第68話 自由行動
<戦いの技式>
第68話 自由行動
<〔Perspective:朝凪〕>
むぅ…、しかしどうしたものか…。向こうは大勢いるけど…、シンも能力が発現してると考えて、こちら側は能力者2人…。
シン以外に永気は感じないから、強面たちの中に恐らく能力者は居ない…。シンの能力にもよるけど…、最悪力技でゴリ押せる筈…。
──よし…っ! ここは牽制の意味も込めて強化式を──
「よォ…シン…! また来たぜェ…!」
「やあっ、調子はどうかな…?」
強化式を使おうと片手を構えた直後、背後でシンと別の男の声が聞こえた。バッと振り返ると、先頭に居るリーダーらしき男がシンと話をしているらしい。
っというかこの強面たち…もしかして皆シンと知り合い…? ──おっと…? もしかしてこれはまた巻き込まれたパターンか…?
「驚いたなァ、まさかお前にそんなガールフレンドが居たとはよォ…! 吞気にデートたァ…いい御身分だなァ…!」
ガールフレンド…、このガッツリ勘違いは…確実に何かしらに巻き込まれてるなぁ…。沖縄でも不幸体質は健在なようです…。
「僕と朝凪はそういう関係じゃないよ。朝凪とはさっき初めて出会っただけで、僕とはまるで無関係だ」
「無関係──ねェ…。ならなんで連れて逃げたァ…? 無関係ってんなら、あのまま首里城に置いてくりゃあいいだろう」
──っ! 首里城でのことを把握してる…?! ずっと前からシンを追って来てたってこと…?! ──シン何やったの…?
「君たちが良識を持ってるならそうしたけど、そうじゃないからね。君等は堅気の人間だってお構いなし…でしょ?」
「──ハッ、確かにな」
うわぁ…ゲス野郎だゲス野郎…。詳しく分かんないけど…もう私の嫌いな要素が詰まってる…。川嶺共と同類の臭い…。
でもある程度今の状況が見えてきた。シンは何故かこの強面たちに追われていて、シンは私に危害が及ばないように助けようとしてくれたんだ。
でも先回りされて…ってとこか。──っとなれば、やっぱり戦闘は避けられないかも…! 助けようとしてくれたシンの為にも全力で加勢しよう…!
脚のガクつきもなくなった私は立ち上がって永刃を抜いた。それに反応して強面たちも凶器も構えるが、流石にもう気圧されたりはしない。
じりじりと張り詰めた空気がこの場を包み、張り詰めるような緊張感が肌を撫でる。たとえ相手が無能力者だとしても油断はしない…っ!
「──ほんとは相手をしてあげたいけど、今は朝凪が居るんだ。悪いけど今は退いてくれないかな…? ──それに…──君等も踏み込んではこれないだろう…?」
シンがそう言うと、強面たちから一斉に戦意が無くなったように見えた。その変化が気になってシンの方を向くと、いつの間にか足元に5匹の黒猫が佇んでいた。
その黒猫を見たせいなのか、強面たちはどんどん後退りしていく。凄く奇妙な光景…、それだけあの黒猫が恐ろしいの…?
