第69話 小競り合い
<戦いの技式>
第69話 小競り合い
「──んぬゥ!! それい!! どりゃァ!!」
<〔Perspective:朝凪〕>
異能犯と勘違いされて始まった戦闘はどんどん熾烈になっていき、隊員のおじさんの猛攻が続く。
対して私は防戦一方…、っというのも…同じ隊員であるおじさんにはあまり攻撃したくない意思があるからだ…。
「オイ小娘っ! さっきから避けるか防ぐかでまったく攻撃してこんがなんのつもりだっ! 反撃せんのなら大人しくお縄につけいっ!」
「私も隊員だから反撃したくないのっ! お願いだから信じてよっ!」
「まだ言うかっ! 儂は異能犯の戯言には耳を貸さんと言うたァ!!」
やはりまったく聞いてくれない…。忠実なんだか頭が固いんだか…、いずれにしてもなんとか説得する手段を考えないとキツい…。
おじさんが様子見で能力を使ってきてない今しかチャンスがない…。もし能力を使って本気で倒しにきたら…──私も全力で抵抗せざるを得ない…。
「おーい朝凪ー! 今岬先がこっちに向かってる! それまで頑張れー!」
穂岬先生がこっちに…! それならこのまま受け身の姿勢で耐えられるかもしれない…! ナイスナキちゃん…!
「ぬゥ…?! まさか仲間を呼んだのかっ?! ──よかろう…、ならばその仲間諸共この儂が切り捨ててくれるわっ!!」
敵が増えたと勘違いしたおじさんは、より一層気合いを入れると同時に永気も増幅させてきた。助けは来るけど…その代わりにおじさんをやる気にしてしまった…。
きっと先生は強化式を使ってこっちに向かってる筈だから…、遅くても10分位で到着してくれると信じたい…。
だから今の私がすべきことは時間稼ぎ…! 永刃での攻撃は控えて…体術で上手くいなす方針でやり過ごす…!
「覚悟せい小娘! “駿足進” !!」
おじさんを覆う永気が薄っすら白く発光した瞬間、物凄い速度で私の横を通り過ぎ、背後から攻撃を仕掛けてきた。
咄嗟に身を低く屈めたおかげでなんとか回避できたが…今のはかなり危なかった…。常にある程度距離をとってないと避けられないぞあれ…!
「 “幡 強化式 【脚】” !」
「ぬゥ…! 逃がすかァ!!」
【脚】で距離をとろうと試みるが…まったく差をつけられない…。ピタリ後をつけてきて…、的確に攻撃を仕掛けてくる…。
ギリギリで避けるか防ぐかが限界…、悩むけど…こっちも才式で対応しないとダメかも…。でも広域適応であの速度に反応できるようになるのだろうか…。
「オイおっさん! 朝凪は敵じゃないって言ってんだろっ! いい加減信じろよ!」
「朝凪のことイジメんナー!」
「カスヒゲ」
「オオイお主等…! 黙っておれば外野から好き放題言いおって…! 特にそこの黒髪の…! 今のご時世暴言も罪に問われるんじゃから気い付けい…!」
頭固いだけで根は良い人なんだろうなぁ…この人…。3人に一切手を出そうとしないし、私への攻撃もほとんどが加減されてる気がする…。
腕や脚を狙ったり、永刃の先の方で傷が浅く済むような攻撃ばっかり…。──やっぱりこのおじさんを斬りつけたくない…!
おじさんが3人の野次に反応して足を止めたのを機に、私は永刃を鞘に収めた。
「──んぬゥ? オイ小娘なんのつもりだ! 観念して捕まる気になったか?!」
「それはヤダッ! でもおじさんに攻撃するのもヤダッ! だからもう私から攻撃しないっ! 痛い思いしたくないならおじさんも永刃しまって!」
「何をバカなことを…、痛い思いなど今更怖くもないわっ! 儂は貴様を絶対に捕える! それがこの街をまた一歩平和へと近付けるのだ!!」
そう言いおじさんはまた物凄い速度で接近し、私に永刃を振り下ろす。──私からは攻撃しないけど…迎撃はする…!
右脚を軸に体を回して攻撃を躱し、永刃を握っているおじさんの右手首を掴んで捻り、体重を掛けて内側に引っ張る…!
遥かに私よりも重量のあるおじさんがふわっと浮いて、背中から地面に落ちた。縮さん直伝の崩し技…! 縮さんから色々体術習っておいて良かった…!
