第61話 スクールライフ(1)
<戦いの技式>
第61話 スクールライフ(1)
「──っと修学旅行の日程はざっとこんな感じだな。ほんでこれから自由行動の際の動きとか色々決めてもらうから、まず班決めろ班、ほらさっさと」
1時間目が始まり、先生から簡単な修学旅行の説明を受けた。肝心の修学旅行の行き先は予想していた京都や大阪を通り過ぎ、まさかの沖縄っ!
沖縄──日本の南国、シーサーの故国、かつての琉球王国っ! 一度は訪れたい絶景の宝庫で、観光スポットも数え切れない。
これはァ楽しい修学旅行になりますよきっとォ! 考えるだけでワクワクしてくるねっ! アハハッ笑みが零れるぅ。
でも自由行動の話に入る前にまずは班決めだ。先生の一言で皆が一斉に席を立ち、仲の良い友達同士が自然とグループを作っていく。
私も移動する為に椅子を引こうとすると、その前に皆が私のところに来てくれた。気を遣わせてちゃったかなぁ。
「──よーし、全員班作ったな。そんじゃ先生が色々ガイドブック買ってきたから、各々これ参考に計画練ってくれ。ハイ、開始~」
教卓に並べられた沢山の観光ガイドブック。代表してナキちゃんがその中から適当に2冊選んで持って来てくれた。
机を合わせて、その上にガイドブックを広げて4人で囲む。
「沖縄かぁ…いざ沖縄って考えるとほとんど何も分からねえなぁ…。シーサーとポケくらいだな…あとジンベエ…」
「ワタシはあれカナ、サーターアンダギー」
2人の沖縄知識も私と同程度くらいかな…? まあ本州から離れてる分、中々旅行の選択肢にも入りづらいのが原因かもしれないね。
でもだからこそガイドブックを眺めるのが楽しいというもの。新しい発見がいっぱいあってページをめくるのが止まらない。
「観光スポットも結構色々あるのね、しっかり計画を練らないと全然時間が足りないわ。行きたい場所は絞らないとね」
「むぅ…選択肢がいっぱいあって迷うなぁ…」
そんなこんなであっという間に時間は過ぎ、一切計画が立たぬまま1時間目が終わってしまった。まあ計画なんて最初はこんなもんだよねえ。
教卓にガイドブックを返して次の授業に備える。次は体育なので、体操着を持って体育館の更衣室へ移動する。
この時間の体育好き by朝凪
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「今日の授業は走高跳をやるぞっ! しっっかりストレッチするようにっ!」
走高跳なんて久し振りだなぁ、小学生の時に1回授業でやったっきりだ。その時確か腰痛めた記憶あるなぁ…気を付けないと。
「お前参加して大丈夫なのか…? 下手したらパッカーンだぞ…?」
「見たくナイぞ…くす玉みたいに割れる様ハ…」
「見学してた方がいい、先生も文句は言わない」
気を付けるべきは腰じゃなくて頭か…。とりあえず怪我が噓だってバレないように慎重にやらないとだ…。
とは言っても走高跳で注意すべきことなんて…ポールにうっかり頭ぶつけることくらいだし、まあ普通に跳び越えれば問題はないかな。
問題ない…問題…うぇ…? なんかちょっとだけ不安になってきたぞ…、私の不幸体質はこういう時にめっちゃ働くからなぁ…。
「ヨシ次っ! ──気を付けて飛ぶようにな朝凪」
「はいっ! 朝凪飛びまーす!」
一度深く屈伸して私は勢い良く走り出した。歩幅を合わせて一歩ずつ体全体に力を溜め込んでいき、思いっ切り踏み切った。
私の体は余裕を残してポールの上を通り過ぎた。そして勢いが消えぬままの私は、柔らかマットに背面から落ち──
“──ゴッ!”