「──チ…ッ! テメェ等引き上げるぞ…! ──また来るぜ…シン…!」
「うん、いつでもおいでよ。出来れば僕1人の時にね…?」
不吉な挨拶を交わすと、わらわらといた強面たちが一斉にはけていった。ものの数秒で辺りは何もなかったかの様な静寂に戻った。
永刃を鞘に戻すと同時に緊張がほぐれ、私は大きく息を吐いた。沖縄に来てまだほとんど経ってないのに…どっと疲れてしまった…。
「それじゃあ今度こそ教えてもらおうかな…? あの強面たちは誰…? なんでシンはあの人たちに追われてるの…? ──この可愛い黒猫ちゃんたちは何?」
「もちろん教えるのは構わないけど…、結構時間掛かるよ? それでもいいなら全部話すけど、朝凪の方は大丈夫なの? 大分急いでたみたいだけど…」
えっ? ・ ・ ・ ・ ・。
「──ああっ!? そうだった私もう行かなきゃっ!! ごめんねちょっとの間だけだったけど楽しかったよっ! それじゃバイバ──」
「あっ待って! それならせめてコレ持ってって!」
そう言ってシンはポケットからペンとレシートを取り出し、急いで何かを書き留めている。やがて手渡されたレシートには、殴り書きで電話番号が書かれていた。
「もし何か力になれることがあったら気軽に電話して? 微力ながら手助けするからさ、それじゃまたね」
シンに手を振って別れた私は、【脚】を使って大急ぎで元の場所に戻った。落ちてきた壁を蹴って上へ上がり、走って皆が居るであろう本殿に戻った。
とりあえず周囲を見渡してみるが、それらしき姿は見えない…。こういう時に探知式が使えれば…──才能ない自分が辛い…。
施設内を見学しに行ってるのかな…? それならここで大人しく待ってればいずれ出てくるかな…? でも居なかったら意味ないよなぁ…、どうしようか…。
「貴方…こんなとこで何してるのよ…」
「ひゃヒィ…ッ!!? び…びっくりし過ぎて変な声出ちゃいましたぁ…」
背後から声を掛けてきたのは、我らが学校保健師の空見先生。2ヶ月前に1度怒られたことが原因か…、空見先生に対してちょっとびびりになってしまっている…。
「班の皆はどこ? ──…まさか迷子じゃないわよねェ…」
「あははっ…──あー…そのまさかですゥ…」
空見先生は額に手を当てて「あちゃ~…」っと言わんばかりに肩を落とした。ほんと…退学した後も世話を焼かせてすみません…。
そこからは空見先生と一緒にナキちゃんたちを捜した。3人にそれぞれ電話を掛けてみたが、全員繋がらない…。
マナーモードになっているのか電源を切っているのか…、それともカバンの中に入れてるせいで気付けてないのか…。
マズい…マズいぞォ…? このままだと考えうる中で最悪の展開になってしまう…、それだけはなんとしても回避しなければ…──
[──ピンポーン! 迷子のお知らせを致します! 東京からお越しの桧凪朝凪さん! 総合案内所でお連れの方がお待ちでーす!]
「あーあー…、あの子たちったら…。そこまでしなくたっていいのに…、とにかく総合案内所に行くわよ。──大丈夫…?」
「──恥ずかしくて前が見れません…」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「──おっ! 朝凪ようやく来たかっ! 心配したぜ…」
「あっ…うん…その…、うん…私もアイタカッター…」
なんかもう恥ずかしくて皆の顔見れない…顔熱い…。純粋な心で心配してくれてるナキちゃんが眩しい…、顔熱い…。
「それデ? 途中までは一緒だったのニどこ行ってたんダ?」
「あー…えっとね…──猫追いかけてました…」
「エ…ッ? 首里城<猫なの…? 世界遺産だぞ首里城…」
流石に全部正直には言えない…、っというか多分言っても分かんない…。猫から永気を感じてね~なんて…隊員か異能犯にしか伝わんないだろうね…。
それになにより…立ち入り禁止エリアに行ってましたなんて正直に暴露しちゃったら…──ぜっったいに怒られる…! 特に後ろに居る空見先生に…!
「どうして猫を追いかけたの? 何か特別な猫だったの?」
「そ…そうだね…、うーんと…毛が黒かったの…」
「東京にも居るダロ黒猫ハ」
その後若干疑われながらもなんとかやり過ごせました、あぶねー。ただもう集合時間まで時間がない為、施設内を見学することは出来なかった。
でもどうやら3人はしっかり施設内を見て回ったそうで、私が居ないのに気付いたのは外に出てからだったらしい。──…まあ楽しんだならオッケーですが…。
それから微妙に余った時間を使ってお土産屋さんを楽しんだのち、バスに乗り込んで首里城を後にした。
余談だけど皆2千円札って知ってるかな? お土産屋で買い物した時にお釣りで渡されてびっくりしちゃった…! ほんとにあるんだね2千円札って。
その後首里城を後にしたバスは再び那覇市の街に戻ってきて、昼食をとる為のご飯屋に到着した。もうお腹ペコペコですっ!
ちなみに他の見学場所を選択した皆とはそれぞれが別の場所でご飯を食べる予定なので、お店が生徒でパンパンになることはないです。安心だね。
料理が出来上がるまでの間は、私が見れなかった施設内を教えてもらったり、私が失踪したことをからかわれたりした…。
そして満を持して運ばれてきた料理は、重箱のような器にパンパンに詰められた沖縄料理のオンパレード! この中に沖縄の食文化が詰まっているかのよう!
