第74話 通せんぼ
<戦いの技式>
第74話 通せんぼ
-駐車場-
「空見先生…これって一体何が起きてるんですか…!?」
「詳しい説明は後よ…! 直ぐに駐車場に向かってバスに乗り込みなさい…!」
穂岬が異能犯の対応の為に出払った広場では、他の教師たちが続々と戻って来る生徒の対応に追われていた。
生徒たちは生徒たちで、逃げ惑う人混みに揉まれて中々バスが駐車している場所に辿り着けずにいた。
駐車場でも、出ようとする車のせめぎ合いが起きており、そのせいで生徒を乗せたバスも駐車場を抜けられずにいた。
「まったく…埒が明かないわ…。広場の方はやっと人混みも落ち着いてきたけど…、駐車場の方がヤバいわね…。ヘルプ行こうかしら…」
「──おーい…! 空先ー…! 良かった…合流できたぁ…」
「貴方たちまだ残ってたのね…、でも無事で良かったわ…。貴方たちも直ぐにバスに向かって乗り込みなさい、恐らく貴方たちで最後よ…」
駐車場の方へ加勢しに行こうとしていた空見の下に、一般客の避難を手伝っていたナキたちが息を切らして駆け寄ってきた。
「──貴方たち…桧凪さんはどうしたの…?! まさかはぐれたんじゃないでしょうね…?! 気付かなかった…?!」
「違うんです…朝凪は私等を逃がす為にわざと残って…、そうだ岬先は…?! 朝凪が今異能犯と戦ってるんです…! 直ぐに岬先を向かわせてください…!」
ナキは空見の服にしがみついて必死にお願いをした。他の2人も辺りを見回して、穂岬の姿を捜していた。
そんな朝凪への心配から一種のパニック状態に陥っているナキたちを、空見はなんとか落ち着かせ、穂岬が既にアウトレットモールに向かったことを伝えた。
それを聞いてようやく落ち着いたナキたちは、人混みを分けてバスへと向かった。
「しかし困ったわね…、こうなると桧凪さんを置いてバスを避難させた方がいいかしら…? でもそうならない為に穂岬先生が行ってくれたのよねー…、あら…?」
「──ぅぉぉぉおおおおお…とう…っ!! うわあああ…っ!? 思ったより高さあるゥゥゥゥ…!? 怖ーーーい…!!」
「──何してるのかしら…、あの子…」
<〔Perspective:朝凪〕>
「空見先生無事でしたか…! 良かったです…!」
「貴方の方は…大丈夫かしら…? なんか着地ミスってた様に見えたけれど…」
「はい…! もうちょっとすれば痛みも引いてくると思います…」
先生にあの場を託して広場を目指した私は、もう1人居るらしい異能犯に先を越されないよう必死に走っていた。
だが途中で未知の永気を感じ取った私は、狭い通路で鉢合わさないように上の階に移動した。狭い場所では戦いたくないからね。
そして上階から広場にバッと飛び出した結果、思った以上に高さがあってびっくりして、そこそこ足をくじいてしまったのだ…。
永気で自然治癒できるのだが、念の為にと空見先生がテーピングしてくれた。すごいねテーピング、結構痛み引くー。
「応急手当だけど…まあこれで大丈夫でしょ。とにかく無事で安心したわ、それじゃあ早くバスに向かうわよ」
「あ…っ! それは出来ません…! 穂岬先生に託されたんです…! もう1人居る異能犯から皆を守るようにって…! ですから──」
“ガシャーーーーン!!!”
最後まで言い終える前に、アウトレットモールの方から大きな音が響いた。何が起きたかは分からないけど…、確実にそういう事態だって事は分かる…。
案の定…崩れた壁の奥から異能犯らしき人影が出てきた。永刃を腰に差した人物と、その後ろに10人の強面たち…確実にアイツ等の仲間だ…。
「あらー…なんか色々出て来たわね…。まだ駐車場から逃げれてない車が山ほどあるって言うのに…、これ結構マズい事態じゃない…?」
「相当マズいですね…、ここは私が抑えるので先生は皆と一緒に逃げてください…! 絶対に駐車場には通さないので…!」
私はゆっくり迫ってくる異能犯の方を向いて永刃を抜いた。右手に永刃を、左手に用途不明の鉄パイプを…──いや邪魔だなこの鉄パイプ…!
