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六十九話 メスガキVTuber

 

『草生えるww!見て見てw皆見てよあれww見るからに初心者の鴨がw黄金ネギ背負ってアピールしてるwww何あれネタなの?w撃っていいのあれ?wまぁ撃つけどwwバンwバァンwwwアハハハハww真っすぐ走ってくるからヘッショ楽勝過ぎてマジで草ぁwww黄金マンだけ残したったわwwう、ぶふっwwあの動きww草不可避wwww』


 簡単に頭を撃ち抜かれて倒れる左右の二人、しばし止まっていたが状況が把握できたのかヨツンヴァイン状態で物陰に隠れようとヨチヨチ動いている。

 一方、一人残された真ん中のキャラは銃声にビックリしたのか一度その場でピョイーンと飛び跳ねると、傍目からでもテンパってるのが分かるような挙動不審な動きをしながら一生懸命にこちらに黄金銃を乱射している。


 ──あれ、俺です。

 生き残ってるの俺です……。

 あぁ、やっぱりあの時のだ…。


『ねぇw今どんな気持ち?wどんな気持ち?w弾一発も当たってないけどだいじょぶそ?wん?止まってあげようか?wwハイw止まったぁwww』


 敵の動きを見切り、アクロバットにキャラを操作して弾丸を避けるこの動き。

 相手が弾を撃ちきり弾込めをしているタイミングで止まって挑発するようにモーションを入れるこの動き。


 あの時だ、あの時のアイツだ、間違いない、アイツだ。


『ぱんちぱぁぁんちwwはい、ざんねーんwあったりませーんwwくさくさのくさぁwはいwかったwかちもうしたww被弾ゼロとかもう草肥えてアマゾンですわwww』


 おちょくるようなこの動き、銃をなおしてパンチだけで戦うこの動き、倒れる三人の前で更に煽るようにモーションを入れるこの動き。

 右上に流れるキルログにはマイキャラネームである『HALto』の文字が流れている。


 あぁ、間違いない…二週間前に、俺を、俺達を一人で返り討ちにしたあのキャラクターがこいつだったのだ。


「あぁ…忘れていたわ、この屈辱、この、怒り…お前だったのか、お前があの……"封印されし者の右TKB(チクビ)@"!!」


 思い出した、今、全部思い出したぞ。


 この『八咫 かがみ』というメスガキVTuberが、あの時のクソTKBだったのだ。


 それまでぬるま湯で戦っていたエンジョイ勢だったこの俺が、ガチ勢沼に片足を突っ込んだ要因でもあるあの一戦。

 思い出したらまた沸々と怒りと屈辱がこみ上げてくる!


『さっきの人達、アレで本気だったのかなぁ?wwそれだったらホント雑魚過ぎるんですけどぉwwwあんなのが味方に着たらと思うとゾッとしますわぁww雑魚はほんとオンラインゲームせずにボッチでお一人様ゲームでもやってろって話ぃwwwん?言い過ぎ?可哀想?wそんなの雑魚の相手させられる私のが可哀想だしぃ?wwそもそも雑魚に人権なんてないから何言っても合法ww悔しかったら私に勝ってみろよ雑魚共wザコザーコwwwアハハハw』


「──あぁ…俺を本気にさせるたぁたいしたもんだよこのクソメスガキ」


 すぐさまMyTubeを落とし、ペペペックスを起動する。


「やってやる、やってやるぞ俺は…。もう、忘れねぇ…この感情を……こいつをわからせる──その時まで!!」


 時刻は既に一時を回っているが、そんなの関係ねぇ。

 この気持ちを少しでも発散させないと眠れる気が全くしなかった。


「うぅ……しかし、あのクソメスガキ…配信でこんなこと言ってたのか。まじで許せねえ、ほんとに許せねぇよ。絶対わからせてやるわ、絶対だ…グス」


 それからの俺は、配信動画でメスガキ『八咫 かがみ』が言っていた事を思い出しては、やる気を奮い立たせてペペペックスの修行に励むのだった──…。



 そして… 


 ちゅんちゅんちゅん 


「──んあ…あれ……」


 小鳥のさえずる鳴き声が俺を優しく覚醒させる。


 …もう朝か、いつのまに寝てたんだ俺。


 体を起こし、大きく伸びをして欠伸を一つ。


「寝落ちしたのか…」


 長時間操作せずに放置したせいでペペペックスは既に落ちてパソコンはスリープモードになっていたが、状況からしてどうやらやってる途中で寝てしまったようだ。


「痛い…」


 触ると頬とおでこと鼻頭に溝のような跡を感じた、どうやらキーボードが食い込んでいたようだ。


「眩しい…」


 中々強い日差しがカーテンごしに部屋を明るく照らしている、どうやら太陽も中々に昇ってるようだ。


「──────…………え゛」


 そしてその事実に気付いた俺は、跳ねるように壁掛け時計へと顔を向けた。


「…………」


 一度視線を外し、再度向ける。


「…………」


 今度は顔ごと背け、一度眉間を揉んだ後、チラッとだけ時計を見た。


「……ハッハーン」


 俺ぐらいの男になると、もうこの段階で重要な事実には気付いてしまうのだよ。


「さては──遅刻だね?」


 指をパチンと鳴らして時計に問いかける。

 それに答える様に、時計の短針はカタリと動き、10の数字を綺麗に指した。


 三日連続遅刻確定だドン!



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