「ぐふゥ…! ──妙な技を使いおって…、おのれ許さん…! ちいと後悔させてやるぞ小娘ェ!! “駿足囲” !!」
バッと起き上がったおじさんは、直ぐに体勢を整えてまた高速で動き始めた。それもさっきまでとは違い、私の周りをグルグルと回っている。
当然目で追える筈もなく…、完璧に包囲されてしまったわけだ…。しかもこれ…ずっと見てると目が回ってきてクラクラする…。
「どうだ小娘! もはやどうすることも出来まいっ! そォれい!!」
おじさんがそう意気込んだ直後、強い衝撃が脚に走った。後ろから思いっ切り蹴られたのか、体が勢いよく後ろに倒れる。
反射的に受け身をとって頭部を守ったが…、背中を思いっ切り強打してしまった…。視界が一瞬真っ白になり…、呼吸が乱れる…。
ふらつきながらも体を起こして構えをとるが…、未だにおじさんは高速で回り続けている。このままじゃ迎撃どころじゃないぞ…。
なんとか隙をついてここから離れないとダメだ…、っとなればまずはおじさんの動きを乱す…!
【集】を発動させ、私は右手の中指と親指の腹をくっつけた。【集】の効果を右手に集め、くっつけた指に万力のように力を込めていく。
これは少し前に支部で生まれた小技。思い付きでやってみたら、びっくりした縮さんが持っていたグラスを落として割ってしまったという…いわくつきの技…。
「何をしとる小娘! 何を企んでおるか知らんが…思い通りにはさせんぞ!!」
おじさんは今にも攻撃を仕掛けようとしているが、それを察した私はそれより先にいわくつきの小技を披露した。食らえ必殺──指パッチン改…!
“パァーーーーーン!!!”
「うぬゥ…!?」
「うわぁ…っ!?」
「なんダ…!?」
「…っ!?」
思いっ切り指を弾くと、異常な程大きな高い音が周囲に広がった。そして広がったのは音だけではなく、小さな衝撃波も一緒に周囲へと広がった。
不意に大音量と衝撃波に襲われ、予想通りにおじさんの動きが乱れた。速度が著しく遅くなり、目で十分捉えることができた。
このチャンスを逃さず、素早い動きでもう一度おじさんの右手首を掴んだ。これなら高速移動を封じつつ、私への攻撃を難しくした。
「ぐ…ぬゥ…! 小柄のくせになんたるパワー…振り解けん…。──ならばこのまま引きずり回してくれるわっ!!」
強化式の力で永刃を振れないようにすると、おじさんは強引に私の手を振り解こうとしだした。永気が薄っすら発光し、また高速移動するつもりだろう。
「そうはいかないよっ! “広域適応” ! “煌列強化〈流+集〉” !!」
おじさんの体が前にグンッと加速しだしたが、流石に強化重ねのパワーに勝ることはできず、完璧に抑え込めた。
負けじと加速を強めてくるが、こっちの力加減でどうとでもなる。…が、このままの状態が続くと永気切れのリスクがある…。
それになにより…多分おじさんが本気で私を倒しにくる…。そうなったら私にどれだけ勝ち目があるものか…。
「何したって無駄だよおじさん…! お願いだから矛を収めて話を聞いて…っ! 」
「そうはいかんと言った…!! たとえお主のような小娘であっても──儂は絶対に異能犯を許しはせん!!」
ずっと前に進もうとしていたおじさんは突如クルッと体の向きを変え、左脚の蹴りを繰り出してきた。
加速がのった強烈な蹴りが右の脇腹にヒットし…、反射的におじさんを捕まえていた右手が離れて、手すりまでぶっ飛ばされてしまった…。
強化式を使っていないとはいえ…、あれだけ加速した蹴りを受けるとめちゃくちゃ痛い…。息を吸い込む度に鈍い痛みが走る…。
初めてのまともな攻撃…、遂にその気になっちゃったか…。ここから先は手加減なしに私を制圧しにくる筈…。
永気温存の為に咄嗟に広域適応と煌列強化を解いたけど…、追撃のことも考えて維持しておくのが正解だったかもしれない…。
「ぬおォ…!? なっ…なんじゃお主等…!?」
起き上がろうとおじさんから目を離していると、突然おじさんの困惑した声が聞こえてきた。何があったのかを確認する為に顔を上げると…──
「オッラァ…!! お前なんて怖くねえぞヒゲェ…!!」
「JKの怖いもの知らズなめんなヨ!!」
「好き勝手にはさせないわ…!」
「何をしとる、コラッ止めんか…! さっさと儂から離れい…!」
目に飛び込んできたのは、おじさんの体に飛び掛かってしがみつく3人。ナキちゃんは首を、萌夏ちゃんは腰を、巴ちゃんは右腕をそれぞれ必死に押さえている。
萌夏ちゃんに至っては脇腹に嚙みついてる…、中々えぐい…。巴ちゃんも皮膚がねじ切れそうな程に腕つねってる…、えぐいなぁ…。
「…いい加減に──せんかっ!!」
「うわああ…っ!!?」
いつまでもしがみついて離れない皆に耐えかねてか、おじさんは加速しながらその場で回転して思いっ切り皆を吹っ飛ばした。
勢いよくアスファルトに転がる3人は苦痛の表情を浮かべ…、それを見た私は無意識のうちにおじさんに接近していた。
回転したことで生じた僅かな隙に──私は出し切れるだけの力と怒りを込めて全力で顔面を殴った。
壁にひびが入りそうな勢いで建物の壁に衝突したおじさんを余所に、私は永刃を抜いて構えをとった。
──もう戦いたくないなんて甘えたことは言ってられない。皆が怪我するくらいなら…無理やりにでも力で押さえ込んでやる…!
