第67話 沖縄の大地
<戦いの技式>
第67話 沖縄の大地
‐10:05‐
[──皆様、当機はまもなく着陸いたします。シートベルトの締め忘れがないよう、今一度ご確認くださいませ]
「んっ、もう着くのね。ほら朝凪、見えてきたわよ」
「ほんと? ほんとだー! 見えてきたー! 海キレー!」
<〔Perspective:朝凪〕>
空港から出発して大体3時間、飛行機の窓からついに沖縄の大地が見えてきた。雲一つない快晴! 輝く青海原! そこに挟まる沖縄県! 絵になる~!
そしてあの大地に降り立つまで残すところあと数分! 景色を見るだけでワクワクが止まらない心を抑えて、着陸の衝撃に備える。
やがて機体がズシンッと揺れ、窓の外には空港と滑走路が広がっていた。ひとまず事故らず無事に着陸できて一安心。
「ナキちゃーん! 無事に地上に戻ってこれたよ~、そろそろ目覚めてね~」
「──ほんとに地上ぉ…? 天国じゃなくてぇ…?」
「大丈夫、生きてるよ生きてる」
涙目で生還を喜ぶナキちゃんを連れて、前の方から順に降りていく。一歩飛行機から外に出ると、早速沖縄を全身に感じられた。
空港に降り立って最初に感じたもの──それは気温の違い…! 11月の東京はまあまあ寒いけど、対して沖縄は真逆な印象。
空港内の電光掲示板には22℃と表示されており、上着を1枚脱いでも過ごしやすい環境だ。これが沖縄──素晴らしい…!
空港の外に出ると、景色は一層常夏の国。ヤシの樹?らしき樹が道に等間隔で生えており、薄っすら潮の香りもする。
「それでは全員、事前に選択していた場所に向かうバスに乗り込んでくださ~い! 居ない生徒はいませんね?」
沖縄県立博物館、旧海軍司令部壕、そして首里城。私たちはこの中から1箇所を選択し、これからそこに向かいます。
ちなみに私はナキちゃんたちの行き先に同行するので、皆が選択していた首里城に行くことになりました! いいね!
っというわけで早速バスに乗り込んでレッツゴー! 道中の街並みも堪能しながら首里城を目指します。
「見て見て萌夏ちゃんっ! 海綺麗っ! 11月なのに皆薄着っ! シーサー!!」
「子供みたいニはしゃぎやガッテ…、キラキラが漏れてるぞ全身カラ…」
ずっと楽しみにしていたから、目に映る全てが新鮮な光景に置き換えられる。東京でも見るようなものにすらワクワクを感じる。
このテンションで首里城なんて行ったらヤバいかもなぁ…、外国人観光客よりもはしゃいでる変な人に見られるかも…。
着くまでにワクワクを少し落ち着かせないとだ…──
─移動中でーす─
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「来たね首里城っ! 見て見て門めっちゃデカいよっ! ほらほらっ!」
「ほんとだデケー! 壁タケー! ウハハッテンション上がってきたナ!」
「おめーもじゃねえか…」
「まあしょうがないわよ、あの2人が一番修学旅行楽しみにしてたもの」
幼子のように盛り上がる私と萌夏ちゃん、親のように見守るナキちゃんと巴ちゃん。あれ…? ほんとに同い年なんだよね私たち…?
