魔科研③
「ビステアァッて・・・どしたのこの状況・・・」
ビステアの魔力を追いかけて下の階に行くと、息も絶え絶えな様子でリクリツィアさんの世話になっていた。
「あぁ。殿下。所長は一体どうしたのですか?新しい考えがーとか叫びながら私のもとへと来た途端にへたり込んでしまって。いつもより元気だなぁなんて思っていたら束の間。いつもよりも危ない状態になっていて。これは、殿下が何かご存じかと思い、今に至るのです。なにぶん、私も混乱していて、何を伝えているのかわかっていないのですが・・・。」
「あぁうん。ごめんね。一緒に来ているミューリエルという薬学に長じた人物が作った、薄い栄養剤を飲んだら急に元気になってしまって。追いかけてきた。というわけさ」
「なるほど。普段摂取しない成分を身体に取り込んだために一時的に身体が興奮し、全ての身体的機能が過剰に働き、一瞬で焼き切れてしまった。というわけですね」
「まぁそんなところかな」
「かひゅぅ・・・。けひゅけひゅ・・・。で、殿下・・・。あの薬は・・・強い・・・です。うぅ・・・身体が動きそうにない・・・です。けひゅけひゅ」
「あぁ。しばらくは無理そうだけど、例のものが完成したんだよね」
「えぇ。それは・・・もう。あぁ・・・早く、早くお見せして、説明したい・・・。」
「仕方ない。あんまり褒められたことじゃないのだけれど」
見たいもの、説明してほしいこと、そして何より、私が早く実行に移りたい。そんな独善的な理由。しかも、今後癖になってしまうかもしれないから、あまりやりたくはないのだけれど、はぁ。
「おっ!おおぉ!身体が楽に!」
「変な咳も出てないですよ!所長!」
「うん。治癒魔法を使ったからね。先ほどの栄養剤よりも更に効果を薄めて。それでも、キミの身体には強すぎる刺激だと思う。癖になりかねないから、今後はゆっくりと治すんだよ?それに、確りした食事と睡眠を摂ること」
「たはは・・・。そのお言葉、殿下にそっくりお返ししたいところですが、今は甘んじて受け止めます。強すぎる薬は、毒になると実を持って体験してしまいましたから」
「そう・・・だね・・・(かなり薄めたって言ってたのだから、相当栄養が足らなかったんだろうな。私は、カレンに改めて感謝しなければ)さて、皆キミの執務室に置いてきてしまったから呼びに戻らないと。ところで、例のものはどこに?」
「大きさも大きさなので、地下の最終実験室にあります。皆さんがそろい次第、地下に行きましょう。リクリツィアも行きますか?」
「いえ。私は、先程の事故の後処理が残っておりますので。では、殿下、所長。失礼いたします」
そういって、リクリツィアさんは颯爽と戻っていった。そんな彼女の後姿を熱い眼差しで見送るビステア。幼少期から一緒なんだから、さっさと・・・。って、他人に干渉したらよくないよね。
「殿下?」
「あっごめん。ぼおっとしてた。皆を呼ばないと」
念話でカレンとエレンに私たちの居場所を伝えて、1階に降りてきてもらう。ビステアに案内されて、地下に降りるための昇降機に乗った。
「ねぇ。アルくん」
「ん?どうしたのプルーナさん」
「やっぱり変だなぁと思って」
「?」
「外観よりも内部が広すぎるって思って」
「あぁ!それは、島の乾船渠と一緒で、空間魔法が使われているからね。外観に比べれば遥かに広いし大きいよ。今は、どのくらいの大きさに」
「今は、国の空間魔法の使い手に来ていただきながら、6階を作っていただいている最中ですね。最近は仕事が少ないからとと言って、最優先でやっていただいています。空間魔法の使い手は、我々森人族でも限られた方々しか使えず、昔は引く手数多でしたのに」
「へぇ・・・。アタシの森人族の基準って、アルくんだけなんだけど、やっぱりアルくんってすごいんだ」
「あはは・・・。そ―――「着きましたよ」お!おおおおお!」
昇降機の扉が開くと、眼前には光で照らされた箱型のものが。
「これが。試作機になるのだよね?」
「えぇ。黒の勇者様から頂いたお知恵をもとに、私たちで車輪の耐久性から上物の耐久性。それに、乗り心地も追求し、発条も研究に研究を重ねた結果、100年ほど経ってしまいましたが、漸く実走に漕ぎつけることができました」
「これって・・・」
