第71話 OLA琉球
<戦いの技式>
第71話 OLA琉球
「──ねえねえ、ほんとにこっちであってるの?」
「ん~…確かにこっちであってる筈なんだが…、──おっ、あれじゃねえか?」
<〔Perspective:朝凪〕>
日が沈んで辺りが街灯やお店などの灯りで賑やかに照らされた頃、私たちは集合場所のホテルへと焦りながら向かっていた。
焦っていた理由としては…道中で火事が起きたことで、本来進もうとしていた道が通れなくなってしまったのだ。そのせいで遅れないかめっちゃ心配だった…。
さらにさらに、途中でナキちゃんがスマホ落としてフィルムが割れちゃって…新しいのを買いに行く為にまた道を外れたりもしたぁ…。
その他にもなんか色々あったんだけど…、まあ紆余曲折ありつつ無事時間内に目的地に着くことができました~!
修学旅行中にお世話になりますホテルはこちら── “OLA琉球”さんですっ! 南国感満載で煌びやかな外観は、図らずとも高級感が溢れ出ている。
圧っ巻──…私たちは横並びでただホテルを見つめてしまっていた。こんなこと言うのはなんだけど…、高校生の修学旅行にしてはちょっと奮発し過ぎでは…?
それとも意外とコスパ良いのかな? 最近めちゃくちゃ綺麗でお安いホテルとか増えてきていいね! これは旅行に行く人が増えそうだ!
「──おーいお前等っ! んな所に突っ立てないでさっさとこっち来い! 通行人の邪魔になるだろ、ほら早く!」
ホテルの入口に目を向けると、名簿を持って立っている穂崎先生と空見先生の姿があった。他の人の迷惑を考えて小走りで向かう。
「ちゃんと時間は守ってるな、オッケーだ。そんじゃロビーで野呂田先生からカードキー貰って、部屋に荷物置いてこい。キャリーバックもちゃんと受け取れよ」
「はーいっ! ねえねえ早く行こうよっ! 私部屋がどんなのか楽しみ!」
「──あーちょい待ち、朝凪こっち来い」
「ふぇ?」
ワクワクで自動ドアを通ろうとした矢先に穂崎先生に止められた。なんだろう──おじさんに蹴られたところはもう痛くないから心配要らないけど…。
それともあれかな? あの後なんか面倒ごとに巻き込まれてないかの確認かな? んもー、先生ってば心配性なんだから~。
「さっき空見先生から聞いたが…、お前首里城で迷子になったんだって…? お前…──いくつだよ…」
「うわああ…っ! なんでそれ言っちゃうんですか空見先生…っ!!?」
「なんでって…そりゃ面白いからよ。アナウンスまでされて──ぷぷっ…w」
空見先生は笑いを堪えようと口元に手を当てるが、残念なことに全部ダダ漏れ…。恥ずかしくて顔が熱くなる…。
後ろで萌夏ちゃんの漏れた笑い声も聞こえるけど…、まずはドン引きの眼差しを向けてくる先生を説得しなくてはならない…。
「ち…違うんですよ先生…! それにはれっきとした事情がありまして…、変わった猫が…──黒い猫がいたんです…!」
「さして珍しくもねえだろ黒猫…」
このままじゃガチで軽度の異常者に思われてかねないので…、私は先生の袖を引っ張って皆から遠ざかった。
そして首里城で起きたことを隠さず全て教えた。永気を纏った黒猫、シンと名乗る人物、そしてシンを追う強面の男たちなど──
「ほぉーん…──しかしまーた面倒なことに巻き込まれたんじゃねえだろうなァ? 修学旅行に来てまで面倒な奴等と戦うなんてバカバカしいぞ」
「それはそうですけど…、なってしまったものはしょうがないじゃないですかぁ…。私だってまさかああなるとは思ってもいませんでしたし…」
私だってせっかくの修学旅行は面倒ごとに巻き込まれず楽しみたい。でも一度関わってしまうと…、気になってしまうのも人の性で…。
ふとした時にシンのことが頭に浮かぶことも何度かあった。今もあの男たちに追われているのかなぁ…──大丈夫かな…。
「──心配するのは構わないが、そのシンって奴も隊員なんだろ? 何があったかは知らんが、自分の危機くらい自分で払えるだろ」
「先生は角位だからそう言えるんですよ…! 私と同じ香位だったらそれすらも難しいんですからね…!」
「それならそれで支部の連中が助けてくれんだろ? どっちにしたってお前が関わる必要はない、そうだろ…?」
──確かにそれはそうかもね。シンは柔らかい雰囲気してるし、多分仲間が手を差し伸べてくれるよねきっと。
「分かったらもう行け、律儀にアイツ等が待ってる」
「はいっ! 言ったらなんかスッキリしましたっ! 先生ありがとうー!」
無事先生の誤解を解いた私は、皆と共に今度こそホテルの中へと足を踏み入れた。
入ってすぐ目に飛び込んできたのは、外観を損なうことのない優美なロビー。落ち着いた照明と控えめな音楽が、心に余裕をもたらしてくれる。