そこからは暫し沖縄料理に舌鼓を打った。ゴーヤチャンプルー、ミミガー、ラフテー、エトセトラetc…、どれもこれもめちゃくちゃに絶品で堪らない!
特にコレ! 噂には聞いていた沖縄名物“海ぶどう”! 磯の香りとプチプチの食感がもう──…これをお土産に買って帰ろうと心に決めた瞬間でした。
ん~♪幸せ~♪ by朝凪
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
胃の中が幸福で満たされたところで、いよいよ生徒全員が一番楽しみにしている時間がやってきた。そう──自由行動である!
ご飯屋さんの中で注意事項の再確認を行い、食べ終えた班からお店を出て自由行動がスタート。次は心がワクワクで満たされています!
「高鳴ってきたな~。もっかい行き先の確認しとくか、巴が食い終わるまで」
「ん…っ! ごめんね、もうちょっと急ぐわ…」
「急がなくてもイイゾ? 私とナキも結構腹キツいからナ…」
「なんで私省いたの? 確かにキツくないけども」
私たちの中で巴ちゃんは一番食べるのが遅いです。何故ならきちんと30回以上嚙んでから飲み込んでるから、凄くない? ほんとだよちゃんと数えたことあるから。
巴ちゃんがせっせとご飯を食べてる間に、私たち3人はスマホで目的地へのルートを調べる。まず向かうのは人気のビーチ! やっぱり海は見ないとね!
「水着ねえから入れはしないけど、足くらいはパシャパシャしてえよな~。天気良いし波も穏やかだろうし」
「いいね~♪ 私ヤドカリ見つけたい♪」
「ウミウシとかいるカナ?」
各々が海でやりたいことを自由に述べると、それだけ楽しみも際限なく膨らんでいく。そして巴ちゃんが食べ終わり、遂に私たちも動く時がきたっ!
「それじゃあ先生っ! 行ってきま~す!」
「はーいいってらっしゃい、気を付けるのよ~」
お店のドアを開けていざ出発っ! 目指すは綺麗な海が楽しめる人気のビーチ! 現在地からそこそこ離れているけど、マップを見ながら頑張って向かいます。
タクシーとかバスとか使えば早いけど、あえて歩いて街並みを楽しむのも乙だよね~。食後の運動にもなるし一石二鳥! ──…太りたくもないしね…。
っということで海に向かってレッツゴー!────
「──あーっ! 皆見て見て皆っ! 海見えてきた~!」
「あらほんと、キラキラしてて綺麗ね」
大体3~40分歩き続けたところでようやく景色が変わり、優しい潮風が吹き抜ける海沿いの道へと出た。
陽光を反射した海は言葉を吞む美しさで、遠くに見える漁船さえも輝いて見える。夕方はきっとこれ以上に美しいのだろう…、海っていいね。
海を眺めながら少し進むと、道幅が広い開放的な歩道へと変わっていった。間違いなく綺麗な夕陽を堪能する為の場所なんだろうね。
ここらで念の為もう一度マップを確認し、目的地のビーチまではあと10分程で着くことが分かった。
工事とかで道が封鎖されてなければ、このまま道沿いに進んで問題なし!
「どんどん楽しくなってきたね~っ! 子供みたいにはしゃいじゃいそうだよ!」
「割といつもだぞ、いつもお前ははしゃいでる」
「走ると危ないわよ」
またナキちゃんたちが保護者化しだしたが、今の私は誰にも止められない! 遊園地に遊びに来た子供ぐらいに止められないぞっ!
「アハハハッ♪ ──…っ! 皆離れてっ!! “幡 強化式 【脚】” !!」
突如10時の方向からこっちに向かって急接近してくる永気を感じ取った。楽しい感情を押し込めて、迫りくるその存在に向けて永刃を抜いた。
“ガキーーーン!!”
