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あるエルフの都市作り  作者: 沙河泉
立太子の儀
129/213

閑話 伝記 ⅱ

「警戒警報を受信!」 

「一体どこからだッ!」


聖王宮内の魔力監視室では、王宮内外の急激な魔力の高まりや減少を監視している。所謂警備室である。その室内でけたたましい警報が鳴り響いた。この聖王宮ができて二度目の事態。経験のない監視員は右往左往しながら、警報を発している部屋の特定に務めた。


「発信元・・・あっ!発見しました!」

「一体どこの部屋だっ!」

「本日参られた使者殿に案内した客室です!」

「よしっ!使者殿に何かあってからは外交問題だ!直ちに付近の警備は急行せよ!」


監視室が異常を発見してから既に半刻が過ぎようとしていた────。


「使者殿!ご無事で・・・なっ!」

「どうした!・・・!?」


扉を開けた警備兵の眼前にいたモノは、人ではない異形のナニカ。


「おいおい!?警備室!応答してくださいッ!警備室!」

『こちら警備室!一体どうした!?』

「使者殿の客室に到着しましたが、室内には異形の怪物しかいません」

『なに!?すっすぐに制圧を!』

「わっ・・・われわれでは手に負えません!警備棒のみ所持のため。至急魔術班と警固班の応援を要請します!」

『わかった!それまでは何とか耐えてくれ』

「はっ!はい!」


1人の警備兵が監視室と小型念波器で報告と指示を仰いでいた間、もう1人の警備兵は異形の怪物がどう動くか神経をすり減らしていたが、意外にも怪物は動きを見せなかった。しかし───。


「エエ。エエ。ヤット報告ガ終ワリマシタカ」

「使者・・・殿?」

「エエ。エエ。ソノ認識デ間違イナイデスヨ。シカシ・・・時間ガ、カカリスギデス。コウシテ会話デキルホドノ理性ヲ保ツコトガドレ程・・・難シイ・・・カ」

「なっなにを・・・」

「イイ・・・デスカ。私タチハ・・・魔王陛下ガ侵攻ヲ認メナイノデ・・・勝手ニ行ウノデス・・・エエ。エエ。独断専行・・・ト言ウワケデス・・・。コノ国ハ・・・今日コノ時ヲモッテ・・・亡国ト・・・ナルノデス」

「何を戯けたことを!警固班を待たずにやってやる!」

「おいっ!待てっ!」

「アァ・・・話シスギテ喉ガ渇イテシマイマシタ・・・」

「うおおおおお!」

「蛮勇トハ・・・貴方1人ノ魔力ヲ以テ・・・完全体トナリマスネ」


一閃。ただ元使者が左腕を一閃しただけで、果敢に挑んだ警備兵が無惨にも切り刻まれてしまった。


「アァ・・・勿体ナイ。コレデハ半分・・・。ソウダ・・・オマエガイタ!オマエノマリョクヲヨコセエエエエェ」

「ひいいぃ!」


魔術班と警固班が駆けつけた時には、室内は既に血の海であった。ただ、不可思議な点が一つ。その血の元である遺体がなかった・・・。駆けつけた4人の兵たちは首をかしげながら、警備室に戻ると、青ざめた顔の警備室長がこう言った・・・。


「王宮内に・・・魔獣が現れた・・・」

「「「「なっ!」」」」

「あいつは・・・念波器を切らずに対峙していたんだ。くっ・・・あいつは・・・生きたまま・・・」


顔は青くとも目を真っ赤に腫らした警備室長。彼は続けざまに、厳戒態勢を敷くよう全ての部署に伝達。それと共に、今、会議を行っている聖王とその一人娘の護衛を第一にと言い渡し、自身は警備室に1人残り皆に指示を出し始めた。




「────以上の箇所が、今回異変の報告があった場所になります」

「血だまりはあるが」

「遺体がない・・・」

「陛下。いかが致しましょう」

「うむ。余が思う「失礼致しますッ!」ん?」

「会議中であるぞ!プレーノ!」


「大変申し訳ありません。ですが、一刻を争う事態です。聖王宮に魔獣が入り込みました!」

「なにっ!?」

「魔王国からの使者殿がその下手人であることが確定しております。現在は、目下捜索中。既に2人喰われております!一刻も早く陛下と皆様は避難を!我々近衛隊が身辺をお守りいたします故!」


