第66話 TAKE OFF
<戦いの技式>
第66話 TAKE OFF
──学校を退学してから大体2ヶ月が経った。沖縄の事を調べたり、異能犯と戦ったりしているとあっという間だった。
そして遂に今日日──修学旅行当日を迎えた。
<〔Perspective:朝凪〕>
現在時刻6:10。まだ辺りは薄暗く、今日は白い息が出るほど肌寒い。そんな明朝に私たち…──私と2年生は学校の前に整列していた。
とは言っても私が整列しているのは先生たちの列だけどね…。皆と一緒に並んでたかったけど…こればっかりはしょうがないね…。
そして今は恒例の校長先生のありがたいお話中。それなりに良いこと言ってるんだけど…なんでこう眠くなるんだろ…、ふわぁ…。
「──次に今回の修学旅行に同伴して頂くL-gstの隊員の方々を紹介致します。ではどうぞこちらへ」
校長先生に呼ばれた私は、眠気を押し殺して前に出た。──うわぁ…なんか凄い緊張する…、並んで座ってる生徒の後ろに保護者が立ってるからだろうね…。
でも実はそこまで心配する必要もないのだ。何故なら今の私の姿は、元の姿とは全くの別人の容姿になっているからです。
元の姿のままで並んでしまうと、私を知っている保護者にバレちゃうからね。なので現在私は縮さんの能力で別人に見せてもらっています。
ちなみに縮さんも幻覚の力で保護者の中に紛れています。私の為に早起きまでしてくれて…、お土産沢山買ってこよう…。
ついでに私の隣りに永刃を携えた2人の男が居ますが、これも幻覚です。雇った隊員が1人だけだと保護者の方々が心配しちゃうからね、一応ね。
「東京第一支部からお越し頂いた隊員3名です。確かな実績のある3名に護衛をお願いしたので、生徒の皆さんは安心して修学旅行を楽しんで下さいね」
私と隣の幻覚は小さくお辞儀をして列に戻った。流石に喋ると声で怪しまれちゃうかもしれないからスピーチはなし、ラッキーだ。
そして校長先生の話が終わり、いよいよ出発の時がやってきた。A組から順にバスに乗り込んでいき、私も穂岬先生たちと一緒にB組のバスに乗り込んだ。
全員が乗ったことを確認すると、バスはゆっくりと前に動き出した。保護者に手を振る皆に紛れて、私も縮さんに手を振った。
バスは学校を離れ、高速道路に向かって走り出す。そして──
「おっ? おおー! ほんとに朝凪だ…、いや知ってたけど実際にこう見るとスゲーな…。おはよう朝凪」
「おはよう皆!」
バスが学校を離れて縮さんの効果範囲外に出たことで、私にかかっていた幻覚が剝がれた。ここからはようやくただの朝凪として皆と一緒に行動出来るわけだ。
っというわけでナキちゃんの隣に座って、空港に着くまでお喋りを楽しみたいと思います。これも醍醐味の1つだよね!
「2ヶ月位しか経ってないのになんか久々に感じるな、元気にしてたか?」
「うんっ! 先週異能犯を2人倒したんだ~、すごいでしょ~♪」
パトロール中に明らかに挙動不審な2人組を見つけて声を掛けたら、案の定異能犯で戦闘になったのだ。中々強かったけど頑張って勝てた。
「──ほぉ…? なんだか気になる内容が聞こえてきたぞォ…? ちょっと詳しく聞かせてもらえるかな朝凪ー?」
「うっ…! いやあのですね…、ちょっと落ち着きませんか穂岬先生…」
ナキちゃんにご機嫌に話をしていると、前の席に座っていた穂岬先生が、額に血管を浮かべながらニッコニコの笑顔で振り返ってきた。
この感じは…間違いなく良からぬ展開になるやつだ…っ!!
「なになに? 異能犯と戦った…? しかも2人ィ…? ──テメェ…僅か2ヶ月間普通に過ごすことも出来ねえのかァ…!!!」
「ギャアアアアアアッ!!? 久々のアイアンクロー痛ったァァァァ!!? 爪っ! 爪っ! 先生爪立てるのはやめてェェェェェ!!!」
─指導中(体罰)─
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「──ったく…、万が一大怪我で入院なんて流れになったらどうするつもりだ? 世の為人の為に頑張るのは構わないが…ちょっとは自分の為にだなぁ…」
「──はい…あのほんと…すみませんでした…」
「楽しい筈の修学旅行行きバスで何やってんだよ…、大丈夫か朝凪…?」
椅子の上で正座をして頭を下げる私に、ナキちゃんの同情の眼差しが刺さる…。ほんとなにやってんだろうね私。
足を崩して元の姿勢に戻ると、通路を挟んで反対側に座っている萌夏ちゃんと巴ちゃんに目が留まった。
2人はスマホで何かの動画を見ているようで、私の視線に気付かず熱中している。
「2人共~! な~に見てるの~?」
「オイコラ朝凪、走行中は席立つな」
2人が何を見てるのか気になった私は、先生に注意されながらも2人に近付いてスマホの画面を覗き込んだ。
むぅ…? なーんか見覚えあるぞ…? これって確か──はっ!?