部屋に行かずにロビーの休憩スペースで無性にくつろぎたい気分だけど、ホテリエの方々の負担を減らす為にまずはスーツケースを受け取りにいく。
とりあえず受付まで行くと、これまた名簿を持って立っている野呂田先生が居た。その後ろには沢山のスーツケースや大き目のカバンなどが置かれていた。
「おっ、来たか。それじゃ自分の荷物持って部屋に行け、それとこれがカードキーだ。荷物間違えるなよ?」
先生からカードキーを受け取り、各々荷物を持ってエレベーターへと乗り込んだ。エレベーターの中は広く、そこそこ荷物が多くても窮屈さを感じさせない。
しかも揺れが驚くほど小さい、──これがOLA琉球…恐れ入る…。なんて考えてる間にエレベーターは6階に到着した。
そして今回私たちがお世話になる部屋がここ、4人部屋の603号室。早速カードキーで部屋の中におじゃまします。
「わ~っ!! 綺麗~! 広~い! 見て見てっ、窓からの夜景もちょー綺麗だよ!」
「おー、確かにめちゃスゲーな。ベッドもちゃんと4つあるし、冷蔵庫もあるな」
その他にもテレビ、エアコン、ドライヤー、加湿器まである…! こ…これがOLA琉球──恐ろしいぜ…。
そして当たり前のようにベッドふかふかで、枕は柔らかめと硬めの2種類が用意されている。私は硬め派だから嬉しい配慮だ。
「ん~気持ちいいベッドだな~。──夕飯って何時からだっけ?」
「18時半ね。まだちょっとあるわ」
現在時刻17:47なので、大体40分くらい暇だ。お風呂の時間も決められているから勝手に入れないし、ウロウロしてると先生に注意されそうだしなぁ…。
「ウロウロしない程度にホテル内探索しない?」
「探索の時点でウロウロしてるダロそれ」
それもそうだね、じゃあダメじゃん。うわー…何して待てばいいんだろう…、トランプは夜の楽しみにとっておきたいしなぁ…。
「なー朝凪ー、夕飯まで時間あるし、お前が学校に復帰するまでの話してくれよ。どんなことしてたのか気になるからさ」
「おっ、私も聞きテー」
「私も興味あるわ」
「いいよー! じゃあどこから話そうかなぁ、えっとまずはねー──」
18:00に生徒全員がロビーに集合し、そのまま一同はホテルのレストランへと向かった。
気品溢れる内装と並べられた料理の数々、レストラン全体を包み込むいい匂いが否応なしに胃袋を刺激してくる。
ビュッフェ形式のレストランなので、満足するまで食べられるのは嬉しい。もちろん一般のお客様の迷惑にならない程度にね?
なので最初はちょっと量控えめにお皿の上に盛りつけた。お肉に野菜、炭水化物も忘れないバランス重視──抜かりなし…!
「ってことで…いただきまーすっ!」
「「「「いただきまーす…」」」
まずは煮込みハンバーグを一口──煮込まれているのに嚙むほどに溢れ出す肉汁に…お肉を包み込むソースの味付け…、すごく美味っ!
ホテルで提供されるハンバーグ系ってなんでこうも完成度高いのかなぁ…、家じゃ絶対に真似できない味わいが詰まってるよぉ…!
「美味しいね! どんどん食べられるよ!」
「おん…そうだな…、どれも美味しいよ…」
「ウメー…」
「美味しいわ…」
さてなんとなく違和感を覚えていると思うので私が説明しちゃいますね、ナキちゃんたちの異様なテンションダウンの原因を。
──っと言っても私もよく分かってないんだよね~これが。ロビーに集まってレストランに向かうって時にはもうこうなってたんです。
「どうしたお前等…なんか元気ねえぞ…? ──なにがあったんだ朝凪…」
「あっ黒澤~──ほんとね…何があったんだろうね…」
肉料理多めの皿を持って私の隣に座ってきたのは“黒澤 乾二” 。私と先生の影響を受けて隊員になろうと考えてる命知らずさんです。
「おーい、何があったんだ? 分かるように説明してくれー」
「──朝凪が学校に復帰するまでの話を聞いた…」
「え…っ? そんなことでそんななる…?」
まさかの原因…私の語り…!? 確かに暗めな部分もあったけど、明るい部分も多かった筈だけどなぁ…。昇格試験に合格した話とかしたよ…?
そりゃまあ哀薔薇の集のとことかは半端なく暗かったけども…。
「──よく分かんねえから俺にも話してくれよ、飯食いながらでいいから」
「うんいいよ、えっとねーまずは…──」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「──オオオオォォォォ…」
「ねえ黒澤大丈夫…? なんでこの短時間でそんなやつれたの…? ムンクの叫びみたいになってるじゃん…」
ほっぺたを突いてみても…小さく揺れるだけで反応ナシ…。心ここにあらずって言うか…ホントに魂がどっか行っちゃったみたいだ…。
どうしようこのどんよりとした重たい空気…、なんか私が台風の目みたいになっちゃってるじゃん…! 私が悪いみたいじゃん…!
