人の優しさと脆さ
「お祖父様が犯した事件で、お祖母様はこころを病まれていた。それはそうよね。だって、自らの旦那様があんな事件を起こすなんて夢にも思ってはいなかったんですもの。世界を混乱させるという大罪。お祖母様は心労がたたって、私がそのお顔を見る前に身罷られてしまった。お母様にとっては、二重の衝撃だったと思う。その事態を重く見た父上がお母様を第2王妃にと王宮に迎えた。順風満帆だった筈なのにね…。日記とアル兄の伝記で、私の何かが崩れた。お祖父様は何を思って、あの厄災を引き起こしたのかを…。歪められていない、喪失していない事実を探して探して、探し尽くした。でも、見つからなかった」
「…」
「なんで?なんで…お祖父様の名前も功績も、事実も抹消されているの?なんで、名前がアル兄の伝記の中にひっそりと書かれていただけなの!?ねぇ!教えてよ!アル兄!あのときの真実を!何を思ってお祖父様があんなことをしたのかを!」
「…わかった。でもその前に聞きたいことがある」
「…なによ」
ミューリエルは、悲壮感漂う嗚咽混じりの震えた声で私に語った。それは、彼女が抱えてきた闇だ。魔王陛下も第1王妃殿下もエルですら彼女に話さなかった。それは多分、彼女に重荷を背負わせないための配慮なのだろう…。
(私は何も聞かされてないので、話すこと自体ができなかったですが…。ミュールの…妹の苦悩を一番隣りにいた私が寄り添えなかったのは…姉として失格です…)
(誰しもが優しくすることが、現実に蓋をするということが、一番大切というわけでも…)
「ねぇ…何黙ってるの!?話の続きは!?」
エルからの念話に答えていたら、黙っていることに痺れを切らしてしまったらしい。感情が昂ぶっているのだからなおさらだ。
「…すまない。ミュール。なぜ君はこのようなことを?」
「それは…。お祖父様の存在自体を消したこの世界が憎かったの。だってそうでしょ?たしかに居たはずの人が居ないものにされる。母国にも他国にも。善行も悪行も等しく史書に残るというのに、お祖父様のことは何もかもない。一人の人間…あたしにとっての肉親が抹消されているのよ!?耐えられる?あたしは耐えられなかった。だからこそ、事の始まりの近くにある…あたしにとっても近しいこの国から、世界に対して復讐しようと考えた。でも…やっぱりアル兄には敵わなかった」
「聞きたければ…」
「ふん。上から目線に言わないで!誰が聞けると思う?誰が問えると思う?私の祖父の歴史を教えてと。滞在の過去を真実をって――――」
「甘えるんじゃないッ!」
「――――ッ」
思わず大きな声を出してしまった…。自分の抱えていた闇を、自身の身内が起こしたことを相談し辛いことは、想像に固くない。でも、だからこそ姉に相談することはできなかったのか…。でも、気分が落ちに落ちてしまえば、誰かに相談しようとする気力も意思も薄れることは確かだ。やはり、周りの優しさが間違った方に作用してしまった結果だ。
幼い幼い。心が耐えきれないから真実は伏せる…。本当にそうだろうか?幼いながらも考える力を持ち、反芻し、理解する。それが人という生き物だ。かける優しさが間違っていると、人の心は簡単に曲がる…。難しいな…。
「大きな声を出して済まない。だが、その前にこの騒ぎに終止符を打たねばならない
。話に関してはその後だ」
「…」
「間に合ったかい?」
「はい。なんとか息を取り戻しました」
「――――えっ…!?」
街…置いてけ堀