その正体に気付いてバッと萌夏ちゃんの方を向くと、ニヤニヤしながら私を見ていた。それは学校で見た私と異能犯との戦いの動画だった。
「ちょちょちょっ!? なんでそれ見てるのっ!? ってかもう消してよその動画っ! それその後私負けちゃうから恥ずかしんだけどっ!」
「オイオイ何を言うのかネ~、こんナ素晴らしい動画ヲ消すわけがないダロ~。ナンナラ他の動画も欲しいくらいダ」
手を伸ばして巴ちゃんのスマホを取ろうとするが、ニヤつく萌夏ちゃんに阻まれて届かない…。後で消しておかなければ…。
「それにワタシ等の動画を消しテモ無駄ダゾ? お前ガ隊員だと判明してからとイウもの、クラス全員がこの動画ヲ保存してるからナ」
「えぇっ!? 皆持ってるのこの動画!? ──えっホントー?」
「「「ホントー!」」」
マジでした…、なるほどなるほど…これは大仕事になりそうだね。今夜の沖縄のホテルで一室ずつ消して回っていこう。
そう心の中で決心して私は元の席に戻った。
「──もしかしてナキちゃんも持ってる…?」
ジーッとナキちゃんを見つめると、ばつが悪そうに目を逸らした。更に顔を近付けて無言の圧力を掛けると、ナキちゃんは観念したように口を開いた。
「まぁ…一応…? お前のカッコいい姿だし…、たまーに見るくらいだけどな…?」
「実は私も持ってますよ♪」
「私もあるぞ、あと空見先生」
「えええっ!? 先生たちも持ってるんですかァ!?」
前の席から木実先生と穂岬先生がスマホをちらつかせてきた。なんでそこまで大人気なの私の動画…!? 普通に生き恥なんですけどー!?
恐る恐る先生のスマホに手を伸ばそうとしたが、頭を軽く掴まれたので諦めて手を引っ込めざるを得なかった…。
「ったくよぉ…この動画とお前の正体が知られたせいで色々面倒なんだぞこっちは…。命知らず共をあしらうので手一杯だ…」
「命知らず共?」
先生の話によると、私と先生の影響を受けて卒業後に L-gstへ入隊したいという生徒が複数いたそうで…。
先生たちは生徒の意思を尊重したいと思いつつも、可能ならば普通の道を進んでほしいと必死に説得する日々が続いているらしい。
特に穂岬先生には頻繫に色々聞きに来る生徒が増えているんだそう。まあなんかカッコいいもんね、教師であり隊員でもありって。
でもそれが可能なのは、あくまで先生が特別処置待遇を受けているからだ。普通に隊員になってしまっては叶わない。
かと言って特別処置待遇は受けようと思って受けられるものじゃないからね…、私みたいに拾っちゃわない限り…。
「私みたいにはなれないんだぞって言っても諦めない奴も居るからなぁ…、「それでもいいですっ! 俺隊員になりたいですっ!」っつう命知らずがな…」
「ちなみにその内の2人は黒澤くんと飯橋くんなんですよ」
やっぱB組にも居たのか命知らずが…。運動神経の良い黒澤はともかく…、窓ガラス4枚割った飯橋は絶対許可されないだろうな…。
「一応アイツ等もお前の動画を教本代わりに視聴してるぞ」
「オイイッ!! 消せ黒澤ァ! 飯橋もォ!」
「「嫌でーす!!」」
とりあえずアイツ等のだけは絶対に消そう、彼等の為にも。ついでに飯橋のはスマホの画面割ってやろう、窓ガラスみたいに。
そんなやり取りを続けながらも、バスは空港へ向けて走り続ける──
「──はーい皆っ! そろそろ着くから降りる準備しといてねー!」
「寝てる奴いたら起こしてやれっ! ──ほらお前等も起きろ」
「んあ…っ!? うーん…おひゃようごじゃいますぅ…」
いつの間にか寝てしまっていた…、まあ朝早かったししょうがないね…。そしていつの間にか空港のすぐ近くまで来ていた。
すっかり空は明るくなっていて、眩しい陽光が顔を照らす。修学旅行にはうってつけの快晴、気持ちがいい。
「ほらほら2人も起きて~、もうすぐ着くってさ~」
「ん…っ、意外と早かったわね…」
「ン~…あとガッツリ40分ダケ…」
再び寝に入ろうとする萌夏ちゃんに軽い往復ビンタを食らわせつつ、バスの中に忘れ物がないように念入りに持ち物をチェックする。
全員が降りる準備を整えると同タイミングで、バスも空港に到着した。運転手さんにお礼を言って、組ごとに整列する。
そしてA組から順に手荷物検査などをして搭乗ゲートを目指すのだが──
「オイ朝凪、お前は私とこっちだ。手続きあっからさっさと来い」
「ふぇ…? 今から手続きですか…?」
詳しく内容が分からぬまま、私は黙って先生の背中を追って空港内に入った。平日の明朝にも関わらず、中には大勢の人が行き交っていた。