「ふむ。黒の勇者殿から聞いていたものとは随分と形が異なるのぉ」
「これは一体何なのですわ?」
「これがアルベロ王国が持つ技術力・・・」
「って・・・。皆、感動というか、驚嘆してるけど、なんだかわかっているの?むしろ、わかっていないのはあたしだけ!?」
「「「「大丈夫!わかってない!」」」」
「なぁんだ。安心!・・・って!なんでそんなしたり顔で驚嘆していたのよッ!」
なんだか女性たちが和やかに「和やかじゃないッ!」じゃないみたいだけれど、私も驚いたよ。てっきり、煙を出して走らせるものだと思って、環境的な観点や、都市での利用法について悩んでいたのに。排煙装置が見られないということは、何かを燃した熱源動力で動くわけではないということなんだね。
「最初は、排煙装置を備えたものを作ろうとしたのですが、煙による空気の汚濁が懸念されたので。それに何より、教わったものをそのまま作るなぞ、研究者としては納得がいかなかったのです。そうこうして、源動力に何を使うか悩んでいたところ、研究所のそこかしこで使用している『電気』に目を付けたのです。魔核発電によって生み出された電力は、環境に負荷を今のところかけている形跡はなく、出力も安定。尚且つ生み出される量も莫大。今後、都市で使用されるようになっても余りあるとの報告も届いていましたので、思い切って動力源にしてしまおうと「で、これはいったい何なの!?さっきからアル兄と貴方しか―――」おっとこれは失礼」
「皆を置いて、2人の世界に入り込んでしまったよ。ごめんごめん。改めて、ビステアこれの説明を」
「これは、電力を源動力として動く車。『電車』と呼ばれるものなのです!」
「「「ほぉぉぉ・・・?」」」
「汽車とは違うの?」
「お嬢さんは・・・?」
「あっ!アタシは、北方連邦国出身のプルーナって言います」
「プルーナ女史。そうですね。北方連邦国では、黒の勇者様の知識から、蒸気を動力とした蒸気機関車が走っていましたね。一度、視察に行きましたので存じております。あれを見て・・・あの煤煙を見て、都市では使えない。と判断した一因でもあります」
「昔は、黒い煙を吐いては知っていたって聞いたなぁ・・・。そういえば。今は、まったく違うものを使って走らせているけれど」
「ふむ。その源動力は?」
「えっ・・・。それは・・・。魔石だよ・・・」
「なんと!!!それはイケません!直ちに使用を止めなければ!けひゅけひゅ」
「やっぱり・・・」
「うん。森人族の間では魔石の使用問題は、どの種族以上に危険視しているからね。それよりも、ビステア。今そのことを考えても仕方ないから、話の続きを」
「う・・・。そうですな。申し訳ありませんプルーナ女史。取り乱してしまって。けひゅけひゅ」
「うぅうん。大丈夫」
「では、気を取り直して。この電車は、電力を動力に流すことで動き出し、大量のヒト、モノを運ぶことができるのです!ただ、馬車や徒歩と違って、専用の軌道を用意すること。電力を流す導線を地上に這わす必要が出てくるのです。そこのところを今現在悩んでいるのです。けひゅけひゅ」
「そっか―――」
導線を這わすとなると景観的にどうなるのだろうか。ちょっと想像してみないとわからないな。街中に専用軌道を作るとしても、人が間違って入ってしまった時の事故をどう防ぐか。それに、馬車でいう御者もそろえなければならないだろうし・・・。うぅぅん。既存の街に新しいものを導入するのって、やっぱり難しいな―――。
明日から(更新日は3/31なので・・・)新年度ですね。
新しい出会い、新しい場に行くことが多いですね。環境が変わらない方もいれば、ガラッと変わってしまう方も多いのではないでしょうか。
そんな私も明日から違う現場に行くことになっている身なので、明日の更新ができるかどうか・・・。相当お待たせした挙句、また更新が止まってしまうのか!?とも頭を悩ませている次第ではあるのですが、何とか頑張って来週中には更新を再開(できれば明日も新しい話を投下)したいです。
気疲れは、本当に気が付かないうちにしているので、どうなることやら。
気候の安定しない春ですね。皆様も新しい環境で体調を崩されぬよう、自分の出来うる範囲で頑張りましょう。




