばかりです。それに・・・剣による外傷が全くなく、焼け焦げていたり、抑も外傷がない骸しかありません」
「本当だ。これは・・・相当な術者がいたんだね」
「はい。しかし、この様な小さな村に高位の術者がいるものなのでしょうか───」
「アル坊!カレン嬢!コッチに来てくれ!皆無事だ!」
プレズモの叫び声に似た喜びあふれる声を聞いて二人は駆け寄っていった。
「───教会の地下に避難していたんだとよ!」
「それはよかった!」
「しっかし村長!無事で何よりだぜ!」
「いんやぁ・・・たまたま運が良かったんじゃよ。それに光る雨にも助けられたでのぅ」
「運が良かったって・・・そりゃぁどういう───」
アルフレッドに向かうフードを被った小柄な影。正面から抱きつき
「アル!久しぶりじゃのぅ!」
「エレン!貴女だったのか!」
(どうしてこんな所にいるのさッ)
(まぁ色々とあったんじゃ色々と)
「エ・レ・ン!離れなさいッ!」
「おぉ怖い怖い!」
二人が抱き合っているのを見咎めたカレンが引き離す。
「ん?二人は知り合いなのか?」
「あぁ!ワシはアルの魔法の師じゃ!」
「うぇ!?」
いたずらが成功したような顔をして、アルフレッドに片目をつむってウインクするエレン。
「ほぉん!アル坊の魔法が凄かったのは小っこいお前さんのおかげなのかぁ」
「プレズモ・・・お主、不敬にあたるぞぃ」
「何でだよ村長?」
「なぜかって・・・それはのぅ・・・」
「申し訳ありません。プレズモ様。村長にご挨拶をしたいのですが・・・」
村長が話し始めるのを遮ったカレン。エレンの身分がプレズモに伝わる前に話の腰を折ったので、アルフレッドは感謝の意を込めてカレンに目線を送ると、当然です。と言う力強い合図が返ってきた。
「おう!すまねぇカレン嬢。村長。この二人があの矢の雨を降らせてくれたんだ」
「なんと!それはありがたい。教会の前にゴブリンが集まりかけておったところに、無数の光が落ちてきてのう。こうして生きていられたのじゃ。ありがとう。お二人さん」
「いえいえ!」「とんでもありません」
「魔力切れになってしもうてのぅ。ワシもまだまだじゃ!ハッハッハ」
「何を仰るエレン殿!貴女のおかげで教会に村人全員が避難できた。感謝しかないわい」
「「・・・はぁ」」
村人は全員助かった。しかしどうやら村の惨状を引き起こしたのはエレンであるらしい。とアルフレッドとカレンは気づき、深いため息をついたのであった。
「ところでアレン。お主はなぜこの様なところに?」
「それは・・・えっとぉ」「白兎の森に行くのですよ」
「ちょっ!カレン!」
(なんで言っちゃうのさ)
(確かに邪魔ではありますが)
(容赦なく言うね・・・)
(ですが・・・戦力にはなるだろうと判断しましたので)
(・・・成る程)
「・・・聞こえとるよ。お二人さん」
「ところで村長」
「無視かい・・・カレン・・・抱きついたのは謝るから無視は・・・」
「それはあとでオハナシです。ここから白兎の森まで行きたいと思い、プレズモ様に乗せていただいたのです」
痛烈なカレンの一言に衝撃を受けて、震え上がるエレン。村長の隣で成り行きを見ているプレズモが「何であそこまで震えるんだ?」と訝しげに見つめる目線にも気付かず、地面に座り込んでいじけだしてしまった。
「おぉ!白兎の森に。しかし、今は目立つものは何もない時期じゃがのぅ・・・」
「僕が学術都市に行く前に立ち寄りたいとわがままを言ったのですよ」
「そうじゃったのか。案内人をつけたいのじゃが・・・生憎この有様でのぅ・・・復旧の方が重要じゃて・・・」
「それなら!なんとかなると思いますよ───」




