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関所の魔法使い  作者: ブリ
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5月12日(2)

ここマニックス王国では12歳を迎えた全ての子供を国立の魔法学校へ入学させることが義務化されている。

他国との戦争や強力なモンスターとの戦闘において重きを置くべきは剣や斧などを駆使した白兵戦ではなく、

魔導兵団を動員しての遠距離砲撃であるというのが数十年前にこの国の識者たちが出した結論だった。


そもそも魔法を使う能力についてはいまだ明らかになっていないことが多いが、

先天的な部分が大きいのではないかというのが研究者たちの現時点での見解だ。

種がなければ芽が出ないのと同じことで、10年、20年と修行を重ねながら初歩的な魔法すら全く使えない者も多いからだ。


もし種があったとしても水や肥料が無ければ花は咲かない。

"才能"という種に、"教育"という水、"訓練"という肥料を加えた結果として魔法使いが生まれる。

魔法を使えるようになって初めて才能があったと分かるわけだから、まず全ての子供に魔法の教育と訓練をさせる必要があるだろう、という理屈だ。


魔法学校に話を戻そう。

入学してはじめに所属することになるのが下級クラスだ。

この学校は生徒の出来に関わらず入学から4年間で卒業となる。

だが卒業までこの下級クラスのまま…という生徒も少なくない。

というより、入学生徒の約9割ほどがそうなる。

下級クラスの卒業後の進路は様々だ。

白兵戦の訓練を積み騎士団入りを目指す者、職人を志す者、商いの道に進む者。

要するに魔法の道をスッパリ諦めるということだ。


中級および上級クラスの生徒は上澄みの1割となる。

下級クラスはそもそも魔法が全くといいほど使えない生徒なので、

少しでも、そう。例えば"フレイム"を唱えてその場に炎を少しでも発生させられるならば中級クラスに進級することができる。

いわゆる「魔法使い」を称してもウソつきにならないのはこの中級クラスの卒業生からということになる。


…と説明している僕も中級クラスで卒業した人間だ。

入学して2年目の終わり頃、僕は"フレイム"を成功させて中級クラスへの進級が決まった。

同期入学者478人の中で9番目だったらしいから、自分で言うのもなんだが結構優秀な部類だったと思う。


けれど僕はそこからが伸びなかった。

初歩的な魔法はある程度使えるようになったが、それだけだった。

上級クラスへの進級テストを受けることさえなく卒業の日を迎えることとなった。




目が覚める。

体を起こし時計に目をやる。

4時40分。交代時間まであと20分だ。

立ち上がり一つ深呼吸。頬をぱんと手で叩き、部屋を出て広間へ向かった。


「寝てたの?髪がぴょこんと立っているよ」

長い剣を携えた赤髪の女性が入口のドアのところに立っていた。

「ああ、うん…交代の時間まで少し空いたからね。ティアはまた訓練?」

「そうだよー。来月にはいよいよ大会だからね、サボってられないよ」


ティア・レインウォール。

マニックス王国剣術大会の女子部門で3年連続優勝を果たした剣士だ。


…とはいっても、前にも言ったようにこの国では戦力として魔導兵団が大部分を担っており、白兵戦は重視されていない。

いちおう騎士団は存在するが、モンスターや他国軍に対する戦闘要員というよりは、市内での(いさか)いを解決する程度の役割にとどまっている。そしてそもそも入団は男子に限られている。

そんな事情もあり、昨年の剣術大会女子部門は参加総数が10人にも満たなかった。

こんな規模になっても開催が続いているのは、魔導兵団が組織される以前の大昔…つまり騎士団がマニックス王国の主戦力だった時代、女性も騎士団入りを認められていた頃の名残りだそうである。


僕には分からなかった。

騎士団入りが出来るわけでもないのに、ティアが毎日過酷な訓練を続けている理由が。


「うん。ティアなら今年もきっと優勝出来ると思うよ」

でも優勝して、それは何の意味があるの?

そんな言葉はとても言うことは出来なかった。


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