閑話 伝記 Ⅵ
「ただいま戻りました聖王陛下」
プレーノが避難先に戻ったのは、日が沈みかけた頃であった。本来はもう少し遅くに着くと考えていたのだが、アルフレッドが「火急の事態なら急がないと」と言い、強化魔法をかけたのだ。それはもう大の大人がが舌を巻く技量でだ。
驚き呆けるプレーノにアルフレッドは、静かに「行かないの?」と声をかけ、今に至る。
「随分と早い戻りでしたな。プレーノ殿」
もう聖王は、プレーノに対して尊称をつけることとしたようだ。
「はい。此方に御座す方が強化魔法を」
「ん?・・・この小さき方が?」
聖王は、プレーノが答えたことによりようやくアルフレッドを認識したようだ。
ここでふとプレーノも疑問が湧いた。なぜ誰にも注目されなかったのかという疑問にだ。
「初めまして。聖王様。今まで隠蔽の魔法をかけていたことを謝ります」
まさかとは思った。森人族の中でもとりわけ幼いこの王子が、誰にも気づかれない。暗殺所顔負けの隠蔽魔法を自信にかけるとは。末恐ろしい・・・聖王とプレーノは顔を見合わせてお互いの思いを目線で伝え合った。
「して、貴方は?」
「申し遅れました────」
聖王が問うと、アルフレッドは法衣の帽子を取り、顔をあらわにする。幸いこの部屋には、自身を含め3人しか居ないからだ。───そのほかの者は、王女の防衛に駆り出されている───
王は、帽子の下から露わになったアルフレッドの顔を見て驚きを露わにした。
「まっまさか・・・アルフレッド殿下がお越しくださるとは露知らず・・・座りながらご無礼を・・・」
そう言って、椅子から立ち上がろうとする彼をアルフレッドは「僕の方が若輩者ですから」と言って座り直すように促した。
森人族からみたら若いを通り越して幼い年齢のアルフレッドであるが、普人族からすればかなりの年齢であることは間違いない。
聖王は若く、王位に着いたのもつい先日だ。齢35である。その彼とアルフレッドの間には埋められない年齢差があるのだが・・・。
「僕は今回が初陣です。ですので、表向きはプレーノの弟子として動きます。よろしくお願いします」
「こっこちらこそ・・・よっよろしくお願いします」
ガチガチに固まってしまった聖王に、握手を求めるアルフレッド。可哀相かな、手を震えさせながら握手を返す聖王なのであった。
「ところで聖王様。この地下で今、異界召喚をなさっているのですか?」
「・・・おわかりいただけますか」
「はい。ここまで大きな魔力となると・・・気づくなという方が難しいです。ただ・・・」
「ただ?」
「聖王都方面から、よどんだ魔力が複数確認できます・・・これが件の魔物?」
「なっ!?すっすぐに厳戒体勢を・・・いやっ姫の身が危ないか・・・一体どうすれば・・・」
アルフレッドが冷静に敵の接近を報告する。それを聞き冷静さを失いかける聖王。それもそうだ。この地には避難してきた大臣と少数の近衛兵それと使用人。そして目の前の2人。30にも満たない数でどう迎撃するのか・・・。しかも姫を守るために地下にいる。呼び戻す間に襲撃されたら・・・。顔を青ざめさせながら席を立ち部屋を歩き回る彼に対して、アルフレッドが再び口を開く。
「聖王様。僕が行くので、どこか高いところはありませんか?」
「しっ・・・しかし・・・」
「大丈夫ですよ。あと半刻は時間がありますから」
「そういう訳ではないのだが・・・」
アルフレッドはやる気に満ちあふれているが、聖王が気にしているのはそこではない。もし彼に何かあれば・・・そう思って居るのだ。キョトンとした顔のアルフレッドを前に聖王はなんと言おうか逡巡している様子。思いの行き違いがある。そう感じたプレーノが2人に割って入る。
「聖王陛下。私が殿下の護衛につきます」
「しかしだな・・・」
「まぁ何かありましたら私の責任にしてください。行きましょう殿下。あっ!法衣の帽子はまた被ってくださいね」
「うん」
「そういう訳ではないのだが・・・」
意気揚々と部屋を出て行く2人に弱々しい声で否定を述べる聖王。彼の呟きは届かない・・・。
今現在において、最高戦力の2人に何かあったら・・・そう思っていた聖王なのであった。