結局これ何の為のやつなんだ…?! 穂岬先生はコレで何を企んで私に渡したんだ…?! 意思疎通が気持ち悪いくらいに出来てない…!
「ちょっと待ちなさい…生徒1人残して先に逃げれるわけないでしょ…? 貴方が残るんなら私も残るから、それ渡しなさい」
「えェ…っ!? 先生危ないですよ…?! 見てくださいよあの悪魔の手下みたいな強面を…! 一瞬で殺られちゃいますよ…!?」
「平気よ、保健医舐めんじゃないわよ」
謎に強気ー…?! 可能なら今すぐ逃げてほしいんだけどなァ…! 私が戦うと周囲にめちゃめちゃ影響が出ちゃうから危ないんだけどなァ…!
「それにこの鉄パイプはダメです…! 何に使うのかは分からないですけど…何かに役立つっぽいので渡せないです…!」
「いいからいいから…、どーせ穂岬先生に言われて持ってきたんでしょ…? 用途は大体見当がつくからさっさと渡しなさい」
そう言って空見先生は左手を前に出して、鉄パイプを寄越せと催促してくる。
むぅ…、本当に渡していいものか…。でも私と違って穂岬先生の意図をちゃんと理解してるっぽいし…──渡すか…。
出来れば両手を空けて戦いに臨みたいので、若干心配だけど空見先生に預けた。ひとまずこれで十二分に戦える。
「──ちょっとそこの君たち。俺たちはこの男を捜してるんだけど、アンタ等見覚えあるかい…? 知ってたら隠さず教えてほしいんだけど」
近付いて来た男たちは私たちの少し前で止まり、永刃を差している男は写真を取り出して見せてきた。
案の定写真に写っているのはシンか…──マジで何したらこんな追われるんだ…!? 盗んだ…!? この人たちの金でも盗んだのか…!?
「誰よその男、残念だけど私たちは知らないわよ? そうよね桧凪さん…?」
「そ…そうです…! そんな男知らないです…!」
私は空見先生に合わせて噓をついた。これで大人しく退いてくれれば…皆が安全に逃げられるんだけど…。
「そうか残念だ…、──じゃあそこを通してもらえるかな…? 駐車場の方に潜んでいるかどうか確認する。──邪魔立てはオススメしない…」
男は永気を増幅させて私たちに警告しだした…。血の気が多そうだ…、駐車場に通したらどうなるかは想像に難くない…。
──絶対にコイツを通しちゃならない…! ただ捜索するだけならまだいいが…、中々見つからない状況が続けば…コイツは無差別に攻撃を始める可能性がある…!
能力によっては…車に乗ってようがいまいが関係ない…、事態は未曾有の被害者数を生むことになる…!
「立場上そうもいきませんので…! 悪いですが全員ここで止まってもらいます…! この先には行かせません…!」
「──本当に残念だ…。オイ…行け…!」
男がハンドサインを出すと、後ろの強面たちが一斉に向かってきた。狙いは私じゃなく…あくまで駐車場を目指しているような動きだ。
私は一歩退いて【流】を使い、迫ってくる強面たちを倒そうと全身に力を込めた。
だがその直後──男の体から黒い何かが染み出し、細く鋭い形状に変化したかと思えば、それは突然私目掛けて飛んできた。
ただでさえ細くて見にくいのと…不意をつかれたのが重なり…、それは勢い良く私のお腹に突き刺さった。
「──い…っ?! なんだこれ…?!」
「 “譁墨針” …、悪いが君の方こそ止まってもらおう…! 捜索の邪魔はさせない…!」
攻撃を受けてしまったが、それでもなんとか強面たちの進行を妨げようと私は振り返った。出血はしてるが傷は浅い…、追おうと思えば追える程度だった。
だが視界に飛び込んできたのは予想外の光景…──駐車場入り口の前で強面たちを待ち構えている空見先生の姿だった。
「先生…! ダメです…!!」
そう叫んだが、強面たちの1人が既にバットを振りかぶって空見先生に殴り掛かろうとしていた。【流】を使っていても…間に合わない…!
