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戦いの技式  作者: 叢月
修学旅行編
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第59話 あの日を

         <戦いの技式>


         第59話 あの日を

「────ではこれで講習は以上になります、お疲れ様でした。お帰りになる際は十分お忘れ物がない様にお願いします」


「了解です、ありがとうございましたっ!」


-本部 会議室- <〔Perspective:(‐朝凪視点‐)朝凪〕>


哀薔薇の集との戦いが終わって3日後…負った傷が完全に癒えた私は、本部にて香位昇格の際に行われる講習を受けていた。


20~30分程の講習であったが、中々内容が濃いめで…しかもあの戦いからまだ日が浅いこともあって全然退屈しなかった。


ちなみに本来ならば優美ちゃんと伊国と一緒に講習を受ける筈だったのだが…、どうやら予定されていた日が3日前だったそうで、私1人で受けることになった…。


だが何はともあれ無事に講習は終了し、昼前には解放された。私は本部内から駐車場に出て、停まっている三下さんの車に向かった。


「三下さん、ただいま戻りましたっ! 待たせちゃってすみません…」


「いやいやお気になさらず、それが今の私のお仕事ですから。どうします? 真っ直ぐ支部まで行きますか?」


「んーそうですね、特に寄る場所もないですし直帰しましょう直帰っ!」


そうして三下さんは車を走らせた。木々の生い茂る圧倒的な大自然、ここが東京だということを忘れてしまいそうだ。おじいちゃんの実家みたい。


──ここに来ると毎回思い出す…、全てが始まった日の事と…これまでに起きた全ての事を…。


道で運命を拾い上げて…本来なら得られない強大な力を身に付けて…大変な試験にも合格して…凶悪な異能犯たちとも戦った…。


ほんの2ヶ月間のことだけど…今までにないほど色濃い経験だった…。


そう思えてしまうのはきっと────


「──いよいよ明日ですね…朝凪さんの学校復帰。既に学校側にも連絡をしていますし、こちら側の手続きも完了していますから、何の問題もなく復帰できますよ」


「何から何までありがとうございます三下さん…」


そう──ついに私は明日…隊員からただの学校の生徒へと戻る…。ここまで積み重ねてきた経験を全てしまい込み、ただの女子高生に戻るのだ…。


──なんだか不思議な気持ち…。ずっとそれを望んでいて、その為に頑張ってきてたのに…どこか切ない想いが胸に残る…。


戻りたい想いと…このままずっと隊員でいたい気持ちが混ざり合ってる…。──ま~たモヤモヤしてきちゃったなぁ…、ハァ…。






-東京第3支部-


「嫌だァァァァ…!! 行かないで朝凪ちゃァァん…!!」

「ずっとここに居てほしいですー…!!」


違った…私よりもずっと隊員でいてほしいと思ってる人たちが居たわ…。こんな力強く抱き締められながら懇願されたの初めてかも…。


2人の目には涙が浮かんで──いや縮さんはもう泣いてるけれど…、なんだこの気持ちは…逆に冷静になってきたぞ…?


「ほらほら2人共、朝凪くんが困ってますよ…。──まったくしょうがないですネェ…なにも一生のお別れというわけでもないでしょうに…」


伊敷さんは呆れた様にそう言いながら、お茶を持ってキッチンから出てきた。ちょっと喉を潤したいけど…2人が邪魔でお茶に手が届かない…。


「そんなこと言ったってェ…朝凪ちゃんが居なくなったらまた3人に逆戻りだしィ…、そりゃ寂しくもなるでしょうがァ…!」


「私にとっては初めての後輩なんですー…! 失うのはキツいですー…!」


ひしひしと悲しみがダイレクトに伝わってくる…。縮さんはともかく…桃乃さんの涙は久し振りだ…、初めて支部に来た時以来だろうか…。


どことなく桃乃さんの方が抱き締める力が強い気がするしね…。


「あのーお2人共…? 確かに学校に復帰はしますけど…私卒業したらまたここに戻って来るつもりですから…、だからそこまで悲しまないでください…」


「ほんとぉ…? ほんとにまた戻ってきてくれるのぉ…?」


なんかどんどん縮さんが幼くなっていってる気がする…。うおぉ…涙と鼻水が服にぐっしょりィ…!? えげつない粘り気の鼻水ゥ…!?


「〇×☆#△$※…!?」


桃乃さんに至っては何言ってるかさえも分からない…! 涙の量のせいで分かりづらいけど多分縮さんよりも泣いている…!? よだれェ…!!



