五十三話 登校日初日!
久しぶりの投稿になりました。
仕事が忙しくて時間があまり取れず、ちょこちょこ執筆していたのがやっと纏まりました。
長くなってしまいましたが、キリがいいので纏めて出します。
カーテンを開けると清々しい青空が視界一杯に広がる。
雲ひとつない青空には既に太陽は登り始めており、嫌が応にも既に一日が始まっているのだと認識させられる。
窓を開けると少し冷たい風が頬を撫で、鳥のさえずりや近所の奥様方の話し声が聞こえてくる。
あぁ、今日もイイ朝だ。
昨日と何ら変わりない、至って普通の朝だ。
ただ昨日までと違うのは、今日から俺の青春──もとい高校生活が始まるって事。
新しい生活が始まるにはうってつけのイイ朝だよね!
そして俺は本日八度目となる、時計へと目を向ける。
八時五十七分………
うん、完全に遅刻だね。ニッコリ
やはり、何度確認しても時間はもうすぐ九時になろうとしている。
時計も、スマホも、なんなら117(前日偶然発見した時報サービス)にも掛けてみたが、結果は変わらなかったのだ。
ふぅ、イイ朝だね、何度見ても、イイ朝だ。
窓枠から遠くの空を眺めながら、すでに諦めの境地である。
確かに昨日はとぉちゃんかぁちゃんに、根掘り葉掘り聞かれた後、飯作って食って、日課の勉強と筋トレして、夜中の二時までゲームをした後、いつも通り(春休み感覚)で寝ちゃってたわけ。
アラームとか付けた記憶ないしそりゃ寝坊しますわマジでワロス。
空を飛ぶ鳥を眺めながら、色んな言い訳を考えるが、流石に何も思い浮かばない。
今更病欠なんて電話をするには遅過ぎて嘘バレバレの時間だし、だからといって無断で休んだら学校から連絡来ちゃうだろうし。
つか昨日の今日で、学校に行かない訳にもいかないわけだ。
俺は一つ深い溜息をつくと、昨日脱ぎっぱだった真新しい制服を着て、今日何の授業もあるか知らないので全ての教科書類を速攻で詰めた学校指定の鞄を肩にかける。
巷ではお洒落で人気の鞄が、自爆でもしそうな勢いで膨らんでいるがそこは仕方がない事だろう。
取り敢えず一階に降りると先ずは洗面所に向かい、洗顔、歯磨き、髪のセットというなの寝癖直しを軽く済ませて台所へと顔を出す。
台所では既にかぁちゃんである桜子が鼻歌を奏でながら皿洗いをしている。
とぉちゃんは既に仕事、春香も中学の始業式で早めに登校しているようだ。
「かぁちゃん、なんで起こしてくれなかったん?」
「はぁ!?ハルト、あんたその格好!今日からもう学校だった訳!?それならそうと昨日のうちに言いなさいよ!起きてこないからてっきり──ってもうこんな時間!?完全に遅刻じゃない!!あんた昨日に続いて今日も遅刻するなんて!!!」
俺が責任の所在を桜子に擦り付けようと何気無しに一言いうと、瞬間桜子の顔が百八十度ぐるりと周り般若の形相で怒涛の口撃が返ってきた。
恐っ!え、身体はしっかり皿洗いしながら顔だけこっち向いて怒ってるとか、妖怪かよ!?流石にそれは萌えないぃぃいい!!た、退却ー!!
