第65話 母娘の休日
<戦いの技式>
第65話 母娘の休日
「──わざわざ家まで送っていただいてありがとうございます穂岬先生。ほらっ、ちゃんとお礼言いなさい」
「あんがと岬先っ! 朝凪もまたなっ! 修学旅行楽しみにしてるぜっ!」
「うんっ! ナキちゃんまたねー!」
<〔Perspective:朝凪〕>
修学旅行への切符を手に入れた私と他の皆は、支部を後にして先生の車で家まで送ってもらう事になった。
萌夏ちゃんを送り、巴ちゃんを送り、今ちょうどナキちゃんを家まで送り続けたところです。後は私だけ、先生は車を走らせた。
「──ふぃー、ようやくお前で最後か…。せっかく残業ナシで学校から出てこれたっつうのに…結局こんな時間だぜ…」
「結構掛かっちゃいましたねっ、時間も時間だからか渋滞もしてましたし」
スマホをタップして画面をつけると、時刻は19:30を回っていた。建物の眩しい灯りが窓から差して、太股を照らしている。
「流石に腹減ったろ、どっかコンビニ寄るか?」
「大丈夫です、支部で色々お菓子食べたので。ところでなんで私が最後だったんです? 支部からだと私が一番近いのに…」
「そりゃ単に私の家から一番近いからだ。遠い場所から順に回った方が効率良いからな…、つってもお前ん家からもそこそこ距離あるけど…」
私たちそれぞれの家の場所は、私とナキちゃんが比較的近く、萌夏ちゃんと巴ちゃんが同じ地区。そしてそれぞれの距離は結構離れているのだ。
そこから更に離れてるってことは…、先生が家に着くのは何時になることやら…。──お勤めご苦労様です…。
「──ワリぃな…退学取り消しに出来なくて…。引きずってないか…? 修学旅行には行けても…もう戻れないんだぞ…?」
「──もう大丈夫です…ほんとに…。ちゃんと受け止めましたし…、何なら先生のおかげで受け止められたようなもんですから…!」
そう言うと先生は何も言わずに私の頭を撫でた。もしかしたら先生もずっと心の中で責任を感じてたのかもしれない…。
先生はああ言ってたけど、ほんとは私の返答を確認する為に私を最後に残したのかな…? 結構先生って負い目を感じやすいタイプなのかも…?
「そういえばなんですけど、先生ってなんで隊員だってこと隠してたんです? 別にバレても問題ないんですよね?」
「そりゃ立場上はな…? 生徒にそれがバレると別の意味で問題が出んだよ…、「俺も隊員になりたーい!」なんて言い出す奴等が出てきかねないからな…」
あー…確かにそれは出てくるだろうね…、クラスの男子とか特に…。「カッケー!」って言ってそうだもん…、容易く想像できるもん…。
「本気なら止めはしないが猛反対はするだろうな…それで死なれても困るし…、教え子が自分より早く死ぬとか最悪だぜ…」
先生がどんどん暗くなってく…、でも多分出てくる…隊員になりたいって言う奴…。先生の苦悩はまだまだこれからか…。
そんなやり取りをしていると、いつの間にか私の家に着いていた。結構長いと思っていたけど、着いてみると意外と直ぐだった。
カバンを背負って車のドアを開けると、それと同じタイミングで玄関からエプロン姿のお母さんが出てきた。
「お母さんただいまー♪」
「あらあら朝凪ったら、言えばお母さん迎えに行ったのに…。わざわざこんな時間に送っていただいてありがとうございます穂岬先生…」
「いえいえ、むしろ私が朝凪と個別に話をしたかった為だけに遅くなってしまって申し訳ないです…」
先生も車も降りてきて、お母さんに小さく頭を下げた。親を前にした時の礼儀正しい先生が何故か別人に感じるのなんなんだろう。
すかしタバコとか止めて普段からこんな感じなら…先生めっちゃモテそうなのになぁ。──でもそんなところが生徒から人気なんだけどさ。※タバコ吸うフリのこと
「──それと…もうご存知かと思いますが、朝凪の退学の件…あれは私の監督不行き届きが招いたものです…。本当に申し訳ありませんでした…」
「ちょちょっ先生…!? それは先生が謝ることじゃ…」
隣で深々と頭を下げた先生に、私はどうしていいか分からず…ただおどおどと慌てふためいた。なんか私がお母さんに怒られそうだ…!?
