六十八話 夜更かし
ふぅ、これは疲れる、マジで疲れる。
世間一般の人達は皆こんなやり取りを四六時中やっているのだろうか、何て恐ろしい世の中なんだ。
スマホなんて俺の周りが誰も持っていなかったこともあって中学まではあまり必要性を感じず、親にスマホかPCかの二択を迫られてPCを選んじゃった俺だ。
友達がスマホでやり取りしているのを見て、たまに羨ましくなる事もありはしたが、交友関係も然程広くなかった俺はどうしても欲しいとまでは思えなかった。
だからこそ、買ってもらってもそこまで執着する事なく有効活用出来ていなかった訳だが、同じ持っていなかった勢の二人、恋雪と円がここまで面倒くさ───チャットが好きだとは思ってもみなかった。
こうもやり取りが多いとその分時間を取られるし、正直面倒くさ───返事をするのが億劫ではある。
だがしなければしないで、更に面倒くさ──俺以外の友達が殆どいない二人が可哀想ではあるのだ。
どうしたものかと悩んでみたものの、取りあえずの方針は基本未読スルーでいこうと思う、面倒くさいし──俺、忙しいし。
この高校生活でなるはやで新しい友達作ってもろて、そっちとのチャットに勤しんでくれるのを期待するばかりだ。
…望みは薄そうだけども。
その後、取りあえずお腹が空いて仕方がないので一階に降りてキッチンへ。
既に灯りも点いておらず、皆各々の部屋へ戻っているようだ。
電気を点けると、食卓の上にはラップがしてある肉と野菜の炒め物、それと残り飯で握ったであろうお握りが二つ皿に乗っていた。
「いただきまする」温めるのも面倒くさいので、ラップを剥がしてそのままいただく。
おにぎりも冷めてるし、肉野菜炒めも少し油が固まっている感はあるが無問題。
ペロリと平らげると、麦茶を注いで一気飲み、皿とコップは軽く水洗いして食洗器へと突っ込んでおいた。
そのまま黙って二階に戻ろうとしていると、一階の両親の部屋の扉が少し開いており、そこからこちらを覗く六つの瞳が闇夜に浮かんでいた。
上から晴彦、桜子、ハナちゃんである。
「もう大丈夫なのか?」
珍しくとぉちゃんが最初に口を開く。
「うん」と短く返すと、次にかぁちゃんが口を開いた。
「ご飯もちゃんと食べれたようだし、問題なさそうね。それより、あの子、マドカちゃんでしょ?久しぶりにみたけど綺麗になってたわねぁ。身長も見上げるぐらいおっきくなってたし。最初あなたをお姫様抱っこして現われた時は何事かと思ったわよ。確か最初にマドカちゃん──「サクラさん…」──あらやだ、うふふ」
マシンガンのように一気に放たれる言葉、いつもの如く脱線して話が長くなろうしていたところでとぉちゃんのファインセーブが入った。
ナイスとぉちゃん、いい仕事してるぜ。
そしてふと下を見やれば、扉の隙間から一生懸命出てこようとしているハナちゃんが、とぉちゃんの両足に挟まれて動きを封じられていた、こちらもナイスセーブ。
このまま居てもかぁちゃんに面倒くさいこと根掘り葉掘り聞かれそうなのでハナちゃんを一撫でした後「ごっそさん、おやすみ~」とそそくさとその場を後にした。
後ろからもおやすみ、わんわんと聞こえてくる。何事もなく無事脱出には成功したようだ。
二階に上がり、春香の部屋の扉の隙間から深淵が覗いていたが、俺と目が合うとパタンと扉が閉まった。
エンジェル春香も心配してくれていたのだろう、きっと。
部屋に戻り、今日の分のデイリーミッションの残りを終わらせる、目指せインテリの分だ。
それが終わったのは丁度零時頃。
寝るにはまだ少し早い、思春期男子の夜はまだまだ始まったばかりだぜ。
何しようかと思考を巡らせていると、風呂に入っていない事に気付いたがこの時間から入るのもあれなので朝一番でシャワー浴びることに。
早々に風呂に入る選択肢を除外し、あれこれ考えてはいたが結局は『MyTube』(世界最大の動画投稿サイト)で動画見るいつもの流れに落ち着くこととなった。
勉強机とセットで買った普通の椅子に座り、デスクトップタイプのパソコンを起動。
モニターアームに固定されたディスプレイを眼前に持ってきて、キーボードとマウスを引き寄せてヘッドセットを装着すれば準備完了だ。
何時もの如くおすすめ動画を適当に流し見していると、とあるVtuberの過去のアーカイブ動画が目に留まる。
画面右下に小生意気そうな女の子の絵が動いていて、画面中央では俺もよくやっているペペペックスのプレイ動画が流れている。
よくあるゲーム配信の動画ではあるのだが、この動画に目が留まったのには理由があった。
「あれ、こいつの使ってるスキン…」
普段プレイしていても全くお目にかかることがない、何かの限定なのだろう珍しいキャラクタースキン。
だが俺はその珍しいスキンをここ最近どこかで見た覚えがあったのだ。
「あれ、いつだったかなぁ…」
何やら小憎らしい発言を繰り返しているVtuberの発言を聞き流しながらぼーっと動画を眺める。
「なんでこんなに気になってるんだろ俺。珍しいスキンってぐらいで別に……どうでもいいk───あっ」
思い出せないので諦めて他の動画に変えようとしていたその時、プレイ動画がある場面に差し掛かり、俺はあるものに目を奪われた。
前方から武器を構えたまま真っすぐに走ってくる素人感丸出しのデフォルトスキンの三人衆。
それぐらいなら別段珍しい光景ではないのかもしれないが、その真ん中のキャラが持っている武器だけが異様に光り輝いて主張していたのだ。
あれはゲーム内ガチャで0,1%でしか排出されないアルティメットレジェンドスキン、その中でも更に一際目立つ外観のせいで叩かれまくって"光り輝くゴミ"とまで称された逸品だ。
黄金に輝き、黄金のオーラを発する自己主張の激しいそのスキンは、遠くからでもその存在がすぐに把握できちゃうため、チームメイトにも迷惑がかかるとのことで誰も使わず、試合では全くお目にかかれない代物らしいのだ。
そして、俺はあのキャラ、あのデフォルトスキン、そしてあのレジェンドスキンの組み合わせに身に覚えがあった、凄いあった。
「……十中八九、俺じゃん」
俺のお気に入りの髭の生えたおじさんキャラ、キャラスキンこそまだ当たってなくてデフォルトだが、あの武器スキンは無料ガチャで奇跡的に当たったのが嬉しくて、自慢したくてずっと付けているやつだった。
横の二人も見覚えあるし、何ならこの場面にも身に覚えがあった。
だからあれは、たぶん、俺だ。
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