土精霊と樹精霊
「これで良しッと。さぁて行きますかねぇ」
スコットは店で何やら準備を行い、先程アルフレッドが伝えたことを実行するべく出かけるのだった。
「やっぱ大変なことになってんな・・・穀物全般が値上がりしていやがる。これもあれ等のせいなのかねぇ」
しかし、街に活気はある。それもそうだ。穀物は値上がりしているが、野菜や肉はそのままなのだから。これから事を起こすであろう者たちの考えがわからない・・・そう思いながら目的地への路を急ぐのであった。
「おっ!見えてきた見えてきた!いつ見ても大きいねぇ。これだけのもんが近くに行かないと見えないってのは、やっぱりすげぇわな」
市場街を抜け公園を通り過ぎ、住宅地を横目に歩いた先には世界樹が。誰かにつけられていては困ったことになる。そう考えたスコットは、あっちへフラフラこっちへフラフラしながら樹への路を歩いていたのだった。
世界樹はこの国の象徴であり、またすべての植物の親である。その巨大過ぎる樹は、幾たびも狙われたために、殆どの人間には、根本付近までその姿が見えぬよう一種の結界が張られている。その存在をどこからでも直視できるのは、王族のみである。ただし、王族と共に来る者や許可を得ている者は、一般よりも早くからその荘厳な姿を知覚することが可能である。そのため、結界外縁部には管理、監視をするために警備兵が配置されている。──古き森人族は、誰もがその存在をどこからでも知覚できていたことを知っている──。しかし、今はどこからでも見ることができない世界樹を森人族が心の中で大切に思い、その恩恵を大いに預かるのは、持ちつ持たれつの側面もあるが・・・。
「何者だ!」
「おう。警備ご苦労さん」
「だから、何者かと聞いているんだ」
スコットは、結界の外縁部の警備兵2人に進むことを阻止された。アルフレッドから預かった紋章を見せれば、すぐにでも通されるのだが・・・。
「俺のことを知らねぇってのは、警備兵として失格なんじゃぁねぇか?」
「!!!・・・失敬。お名前をお伺いしても?」
「ほぅ・・・。左の。自らを抑えるか」
「───お名前を伺っても宜しいか」
「右の。少し高圧的だな・・・まっ落第って感じだな」
「───ッ!」
「何を仰る。名前を伺っているのに、其方が答えない「ああ。ああ。ああ」ッ!我々を愚弄するか」
「そこまでにしていただけるかな。スコット殿」
「おっ!お前さんが居たのかい。ガイアス近衛隊長殿」
「いやぁお久しぶりにございますな。しかし、若者を弄ぶのは・・・」
「なぁに。槍で制止せず名前だけを聞いて、応援要請もせずに、用件をも聞かなかったからな。これで俺が何かを狙って強行突破でもしようものなら、防ぐ手立てはないぞ?」
「はぁ・・・そうでしたか。警備責任者の方には、伝えておきます」
どうやらスコットを止めた2人組は、こちらに配属されて日が浅い若い森人族であった。もっと華々しい現場で働きたい。後ろには何もないのだから、こんな所で何を警備するのか。甚だ疑問に思い、どうやらその鬱憤をスコットに向けたようだ。
まぁ今後、地獄のような日々が2人を待ち受けているのだが、それはまだ知るよしもない。ただ、一介の市民のような男に対し、近衛隊長が敬語で接している。その事実を目の当たりにして、青を通り越し、真っ白な顔をしている2人であった。
「まぁ彼らのことは置いておくとして、こちらに何用ですか?」
「それがな・・・」
ちらっと2人の警備兵を見遣るスコット。話辛いと言うことを察したガイアスは、2人に対し警備に戻るよう伝え、自身はスコットと共に世界樹へと向かっていった。
「察しが良くて助かる」
「なんのなんの。して、御用向きは?」
「それがな、アルに頼まれて樹の様子を見てほしいと」
「なるほど・・・。貴方様がこの地にいらしてから植物は今まで以上の活力を得ました。その力を持つ貴方様を動かすと言うことは・・・」
「まぁそこまで仰々しく考えなくとも良いとは思う。アルからは、魔道具を設置してほしいと頼まれただけだからな」
「なるほど。ですが、殿下が動かれる何かが起きていると言うことではあるのですな」
「だろうな。それもあってこうしてここに来た。彼女に会いにな」
そう言って見上げるは、空高く天まで伸びる世界の樹。スコットはガイアスに少ししたら戻るからお伝え、根元に開いた空間へと入っていった。
「・・・。いらっしゃいませ。スコット。久しぶりですね」
「おう!元気にしていたか?」
「ええ。毎日元気に過ごしております。話の方は大体把握しております」
「そりゃぁ助かる!説明の手間が省けるからな」
「ですが・・・今一度説明を。アル殿の結界内の音は流石に聞こえませんでしたので・・・」
「わかった。土精霊スコットから樹精霊カメリアにお伝えする。アルフレッド殿より賜ったお言葉だ」
「はい。しかと拝聴いたします」
世界樹の中で始まった精霊同士の話し合い。壊すものへの反抗。その準備がこちらでも開始された────。




