第70話 enjoy the beach
<戦いの技式>
第70話 enjoy the beach
<〔Perspective:朝凪〕>
先生が証明証を届けてくれたことで、私とおじさんの戦いは決着がつかぬまま終わりを迎えた。
そしてそのおじさんは今、私と先生がちゃんと証明証に記載された支部に所属しているかどうかの確認をしに席を外しています。融通効かんね~。
とは言えおじさんが戻ってくるまではこの場を動けない為、この時間を使って非常に気になった事を解消したいと思います…。
「あのぉ…先生…? 先生はどうして…その…階級が角位なんでございましょうか…? いつから先生はそんな…お強かったのでございまする…?」
「どうした朝凪、尊敬語が聞くに堪えないレベルで乱れてるぞ? ってかなんでお前は私にちょっと怯えてんだよ」
私は今巴ちゃんの後ろに隠れてながら、ひょっこり顔だけ出して先生に聞いています…。予想外過ぎてまだ頭が追い付いていない故の防衛本能です…。
「特別処置待遇を受けて…その後教員の道に進んだから…、てっきり私と同じ香位なんだろうなって思ってました…。感じ取れる永気の強さからもそれくらいかと…」
「それは私が永気を抑えてるからだよ。お前も永気コントロール習ったろ? 今のお前のそれがレベル2なら、私のは6~7ってとこだ」
「おっふ…、格上~…」
永気は一般の人にとってはまあまあ害あるもので、長時間晒されると様々な悪影響を及ぼしてしまうって前に伊敷さんが言ってた。
修学旅行に行くにあたって、伊敷さんと穂岬先生の2人から個別で注意喚起されていた。だからそこそこ頑張っていたのにぃ…。
「伊敷さんといい先生といい…、どうしてこう私の周りって…私の苦労を軽々超えてくるんだろう…。私の存在意義ってなんなのかなぁ…、悪癖…?」
「元気出して朝凪。悪癖は絶対に存在意義じゃないわ」
「超珍しいけどナ、物拾い癖」
「おい萌夏空気読め」
自信喪失で落ち込む私は、その後皆に励まされて無事に立ち直れた。とりあえずもう気にしないけど、修学旅行から帰ってきたら猛特訓しよ。気にしてないけどね?
なんとか元の元気な状態に戻れたところで、確認を終えたであろうおじさんも部下を連れて戻って来た。
「──待たせて悪かったの。司龍位と風耶龍位からそれぞれ確認がとれたわい。ほれ、証明証じゃ」
「わわわっ!? だから投げないでくださいよ! 怒りますよっ?!」
「ぬゥ…、すまんわい…」
ムッとしながら受け取った証明証を胸ポケットにしまった。チラッと見たら先生も若干申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
まあ何はともあれ、これで無事に全てが丸く収ま──…むぅ? あれれ…? なんだか先生の様子が変だぞ…? 何故かおじさんに向かってスタスタと…──
「さて──無事疑いが晴れたところで、私情を済ませてもらうぞ。勘違いとはいえ私の生徒に危害を加えた分は償ってもらうぞ…?!」
「ぬゥ…!? ちょちょちょ待て待てい…!? 確かに悪かったとは思っているが…過失割合は大目に見て五分五分ってとこだろう…!?」
先生は思いっ切りおじさんの胸ぐらを掴み、今にも何発か殴ろうという勢いだ。ダメだよ先生…、私の意見じゃ大目に見てもこっち悪いもん…。
むしろおじさんの対応って凄くお手本だったなぁって思うし…。
「お前ら、どこか怪我したか…? 特に朝凪は正直に答えろ…」
「あっ…ハイ…ちょっと脇腹がイタミマス…」
こっちに向けた先生の顔があまりにもガチ過ぎて…おじさんを庇う事が出来なかった…。なんか今噓ついたら半殺しに遭わされそう…。
──っで多分おじさんはこれから半殺しに遭うのだろう…。ごめんおじさん…、優秀な生存本能が噓つくなって言ってたの…。
「他3人はどうだ…? 何かされたか…?」
「おっさんを止めようとした時に3人仲良くぶっ飛ばされましたー」