もうダメだと思った瞬間…、またもや思いも寄らない事が起きた。空見先生が一切表情を変えずに…かつほとんど動かずバットを避けたのだ…。
そして持っていた鉄パイプで返しの手痛い反撃…──およ…? なんかめっちゃ手慣れた動きに見えたのは何故だろう…?
スイングのフォームも…的確に顔面に当てた技術も…、戦い慣れてるというか…──喧嘩し慣れてる…?
「ふぅー…なんだか昔に戻った気分だわ。──ほら…黙って見てないでかかってらっしゃい…! 元ヤンの保健医舐めんじゃないわよ…!」
元ヤンなの…!? だからなんか喧嘩し慣れてたの…!? 私聞いたことないよ元ヤンで学校の保健医してる人…!
穂岬先生がヤンキーっぽくみえた後にまさか本物の元ヤンと出会うとは…! もしかしたら穂岬先生も元ヤン仲間なのかもしれない…。
──それにしても…うわぁ…、あの顔面殴られた人可哀想…あれ絶対鼻の骨イカれてる…。もう二度と空見先生に逆らわないようにしよ…。
「桧凪さん…! こっちは私1人で余裕だからそっちは任せたわよ…! 私が死ぬ時は貴方の次だってこと──忘れないでね…?」
めちゃくそ嫌なセリフだァ…!? 遠回りに死ぬなって言ってるんだろうけど…責任がクソ重い…! 嫌なプレッシャーのかけ方…!
──でもより一層気が引き締まった…! 頑張ってくれてる空見先生と皆の為に…絶対あの異能犯を食い止めてやる…!
ググッと体に力を込め、一気に男の方へと接近した。初撃は防がれても躱されてもいい…、まずは相手の力量を測る…!
「 “燕躰打ち”…!!」
「 “黒壁” 」
私の攻撃は突如目の前に現れた黒い壁によって、案の定私の攻撃は防がれてしまった。黒い壁には大きく亀裂が入り、粉々になって崩れ落ちた。
「──凄い威力だ…驚いたな…。まさか一発で “黒壁” を破壊されるとは思わなかった…、様子を見るのはやめよう…!」
再び男の体から黒い何かが染み出してきた…それもさっきとは比べ物にならない程大量に…。あれを全部針にして飛ばしてくるつもりだろうか…。
染み出した何かはどんどん男の足元に広がっていき、巨大な黒い水溜りの様になっていた。どんな攻撃がくるのか予想出来ない…。
「 “墨彩道威 〝波〟” …!」
黒い水溜りに1つ…また1つと小さな波紋が浮かんだかと思えば、それは次第に大きくなり…黒い高波に変化して襲い掛かってきた。
水墨画で見るような波は、周囲に広がることなく私にのみ向かってきている。先生に被害が出なそうなのでそこは好都合。
「 “〝気鋭士魂〟雲雀斬り” …!!」
さっきの黒い壁に触れた時に、既に能力は発動済み。私の一振りは襲い来る黒波を綺麗に切り裂いた。
──この臭いにこの見た目…、あの男の能力は“墨”かな…? 針に壁に波に…──なんか前に似たようなのと戦った記憶があるなぁ…。 ※ザクロ
「ほぉ…! 固体ならまだしも液体も関係なく切れるのか…面白い能力だ。──ならこれはどうかな…!」
男が永刃を頭上に上げると、さっき切り裂いて私の左右に広がっていた墨が小さく揺れ出し、そこから何本もの巨大な腕が現れた。
私3人分のくらいの大きさがあり、手のひらは更に大きい。手の中にすっぽり収まっちゃいそう…掴まったらヤバそう…。
むぅ…これだから気功派能力は嫌いなんだよ…! あの手この手で多彩な攻撃してきやがってェ…! こっちの気持ちも知らないで…!
「さあどう対処する…? まだまだこんなものではないぞ…?」
「──こっちだってまだまだ本気じゃないもんね…! 墨もオマエも──全部斬り伏せてやる…!」
【第74話 通せんぼ 完】
猛襲の墨──襲い来る…! 次回に続く!
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