-保健室-
「──はいっおしまい。ちょっと切って血が出ただけね、傷も浅いし血も止まってる。授業に戻って問題ないわ」
「空見先生、ありがとうございましたー」
いやーまさかこんな事になるとはねぇ…。だって思わんじゃん…勢い余ってマット跳び越えるとか…。
まあ自慢のタフさと永気のおかげでめちゃくちゃ軽傷で済んだんだけどね。
「空先…マジで大丈夫…!? 実は他の箇所にまだ傷が残ってましたとかは勘弁してくれよ…!?」
むしろ同行してくれたナキちゃんが倒れそうで心配だよ…。今にも倒れそうなほど顔真っっ青…、頭揺らさないでェ…。
「ほんとに大丈夫よ、いいからさっさと授業に戻りなさいな。──あっでもちょい待ち、貴方は残ってちょうだい」
「私ですか? 何でしょう…」
空見先生に呼び止められた私はもう一度イスに座った。ナキちゃんは一足先に保健室から出て行った為、ここには先生と2人っきり。
空見先生はパソコンの画面を見ながらタバコを吸っている。そのまま少し静寂が続いた後、先生は大きく煙を吐き出して火を消した。そして──
「貴方っ! ちゃんと自分の立場分かってるのっ!? そりゃ実際怪我なんてしてないけれど、貴方はある意味それ以上に厄介な状況にあるのよっ!? そこんとこちゃんと分かってんのっ!?」
「は…はひ…!」
何を言われるかと思えば…眉間に指を差されて物凄く怒られた…。
「在学中のL-gstへの仮入隊なんて、本来なら停学飛び越えて退学にだって相当するのよっ!? 生徒の1人にでもその事がバレたら即刻退学っ! もっと肝に銘じておきなさいっ!!」
「は…はひぃ…」
思いっ切り念を押された私は保健室を後にして…とぼとぼ体育館へと戻った…。高校に入って初めて空見先生に怒られたぁ…効いたぁ…。
次はあまり跳び過ぎないようにしなきゃだ…。力加減を意識して跳ぼう…なんならポール崩しちゃおう、そうしよう…。
「おっ、戻っタカ朝凪。いやーびっくりしたゾ、まさかあんな見事に頭を負傷させるトハ…。ハハッ、思わず吹き出しちゃったゾ」
「笑ってるじゃんか…、こっちは怒られてちょっとナイーブなのにぃ…」
後頭部をさすりながら私は大きくため息をついた。私の心境を察してか、巴ちゃんが背中をさすってくれた。
あんまり引きずらないよう前向きに気持ちを整えて、私は再び列に並んだ。皆に止めた方がいいと言われたけど、久し振りの授業は出来るだけ参加したい。
とりあえず力加減、それだけ注意していれば何事もなく授業を終えられる筈。皆の跳び方も見て参考にしよう。
「ヨシ次っ! ──本当にやるのか朝凪…?」
「はいっ…今度は大丈夫だと思います…」
さっきはちょっと力が入り過ぎてたのが良くなかったんだ…。小走りに切り替えて歩幅も小さく…もういっそ両足で踏み込んじゃえっ!
────とうっ!
“──ゴッ!!”
