三話 出ちゃう
おはよう。
って、時計を見れば時刻は既に正午を少し回った時間帯、四度寝からの起床である。ビバ休日。
多量の睡眠により眠気はなし。
意識はハッキリとしており、腕を抓ってみてもしっかりと痛みを感じる、夢ではない、正に現実、リアルである。
と、言うことで…。
(ステータスオープン)
ヴンッ、と景気良く現れる半透明の板。
不貞寝する前と何一つ変わらないステータスウインドウである。
「やっぱり出ちゃうんだよなぁ…」
これはもう現実として受け入れるしかないだろう。
と、眼前に浮かぶ板に溜め息を吐きながら、ステータスクローズと念じる。
瞬間にちゃんと消える半透明の板、実にお利口さんである。
「だからって何だって話だよなぁ」
ただ出せるだけ、ただ消えるだけ、それだけなのだ。
ほんと無意味である。
こんなん出し入れできるとか他に言っても、ただ頭が可笑しくなったと思われるだけである。
デメリットしかない能力だ。
「どうするべ」
いや、悩んだ所でどうしようも無いことは分かっている。
「出ちゃうもんは仕方ない、だって出ちゃうんだもん」
そう、出ちゃうんだから仕方ないのだ。
これはもう生理現象だ、おしっこと一緒。
出なくてもいいけど出てきちゃう煩わしいやつ。
だから俺は早々にこの能力を忘れる事にした。
だって何も起きねーし。
「ご飯たーべよ、何かあるかな~」
普段生活していてステータスオープンとか考える事もほぼないやろうしね~。
とか考えながら眼前に出現するステータスウインドウを華麗にスルーし、ステータスクローズと唱える。
「今のは悪い例だな、考えることを考えないようにしないと…」
何とも難しい、哲学的なお話だ、意外と厄介だぞステータスウインドウ。
思春期という多感な時期にまた一つ厄介な悩みが出来ちゃったぜ、とかどうでもいい事を考えながら二階の階段を軽快に降りて行く。
あ、因みに家は築三年の洋風二階建ての何処にでもある普通の一軒家だ。
ここはうちのとぉちゃん──晴彦35歳が頑張って働いてローンで建てた大切なお城。
そこには日中バイトしながらも家事をこなすかぁちゃん─桜子(年齢不詳)と、中学に通う俺の一歳下の妹─春香、そして俺こと─春斗とペットのトイプードルのハナ(雌)が比較的仲良く暮らしている。
誰に紹介しとんねんと自己セルフツッコミしながら台所に到着。
そこには俺の胸ぐらいまでしか身長がない幼女が一人、鼻歌を歌いながら踏み台の上に乗って懸命に皿洗いをしていた。
「お手伝いか、偉いぞ~、桜子」
そう言いながら慣れた手つきで頭を撫でる、母親の。
え?この幼女が母親だって?
ソウナンデス。この幼女、実は俺のかぁちゃんなんです。
「ふぇ?あ!?こらっ!ハルト!またママを呼び捨てにして!ナデナデしない!ちゃんとママと呼んで敬いなさい!何、その慈愛に満ちた顔は!?それが母親に向ける態度なの!?こ、こら、ナデナデするなっ!がるるるるる」
と、皿洗いを続けながらも顔だけ振り向いて俺を怒鳴りつけるかぁちゃん、迫力ゼロ。
今にも噛み付いてきそうなほど歯むき出しにして猛犬のごとく唸ってるけど、うちのかぁちゃん可愛いんです。
かぁちゃんの手が離せないのをいい事に満足するまで唸る小型犬を満喫した俺は、既に配膳されている食卓へと移動する。
「お、ういんなーういんなーおむれつれたすとめいととめいと~」
朝昼兼用ブランチメニューに視線を向け俺は舌なめずりしながら、バターロールを袋から二個取り出し自分の席へと向かう。
見た感じ少し冷めてる感は否めないが十分美味しそうである。
うちのかぁちゃんああ見えて料理上手なんです!
「いただきまっす」