十四話 最高のカレー
現在時刻は午後三時、晩御飯まで後約四時間程だ。
カレーは煮込めば煮込むほど美味しくなるのが世界の理。
時間はあればある程良い、だから善は急げとばかりに部屋を飛び出た。
妹様の部屋を横切る際扉が少し開いており、深淵から覗く双眼がこちらをジッとガン見していたが気付かないふりをする。
お、俺はもう何も持ってないからな!?
妹様の視線から逃げる様にいそいそと一階へ下り台所へ。
手を洗い、早速調理に取り掛かる。
料理スキルの腕の見せ所だ。
───ちーん
料理の描写は割愛だ!
簡単に言えば、調理技術補正で手際良く完璧に切り揃えた野菜を、調理知識に基づいて完璧に下処理した後に調理し、調理センス補正の味加減で隠し味諸々の味を整えて、完璧な火加減で終始焦がさず、完成させた、と。
そんな簡単な話だ。
まぁ自分で言うのもなんだが、完璧なカレーが出来上がった事をここに報告しておく。
いやぁ、料理って奥が深いね。
カレーってルー入れるだけじゃないんよ。
辛味と苦味と酸味と旨味と風味の調和?
カレーにあんなに色々隠し味入れたの初めてだ。
チョコとかヨーグルトはその為に買ってきたんだが、ビールとか味噌とかマスタードとかローリエとか何かもう色々入れてたわ(他人事)
これを素人がすると失敗しちゃうんだろうけど、流石料理スキル。完璧な仕上がりに味見した時はビックリしちゃったぜ。
そして気付いた時にはもう既に夜の七時。
んで、後ろを振り返ればいつの間にか家族総出で食卓に座って俺を見てるわけよ。
「え、いつの間に…?」
「ハルトが自分から料理してるなんて珍しい事もあるもんだと見てたんだけど、いつの間にそんなに料理の手際良くなっちゃったの?」
「腹 減った」
「いい匂い」
因みによく喋るのはうちのかぁちゃん桜子で、後に続くのは無口なとぉちゃんと妹の春香である。
俺はどっちかと言うと顔と中身は母親似と言われ、妹は顔と中身が父親似である。
ここでとぉちゃんの説明いっとくか。
現在35歳、切れ長の瞳に眼鏡をかけ、最近オールバックの髪型が良く似合う様になってきた渋面のイケオジ。体格は意外とガッチリしていて身長も180程ある。
こんなちょい強面の男がかぁちゃんのような幼女とラブラブしてるんだから、絵面は完全に犯罪である。
仕事は何をしているかはあまり話してくれないが、会社勤めとかなんとか。
まぁこの歳で一軒家を建てれるんだから相当頑張っているんだろう。
それで話は戻るが、カレーは完成していて、皆はもう食卓。
早く食べさせろとばかりに各々スプーンを持ってらっしゃる。
ふふふ、お待ちなさい。
今さっきの『ちーん』はご飯が炊き上がった音(実際は何か変な音楽がなっていた)だ、決して電子レンジではない。
まだ古い米が残っては居たが、我慢できなかったので今日買ってきた良いコメを炊いておいたのだよ。因みに俺はカレーには少し固めに炊いた米がジャスティスだと思ってる。
皆の皿に炊きたてのご飯をよそい、それにとろりと煮込まれた最高のカレーをかける。
福神漬けとらっきょは買い置きがあるので、それも出しておく。
ふふふ、我慢できないのかい?
おーけー、皆の分の準備は出来た。
それではお手手を合わせて──
「「いただきます」」
「「ん」」
ちゃんと声に出して言いなさいよ、全く。
まぁいつもの事なので軽くスルーしておく。
さてさて、実食実食。
ご飯とカレーを半々に掬ったスプーンを冷ますように息を二吹き、程よく熱々のままのそれを一口でパクリといただく。
うーまーいーぞぉー!!
語彙力皆無で食レポなんて出来ないが、文句無しに美味い。
普通に作ったカレーとは旨みもコクも段違いだ。
自画自賛になるが、最高の家カレーと言っても過言ではないだろう。
現に家族の様子を見てみると皆一心不乱にカレーをかき込んでいる。
とぉちゃんと春香は顔は無表情なのに凄い勢いで食べてるし、普段は口煩いかぁちゃんも今日は無言で食べている。
俺はそんな様子を少し嬉しく見詰めながら、自分の分のカレーを食べ進めた。