「やだっ! 頭上げてください穂岬先生…っ! 先生が頭を下げる必要はないですよ…むしろこちらこそ迷惑を掛けてすみません…!」
「いやいや…全ては私の力不足で──」
「いやいや…ウチの朝凪が──」
なんて頭の下げ合いが5分以上も続いた…。ある意味元凶とも呼べる私は…ただ口を閉じて2人の大人のやり取りを見つめるだけであった…。
「──そうだわ先生、実は今実家から大量に送られてきた里芋が余ってまして、ちょっと持ってきますね~」
「あっいやほんとお構いなく…ってもう行っちまった…。 ──良い親御さんを持ったな朝凪」
「えへへっ、自慢のお母さんです♪」
袋パンパンに詰められた里芋を車に詰め込み、家を後にする先生を見送った。先生ちょっと引いてた…流石にパンパンに詰められた里芋4袋は多かったみたい…。
言ってもまだ里芋残ってるけどね…段ボールが5箱…。これからずっと食卓が里芋パーティーになるね…ウチも先生も…。
「それじゃあご飯にしましょっか、今日は里芋の煮物よ」
「おおー! 聞いたらお腹減ってきたっ! 食べよ食べよっ!」
「いっただっきまーす!」
「はい、召し上がれ」
箸で簡単に切れる程柔らかい里芋の煮物は、口の中でねっとりと旨味が広がってとても絶品! これはご飯が進みますなぁ。
これなら段ボール5箱分なんて飽きずに余裕で食べられるね。里芋の味噌汁も非常にお上品なお味です。
しばらく里芋料理に舌鼓を打っていると、先に食べ終えたお母さんがとある話を持ち掛けてきた。
「──キャリーバック?」
「そうそう、無事に修学旅行に行けるわけだし、今度の休みの日に一緒にお買い物に行かない? 最近仕事忙しくてあんまり一緒に居られなかったし」
お母さんと買い物なんて確かに結構久し振りな気がするし、今からでも楽しみだけど…気になることが1つ。
「持ってなかった? ほら、中学の時にも持ってった赤いやつ。アレ使えばいいんじゃない? わざわざ新しいの買わなくたって…」
「あらあら、朝凪ったら忘れたの? アレお父さんが出張に持ってったじゃない」
「あー…そういえばそんな記憶が…」
私のお父さんは建設業に勤めていて、現在は長期出張で青森に行っています。ちなみに出張に行ってもう2年が経ちました。
一大プロジェクトに取り組んでいるとかで、どうやら青森と北海道間に橋を架けるようです。ニュースで取り上げられそうな偉業だけど…いつになるやら…。
「今は使ってないだろうし、青森から送ってもらってもいいんだけど…往復高いのよねェ…。それなら新しいの買ってもいいかもって思ったのよ」
「なるほどねー、いいんじゃない? ついでに私も色々買い物したいし」
修学旅行で皆と遊べそうな手頃なボードゲームとかあればいいな。まあトランプだけでも全然遊べるんだけども
「じゃあ決まりね。お母さん楽しみにしながらお仕事頑張ってくるから、他の予定入れないようにお願いね?」
「はーい、それまでお仕事頑張ってねー」
─そして土曜日、お休みの日─
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「──見えてきたわよ、降りる準備しときなさい」
「おおっ! あのデパートに行くの結構久々だねっ! もしかしたら内装もちょっと変わってるんじゃない? 見て回ろうよ!」
新しいキャリーバックを求めて車を走らせた私たちは、大体1時間の場所にあるデパートへとやってきました。
ほんとならもっと近場に大きな複合商業施設が建っている筈だったのだが…、帆野さんがぶっ壊してしまったのでね…。
とはいえここは私が小さい頃からよく遊びに来ていた思い出のデパート、せっかくだし今日は楽しんじゃおっかな~♪
「──あら? 永刃持って来てたの?」
「うん一応ね、何が起きるか分かんないし。そもそも隊員って皆休みの日でも永刃は持ち歩かなきゃいけないんだって」
いつどこで異能犯が暴れるか分からない時代、L-gstの隊員はたとえ休みだとしても、場合によっては現場に急行しなければならないのだ。
まあこんな時代だししょうがないね。異能犯事件数も死亡者数も年間増加してってるし、隊員に完璧なお休みはないのだ。
永刃を腰に携え、香位証明証を忘れてないか確認して車を降りた。物珍しそうに眺めるお母さんにポーズ取って見せたりもした後、ようやくデパートへ向かう。
お母さんと並んで中に入ると、左右上下で沢山の人々が行き交っていた。流石に土曜日なだけあって子供連れの親子も多く見える。
「久し振りに来たけど変わってないわね~。朝凪ったらここで6時間迷子になったんだけど、覚えてる?」