そう考えると突然冷静になってきた…、私も年相応の反応をしよう…。なんか恥ずかしくなってきた…めっちゃ子供に見られてるし…。手振ろう。
──ゴホンッ、それじゃあ気を取り直して早速中に…──
「桧凪さーん! ようやく会えましたわね~! 愛しの梅木ですわよ~!」
ありゃー…来ちゃったよ私よりテンションがおかしなすずちゃんが…。もうダッシュで…、それも満面の笑みで…。
「うぉいっ! テメー梅木近寄んじゃねえ…っ! さっさと自分の班に戻りやがれナチュラルサイコパス…!」
「誰がナチュラルサイコパスよ…っ! 私はただ真っ直ぐに桧凪さんを愛してるだけの純情な乙女ですわっ! ね、桧凪さん?」
「うぇ…!? ──うーん…ちょっと要審議かな…」
正直どっちか判断できない…。純情な乙女だともナチュラルなサイコパスとも思えてちゃうし…、あんまり触れないでおこう…。
でも実際ここからどうしようかな…? たぶーん…すずちゃん退かないよねー…、早く首里城を堪能したいんだけどなぁ…。
「おーい梅木ちゃーん! 私たち先行っちゃうよ~!」
「ああっ待ってください…っ! 私も行きますわ…っ! それじゃあまた後でね桧凪さん、バイバーイ!」
「──…嵐みたいな奴だな…アイツ…」
同じ班の人がすずちゃんを呼んでくれたおかげで解放された…、なんかめっちゃ疲れてしまったよ…。
とは言えこれでようやく首里城内を歩き回れる…!
「行くゾ朝凪っ! レッツ首里城~!」
「うわ~い! 琉~球~!」
「ちょっ待てお前等っ! だからそんなはしゃぐなっつの!」
「ふぃー。そこそこ歩いたけど、まあまあゆったり見て回ってるせいでまだ半分ぐらいか? 結構見応えあんだな、首里城って」
「そうね、ちょっと疲れてきちゃったわ…。でもちんたらしてるとほら…、無限体力の2人がどんどん先行っちゃうから…」
あちこち動き回る私と萌夏ちゃんに振り回され、巴ちゃんは少しお疲れ模様。現在居るここは“奉神門”ってとこなんだけど…あとどれくらいあるのかな?
とりあえずこの門の先にある“御庭”ってとこと本殿だけでも是非見て帰りたいので、巴ちゃんにはもうちょっと頑張ってもらいます。
ってことで門をくぐっていざ御庭に突入! 関係ないけど御庭って書いて御庭って初見で読める人居るのかな?
門の先には圧倒されるほどの空間が広がっており、更にその先に待ち構える本殿は言葉を吞む力強さを纏っている。
「おお~! カ…カッコいい…!」
「確かにこれはスゲーな、スゲー絵になる…」
しばらく私たちはその光景を見つめたまま立ち尽くしていた。なんだろう…なんだか浄化されてくような…、浄化されるだけ悪いことしてないけどね…?
「外観でこれならさぞ中ハ神々しいことダロウ…、早速入ってみようゼッ! 今の私は誰にも止められないゾ!」
「あっちょっと萌香! まったくもう…萌香ったら…、私たちも追いましょう」
先走って行ってしまった萌夏ちゃんを追うために走り出す私たち、──っがその直後私は足を止めた。
不意に何かが気になって左の方を向くと、少し離れた所に1匹の猫が佇んでいた。黒い毛並みが美しいその猫は、私と目が合った途端に逃げてしまった。
それを見た私は無意識に猫を追いかけていた。理由はあった──どこからどう見ても普通の黒猫なのに、その黒猫からちょっぴり永気を感じたからだ。
永気を帯びた黒猫──明らかに普通の猫じゃないのに、不思議と嫌な予感はしない。ただ興味本位だけが原動力となって、私は猫を追いかけた。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
気付けば周囲に人は居らず、私と逃げる黒猫だけになっていた。おっと…これはマズいことになってるかもしれないぞ…。
流石に戻んないとヤバいかも…、多分皆も心配してる筈…。なにより引率の先生たちに怒られちゃう…! 空見先生にまた怒られる…!
