四十話 内緒の行為
お久しぶりの投稿です。
仕事が立て込んでまして、まだまだ不定期の投稿になりそうです。
よければ執筆意欲が湧くように応援よろしくお願いします。
「リコちゃん…?」
「ひぅっ」
やはり先程の人影はリコちゃんだった。
わかりやすいほどビクッと跳ねたリコちゃんは、おっかなびっくりといった様子でゆっくりとこちらへ向き直る。
そして俺と目が合うと安心したような表情をした後、いたずらがばれたようなハッとした表情を浮かべ、そーっと顔を逸らした。
その後ろの壁には最初の頃にはなかった、新しい手紙が数通追加で不器用に貼られている。
リコちゃんの目的は明らかにこれだろう。
「こんなところで何してるのかな?」
「えぇっとぉ…」
「他の人は?もしかしてリコちゃん一人?」
「えとえとぉ……」
「まぁ大体予想はつくよ。………手紙、でしょ?」
「う……うん」
目が右往左往とせわしない。
本人もいけないことをしている自覚はあったようだ。
手紙を貼ることが問題ではない、こんな時間に、一人で、こそこそとやっていた事が問題なのだ。
「日田さん…陽子さんや光さんは、このことは…?」
「ぅぅ……しらない…」
「皆が起きてくる前に抜け出して一人で?」
「……うん」
やはり、皆に黙ってやっていた。
あの日俺が気絶している間にあった何かの話し合い、それと関係してるのかはわからないが、この行為はリコちゃんにとって周りの人に知られてはいけない行為だったのだろう。
微かに震えている、しょんぼりオーラも半端ない。
俺に怒られると思ってるのだろうか、流石にこのままでは可哀想だ。
「怒ってないよ」
「ほ、ほんと?」
「うん、ほんと。でも心配はしてるよ」
「ごめんなさい」
物分かりがよくて本当に賢い子だ。
日田さん達いわく、リコちゃんはもっと小さい頃から育児放棄されており、幼稚園とかに通ってた形跡もないそうだ。
だから同い年の子達に比べて言葉もたどたどしくて、この年で習ってるであろう知識もないらしい。
だが賢い、と。色々辛い経験を積んだ分、空気を読み、感情を読み、気を遣うと。
こんな小さな子がそんなことを考えながら生きていかなきゃいけなかった環境にはほんと反吐が出る。
だが過去を悔やんでも仕方ない、この子にはこれからを謳歌してもらいたい。
だから俺はリコちゃんをうんと甘やかす、リコちゃんが幸せな人生を歩めるように。
そしてできるだけ彼女の意思を尊重していきたいと決めている。
「お母さんへの手紙?」
「うん…」
「そか、お母さんも喜ぶと思うよ」
「…ほんと?」
「うん。でもその為にも心配はかけないようにしないといけないね」
「あぅ……ごめんなさい」
「それじゃ、今度からお兄ちゃんと一緒に手紙をもってこよう?それなら陽子さん達にも怒られないしね」
「…いいの?怒られない?」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんに任せなさい」
「うぅぅぅぅ……ハルにぃ!ありがとぉ!」
こうして、手紙を書いたら一緒に持っていくという事と、もう一人で抜け出したりしない事をしっかりと約束して、リコちゃんはこっそりお日様の家に送り届けた。
後日、折を見て日田さん達にはちゃんと伝えるつもりだ。
リコちゃんを送り届け一息つく俺。
しかしそんな余裕ぶってる俺に、次なる問題が浮上していた。
それは入学式──
あんなに余裕のあった登校時間も、今では走ってようやく間に合うかという切羽詰まった時刻になっていたのだ。