「前にも言ってたよね…、それって確か私がまだ3歳の時でしょ…? 覚えてないって…、ってか改めて聞くと6時間って長くね…っ!?」
お父さんと協力して探しても見つからず、迷子センターにも居なかったことで2人は大パニック。そこからは店員を巻き込んでの大捜索に発展したそう。
だが人海戦術で探すも私は一向に見つからず、なんと警察官まで出てくる騒ぎになったと言う。だがそれでも中々見つからなかった。
じゃあどうなったのかって? 何故かキッズスペースの隅で寝てた私が眠りから覚めて、自分の足でお母さんたちの下に戻ったんだって。いや傍迷惑過ぎるだろ私…。
「あれは流石に見つからないわよねー、しかも布団みたいに知らない人の上着被ってたしね。ほんと手のかかる子だったわ~、フフフッ♪」
「あははっ…育てていただいて感謝してますゥ…」
「──あっ! あったよお母さんっ!」
「あらほんと、色々見てたら結構時間掛かっちゃったわね」
前までなかったお店に入ったり、ちょっとカフェでパンケーキを食べたりしてたらめちゃめちゃ早く時間が過ぎていった。
そんなこんなでなんとかキャリーバックを売っているお店に到着。良かった…あとちょっとで目的を忘れるとこだったよ…。
「あらあら、思ったより色んな種類があるのね。どれも機能性で…あっでも値段も結構するのねー…、どれにする?」
どれにする? っていきなり言われてもねェ…ほんとに色々あるからねェ…。これなんて鍵付きでしかもダイヤル式…、鍵失くす心配がないのはいいね!
これは…なんだ…? 変形…機能…? 今のキャリーバックってトランスフォームすんの…!? スッゲー、絶対売れないだろコレ。
「でも別に普通のでいいよ? 修学旅行終わったらまたしばらくお役御免だし、これでいいよこれで、このオレンジのやつ」
私が選んだのはどこにでもありそうな普通のキャリーバック。あんまり高いとお母さんの財布が寒い思いをしちゃうからね。
「あらそう? まああなたがいいんなら別にいいけど…、じゃあお母さんお会計してくるから、あんまり遠く行っちゃダメよ?」
「お母さーん…私もうそこまで子供じゃないよ…? この歳になって勝手にどこかに行ったりなんて──あっ! 翔真じゃーん! おーい翔真ー!」
たまたまお店の外に目を向けると、チラッと翔真がお店を横切る姿が見えた。気付いてないようなので急いでお店を出た。
「──んっ? おおっ朝凪じゃん、奇遇だな。お前もなんか買い物しに来たのか? …っというか休みの日でも永刃持ち歩いてんのか…」
「隊員に完璧なお休みはないのだよ、覚えておきたまえ!」
「なんで誇らしげだよ…」
その後は立ち話もなんなので、近くのベンチに腰掛けてちょっとお喋りすることになった。もちろん内容は他愛ないもの。
私が退院した後の話や翔真が通う専門学校の話、前にニュースでやってたネフリコ王国のお騒がせ少女の話など。大型家出ってなんなん? ※36話参照
「あっそうだ…、お前さ…あの後──沙月の奴に会ったか…?」
「──うん…会ったよ。ちょっと元気はなかったけど…心配要らないよ…」
多分翔真は薄ら気付いてるぽかった…。でも私は詳しいことは何も言わず…そっと胸の中にしまい込んだ。
それでいいんだ…、きっと沙月ちゃんも変わろうと頑張ってるから──あの時の沙月ちゃんの事は誰も知らなくていい…。
「そっか…、ならまあいいか…。──でもちゃんと俺の伝言伝えてくれたか?」
「伝言? ──ああ…確か“ちゃんと家に帰れよ”的なやつ…だっけ…」
「その感じは伝えてねえな…、ったくしょうがない奴だぜ…」
あの時は結構色々あったから…すっぽり頭の中から零れ落ちてたや…。
「──でも大丈夫だよ。言ったでしょ、心配要らないってさ。それに沙月ちゃんは直にちゃんと家に帰るよ…、絶対…」
私がそう言うと、翔真はどこか安堵したように小さく微笑んだ。やっぱりなんとなく気付いてたみたい…、もしかしたら私よりもずっと前から…。
特に何も言っていないけど、私と翔真はベンチから腰を上げた。
「──ああそっか。そういえば翔真って沙月ちゃんのこと好きだったもんね。だからそんなに沙月ちゃんのことが気になってたんだ」
「はぁ!? それはお前──…間違ってはないけどよ…、なんで知ってんだよ…」
「あれ? 小学生の頃になんとなくで聞いたら、もじもじしながら教えてくれたじゃん。──…一途だね翔真って」
「やめろ…」
【第65話 母娘の休日 完】
次回、朝凪飛び立つ! 次回に続く!
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