二十話 青春への第一歩
「いやまぢで女神様も女神様だよ。チート授ける時になんで起こしてくれなかったんかな?確かに俺はイケメンではないかもしれない!だけど、こう、キリッとした顔ぐらいは出来るんよ。寝顔よりはだいぶマシなはずなんよ。魔王倒したかったとか異世界見たかったとかそういうわけじゃないんだけどさ。流石に知らない内に返品は、プライドが傷つくっていうかねぇ?まあ面と向かってチェンジとかいわれるのはもっと嫌なんだけどさ。ねえ?話ちゃんと聞いてる、しげじぃ?」
「ふがふが」
「あー、また入れ歯外してるんか」
俺は今床屋さんにきている。
家の近所にある店で80歳オーバーというご高齢の通称しげじぃが営むお店『バーバー茂&梅』だ。
しげじぃは耳が遠いから話がちゃんと聞こえてるのかわからんし、そもそも入れ歯してないと何言ってるかもわからないから会話も成立しない。
ただ昔からここに通ってて結構な付き合いにはなるから何となくしげじぃの感情というか、言いたいことはわかる。
たぶん何言ってるんだこいつとか思ってそうな感じだ。
いや、わかるよ?
俺もこんな事話されてもまずはそいつの頭を疑うし。
そうじゃなきゃ妄想は頭の中だけで納めとけよと助言してると思うわ。
だが愚痴らずにはいられない!
「そもそも顔が趣味に合わないってなんやねん、顔のことは気にせずってなんやねん。逆にむっちゃ気になるっつーの!そんなんで残りの人生楽しめるかって話だ。顔はディスられるし、かぁちゃんには怒られるし、楽しみにしてたステーキ肉も没収されちゃうし、ほんと踏んだり蹴ったりだよ」
だから俺は決めた、グレる、超グレてやると。
なぜなら不良は多少顔が悪くても雰囲気でモテるからだ(偏見)
「ふが、ふごふご」
「お?終わった?髪洗う?おっけー」
そして俺はその第一歩として、しげじぃの床屋で髪を染めてる真っ最中というわけだ、金髪に!
中学の頃のやつらに高校デビューと言われようが知ったことではない。
桜子達に色々言われるだろうが知ったことではない。
俺は俺の道を行く、人生を楽しんでやるんだ!
そうこう考えてるうちに髪も洗い終わり、現在は絶賛ドライ中である。
「お、おぉ、我ながら引くくらい見事な金髪……でも思ってたより髪も傷んでないというか、むしろサラサラ?染料の技術も進歩してるって事か」
正面にある大鏡で出来栄えを確認する。
髪を掻きあげたり、ポーズをとったりしながら色々な角度から観察するが、正直中々いい具合に金髪が似合ってるんじゃないだろうか。元々髪自体はそんなに長くなく、耳に少しかかる程度で前髪も眉上くらい。
今は乾かしてるだけだから無造作に所々跳ねたりしているが、まぁそこも見方を変えればお洒落に見える。いや、これはもう、オッシャンティだぜ!フゥーッ!!
落ち着きのない俺はしげじぃにうざそうな目で見られながら再度椅子に座らされ、顔の剃りや最終調整を施される。
そして終わった合図で肩をポンっと叩かれる。
「しげじぃ、センキュー!お金はここに置いとくよ!」
「まいどあり。あまり母ちゃん困らせるんじゃねぇぞぉ」
「しゃべれるんかい!?入れ歯あるやん!」
しげじぃのやつ返事が面倒でしゃべれない振りしてやがった、なんてやつだ。
だが、今日のところはまぁいい。
今日は記念すべき日なのだ、こんな小事に構ってる場合ではない。
これが俺の青春への第一歩になる。
ここからが俺のモテ道なのだ!
そう希望を胸に、俺はしげじぃの店から一歩を踏み出した。
「あ、ハルト、こんなところで奇ぐ──かっこy──んんっ、いや、何よその髪、全然似合ってないわよあんた」
ズーン……。




