魔科研②
明るく照らされる階段を登って行く私たち。足元がわかりやすいっていうのは、やっぱりいいよね!文明の利器万歳だよ。
「ねぇ。アル君。ここの階段は、窓がないのに明るいんだけど・・・。やっぱり、島の灯台と同じように光魔法なの?」
「ん?あぁ!これはね、『電気』なんだ」
「へ!?こんなにたくさん・・・。アタシ達の国なんか、まだまだ家庭では燭台を。都市部でようやくガスなのに・・・って、電力って何?」
「私も黒の勇者様から頂いた知識をもとに、これから会うビステアと一緒に作ったんだけど、魔核に内包されている魔力を変換器を通して、電力に変換して各地に送電線を用いて使えるようにしているんだ」
「ほぇぇ・・・でもさ、送電線。線って言うのに、それらしきものは街中に一切ないよね?」
「うん。全部道の下に埋めているからね。地震は少ないんだけど、冬になると、風が強い日があったりするんだ。それで、送電線が切れると火災の原因になるから地下に埋めてるんだ。そうそう!電力を使っているのは、ここ官庁街と工業地区だけなんだ。今はね」
「へ?なんで・・・?」
「発電所の位置は、ここ官庁街と工業地区の間にあるんだよ。それに・・・」
「住宅地区がありますので、送電網が構築できなかったのです!けひゅけひゅ・・・」
「うわぁ!驚いたぁ・・・」
「ん?あぁ!久しぶりだね!」
プルーナさんの質問に答えながら歩いていると、突然横から聞き馴染んだ声が割り込んできた。独特な咳。身長は、私よりも幾分か低く、目の下の隈は濃い。
「ご無沙汰ですなぁ。殿下。けひゅけひゅ」
「あっ・・・アル君?今にも倒れそうなこの人は?」
「見るからに不健康そうなひとなのですわ!」
「アルト様お知合いですか?なんだか、ひどく疲れておいでのような」
「ちょっと!顔色悪いけど、なにか精のつくものでも処方してあげようか!?」
「相も変わらず・・・。アルフレッド様を放ると、成れの果ては彼ですね」
「いやぁ!いつ見ても不健康そのものじゃの!逆に安心するのじゃ!」
「出会っていきなり・・・何と言いますか、ひどい言われようですなぁ。けひゅけひゅ。あっ!お嬢さん。精のつく薬はいただきたく存じます。けひゅけひゅ」
「う・・・うん。わかったわ。少しだけ時間をちょうだいね」
「あぁ。ありがとうございます。けひゅけひゅ。っと。こんな廊下ではなく、実験室・・・。いや。私の部屋にご案内しますね。けひゅけひゅ」
「ビステア。道中でいいから自己紹介を」
「おぉ!といっても、ここが私の執務室兼寝室なので、どうぞ。けひゅけひゅ。」
ん?実験室にいるって聞いていたのに・・・。なぜ部屋から?まぁいいか。どうやら私たちの話声を聞いて、部屋から出てきてくれたらしいしね。
「いやぁ。実験中に書付が足らなくなってしまって。それを取りに来ていたら殿下の声が聞こえたものですから。けひゅけひゅ。扉を開けると目の前にいるとは・・・。驚いて心臓が飛び出るかと思いましたよ。けひゅけひゅ。どうぞ。おかけくださいな。けひゅけひゅ。」
ビステアは、さっと人数分の椅子を用意してくれ、私たちを促してくれたので、皆それぞれ着席する形となった。昔の彼は整理整頓が苦手で、研究資料の中に埋もれて寝るのが日常だったのに・・・。すっごく部屋がきれいだ。資料は研究内容ごとにまとめられているし、日付でも並べられている・・・。本当に本人の部屋!?という感じだ。彼を知るカレンやエレンも目を見開きながら部屋を見渡していた。
「あはは・・・。そんなにみられると恥ずかしいですな。けひゅけひゅ。ここは・・・多分先程会ったと思われますが、副所長のリクリツィアが綺麗にしてくれているんですよ。けひゅけひゅ。彼女のおかげで、私は研究に専念できているのです。けひゅけひゅ。」
「ステビアよ。先ほど、階下では大きな問題が起きていたようじゃが」
