九話 恩恵
あるぇ?
もっとムクムクムクっ的なやつを期待していたのに、外見的な変化や違和感は一切ない。
顔や体を触っても筋肉が膨張してたり引き締まってるような感覚もない。
むむむ、まぁいい。よくあるご都合主義なパワーアップなんだろう。残念ではあるが、マッチョは一次保留だ。
それよりステータスウインドウが俺の妄想でない限りは、ポイントを振ったことにより力が上がっている筈だ。
俺は手をワキワキさせながら、今一度米袋に手を掛けた。
行くぞ──
「そぉぉおおい!」
──お、おおおぉぉおぉおおお!!
ひゃっほぉぉおおおおい!
先程とは打って変わって、比較的楽に持ちあがる10kgの米袋。
肩手に担いでわっしょいも楽勝だ。
これは勝った、人生勝ちもうした!
これでステータスボードの信憑性と有用性が証明された訳だ。
もう人生勝ち組確定、天下無双状態である。
まぁステータスボードが一生使えるのかは定かではないが、使えるうちは存分に有効活用させてもらおう!
ヤッタ!ヤッタ!チートだ、チート!
そんな頭お花畑状態の俺は米袋を肩に担いで一人でお祭り騒ぎだった訳だが、まぁ忘れてたわな。ここがお外で、更にはスーパー内だって事。
知らない内に遠巻きにおばちゃん達にガン見されており、更には俺の背後に人影が近付いていた事に全く気付いてはいなかった。
ヤッタ!ヤッタ──とんとん。
不意に肩を叩かれ、一瞬で現実に引き戻される俺。
やば、浮かれ過ぎてたわ。
恐る恐る振り返ると、そこには少女が一人、俺の肩に手を置いて額に青筋を立ててニッコリと微笑んでいた。
「ハルト、話は事務所で聞くから。まずは移動するよ、いいね?」
俺をハルト呼びするこの女。
猫の様なアーモンド型の大きな瞳に人好きのする愛嬌のある笑顔(今は青筋浮かんでるし、普通に恐いけど)、長めの黒髪をポニーテールにし、小麦色のスラリとした体躯はいかにも活発そうな印象。今はエプロンに身を包んでいて家庭的にも見えなくはないが、家事は壊滅的だと聞いてる。
見た目通り陸上部所属のこの女は、見た目もさることながら性格から名前まで暑苦しい盛熱家の末の娘──
「げげげ!盛熱夏海!?」
「人の顔見てなんでげげげや!それになんでフルネーム呼びやねん!ほら!ここ目立ってるから事務所行くよ!」
「お、俺は無実だー!」
「言い訳は署で聞きます」
あ、アッー!
カートの中にお肉とかバターとか悪くなりやすいのが入ってるんですぅ!
帰らせてくだせぇ!
「・・・」
俺の言葉なんて聞く耳なし、この細身のどこにこんな力があるのかは分からないが、容赦なしに引き摺っていく。
俺、まだ米袋抱えてるんやけども…?
重くない…?
「・・・」
俺の言葉なんて聞く耳なし、俺はおばちゃん達の訝しげな視線に晒されながら事務所への裏口へと吸い込まれていくのであった。
「・・・ゴリラ」(ボソッ)
ゴンッ!!
「誰がゴリラや!!」
聞こえてるやん!?
振り返りざまの流れる様な拳骨、普通に痛いです。
次はVitでも上げてみるかと決心する俺だったまる。
ご愛読ありがとうございます!
筆者のもう1つの作品。
ニートなおっさん三人がゾンビパンデミックな世界でどたばたサバイバルする【⠀NEETorDEAD 】も、良ければ読んでいただけたら幸いです!其方は既に10万文字超えてるので読み応えもあると思います。
どうか応援よろしくお願いします!