「おーし覚悟しろよヒゲ…! 4人分で4発、それに巴の虚弱体質ボーナスを加えた計21発をお見舞いしてやる…!」
「ちょちょっ待たんか…! あまりにもボーナスの値がぼったくり過ぎるわい…! ちょやめい…やめ…──ぬゥオオオオオオオ…!!?」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「き…──きはふんだか…?」
「ああ…、なんかすまないな…つい我を忘れて…」
おじさんの顔が自主規制でちゃんと見えないけど…さぞ凄惨なことになってしまっているのだろう…。
治りの早い私でも1日は掛かりそうな気がするよこれ…、先生やり過ぎやり過ぎ…。本当にごめんねおじさん…。
「だがよいか…? 今後証明証はちゃんと持ち主が携帯するんだぞ…? でなければまた今日のような目に合い…そして儂のような被害者が出てしまうわい…」
「切実な願いダナ…」
これがおじさんだったから許してくれたけど…これ別の人だったら別件で逮捕されちゃうよ…、
暴行罪とかで…。
「ひとまず東京から観光に来ている隊員が2人おると儂の支部の者に伝えておくが、あんまり目立つ事をするでないぞ…? では儂らはこれで失礼するわい」
「あっ…はい…ご迷惑をお掛けしました…。──お大事に…」
おじさんは部下たちを連れて街の中へと消えていった。若干街を行き交う人たちのざわつく声が聞こえたが、私たちは耳を閉じた…。
さてさて、色々あったけど無事に災難を振り払えた。これでようやく目的地であるビーチに向かうことができるようになった…!
脇腹はまだ痛むけど…この程度なら十二分に楽しめるだろう。他の隊員に止められる心配もなくなったしね。
「そんじゃ私は木実先生のとこに戻っから、くれぐれもこれ以上問題を起こすんじゃねえぞ。それとちゃんと時間内に集合場所に来るようにな、頼んだぞ」
「分かりましたっ!」
去っていく先生の背中に手を振り、私たちは元の道を進み始めた。道中はさっきまでの戦いの話で大いに盛り上がった。
楽しく話しをしていると時間の流れは早いもので、あっという間にビーチへと到着した。11月というのもあってか、流石に泳いでる人は少なかった。
でもビーチにはそこそこの人の姿があり、日光浴を楽しむ人やバーベキューをしているグループなど様々。
それになにより──白い砂浜に青い海、植えられた高い南国チックな木々…! この3要素だけでテンションが爆上がるっ!
「っしゃあ! 遊ぶぞー!」
「「「イエーイ!!」」」
そこからはこの美しいビーチを満喫した。足だけ海に浸けて、波でスカートが濡れないギリギリまで進むチキンレースとかした。 皆濡れた。
海は程よく冷たく、先の戦闘で火照った体の熱が全て逃げていく。強い日差しも優しい潮風のおかげで全然涼しい。
水着があれば入れたけど…流石に修学旅行中にガチ海水浴はできないので残念だ…。この後もまだ日程残ってるからしょうがないけどね…。
びしょびしょのスカートを絞って海から出た後は、各々がそれぞれのやりたいことを楽しむ時間になった。
ナキちゃんと萌夏ちゃんは奥の方にある岩場へとウミウシを探しに行き、巴ちゃんと私は砂浜でモンサンミッシェルを作っている。
かなり無理があるけど、手芸部経験アリの巴ちゃんがいると意外にも形になるものだ。私も段々楽しくなってきた。
「──ねえ朝凪…? 修学旅行が終わったら──朝凪はどうするの…?」
外壁部分をせっせと作っていると、巴ちゃんは不意にそう聞いてきた。顔を上げると、巴ちゃんはどこか神妙な面持ちをしていた。
「そうだなぁ…、やっぱり私はこのままL-gstに身を置くかなぁ。他にやりたいことも特にないしね」
「──そう…」
私がそう答えると、巴ちゃんは一層表情をかげらせた。動かしていた手も止めて、巴ちゃんはうつむいたまま口を開いた。
「──朝凪の人生だから…本当は何も言いたくない…。けど友達としては…あんまり危険なことはしないでほしい…。ずっと思ってたけど…さっきの戦いを見て一層強く思ったの…」