背広に身を包んだ仕事できそうな男の人や、他国から遊びに来た外人さんなど十人十色。流石は日本の玄関口と言われるだけある。
ただ先生について歩いていると、やがて受付カウンターが見えてきた。先生は受付のお姉さんに隊員の証明証を見せると、直ぐに理解して私と先生を奥に案内してきた。
着いた場所は小さな部屋。たまにテレビで見るような部屋…、麻薬とかで取り調べ受けるような部屋…。やましくないのになんか不安になる…。
「先生…これってなんの手続きなんです…?」
「ん? なんのって…機内に永刃を持ち込む為の手続きに決まってんだろ? 正規の隊員であっても、安全の為に一応手続きがいるんだよ」
「そうなんですよ、でないと他のお客様が不安になってしまいますから。──では証明証をお預かりしますので、お二人は先に進んでください」
言われるまま証明証を受付のお姉さんに預けると、受け取ったお姉さんは証明証と共に奥の部屋へ行ってしまった。
「偽造かを確かめるんですか?」
「いや正確には証明証に記載されてる支部にちゃんと在籍してるかどうかのチェックが目的だ。…まあそれ目的もあるだろうがな、ほら行くぞ」
私と先生は向かいのドアを開けて先に進むと、よく見る持ち物検査の機械と金属探知機があった。本来は検査で引っかかった人の再検査用の場所なんだろうか?
なんて疑問は置いといて…、私と先生は職員さんに永刃と手荷物を預けて金属探知機に向かった。
この金属探知機のゲート…、これもまた不安を煽るよねー…。絶対大丈夫だって分かってても怖いよね…、ゴキブリと一緒…根源的恐怖…。
内心びくびくしながらゲートをくぐるも、無事に通過できて胸を撫で下ろす…。あとは手続きを終えて皆と合流するだけで──
“ビーーーーッ!!”
「ヒィ…ッ!?」
安堵して気を緩めた瞬間、背後で強烈な音が響いた。振り向くと案の定先生が探知機に引っかかっており、先生も呆気にとられている。
「あんっ? おかしいな…金属物は全部手荷物の方に入れてた筈だが…──あっこれか、ネックレス外すの忘れてたわ」
「せーんせーい…っ! やめてよもー…!」
「いやぁすまんすまん…、うっかりしてた…」
ネックレスを外した先生も無事に通過でき、預けた物を全て受け取って手続きが終わった。私と先生はそのまま搭乗ゲート前を目指す。
「あっそうだ。オイ朝凪、沖縄で証明証失くすと大変だから、今のうちに私に預けとけ」
「えー…別に心配ないと思いますよぉ…? 自分で管理くらい出来ますよ…」
「いいから、ほらはやく」
先生に催促されて、私は渋々先生に手渡した。どこか子供扱いされている気がした私は、無意識にプクッと頬を膨らませて怒りを表現する。
それを見た先生は少し「うっ…」とした表情を浮かべ、謝罪の意味も込めてか私の頭をポンポンとしてきた。
子供扱いは嫌だけど…このポンポン好きだからチャラにしよう。──こういうところが子供扱いされる原因なのかな…。
そんなやり取りをしていると、皆が居る筈の搭乗ゲート前が見えてきた。見えてきたのだが…──
「おっ、居た…が…、──まだ全員終わってはいないっぽいな…」
「まあ人数も人数ですし、しょうがないですよ」
あれからそこそこの時間が経って、ようやく全員の手荷物検査が終わった。それとほぼ同時にアナウンスが流れ、私たちは順に搭乗ゲートを通って機内に入る。
人生2度目の飛行機、滅多に乗らないからやっぱりワクワクする。3席ごとに通路でわけられている為、4人でジャンケンして萌夏ちゃんが少し離れた席になった。
「私が窓際で良かったの? 代わってもいいわよ?」
「ううん、別に私は大丈夫だよ」
「私は高所恐怖症だから…通路側万歳だぜ…」
ナキちゃんは離陸前にもう顔色が悪い、これ離陸したらどうなるんだろ…。外が見えないようにアイマスク着けさせようかな…?
[──皆様、当機はまもなく離陸いたします。シートベルトのお締め忘れがないようお願い申し上げます]
そうアナウンスが流れ、なんか今にも泣き出しそうなナキちゃんをなだめていると、ゆっくり飛行機が動き出した。
滑走路に入り、グングン速度が速くなっていく。座席に押し付けられるようなGに襲われ、そして傾きがどんどん大きくなって地を離れた。
私たちは遂に飛び立った…! またね東京…! いざ往かん沖縄…! 念願の修学旅行──存分に楽しんでやるぞっ!
【第66話 TAKE OFF 完】
新たな舞台は沖縄! そこで何が待ち受けているのかっ! 次回に続く!
[宜しければ、感想やブックマーク等をよろしくお願い致します!]