-職員室-
“──ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギ
「貴方意外と人の話聞けないタイプなのかしら~? 1回ならまだしも2回同じことを繰り返すなんて…な~に考えているのかしらこの頭は~?」
リギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
「私がせっかくバレないように口実作ってやったっつうのに、全部無駄にするつもりかァ? 修学旅行前に退学になりてえか…?」
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギ
「ご…ごへんらはいごへんらはい…! ゆるひてくらはいぃ…!」
リギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ…──”
「ちょちょちょっ空見先生…っ!? それに穂岬先生も…っ!? 職員室で堂々と体罰をするのは止めてください…っ! ほら2人共速く…っ!!」
体育の授業が終わって着替えていると、私は空見先生に職員室まで呼び出された。そして現在…私は空見先生に右頬、穂岬先生に首の左側の皮をつねられている…。
木実先生のおかげでなんとか解放されたが…つねられた箇所がヒリヒリする…。多分赤くなってる…。
「──ったく、どーも危機感が足りてねえなぁ…。お前がバレちゃいけないのはなにも口実だけじゃねえ、この2ヶ月間で変わったところ全部なんだぞ…?」
「全部って…──別にそこまで変わってなんか…」
たった2ヶ月で変わったところなんて…せいぜい度胸がついた程度しか思い浮かばない…。能力は永刃がなきゃ使えないから問題ないだろうし…
「なわきゃねえだろ…。お前の身体能力も回復力も、何も知らない奴から見れば明らかに異常だ…! 今まで寝たきりだった奴の身体能力とは到底考えられねえ…!」
う…っ! 言われてみれば確かに不自然かも…いや結構不自然かも…。頭強く打った衝撃で身体能力が覚醒しました~っなんてSF誰も信じないだろうね…。
今まで置かれてた環境のせいで全然気にならなかった…、流石先生…ほんと頭が上がらないです…。
「そして特に問題なのは回復力よ…。 貴方にとっては当たり前かもしれないから言うけど…、常人は軽いすり傷であっても数秒で完治したりしない…っ!!」
「──…っ!!」
そうじゃん…! もはやそれが常識になりつつあった自分にちょっと恐怖すら覚える…! 身を置く環境ってこうも人に影響を与えるのか…。
骨折ですら数日で治ってたから…そりゃ常人から見れば異常だわ…。
「今回は傷が見えにくい後頭部だったからまだ良かったけれど…、もしこれが腕や脚だったらどうなってたか…。化け物扱いされても文句言えないわよ…?」
「はい…ごもっともで…」
「まあ実際化け物だけどな」
「ちょっと穂岬先生…っ!」
むぅ…改めて考えると結構いっぱいあるなぁ…。永気に幡式に…そもそもL-gst関連の言葉だけでアウトかもしれない…。
それにもし帰宅部メンバーとの寄り道中に顔見知りの隊員と会っちゃったら…、私はスルーできても相手が話し掛けてくる可能もある…。
そうなったら一発アウト…。──事前に第三支部にお願いの電話しておこう…知ってても多分縮さんは顔に出るだろうけど…。
「──まあひとまず話は終わりだ。ほれさっさと教室戻って次の授業の準備しろ、確か世界史だったろ? 教科書とか忘れてねえだろうな?」
「そこは心配要りませんっ! 私今の所忘れ物ゼロですからっ! それでは、失礼しましたー」
ヒリヒリする頬と首をさすりながら職員室を後にし、チャイムが鳴る前に小走りで教室へと向かった。
─女子高生が真面目に勉強をしています─
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
“キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン!”
「──んー! 午前中終ー了ー! はー…久し振りに頭フル活用して疲れちゃったよ…。さっ、お弁当お弁当っ♪」
机の横に掛けているカバンからお弁当を取り出し、席を立って萌夏ちゃんのところに向かう。ナキちゃんも巴ちゃんも同じ様に集まってくる。
「オイオイまたか…、なんで毎回ワタシのとこに集まんだヨ…」
「1年生の頃からの習慣なんだからしょうがねえだろ。全てはあの時拒まなかった自分を怨むんだな、アッハッハッ!」
面倒そうな萌夏ちゃんをよそに、私たちはパパッと近くの机をくっつけて座った。蓋を開けるとお弁当のいい匂いが香る。
お弁当を食べながら皆で他愛のない会話を交わす──毎日の学校生活の中で一番楽しい瞬間だと感じる人も多い筈。私もそうっ!