       ─後輩が先輩を慰めています─

     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼



「ふぅ…落ち着いてきた…ごめんね取り乱しちゃって…」


「とりあえず服は洗って乾燥機に入れておいたので…帰りまでにはなんとか乾くと思いますけどー…、ごめんなさい…」


もはや恒例となった着替えを挟み、ようやく落ち着いてお茶を飲めた…。今となってはこのやり取りにも慣れたものだ。


ゆっくりとお茶を啜って一息つくと、私の前に伊敷さんが座り、同じ様にお茶を一口飲んで口を潤した。


「──さてさて…なんとか静かになりましたし、ようやく落ち着いて話が出来ますネェ。君が学校に戻る前に伝えなければいけないことがありますから…」


そう言って伊敷さんはコップをテーブルに置いた。なにやら真剣な話をするという雰囲気を感じ、私も釣られてコップを置く。


「──おさらいとして…朝凪くんは香位昇格試験に合格して無事に元の生活に戻れる権利を得た…。そんな君には今…2つの選択肢があるんです」


「2つの…選択肢…?」


伊敷さんの話によると、元の生活に戻れることには変わりないのだが…どうやら戻り方に選択肢が用意されているそう。


「1つは〝証明証と永刃を返納して完璧に引退する手段〟。そしてもう1つは…〝特別処置待遇の継続〟です」


継…続…、前者の方はまあ理解できたが…後者の方はそれだけ聞いてもいまいちピンとこない…。そう首を傾げる私に、伊敷さんは詳しく説明をしてくれた。


〝特別処置待遇の継続〟──元の生活に戻った後でも永刃の所持を認められるが、状況によって異能犯との交戦を進んでやらねばならなくなる契約のことらしい。


「まあ簡単に言うと…〝学業に勤しんでいようが会社に勤めていようが異能犯が近くに現れた場合は、優先して対処に当たらねばならない〟ってことですネェ」


この先どんな道に進もうとも、常に片足はL-gst(エルジスタ)に突っ込んだままってことだね。むぅ…なるほどなるほど…。


「さあどうします? ──っとは言っても…もう君にとっては一択でしょうけど」


「はい…っ! 私は──特別処置待遇の継続を望みますっ!」


これで私は学生兼隊員という異色の組み合わせになったわけだっ! ──まあ1年間だけのごく僅かな期間だけだけどね…。


卒業したら正式に隊員に──…むぅ…?


「そういえばなんですけど、そもそも私って卒業後にちゃんとL-gst(エルジスタ)に入れるんですか? 訓練学校的なとこに行ってませんけど…」


翔真(しょうま)のように元々L-gst(エルジスタ)への入隊を志す人たちは皆、中学卒業から専門の訓練学校に通っている。


本来はそこで3年間知識や戦闘技術などを磨く必要があるっぽいけど…普通に高校卒業後からでも入隊って可能なのだろうか…?


「別に問題はありませんよ。通常の卒業試験よりも難しい試験に合格する必要はありますが、努力次第でなんとでもなります」


おお~、ひとまず良かった。今の高校を退学してもう3年間訓練学校に通わないといけないのかとヒヤッとした…。


「まあ正直君には必要のないものですけどネェ、既に証明証もありますし」


あっそうなんだ…それはラッキー。確かにこれまでを思い返せば…よく2ヶ月で香位にまでなれたものだと自分を褒めてあげたいくらいだ。


筋力もスタミナも運動神経も…何もかもが見違える程に成長した。成長してないのは…背と悪癖と…胸の大きさくらいかな…、ハァ…──


「入隊の際にすることといえば…必要種類の提出と、配属希望──要は所属したい支部の選択くらいですかネェ」


基本的に配属先は第一希望で通る事が多いそうだが、諸事情によって別の支部に送られることもあるらしい。


でも第三支部(ここ)のような問題支部は基本的に断られることはないとのこと。それを支部長自らが言ってもいいのだろうか…。


その話を黙って聞いていると、不意に両腕を左右から掴まれた。目を向けると案の定それは縮さんと桃乃さん…。


「お願いだからその時になって急に心変わりとかしないでね!? 絶対ここに戻って来てよ!? 約束だからね約束っ!!」


「忘れないように紙に控えてあげましょうか!?」


「私そんなに戻ってこなさそうですか? これ以上ないってくらい馴染んでたつもりですけど? 正規隊員面してましたけど?」


なんとか後輩を逃がすまいと必死だなぁ…、他の支部に行きたいって気持ち微塵もないのにな私…。


「はいはい君たち、後輩に圧を掛けるもんじゃありませんよ。今日は朝凪くんの復帰祝いをするんですから、いい加減切り替えてください」


「「はーーい…」」


伊敷さんの言葉で、2人は渋々私の傍から離れた。まだちょっと引きずってる感が顔に出てる出てる…、今日の夜水没するかもねここ…。


それからは楽しい時間が始まった。普段よりも豪華なお昼ご飯がテーブルに並び、胃の中に幸せが詰まっていった。


しかもなんとプレゼントも用意されていて、伊敷さんからはポーチを、縮さんからはネックレスを、桃乃さんからはマグカップを頂いた。めっちゃうれしい!