「えぇ。エレン。存じておりますとも。大丈夫。彼女がいれば問題はありませんよ。けひゅけひゅ。」
「いや・・・。リクリツィアもそうじゃが、全体的に仕事量が・・・いや。ここにいる者は皆総じて研究バカじゃからな・・・。もう少し、広い視野を持つように通達したらどうかの。さすれば、研究上の不注意による爆発なぞは防げると思うのじゃ。事故が起こるたび明らかな、時間の喪失じゃと思うからの」
「そう・・・ですね。確かに、時間の喪失は惜しいですね。けひゅけひゅ。問題が解決次第、通達するようにしますね。けひゅけひゅ。」
「うむ。そうしてくれ」
なんだか、エレンとビステアが2人で話し合って、私たちが置いてけぼりなのだけれど・・・。そろそろ私たち3人以外に自己紹介をしてほしいなぁ・・・。
「あのぅ・・・。お名前はわかったんだけど、もっと詳しく教えてほしいというか・・・」
「おぉ!そうでしたそうでした!自己紹介がまだでしたね。けひゅけひゅ。私は、ビステア・エルベナリ。魔法科学研究所の所長です。けひゅけひゅ。歳は2200と少しでしょうか」
ビステアが自身の歳を話した瞬間、プルーナさんたち初対面組がざわついた。そして、私とビステアの顔を交互に見やっていた。
「えっと・・・。アル君より若い・・・ってことだよね?」
「えぇ。殿下とは100歳差ですね。普人族の貴女からすると、1歳差ということになりますね。殿下より若いんですよ!すごいでしょう!」
いや・・・。ビステア。いつも驚いた人にそういう返しをしているけれど、多分みんなが思っているのは違う・・・。さすがの私でもわかるよ・・・。
「殿下の方が若く見えるのですわ!睡眠と休養。それと背筋!すべてがおざなりの様子なのですわ!殿下より数段老けて見えるのですわ!」
「ガーン!そっそんな・・・。あぁ・・・。殿下より老けている・・・。いつもこの話をすると驚かれていたのは、殿下よりも老けて見られていたということだったのですね・・・。あぁ・・・げひゅげひゅ」
あちゃぁ落ち込んじゃったよ・・・。でもさ、背筋は猫背気味で、目の隈は濃くて、痩せてて疲れた顔をいつもしているのだもの。そりゃぁねぇ・・・。
「ビステアさん。これ作ったから飲んで元気出して?」
「おぉ・・・。ありがとうございます。けひゅけひゅ。お言葉に甘えて。んぐっんぐっ・・・。おっ!おおおッ!これはこれは!すごい効き目ですぞ」
なんか、目を見開いて声もいつもより大きくなったみたい。目の下の隈も薄くなっているけれど、猫背はやっぱり治らないね。矯正が必要かもしれないなぁ。なんて思ってしまった。
「お嬢さん!ありがとうございます!あぁ!次々に新しい考えが!こうしてはいられませんッ!リクリツィアぁぁ!ちょぉっときてくださぁぁい!」
うわぁ・・・。すっごい高揚した状態で部屋を出て行ってしまったよ。何かを思いつくと確かに高揚しやすい人物ではあるのは知っていたけれど。
「ミリ。一体全体、あの御仁に何を飲ませたのですわ!?」
「えっ・・・いつも作っている栄養剤よ。でも、なんだかいつもの分量で作ったら効き目が強く出そうだったから、数段薄めて作ったつもりだったんだけど・・・。」
「うぅむ。それだけ彼奴に栄養が足りておらんかったということじゃな」
話を聞きながら、カーサさんはビステアが飲んだ栄養剤が入っていた器に顔を近づけていた。「たしかにいつもよりも・・・。いえ。微かにしか栄養剤の匂いを感じませんわ」とのこと。ミュールは相当薄めたらしい。彼も彼だけど、ミュールは患者に応じて濃度を調整できるのか。それはそれで素晴らしい。だけど・・・。
「圧倒されちゃったけど、彼を追いかけないと!あのままだと、案内してもらうのに何時間かかるかわからない!」
見たいものがあるのに、彼があのような状態だと新しい研究を開始しかねないから急いで止めないと・・・。こっちのやりたいことだってあるのだから!!!