そう思った私は猫を追いかけるのをやめて、急いで皆の下に戻ろうとした。だがそこでまた私の足は止まってしまった。
黒猫が向かう先に、壁に寄りかかって景色を楽しむ人物がいた。帽子を被り、長い後ろ髪が特徴的なその人物は、性別が分からない抽象的な顔立ちをしている。
黒猫はぴょんっと肩に乗ると、その人は優しく猫を撫でた。その流れで私はその人物と目が合ってしまった。
「──っ? あれれ、どうしたの? 僕が言うのもなんだけど、ここって確か立ち入り禁止されてなかったかな…」
おっと…先生に怒られるとか云々にもっとヤバい状況にあるっぽいぞ…!? これ警備員に見つかっちゃったら最悪連行されるんじゃ…っ!?
「まあでも結構ここ見つからないから大丈夫だよ。君もこっちにおいでよ、ここから見える景色が綺麗なんだ」
めっちゃ他人事な男?女の人?は、微笑みながら私に手招きを向けてきた。声を聞いても性別どっちか分かんない…、一人称的に男の人…? 歳近そう。
ほんとは今すぐ戻らなくちゃならないのだが、あの人の独特な雰囲気が妙に気になってしまう。──結果、隣まで移動していた。
「ほら綺麗でしょ? ここ僕のお気に入りの場所なんだよね。──僕“シン”って言うんだ。君は?」
「私は朝凪、よろしくね。えっと…その…」
「シンでいいよ。それともあれかな? 男だよ僕」
まだ何も言ってないのに性別を言ってきた…、分かられにくいの自覚あるんだ…。呼び方で困ってただけなのになぁ…。
シン──沖縄に来て一番最初に出会った人。ちょっと不思議なオーラを纏ってるけど、人柄の良さそうな人だ。
「それじゃあシン、1つ聞いてもいい? その…肩に乗ってる猫なんだけどさ…、その猫ってシンが飼ってる猫なの…?」
さっきは逃げられていたせいで定かじゃなかったけど、シンの肩に大人しく座っている猫からは確かに永気を感じられる。
疑いたくはないけど…万が一にもシンが異能犯だった場合…、何かを企んで首里城居る可能性がでてくる…。そうなると皆にも危険が及ぶかもしれない…。
「ああこの猫? 飼ってるって言うと嘘になるけど、僕の猫ではあるよ。気になる? 隊員さんは敏感だね」
シンは私が隊員であることを知っていた…、まあ分かり易く永刃を腰に差してるから当然かもしれないけど…。
私が隊員だと気付いていても、シンに敵意のようなものは一切感じられなかった。もしかしてシンも隊員なのかな…?
腰辺りに目を向けてみるが、永刃らしきものは見当たらない。かわりに何故か刀の柄部分だけが、ベルトに固定されている。変わったアクセサリーだぁ…。
「ほら触ってごらん、──って言っても君は触れられないけどね」
言われるまま猫に手を伸ばすと、手は猫の体を透けて抜きぬけてしまった。猫に触れている部分には弱い圧が掛かってきて、猫の正体が永気だと判った。
目に見える毛並みから仕草まで、ほんとに生きてる様だ…。すごい──私には絶対出来ない永気操作だ…!
「すごいでしょ? ──あっ心配はいらないよ? 僕も隊員だから、ほらっ証明証」
そう言ってシンはポケットから証明証を取り出した。しっかりとL-gstの印がついているので、これは間違いないだろう。
その後シンは自分が〝沖縄第一支部〟の隊員で、私と同じ香位であることを教えてくれた。香位になって間もないらしく、優美ちゃんたちと同い年なのかな?
なんて考えていると、忘れていた事がぼんやり頭の中に浮かんできた。それもかなーり重要な事を…。
「──ハ…ッ!? こんな事してる場合じゃなかった…っ!? 急いで戻らないと…っ!? ごめんねシン、私もう行くね…っ! ちょっとの間だけだったけど楽しかっ──ふぇっ!?」
焦って皆の下に戻ろうとシンに背を向けた瞬間、私は何故かシンに抱えられた。しかもお姫様抱っこ…、なんで…!? めっちゃ恥ずい…///!