巴ちゃんは胸に秘めていた想いを全て教えてくれた。学校で戦ったあの日を境に…私がどこか遠くへ行ってしまうように感じたらしい…。
二度と会えなくなるような…先の見えない不安感がずっと心の中で渦を巻き…、修学旅行中は落ち着いていたが…先の戦いでそれが甦ってしまったそうだ…。
「穂岬先生も隊員だけど…本業は教師だからまだ危険は少ない…。でも朝凪はそうじゃないんでしょう…? 命を落とすリスクだって比にならない…」
「それは…──まあそうだね…」
今に至るまでに少なくとも3回は死に直面してるし…、確実にこれからもそういう目に合うことは想像に難くない…。
だから巴ちゃんが心配をするのも自然なことだ…。私は少しの間無言で考え…ごちゃごちゃの頭を整理してから口を開いた…。
「──巴ちゃんの気持ちは伝わったよ…。でも私は──隊員として頑張ってる今の自分に満足してるの…! だから気にしないで…? 私死なないから──多分…」
どうしていいのか分からなくなった私は、とりあえず真っ直ぐ目を見て意思を伝えてみた。他のやり方分かんないしね…。
巴ちゃんもそれに応えるように私の目を見つめてきて、やがて納得してくれたのか…静かに微笑んでくれた。
「そう──ならもう何も言わないわ…。心配は消えてないけど…、死なないって言葉を信じる…!」
「うんっ! 期待を裏切らないようにするから応援しててねっ! ってことで続きやろ? まだ外壁も完成してないし」
「そうね、あの2人が戻って来る前に完成させちゃいましょ」
大体2時間くらいビーチを堪能した私たちは、早めに集合場所のホテルへと向かいつつ、道中で沢山寄り道をすることにした。
ちなみに私たちが作っていた砂モンサンミッシェルは見事完成し、その完成度の高さから多くの人が写真を撮っていた。
去り際にはブルーシートで覆って崩れない様にしていた人までいた…。そこまでしてくれなくてもって思ったけど…必死に作業している手前言えなかった…。
ナキちゃんたちはナキちゃんたちで、手のひらサイズの大きなウミウシを見つけて大はしゃぎしていた。ほんっとに大きくてびっくりした…。
そしてビーチで遊び疲れた私たちは今、近くのカフェで休憩を取っています。人気のパフェが甘くて堪んない…! やっぱ甘味は乙女の原動力だよね~♪
皆でパフェをパクつきながら集合場所へのルートを確認。まあまあ距離はあるけど、それを見越して早めに出発したから問題ナシ。
「そういえば皆怪我大丈夫…? 痛むならバスとか使う…?」
「私は平気だけど、他2人は?」
「私も特に異常はないわ」
「同じく問題ナーシ。言うてタダぶっ飛ばされただけだシ」
ぴんぴんしてるのは良かったけど…こうなるとボコされたおじさんが不便でならない…。あんなモザイク顔にならないで済んだのに…。
「むしろお前の方がだろ? おっさんの蹴り──ありゃ普通に肋骨折れててもおかしくなかっただろ…? なんで私等より元気なのか分かんねえくらいだよ…」
「なんかねー、私って普通の人よりタフなんだって。だからかな?」
「だとしてもダロ…」
事実もう脇腹の痛みは微々たるもので、ホテルに着く頃には完璧に痛みも消えてるような気がする。明日には多分痕も残ってない。
私も前までは皆と同じだったのにね、永気って今考えるとめちゃくちゃな性能してるよなぁ。
「お前でそれってことはよ、岬先はもっとヤベえのか?」
「ヤバいと思うよ~、特に強さは私の比じゃないと思うよ~」
角位──つまりは縮さんや由さんと並ぶ程の実力者ってことだから、そりゃまあバケモノなんだろうね…。
ってかなんで教師の草鞋履いといて角位になれたんだろ…。ってかなんで角位になろうとしたんだろ…、どんどん疑問が湧いてくる…。
何者なんだろ…、穂岬先生って…。
【第70話 enjoy the beach 完】
JK4人、ビーチを満喫。 次回に続く!
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