「あ、どこ行くのよ!?話はまだ───」
朝飯でも食べようとテーブルに着いていたが、このままではメンタルブレイク起こして学校どころではなくなっちゃうと、すぐさま鞄を手に取り脱兎の如く登校である。
ふぅ、危なかった、薮蛇ったわ。
つか、普通入学式の次の日は学校あるってわかるやろ常識、桜子天然かっ!……天然だったわ、まぁロリだしな、なら仕方ないわ。
尚、自分の事は完全に棚上げである。
一人納得しながら玄関でそそくさと真新しいローファーを履いて、台所に居た時から一生懸命構ってアピールしながら着いて来た愛犬ハナちゃんを一モフりした後、ハナちゃんが外に出ないよう注意して玄関から出る。
まだ少し肌寒い気温に、カラッとした陽光、何か知らんが花か植物の匂いが鼻に届く。
うん、本当にイイ朝、イイ小春日和だ。
心地よい天気に気分も上々、車等に注意しつつも足早に門から飛び出した。
いつもの場所で井戸端会議中の奥様方──もといお姉様方に元気よく挨拶をする。
「おはようございますお姉様方!イイ朝ですね!」
背中にお姉様方の熱い声援を受けながら、颯爽と学校へ向かう。
「あ、トシコばあちゃん、ゴミ出し?ついでに持っていってやるよ!──全然大丈夫!ついでついで!」
一人で四袋もゴミ袋を運んでいる近所に住むおばあちゃんからゴミ袋を受け取ると、通学路の途中、数十メートル先にあるゴミ置場にささっと置いていく。
「おっ?っと、ほっ、よっ──ナイスキャッチ!」
突如吹き通る春一番、その巻き上げるような風に帽子を飛ばされる園児程の女の子。
手を繋いでいたお母さんが空いた手を伸ばして掴もうとして失敗する姿が見えた。
しかし丁度自身の方にふわふわと飛んで来たリボンの着いた黄色い帽子を、跳躍し、更にコンクリートの塀を蹴り、手を伸ばしてギリギリキャッチ。
軽やかに着地を決めた俺は、周りで見てた人達の"おぉぉ"という拍手に軽く反応を返しながら走って件の親子の所まで行くと女の子の頭に帽子を返却。
「風さんがまたイタズラしてくるかもやから、今度は飛ばされないように抑えときーよ?」
ぽやーとこちらを見詰める幼子にそう笑いかけ、何度も頭を下げてお礼を言ってくるお母さんには、大した事じゃないのでーと簡単に受け流して、ささっと登校を再開する。
いつもの様に善行を重ねつつの登校に、チラッとスマホの画面に目をやる。
「あー、やっぱ時間掛かるなぁ…。これは明日から登校時間早めないとやなぁ」
時刻は既に二時限目に突入しているだろう時間になっていた。
春休み期間中の習慣でついつい人助けをしてしまうようになった自分、なのにそんな自分は現在遅刻真っ最中なのである。
「ははっ!マジで何やってるんだろな俺!あはははは!」
そう笑いながら走る俺に訝しげな視線を投げかけてくる知らない通行人達を後目に、俺はその後も気にすること無く人助けをしては笑いながら学校を目指した。
中学生以前の俺はこんなに困ってる人が居るなんて気付きもしていなかった。
いや、気付いていてもそもそも助けるなんて思考が俺にはなかったのかもしれない。
ステータスウインドウを手に入れてから初め出した善行。
それも完全な善意ではなく、デイリークエストをこなす為に始めた善行だ。
言ってしまえば、自分の得になるから始めたのだ。
情けは人の為ならずとは言うけど、それは善意でだって変わらないと思うし、デイリークエストがあるなら尚更で人の為ならず自分の為である。
なのに今はどうだ、遅刻タイム延長してまで人助けをしてしまう身体になってしまっている。
昨日とは違う、完全に説教確定コース、先生と桜子とのダブルでドンだ。
これ以上の人助けに割く時間は、遅刻という罪を重ねる行為。
デイリーの善行の項目も消化し終わっている今、これ以上の人助けは完全に損でしかない。
(それは分かってるんだけど、俺はもう昔の自分には戻れないみたいだ。困ってる人を見て見ぬふりして通り過ぎるなんて、もう今の自分には耐え切れない)
そんな自分の損な変化を認識して苦笑いを浮かべつつ、学校は既に目前にあるにもかかわらず、視界の隅で困っている人を見つけて駆け寄っていく自分の姿を満更でもないとまた笑うのであった。
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