「ようやく全員揃ったな…、お前が居なかったこの2ヶ月間色々あったぜ? 例えば…A組の梅木の絶叫事件とかな」
「そういえばあったわねそんな騒ぎ。最初は何事かと思ったわ」
「あはは…、あー…A組の鈴ちゃんかー…」
A組の〝梅木 鈴〟ちゃん…──私に一目惚れしたとかで1年の時に告白してきた私推しのガチ恋勢…。
丁寧にお断りした後も時々ラブレターが下駄箱に入ってたり…屋上から大声で告白されたりと猛アタックを受けている…。悪い人じゃないけどね…?
私が入院したと聞いて思わず絶叫してしまい…勢いのまま学校を飛び出して私の見舞いに行こうとしたらしい…。結局止められて未遂で終わったらしいけど…。
「その後に確か…──A組の平澤と長内が3枚…、ウチのクラスの飯橋が4枚…、C組の大島が7枚ガラス割った事件もあったよな?」
「あったナーそれ。ただ大島が割ったノは7じゃくて9ダナ」
何その最初から最後まで気になるところが盛りだくさんの話…!? 何が起こればそうなるんだろう…、飯橋何やってんだ…!?
飯橋の方に顔を向けると、頭に手を当てて恥ずかしそうに舌を出している。何照れてんだ反省しろ飯橋…!
「そっからは少し落ち着いたか…? ──あっいやそうだ最近っ! 最近めちゃくちゃ大きな出来事起きたよな!?」
「最近…? 西大通りの車17台連続玉突き事故…?」
「あーそっちじゃねえな…」
だいぶそっちも気になるけども…。私隊員になってからは結構ニュース見るようになったけどそれ知らんなぁ…、17ってなにさ17って…。
「ほらあれだよ、完成間近のショッピングモールが崩れたやつ」
「ブゥーーーーッ!!?」
「うおぉ…なんダヨ…!? そんな吹き出す程びっくりする内容じゃナイだろ…」
意表を突かれてつい体が反応してしまった…。だってすっっっごい心当たりあるから…っ! なんならその犯人も知ってるから…! ※帆野
──そっか…あれももうニュースになっていたのか…。多分隊員の情報は伏せて伝えられてるんだろうな…、助かった…。
「──っ! ナキ、アレ忘れてる。1年の子から動画が広まって、前にクラスの皆でプチ騒ぎが起きたやつ」
「おおっそうだったぜ! 朝凪がいつか帰ってきた時に、これは絶対朝凪に見せなきゃってダウンロードしたアレだな! ──ほら朝凪、見えっか?」
「むぅ? どれどれ…────ブゥーーーーッ!!?」
「またかヨ…」
ナキちゃんのスマホに映っていたのは、隊員と異能犯との戦い。問題なのはそこに映っている隊員…、私だ…っ!?
この場所は──東大通り…定食屋とか病院の近く…、しかも戦ってる相手は──グレナだ…! これあれか…、後にトラックで撥ねられて生死の淵を彷徨ったやつ…。
なんでこんな動画が…。──いや今思い返せば…あの時ウチ校の生徒が近くに居たような記憶がある…。そんで走って逃げて…その後吐いた記憶がある…。
あの時の子等かァ…、翔真にバレた時とまったく同じ展開じゃんか…っ! 騒動を聞きつけて集まってきちゃったタイプじゃん…っ!
も…もしや私の正体が…!?
「どうだ凄いだろ? 遠目でちょっと顔ぼやけてるけど、この隊員めっちゃ朝凪に似てるなって一時盛り上がったんだぜ?」
「生死の淵で朝凪もこんな風に頑張ってるのかなって、皆で朝凪のことを応援したのよ。願いが届いたみたいで嬉しいわ」
良かった…どうやらバレてないみたい…。まさかこんな所で先生のデタラメな口実が役に立つとは…、ありがとうございます…穂岬先生…!
しかし危ない…、早速バレるところだった…。他にも思わぬ所に落とし穴があるかもしれないから…、今後も気を緩められないなぁ…。
ふぃー…、大変なスクールライフになりそうだ…。
【第61話 スクールライフ(1) 完】
ドタバタスクールライフは── 次回に続く!
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