次の瞬間耳が痛くなる程の金属の衝突音が周囲に響き渡り、その勢いは辺りに突風を生んだ。
「うおお…っ!? なんだァ…!?」
「…っ! 朝凪大丈夫カ…っ!?」
「なん…とか…っ! 皆はもっと離れて…っ!!」
皆を遠ざけ、私は永刃を挟んで向こう側にいる人物を睨んだ。その人物は背の高い男で、ちょびひげが特徴的な…おっさん…。
【脚】の力でなんとか踏ん張れたが…、それがなければ勢いよく後方にぶっ飛ばされてた…。当然素の腕力は私より上だし…、なにより気になるのはあの速さだ…。
100メートル以上は間があったのに…、僅か1秒も経たずに距離を詰められた…。幡式の効果なのか…──それともこのおじさんの能力なのか…。
それに突然襲ってきた理由も分からない…、もしかしてシンを追ってた連中の仲間…?! だとしたらなんだって私を狙うんだよ…?!
「なんですか急に襲ってきて…っ! 何者ですか…っ!」
「──何者だとォ…? それはこっちのセリフじゃいっ! 貴様こそっ! こんな白昼堂々知らん顔で道を歩いて…──何を企んでおる…っ! 説明せい異能犯…っ!」
異能犯…異能は…、え…っ? もしかしてだけど…この人隊員…? 沖縄のどこかしらの支部の人…? 今私の方が悪者サイド…!?
「ちょっ…ちょっと待ってください…! おじさん隊員なんですよね…?! 私も隊員なんです…っ! だから敵意を解いてください…っ!」
「何ィ…? 噓をつけいこの小娘が…っ! 貴様のような者は一度も見たことがないわ…っ! この醜い異能犯めが…っ!!」
おじさんは思いっ切り私のことを押して距離を取った。永刃を構えて攻め込もうとする姿勢…、聞く耳持たないって感じだ…。
とはいえ…、同じ隊員の人なら…できる限り戦いたくはない…。なんとか説得して永刃を収めてもらわなくちゃ…。
「私は今沖縄に…えー…観光しに来てるんです…っ! だから所属してる支部が沖縄じゃないだけで、私は正真正銘の隊員なんです…っ!」
「まだ言うか…、なら証拠を見せてみい…っ! 証明証だ…っ! 証明証を提示してみろい…っ!」
「分かりましたよ…! 証明証ですね証明証…、証明し…──ハ…ッ!?」
全てのポケットに手を突っ込んで確認するも…証明証が見つからない…。そしてその瞬間──脳裏に浮かぶあの場面…。
“沖縄で証明証失くすと大変だから、今のうちに私に預けとけ。”
穂岬先生が持ってるーー…! じゃあ私持ってないじゃん…! ダメじゃん…! 今だけはめっちゃ悪者じゃん私…!
「ほーれ見たことか、やはり持っておらんではないか。これで確定…! 沖縄第一支部の誇りにかけて、貴様を断罪してやるわい…! 覚悟せい異能犯…!!」
「──かわいいな…コレ…」
「わあっほんとですね。穂岬先生ってそういうストラップお好きですもんね」
博物館を選択した生徒たちが全員昼食を食べ終えた後は、生徒同様に教師たちにも少しの自由な時間がある。
その時間を使って、穂岬と木実は近くのお土産屋に足を運んでいた。
「色違いも結構ありますね~、空見先生の分も買って3人でお揃いしましょうよ。私はピンクにしようかな~」
「私は無難に赤にしといて、空見先生は…──まあ緑でいいかな。他にも何かめぼしい物はないものか…──あん?」
店内を歩いて見て回っていると、不意に穂岬のスマホに着信が入った。画面には“不藤”の文字が映っており、穂岬は人の少ない角に移動して電話に出た。
「おう私だ、どうした?」
[岬先…! 朝凪が変なヒゲに襲われてバチバチに戦ってんだ…っ! なんかヒゲも隊員みたいなんだけど…朝凪が隊員だって信じてくれなくてそれで…──!]
「オイちょっと落ち着け…! 相手も隊員なんだろ…?! なら朝凪に証明証見せて疑いを解けって…──ああ…そういうことか…」
ここで穂岬も気付く──朝凪の証明書を持っているのが自分であるということに。朝凪の戦闘がほぼほぼ自分のせいだということに。
穂岬はナキから現在地を聞き、木実に事情を説明してから急いで店を出た。【脚】を使って建物の上を跳び移り、最短で朝凪たちの下に向かう。
「──無事でいろよ…朝凪…」
【第68話 自由行動 完】
沖縄でも変わらず戦・闘っ! 次回に続く!
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