立太子の儀Ⅳ
「ふぅ。サンフェリッツとの話ももう飽きた。吾は神子と話をするために来たのだ」
「飽きたって・・・相変わらずだなぁ」
「良いのデス。アルフレッドさま。慣れてますカラ」
「いつもありがとう」
「イエイエ・・・」
自由奔放。その四文字が如く動き回る女神に2人は軽く頭痛を覚えた。
「そうだ。伝えなければならないことがいくつかある」
「はい」
「まず端末に関してだが、今後もサンフェリッツが担当する」
「それはよかった!」
「まぁ話は最後まで聞くのだ。今までは、片言であったであろうが「えっ!?初耳ですヨ!」・・・吾の話を変わりにするか?」
クレシオンは若干怒気をはらんだ目で、サンフェリッツを睨む・・・。彼は首を横に激しく振りながら話の続きを促した。
「んん。今後は此奴とも意思の疎通がスムーズに行くであろう。それと、高速建築にはさらに制限をかけた。災害時での応急処置以外は何も弄れぬ。その代わり誘致に関しての効率化は3段階能力を上げた。さらに素早く効率的に建設が出来るであろう」
「ありがとうございます」
「うむ。もう少し吾に感謝しても良いのだからな。それから、この端末が王家に等というのは作り話だ」
「やはり・・・」
「ん。気づいていたのか」
「薄々は。私が生きてきた中で聞いたことがありませんでしたからね。でも、父上が使っていたのは・・・」
「吾が特別に貸与しているモノである。神子アルフレッドが持っている者は、終身使って良い。その身が滅ぶ・・・可能性は低いか・・・」
「ん?最後の方はなんと?」
「いや。何でも無い」
クレシオンが小さく呟いた最後の言葉は、流石のアルフレッドでも聞き取れなかったようだ。彼女は、わざとらしく咳払いをして話を続けた。
「それから、この国には2つの悪意が渦巻いている」
「クレシオン様!」
「良い。これは神子への信託である」
「それならば・・・」
「うむ。1つは食べ物に。1つは神樹に対するもの。相反する2つの悪意が渦巻いている。努々油断を怠らぬよう」
「はい!」
「それから・・・ふむ。どうやら間に合ったようだ────」
●
「キョウカ!」
「────ッはい!サクラ様!」
「私とは手を離さないで。離すと周りの方々のように動けなくなってしまうから」
突然世界の色が、時が止まった。空を飛ぶ鳥はそのままに。老婆の手から滑り落ちたであろう林檎は空中で静止。互いに話していたであろう青年の口は止まったままだ。
───異常な世界───
しかし、サクラには1つの心当たりがあった。彼女は巫女の血筋を引くために、この異常な世界を作った存在が神であると言うことに。
「あそこ!あそこにお一柱ご降臨されています!」
「・・・あっ!光の筋が!」
「ええ!もしかしたらあそこには・・・」
2人は時の止まった世界の中駆け出す。あそこには目的の人物がいる。そう信じて────。
●
「ふむふむ。漸く到着か。随分と遅かったな。吾が先触れを出したのはいつ頃であったか・・・」
「誰か・・・あっ!」
クレシオンが待ち人が来たと呟く。それと同時にアルフレッドもここに居るはずのない人物の魔力を感じ取った。
「はぁはぁはぁ・・・そう・・・創造の女神様で・・・した・・・かッ。はぁ・・・はぁ・・・」
息も絶え絶えに走ってきたのは、サクラとその護衛のキョウカであった。普段運動をあまりしないサクラとは対照的に、護衛のキョウカは余裕が残っていた。手を繋がなければならないために、余裕を持って走れたというのも大きいのかもしれないが・・・。
「ふむ。瑞穂の巫女よ。吾は運動した方が良いと助言する」
「はぁはぁ・・・そっ・・・そうですね・・・」
「サクラ!ほらこの水を!キョウカも」
「あるにいさま・・・ありがとうございます」
