閑話 伝記 ⅳ
「─────そうか。王宮はもう・・・」
嗚咽を交えながら王宮での惨状を語るピオ。食事前に彼女が到着したのが幸いであった。見たもの全てを生々しく語る。まるで彼女を助けたり者たちを供養するかのように。
「っぐ・・・ひっぐ・・・御前で・・・失礼を・・・」
「よい。しばらく休めピオ警備室長」
「・・・はい」
食堂は沈痛な雰囲気となった。誰もが項垂れあるモノは机を叩き、あるモノは嘘だと呟き続けた。重々しい雰囲気の中、聖王が口を開く。
「皆の者、地獄からピオが生きて戻った。彼女の報告はまさに天の扶け。生者がいない。そう考えるだけでも心的負担は減る。救わねばという気持ちと焦る心がないだけ幾分マシである。余が言っていることは冷たい言葉であることは重々承知だ。しかし、我らは今は魔物化してしまった彼らによって生を紡がれた。彼らを討滅することこそが手向けであろう。そのためにもまず英気を養わねば。しっかりと食事をし、睡眠をとり万全の態勢で王宮の奪還計画を練ろう。ピオが齎した情報全てを活かそう。我々よりも悲惨な状況を目の当たりにしながら撤退を選ぶしかなかった・・・彼女のが一番辛いのだ。俯いているばかりでは事は進まん。嘆いてばかりでは停滞するのみ。前を向け!ここに居るのは死地を脱した者たちのみぞ!さぁ立ち上がれ!杯をとれ!」
聖王の言葉が静まりかえった食堂に響く。会議に参加していた大臣や王女は席に着き、近衛兵や使用人は沈痛な面持ちでそばに控えていた。しかし、聖王の言葉によって力を、前を向く者たちが出てくる。
「そうだ。生き残った我々が前を向かねば」
「うむ。民だって居るのだ。我々が諦めて国を守れようか」
「ここで全てを投げ出しては、我々を最期まで守ってくれた兵たちに顔向けができん!」
「そうだ!やろう!我々で!」
「うむ!皆その意気だ!もう一度言う!杯をとれ!そば仕えの者もだ!」
聖王が再び杯をとるように促す。今度は近衛兵や使用人を含めて。
「散っていった者たちに!献杯!」
「「献杯!」」
皆一様に杯の中身を呷る。酒が落ちていく喉の音だけが食堂に響く。そのうちに、聖王から嗚咽が漏れる。彼も1人の人間だ。一日にして、先祖が築き上げてきたその全てが崩れ去ったのだ。ピオ同様辛い。もしかしたらそれ以上に・・・。
臣下が居る事を分かっていても涙を流さずにはいられなかった。愛する兵が、民が今苦境に、地獄にいる。そう思うと、自分が生きていても良いのか。という思考に陥ってしまう。先程の言葉は自分にも向けて、己を奮い立たせるための言葉であったのだ。その場にいる全員が咽び泣く。今は1人の人間として。地位を忘れて・・・。
「・・・失礼。こんなに弱い王で申し訳ない」
しばらくした後、赤く目を腫らした聖王が口を開くが、その場にいる誰もが非難などしなかった。皆は王の次の言葉を待っていた。
「プレーノ・・・殿」
「はっ」
聖王がプレーノを敬意をもって呼ぶ。聖王家と森人族は古くから・・・聖王国建国以前からの深い繋がりがある。それこそ、王家の血に森人族王家の血が流れるほどには。
「申し訳ないが、盟約の時だ。森人族に救援を要請致す」
「畏まりました。必ずや救援を連れ戻って参ります」
「お頼み致す」
「陛下!属国民風情に頭を下げるなど!」
「黙れ!財務卿!今は亡国の時!それに、森人族を貶める口の利き方はもう聞き捨てならん。森人族を蔑むこと即ちこの聖王家を蔑むことと同じぞ!平時であれば見逃しては居たが、この期に及んでは看過できぬ!考えを改めよ!」
「はっはい・・・」
「まったく・・・お前は識らないでずっと言っていたのか」
「・・・恥じ入るばかりだよ。もっと歴史を勉強しないとな・・・」
「落ち着いたら教えてやる」
「・・・頼む」
財務卿が叱責され項垂れると、隣に座っていた内務卿が小声で話しかける。どうやら友の前では素直な人間なようだ。
「我が臣下がすまぬ。プレーノ殿」
「いえ。では、即刻出立いたします。幸いにもこの別荘は森人族の領地に程近い。今から出れば明日には戻れるかと」
「何から何まで申し訳ない。それと・・・異界召喚の儀を執り行う。やり方は解っているな」
「はい。父上」
聖王から話題を振られた王女は、居住まいを正す。異界召喚の儀・・・王宮の地下で行われるものであったはずだったのだが・・・。
「この地が避難先であるのは、王宮とほぼ同じ機能を有しているからに他ならない。頼むぞ、必ず成功させてくれ」
「はい。陛下」
「よし!そのほかの者は、これからの指針を決める二刻したらまたこの場に集まってくれ」
「「はっ!」」
「では、解散!プレーノ殿。重ね重ねお頼み致す」
「必ずや」
王宮を解放する闘いが始まる────。