その後も楽しくワイワイ騒ぎ、あっという間に時間が過ぎていった──


そして16:00──いつもより少し早い時間に、私は帰宅することになった。明日の準備とか色々あるからだ。


「大丈夫!? 忘れ物とかない!? むしろ忘れてって取りに帰って来てほしぃ…──ゴホン…ッ!」


今本音が聞こえたなぁ…、1つくらいしてってあげようかな…ICカードとか…。


「──凄く悲しいですけど…また会えるって約束しましたし、次にまたここで会える日を楽しみにしてます~…」


桃乃さんはしっかり受け入れたようで、笑顔で私を見送ってくれた。笑顔の中に悲しい感情が読み取れて、私もなんだか寂しくなってきた…。


「それじゃあ朝凪くん…君が楽しい学校生活を送れることを切に願っていますよ。何かあれば遠慮せずに助けを求めてくださいネェ、2人が助けにいきますから」


伊敷さんだけはいつも通りの調子でちょっと安心した。私は3人に目を向けて、深くお辞儀をした。


これまでの感謝を込めて──様々な想いをのせて──






「到着しました朝凪さん、忘れ物はありませんか?」


「はい大丈夫ですっ! 三下さんも今までありがとうございましたっ!」


三下さんには戦闘面以外で一番お世話になったかもしれない。でも三下さんってこれからどうなるんだろう?


仕事で大失敗してクビになりかけていたものの、私専属マネージャーになることでそれを回避したんだよね確か…。


あれ…? 私が学校に戻ったら…三下さんもしかしてクビ…? えっ…それは嫌だなぁ…、めっちゃお世話になってるしぃ…。


「心配は要りませんよ。朝凪さんが特別処置待遇の継続を選んでくれましたので、私も朝凪さんのマネージャーを続けられます」


おお~! 良かった良かったぁ。──良かった…けど…、私が引退の方を選んでたら…結局三下さんはクビだったのか…、危ないあぶない…。


「今後も何かありましたら、遠慮なく頼ってください。むしろバンバン頼ってください、仕事が暇になってしまいますから…」


「アハハッ…、頑張って面倒事をもってきますね…」


他愛ない会話を交わして、私は遠ざかっていく三下さんの車に手を振った。家の前でポツンと1人…、むぅ…なんか淋しい…。


このまま家の中に入ってもいいけど…もっと淋しさが増しそうだし…、ちょっと散歩しにいこうかな。


学校に行っていた時は何も感じず通っていた道も、今になっては少し懐かしく感じる…不思議だねぇ…。


住宅の並ぶ道を通って、公園の横にある細い路地裏に入る。そこでちょこっと野良猫と戯れてから路地裏を抜けた。


夕陽の光が真っ直ぐ差し込む普通の道──そこは私の運命が大きく分かれた道。三下さんと出会った始まりの道──。


思い出しますなぁ…、警察に捕まると思って焦り散らかしてた私に、引くほど絶望に打ちひしがれてた三下さん。うんっ、軽く地獄絵図ですなっ!


あの時他に通行人が居なくて良かったかもね、最悪通報されてもおかしくなかったし…。それくらいシュールな空間が広がってた…。


んー…諸々含めて凄い運命だなぁ…。何か神的なものに誘われた気分…、まあ原因は全て私たちにあるんだけども…。



──僅か2ヶ月間の事なのに…なんだか半年位に感じたなぁ…。


それだけ色んなことを体験した。切り裂き魔の事件を皮切りに…穣門での暴動、昇格試験、哀薔薇の集との戦い…、色々あった…。


この腕でたくさん永刃を振った…、この体からたくさん血が流れた…。痛い想いもいっぱいした…、重い傷も心に負った…。


でも得るものも多かった。異能犯にも立ち向かえる勇気、戦える力、同じ志を持った友達・仲間。


辛いこともあったけど…いい思い出もたくさんあった──


「──ふふっ…」


私は小さく笑った、そして後ろを向いて元の道へ戻った。1人が淋しい気持ちだったのに…今はどこか清々しい。


明日のことを考えながら軽い足取りで私は家に向かった──


「学校──久し振りに皆に会うの楽しみだなぁ! 忘れ物しないように、帰ってちゃんと準備しよっ! ──おっ? こんなとこに空のペットボトル──拾うか…」




【第59話 あの日を 完】

いざ元の生活へっ! 次回に続く!

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