「────おいどうしたお前等…。遠目でなんかアイツ等元気なさそうだなーって様子を見に来たら…本当に元気ねえな…。オイ乾二生きてるか…?」
「オオオオォオォオォォ…」
心配して見に来てくれた穂岬先生の問いかけにすら、めっちゃ上の空な回答(?)だ。コイツよくこんなメンタルで隊員になりたいとか言えたな…。
伊国に「異分子」って呼ばれ続けるだけで病んじゃいそうだな。なんなら異能犯と対面しただけで命乞いしそうだね、土下座でね。
「朝凪…何があった…?」
「えっと…隊員として活動してた時の話をしました…」
「──…一応私にもその話聞かせろ…」
「はい…」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「ほーん──…随分大変な目に遭ったんだな。──この唐揚げうまっ」
「岬先流石だなぁ…、クソ余裕じゃねえか…」
「ホントに同じ話聞いたのカ…?」
なんか2人が引いてる…、ケロッとして唐揚げ頬張ってる先生に引いてる…。 でもおかげでちょっと元気を取り戻したっぽい…、先生スゲェ…。
「先生もそういう経験があるの…? でなきゃあまりにも反応が薄いわ…」
巴ちゃんの言う通り、確かにちょっとドライ過ぎるような気もする…。少なくともご飯の進む話じゃない筈だけどなぁ…。
「そら隊員やってりゃそういう経験の1つ2つは避けられんだろ。──聞きたいか? 人質救えなくて吐くほど泣いた時の話とか聞きたいか?」
「オーバーキルがすぎるゾ…」
「私まで元気なくなっちゃいますよ先生…」
内容は聞かないけど…、私の話が霞んじゃうくらい重い経験をしてらっしゃることだけは分かりました…。
とりあえず後で黒澤だけは説得して…別の道を進ませよう…。でないと絶対に死ぬもん…、もしくは敵に寝返るとか…。
知り合いと敵同士なんて…考えるだけで嫌になる…。──まあでも黒澤が相手なら、うん──まだましな方か。
「つーか当事者の朝凪よりお前等のが元気なくてどうすんだよ…。もう過ぎた過去の話なんだから、そこは笑い話にでもしてやれよ。なっ朝凪」
「うんうん、先生の言う通りだよ。笑えるところもあったでしょ?」
「そこ以外が重すぎんだよ…」
「信じられないくらいヘビーだったわ…」
そう返されてしまったが、皆の表情はさっきよりも少し明るくなったように見えた。食欲も戻ってきてか、パクパクとご飯を食べ始めている。
私はただ1人戻らない黒澤を見つめながら、もう二度とこの話はしないと心に決めてご飯を1口頬張ったのだった。
-???-
木々が生い茂る森の奥、街灯はおろか僅かな光源すら存在しない深い深い闇。辺りに優しく降り注ぐ月明かりさえも、夜の森の中には届かない。
そんな静寂の闇である筈場所に、ひっそりと建てられた建設物があった。窓からは仄かな灯りが漏れている。
「若ー! どこですか若ー!!」
ランプの仄かな明かりに照らさたコンクリートの廊下、そこを声を上げながら奥へと進む男の人影が1人。
ドアのない部屋を1つずつ覗いて“若”と呼ばれる人物を探す人影は、早足でどんどん奥へと進み、やがて突き当りの部屋に入った。
「──おうどうした…、何か動きがあったか…?」
「若…っ! ここに居ましたか…! 是非耳に入れたい情報がありまして…!」
部屋の中には数人の男たちと、ソファーに腰を掛けて両手を組む“若”の姿があった。男は駆け寄って、胸ポケットから取り出した1枚の写真を手渡した。
「誰だこの嬢ちゃんは…? ここらじゃ見ない制服のようだが…」
「情報が足りず我々も詳しい身元は分かってませんが…、その女子高生が今日昼前──〝シン〟と親しく話している姿を目撃しました…!」
「何ィ…?! あのシンと…?!」
若を含めたその場に居る全員が驚きの表情を浮かべて、部屋の中がざわついた。それを聞きつけて、何人もの男たちが部屋に集まってくる。
思わず立ち上がってしまった若は、写真を見つめたままその場に立ち尽くしている。
「どうしますか若…?! これは今までにないチャンスかもしれませんよ…!」
その言葉を受けて若は深く息を吐き、何かを決心したかのように集まった男たちの方に写真を向けた。
「この場に居ない奴等にも声を掛け、なんとしてもこの女子高生をここへ連れて来い…! 手段は問わない…! 命を懸けて遂行しろ…!!」
「「「「 御意!!! 」」」」
命令を出された男たちは一斉に部屋を後にし、瞬く間に若1人だけになった。残された若は再びソファーに腰を掛け、写真をテーブルに置いて両手を組んだ。
「──ようやくだ…ようやく会えそうだ…、シン…!」
テーブルの上でランプの光に照らされた写真には──沖縄の街中をバックに写る、朝凪の姿があった──。
【第71話 OLA琉球 完】
闇に蠢く魔の手…?! 次回に続く!
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