「ぐ…ぬゥ…、今のは…効いたわい…。──よかろう…、ならば儂も手を抜かん…! 貴様を強敵とみなし、儂も本気で相手をしてやろう…!」
おじさんの永気がさっきまでとは比べ物にならない程増幅していく。対抗して私も永気を増幅させ、一触即発の空気が辺りを満たす。
「──桐ヶ谷桂位っ! 近くで戦闘しているとの報告を受けて加勢に駆け付けました!」
睨み合って出方を窺っていると、後方の路地から4人の男がやってきた。発言からしてあの人たちも隊員…、この状況だと敵が増えたってわけだ…。
周辺でパトロールしてたのか…それとも支部から直接応援にきたのか…。どちらにせよ…、こうして加勢に来れるってことは…十中八九この4人は香位以上…。
全員が能力を発現させているのなら敗色濃厚…。っというよりおじさんが桂位って時点で勝ちの目は薄い…。
「よく来てくれた、だが油断はするなっ! 小柄だが奴はとんでもない力を持っとる…、儂が攻めるからお主等はサポートに徹してくれい!」
「了解です…! 4人で連携して隙を突きます…!」
5対1…、状況は絶望的だ…。──でも退けない…やるしかない…! 煌列強化で強引に連携を乱す…!
「ゆくぞ小娘ェ! 貴様の悪行もここまでよォ!!」
「思い通りにやられてたまるか…っ!!」
同じタイミングで踏み出した私とおじさんは、永刃を握る手に力を込めて相手を斬る覚悟を乗せる。絶対に負けるもんか…!
「── “戯空” 」
あと一歩でお互いが攻撃を仕掛けられるところで、突然全身が永気で包まれた。おじさんも同様に包まれ、同じ様に困惑の表情を浮かべた。
後方に控えている4人の仕業ではなく、明らかに別の方向…左側から永気が飛んできていた。誰の仕業なのかを確かめようと左を向くと…──
「へぶゥ…!!?」
「がはァ…!!?」
顔を向けた瞬間…左頬に突然の痛み…。 おじさんも同じ様に右向いて右頬に痛みを覚えたらしく…、2人揃って地べたに横になった…。
一体何が起きたんだろう…、突然永気に包まれて…──むぅ…? 永気に包まれて…? おや…なんだか身に覚えがあるような…。
バッと体を起こして確認してみると、ぼんや~りと頭の中に浮かんでいた人物の姿がそこにあった。
「──何ガチ戦闘しようとしてんだよお前…」
「先生…っ! そういえばすっかり忘れてました先生のことっ!」
「バカタレが」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「──っで?! 貴様は何者だ…っ! よもや貴様がそこの小娘の仲間か…っ?!」
「テンション高えなこのおっさん、苦手だわ~…。──とか言ってる場合じゃねえか、ほらっ朝凪」
「えっ? わわっ!? ちょっと投げないでくださいよ!」
ポイっと投げ渡されたのは待ち望んでいた私の香位証明証。思えば全ては…全てはこの証明書が無かったから起きたんだもんね。
後半ヒートアップしちゃってて頭から抜け落ちてたや…。まあ何はともあれ証明書が手元に届いたので、未だに疑っているおじさんの誤解を解きます。
「ほらおじさん見てほらほらっ! 証明書だよ証明書! 私れっきとした隊員なんですからねっ! これで信じてくれましたかっ?!!」
「お前実は結構疑われてたの根に持ってたろ…」
根に持ってたというよりは傷付いてた方が大きいけど、一応ちょっとやり返そうと思った。証明書を開いておじさんの顔にギュ~ッと押し付けたりした。
受け取ったおじさんは証明書をまじまじと見つめ、それが偽造されたものでないかを念入りに確認している。
「──ふむ…、確かに本物のようだが…。そっちのお主は何者だ…? もしやお主も隊員なのか…? そうならば証明書を見せい」
どうやら先生にすら疑いの目を向けているようだ…。なんとまあ疑り深い性格ですこと…、いや頭が固いだけなのか…?
先生は内ポケットに手を伸ばして証明書を取り出し、開いて前に突き出した。
「東京第一支部所属、特別処置待遇員、階級〝角位〟の穂崎綾音だ。本部か支部の司龍位に確認でもとってくれ」
あっ、今のやり方カッコいいー。今度私も真似しよーっと、練習もしよ。
──むぅ…? えっ角位…!? 先生って角位だったの…!!? 縮さんや由さんと同じ──めっっちゃくちゃ強い人だったのォ…!?
【第69話 小競り合い 完】
穂岬先生──遥か格上…! 次回に続く!
[宜しければ、感想やブックマーク等をよろしくお願い致します!]




