探し物
薄暗い路地。大きな3本の影が何かを探している。どうやら彼らは1人の子どもを追いかけていたようだ。
「ちっ・・・どこに行きやがった!」
「此処は隠れる場所が多い。手分けして探すぞ」
「ったくチビ1人に面倒くせぇ」
「「おめぇがへまするからだろ!?」」
「だってよぅ・・・」
「此処で喋ってても埒があかねぇ。おい!3手に分かれるぞ」
「おう」「へいへい・・・」
「・・・・・・」
男達が今の今まで話していた場所に置いてあった大きなゴミ箱の裏に小さな人影があった。周りに気配を悟られぬよう息を潜め、男達が去るのを待っていたようだ。命を賭けた鬼ごっこ。その終焉は近い。
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「ここ・・・だね。件の穀物商は」
アルフレッド達は、店主らから聞き取った卸市場前にある穀物商にたどり着いた。
「なんて言うか・・・凄いね」
プルーナが驚きを隠せないと言ったように呟く。目の前に広がるのは人の山。どの店も閑古鳥が鳴いていたのに、この店だけは人で溢れている。
「どういうこと?」
「さぁ・・・僕にもわからない」
「中に入ってみないと・・・。でも、この状況だと入れそうに無いね」
「如何なさいますか」
「うぅん」
店外も店内も穀物を買い求める客で一杯だ。正直割って入る事ができそうも無い。店の前で佇んでいるのも変に思われるので、移動を開始したその時。
「きょっ今日の分は売り切れですっ!また明日にお越しください!」
外まででてきた店員らしき男が、大きな声で目立つように言い放った。その一言で、店にできていた人だかりは、口々に売り切れか。また明日だな。と言いながら去って行った。
「ん?」
「何か気がかりなことでも?」
「いやっ・・・」
「どうしたのアルくん」
「大丈夫。それよりもあの店員に尋ねてみようか」
店を閉めるにあたり、外の物を片付けている男性。話しかけようと口を開きかけると、男性の方から話を切り出してきた。
「先程は、満員で店に入ることができなかったようで、大変申し訳ありませんでした。如何様なご用件でしょうか。何分、本日は完売しておりまして」
「そうですか・・・。ここなら安く小麦が買えると聞いてきたもので」
「そうですか・・・。坊ちゃんは、何故穀物が入り用なのですか?」
「僕というよりかは、ウチで働く彼女たちの買い物に着いてきただけなんです」
「そうでしたか!いやぁ・・・小さい子どもがおかしいなと思っていたんですよ。そうですかそうですか」
あの人だかりでもアルフレッド達の事が見えていた。剰え疑いもしていた。そのため、アルフレッドは事前に用意していた答えをし、疑いを少しでも晴らすべく話をした。カレンとエレンは慣れているからか泰然とした様子であったものの、プルーナは一瞬身体を硬直させた。しかし、彼女も軍人であるため、動揺をなんとか押しとどめた。慣れた2人は、プルーナが店員の死角になるように動き、背後に彼女の姿を隠しては居たが。
「まぁ今日はこの様な有様ですので、また明日にお越しください」
「・・・残念。それじゃぁ明日は何時から開いているの?」
「明日は8刻から開店しております。ただ、それよりも半刻前から行列ができますので、お早めにお越しくださいませ」
「ありがとう!」
「いえいえ」
『───おぉうい!中も手伝ってくれい!』
「ただいま!それでは皆様。明日のご利用お待ち申し上げております」
店員は中から彼を呼ぶ声に反応し、綺麗な一礼をして店内へ戻ろうとした。
「あっそうだ!店員さん」
「はい?」
「これを」
アルフレッドが店員に手渡したのは、一枚の紙切れ。子どもらしい文字で、『今日はありがとう』と書かれた物だ。それを見た店員は目を細めて、『どうも』お答え、今度こそ店内へと戻っていった。
「アルくん・・・あんなの何処で用意してたの?」
「今書いたよ?」
「店員さんも微笑ましい目で見ていたけど・・・なにか意味でもあったの?」
「ん?特には。感謝の言葉を書いただけさ。幼気な子どもから感謝の手紙。喜ぶかなぁと思ってさ」
「ふぅん・・・。アルくんもそういうことをするんだねぇ」
アルフレッドとプルーナが話している後ろでは、カレンとエレンが小さな声で話していた。
「アル・・・何か確証が有ったんだね。わたしでも微かに感じはしたけど」
「そうですね。私も世界樹の葉の香りを少し強く感じました。アル様が渡したあの紙は魔力紙。しかも御本人が創られた物ですし、位置と声を聞き取ることができる優れ物。並の人物では、そのような機能があるなど解るはずがありません。・・・あれを用いると言うことは、何か裏がありますね」
「うん」
アルフレッドの他にも気がついていたと言う後ろの2人。店員からは穀物の香りがしたが、同時に世界樹の葉特有の香りが微かにしていた。そこでアルフレッドは、特製の魔法紙を使ってどのような状況にあるのかを店員自らに種明かしをしてもらおうと一計を案じたのであった。
勿論。目論見が外れる可能性もあるが、そこはカレンが言った通り、一見すると普通の紙なので、子どもからお礼の手紙をもらった。その程度である。ただ、警備兵でも薬師でも、錬金術師でもない穀物商のいち店員から葉の香りがするのはおかしい。十中八九、黒である確信を持ってアルフレッドは行動を起こしたのであった。
「さぁてと・・・ちょっと予定外だったから。プルーナさんお腹空かない?」
「そういえば・・・何か食べたいかも!」
「よしっ!それじゃぁ「居たぞ!待ちやがれっ!」ん?」
プルーナに次の目的地を伝えようとした矢先、穏やかでは無い声とともに、1人の子どもと3人の大人が前方から走ってきた。どうやら子ども追っているらしい。一瞬、スラムの子どもが無銭飲食か盗みをしたのかと思ったが、子どもの衣服は所々汚れている物の、一般的な衣服そのものであった。
子どもが危ない。そう感じたアルフレッドは、時折後ろを確認しながら走ってくる子どもの手を掴んだ。
「わわっ!離してっ!捕まっちゃうからっ!離してっ」
「大丈夫大丈夫だから!」
「おうおうおう!坊ちゃんありがとうな!そいつを捕まえてくれて」
「おじさん達は?」
「ん?おらぁよぅ。そのガキに服を汚されてな。それで落とし前を付けてもらおうと思って追いかけてきたんだ」
そう話す男の服は、確かに汚れていた。しかし、一朝一夕に着くような汚れでは無く、時間をかけて沈着した汚れのように見えた。
「この子が着けてしまった汚れを落とすには・・・カレン。ありがとう。───このくらいのお金で足りる?」
「あっいやっ・・・坊ちゃん。金じゃねぇんだ」
「───それじゃぁこれくらい?」
アルフレッドがカレンに頼んで出させたのは、この国で一生遊んで暮らせるであろう量の金銭貨であった。しかし男は、子どもの身が欲しいので引き下がらなかった。しかし、もう1人の男は違うようであった。
「兄貴。あんな子どもより、金の方が良くねぇか?」
「馬鹿言え!そうなったら消されるのは俺らだぞ!」
「でもよう・・・」
「此処で金貰って、その金で遠くまで逃げればいいんじゃね?」
「あったまいいなぁ!兄貴!そうしようぜ」
「・・・くっ・・・。どうなっても知らねぇからな!」
3人の男は小声で話し合い、決めたようだ。