「属国民風情が偉そうに!」

「そうだ!警報は鳴っていないではないか!」

「誤報ではないのか?」


口々に文句を言い始める会議の参加者。選民思想が強い者も多く、口々に罵詈雑言を並べる。しかし、プレーノは真剣な眼差しで聖王を見つめ、決断を促す。


「あいわかった。余はプレーノの言うことを信じる。即刻避難だ。脱出経路は?」

「・・・確保完了です。賊は一匹とも限りません。可能な限り遠くへ」

「うむ!皆の者、会議は一度中断。生きて王宮から脱出するのだ!」

「「「はっ!」」」


聖王の号令のもと、小走りで避難を開始。緊急通路には丁度誘導されてきた聖王の一人娘も到着した。


「無事だったか!」

「はい。父・・・いえ。陛下。早く避難を」

「うむ」

「さっ!こちらへ!」


王宮の奥。そこから先に湖へと通じる避難地下道がある。明かりはまだ大丈夫だ。少し安堵しながら、隧道の終端を目指して先を急いだ。




「居たぞ!居たぞ!見つけたっ!一班から五班へ告ぐ!怪物は裏庭だ!幸い避難路からは遠い!急行し、仕留めるのだ!」


警備室では異常な魔力を示す警報が鳴り響く。場所は裏庭。指示を出した室長は、部下たちが抑えられるようにと周辺の部隊を急行させた。

これで安心・・・ではなかった。


『室長!応援を・・・応援を・・・!このままでは!──────』


「おっ!おいっ!どうしたっ!応答せよ!」

『─────』

「くっ!六班から十班も現場へ急行せよ!」

『しっしかしっ!』

「構わん!迎え!」

『はっはいっ!────うわあぁぁぁ!』

「どうし・・・」


その時・・・警報が複数箇所で鳴り響いた。東、西、南。三カ所の門に集合体の魔力を感知したと言う知らせだ。どうやら魔物の集団に襲われているようだ。

王宮には衛士もいる。そう思っていたが・・・。


「なっ・・・」


魔物集団を示す赤い点が増えている。変わりに味方の青い点が急速に減少している。このままでは、門が破られるのも、時間の問題か・・・。


「くっ・・・このままでは・・・」


その時、警備室の扉が静かに開いた。室長が物音に気づき振り向こうとしたその時、有無を言わさず腕を引かれ、外へと出されてしまった。


「なっなにをする!」

「室長・・・いえ、隊長!逃げて・・・ください」

「おまっ・・・片腕が・・・」


室長を隊長と呼んだ男性の右腕は、既に魔物化していた。


「どうやら・・・奴らに噛まれたり傷つけられるとこうなるみたいです。俺は、右腕の楯で攻撃を防いだはずだったんですがね・・・」

「しかし・・・「隊長!」っく」

「生きて、生きてこの真実を陛下に伝えてください!避難路までは、正気をタモッテイル味方でマモッテイマス。だから・・・早ク!」

「くっ・・・申し訳ない・・・申し訳ない・・・」

「貴方と共に仕事がデキタコト。誇りに思ッテイマス!最後ノ任務でス!私たちニ隊長ヲ守ラセ・・・テ・・・クダ・・・サイ!」

「ひっぐぅぅぅぅ・・・。お前たちの思い、確かに受け取ったッ!」


涙を流しながら避難路へ駆けていく室長。王宮内の廊下の交差部は全て魔物になりかけている彼の部下が守っていた。もちろん警固班の人物や魔術班もだ。皆そろって敬礼し彼を送り出す。

彼が避難路に到達し、重厚な扉を閉める・・・。希黒鉄と希白金で作られた扉・・・。王族が逃げる専用の扉だ。生半可な攻撃では通用しない。もう大丈夫かに思えた・・・が、その扉を攻撃する音が絶え間なく続いた。外にはもう正気を保った人間は居ない・・・。そう感じるには十分な衝撃であった。


幸いにも隧道の中はまだ明かりが生きている。隔壁も閉じられていない。電源が消失している可能性はなく逃げてくる者がいるとの判断であったのだろう。室長は、隔壁を閉じながら避難先へと走って向かった。背後に扉を攻撃する音を聞きながら───。

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