「有り難き幸せ」
クレシオンが運動不足を指摘する中、アルフレッドは魔法で水を出し、彼女たちに飲ませた。2人が一心地着くのを待って、改めて話を聞くこととした。
「お久しゅうございますアル兄様。」
「ご無沙汰しておりました。アルフレッド様」
「久しぶりだね。でも、どうして・・・」
「吾が呼んだのだ」
「クレシオン様が?一体なぜ」
「それは、この者たちから直に聞くのが良いだろう」
「あっ!クレシオン様!私は帰って仕事をしますネ」
「はぁ・・・。まぁよかろう。吾に関する後処理は、サンフェリッツに任せる」
「は・・・い・・・」
仕事が増えてしまいましタ・・・と呟き、ガックリと項垂れながら純白の羽を広げるサンフェリッツ。
「・・・さんちゃん」
「・・・はい」
「頑張って。それと・・・これからもよろしくね」
「───!ハイ!これからも頑張りますヨ!また後ほどお話ししましょウ!」
アルフレッドが彼に励ましの言葉と、これからのことを伝えると、顔に生気が戻ったようで、元気に羽を羽ばたかせて天界へと戻っていった。その様子を見ていた女神は、若干恨めしそうに空を行く天使を見つめ、仕事を増やしてやらねば。等と不穏な言葉を口にしていた・・・。
「それで、何でサクラたちはここまで?」
「実は・・・我が国周辺。とりわけ瑞穂にいたっては、ここ数年日照りに悩まされております。ですが、今まではなんとか大雪と颱風によって解消されていた水不足なのですが・・・」
「今年は、雪が少なかった」
「はい。多少は降った地域もありますが、全体的には暖冬で早くも水不足となり、稲の生育に甚大な被害が予測されているのです。そこで、神社にて祝詞を奏上したところ」
「吾が神託を下したのだ。アルフレッドに相談せよと」
「はい。ですが・・・神託の内容を父上に伝えても、父上を筆頭に大臣たちは颱風が来るからと神託の内容を信じず・・・」
「なんと。無礼な」
「申し訳ありません。ですが、ここ何年も日照りと颱風が組み合わさっての天候異常ともなると・・・」
「神託を・・・神意を信じる感情も薄くなる・・・か」
「はい。アル兄様の言うとおりです。ですので、私1人だけでも、この国に来ようとしたところ」
「お1人では危ないと思い、私が着いて参りました」
「うん。でも、瑞穂からここまで快速船なら一日足らずで来られるはず・・・」
「・・・途中で酷い嵐に見舞われたのです。それにより船は甚大なる損害を受け・・・私たちは運良く・・・」
話ながら小刻みに震えるサクラ。それを正面から優しく抱きしめるアルフレッド。
「・・・怖い思い出を聞き出してごめんよ。もう大丈夫。安全な場所に着いたのだから。この国にいる以上は、私が護るから。キョウカ。サクラを護ってくれてありがとう。後で部屋を用意するからゆっくりと休んでほしい」
「はっ!」
「あるにぃさまぁ・・・」
片膝立ちのアルフレッドの胸に顔を埋めて、泣き出すサクラ。彼女のひと月以上にわたる冒険は今ここに、目的の人物に会うという形で達成された。
「ふむ。瑞穂の巫女には吾から加護を授けねばならぬな。斯様に小さき身体でよく頑張った」
そう言ってサクラの頭を一撫でするクレシオン。サクラの右手には、創造の女神からの加護を示す印が浮かび上がり、そして消えた。加護が定着した証拠だ。しかし、彼女はそのようなことには気付かずに、アルフレッドの胸元で泣き続けていた。
キョウカが常に横にいても不安であったのだろう。成人の年齢に及ばない1人の可憐な少女には、過酷で危険な旅であった。
「よしよし。よく頑張った。偉いぞ」
そんな彼女を励ましながら背中をさするアルフレッド。彼女が泣き止むまで優しく抱きとめるのであった。




