閑話 伝記 Ⅶ
別荘に建てられた双翼の監視塔。正面が聖都方面であり、背後には森人族の領地につながる森がある。そのため、森側には監視塔は建てられていない。
高さが30米程はあろうかという塔にアルフレッドとプレーノ。そして聖王は居た。
「聖王陛下・・・あまり無理をなさいますな」
「何を言うプレーノ殿。アルフレッド殿下がいらっしゃっているのだ。成人前の子どもに全てを任せるほど、余は落ちぶれてはおらん」
「まぁ。聖王様よりかは年上なのですが・・・」
「アルフレッド殿下から見れば、余など赤子同然なのであろうが・・・余としては、勇姿を間近目で見て娘に伝えたい!」
「聖王陛下・・・本音と建て前が・・・」
「まぁ今更隠し立てしても仕方あるまい!はっはっは」
安全な?室内よりも間近でアルフレッドの様子を見たいという聖王。森人族内での噂は当然耳に入っているようで、何が起こるのかウキウキした様子である。
「・・・あれ・・・かな」
雲一つ無い青空。しかし、聖都方面から黒い点がだんだんと大きくなってきていた。魔物が近づいてきているのだ。刻一刻と大きくなっていく黒い点。聖王は段々と近づく脅威に不安を抱くが、隣にいるアルフレッドの泰然とした様子をみて、辛うじて冷静さだけは失わなかった。
「じい」
「はっ!」
「地上には、いるかなぁ?」
「少々お待ちを」
目下に広がるのは、一筋の登山道と森。天然の要害に守られてはいるものの、一度取り付かれてしまうと対処ができない。そのため、目の前に浮かぶ黒い点。無数の飛行魔族だけでなく、地上部隊の把握をプレーノに頼んだのだ。
「どう・・・なのだ?」
「────居ますね。その数3000程。いかがなさいますか?」
「まぁ・・・数を減らすには・・・」
数を聞いたアルフレッドは、呪文を口ずさむ。すると俄に雲が沸き立ち、雨を降らせ始めた。それも聖都側だけに。
「これは・・・天候操作!このようなことまでアルフレッド殿下はできるのですな!」
「聖王様。僕はどうしても精霊魔法が苦手で・・・」
「なぜです?確りと発現しているではないですか」
「・・・見ていてください」
聖王はアルフレッドに興奮気味に問いかけると、少し項垂れたアルフレッドが雲を指さした。最初から激しい雨が降っていたが、次第に風も強くなり、あっという間に立っているのがやっととなってしまった。
「こっ・・・これは・・・!」
「はぁ・・・。やり過ぎないでって言ったのに・・・。あっ!聖王様。これで・・・どうですか?」
「・・・おっ?普通に立てる。会話ができる」
「すみません。気づかずに。じい。どう?」
「この嵐で脱落する者はいないようですなぁ・・・」
「そっか」
アルフレッドは一言呟くと、簡易倉庫から弓を取り出してつがえるが、矢はない。疑問に思う聖王であったが、アルフレッドがひょいと放つそぶりを見せると、一筋の光が一直線に飛んできている魔物の方へと向かった。続けざまに放った光の矢が一本目に追いつきぶつかると、幾重にも光がわかれ、魔物たちを射落としていった。
「・・・すごい!凄いですぞ!アルフレッド殿下!」
「まだです。あれでは致命傷にならない・・・」
聖王が感心している中、アルフレッドは冷静に分析し、もう一度光の矢を放つ。今までの矢とは違い、紫色に輝くモノだ。
「あれは・・・一体・・・」
「聖王様。今の天気は?」
「雨ですな」
「そうです。飛行していた魔物は?」
「落ちていますな」
「爺。地上の魔物は?」
「落ちてきた飛行魔物に当たって、身動きのとれないモノが増えてますな」
「降りしきる雨に、停滞した大群。そこに・・・高圧の電気が流れると?」
「・・・感電・・・する」
「はい」
紫電が迸る矢が高度の限界を迎え弾け飛び、地面に落ちる。
「眩しいので・・・背を向けてください」
「はっ・・・はい」
アルフレッドの忠告に素直に従う聖王。彼が背を向けると同時に、背を向けていてもわかる程の激しい光と轟音が鳴り響いた。
「うん。多分全滅したと思う。後で調べておいてね。じい」
「はっ!」
「聖王様。戻りましょう」
散歩に行って帰ってきた。そのくらいの軽さで聖王に話しかけるアルフレッド。聖王は幾分呆けながら、前を行く小さな背中に着いていくのであった。