「ごめんね、ちょっと揺れるけど我慢しててね」
「ふぇ…? 揺れるって…? 何するつもりで──エエエエエエっ!!?」
状況を理解できずにあわあわしてると、シンは詳しい説明をしないまま走り出し、そのまま勢い良く塀を飛び越えた。
塀の向こうに足場はなく、ずっと下に住宅や生活道路が見えるのみだった…。 そう──落下します…っ!
「うわああああああっ!!!? なんでェェェェェ!!?」
「説明は後でするから、手離さないでね。あと舌嚙まないように」
シンは擁壁に足をつけて、滑るように落下していく。速度がどんどん速くなる度に、恐怖も比例して増幅する。
シンも隊員だから強化式とかでしっかり着地してくれるとは思うけど…、万が一が怖すぎる…っ! 前に倒れ込んじゃったら私が大ダメージ受けちゃうゥ…っ!
「── “景遣士” …、見てこい…」
シンがそう言うと、肩に乗っていた黒猫が勢い良く前に飛び出した。こっちもかなりの速度が出ているのに、それを軽々超えて道路へと降り立った。
しかし私たちの方も徐々に道路との距離が近くなって、もはや猫に意識を向ける余裕がない…。一層血の気が引いてく…。
「──よー…いしょっと!」
「ヒィィ…ッ!?」
滑らかに着地するのかと思いきや、道と壁の境界付近で勢い良くシンが跳んだ。突如Gが首にかかって、鈍い痛みが走った…。
その後はシンが住宅の塀に両足をついて勢いを殺し、なんとか怪我なく…──訂正…軽傷程度で着地できた。
「よいしょっと、ごめんね? 大丈夫? 最後跳ぶ前に言えばよかったね…、首とか痛めてないかな…?」
「うん…いやうんじゃないけど…、でも大丈夫…すぐ治るから…」
私は首をさすりながら、シンの手を借りてゆっくりと立ち上がった…。まだ脚がガクガクしてる…、正座終わり位ガクガクしてる…。
「それでぇ…? なんであんな…、ロマンチック心中みたいなことを…」
「ロマンチック心中…が何か分かんないけど…、ちゃんと説明するよ…。えっとね…──っ! ごめん、こっち来て!」
「うぇぇ…!? ちょっと待ってよまだ脚ガクガクなのに…」
ワケも分からぬまま、私は手を取られて走り出した。なんかもう頭がおかしくなりそう…、私なにやってんだろ…。
その後少しの間手を引かれ、狭い路地に入ったところでシンは歩を止めた。脚がガクガクすぎた私は…また地面に座り込んだ。
建物間の日陰で地面はひんやり冷たく、走って火照った体が喜んでいる。そのまま少し呼吸を整えて、もう一度シンに訊ねてみる。
「ハァ…ハァ…、ねぇ…ほんとに説明が欲しいんだけどぉ…。ほんとなんなのぉ…? もしかして新手のナンパだったりs…──っ!」
微かに聞こえてきたのは…こっちに向かって来てるであろう足音…。それも1人2人じゃない…、かなり大勢…!
私は片膝をついて背後を向き、永刃に手を置く。その直後建物の角から姿を見せた大勢の男たちは、明らかに堅気の人じゃない雰囲気だ。
全員強面で…、しかも手にはナイフやらハンマーやらの凶器が握られている。ヤンキー…? ヤクザ…? よく分かんないけど…物騒な連中だ…。
逃げ道を確認する為に後ろを向くと、いつの間にか反対側にも強面たちが集まっており、退路を断たれた状況になった…。
強化式を使えば上から逃げられるけど…、まずはコイツ等の目的を知ってからじゃないと危なっかしくて逃げられない…。
住民に危害を及ぼそうとしてるなら…隊員として見逃すわけにはいかない…!
【第67話 沖縄の大地 完】
シンとの出会い、そして戦いの─予感…? 次回に続く!
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