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戦いの技式  作者: 叢月
哀薔薇の集編
59/76

第58話 1つの終わり

         <戦いの技式>


         第58話 1つの終わり

「──…おいしょっと。んー…まあまあ重いなお前…」


「…レディに随分酷いこと言いますわね貴方…。別に無理して抱えなくても結構…、ここに置いて行ってくださるかしら…」


<〔Perspective:(‐花月視点‐)教祖〕>


敗北した(わたくし)は手に拘束具を付けられた状態で脇に抱えられている…。永刃は遠くに離され能力も使ない…、まあもう抵抗する気力すらありませんけれど…。


永気を消費し過ぎて傷が全然癒えないし…、放っておけば普通に死ぬ…。──刑務所に入れられるくらいなら…ここで死ぬのも悪くないわ…。


「そう言われて置いて行けるかっての…! こっちだって好きで担いでるわけじゃねえってのに…いいから黙って担がれてろ…」


面倒くさそうな表情を浮かべながら、帆野(隊員)はゆっくり歩き出した。薄暗いモールの中では足音以外に何も聞こえず、冷たい静寂が広がっている。


普段ならこんな静寂には特に何も感じないのだが…こんな状況だからなのか、この静けさは少し心地が悪い…。


「残念よ…本当に…。私の相手が貴方じゃなければ…私の道はまだ続いていたかもしれないのにね…。本当…私って運が無いわね…」


「──お前が過去でどんな目に遭ったのかは知らねえけど…、私がお前の相手をしたのは偶然じゃねえぞ? どうあってもお前の道はここまでだったってことだ」


…っ? 帆野(隊員)の言葉が妙に引っ掛かった…。だってありえないことじゃない…? 事前に能力がバレていたのならまあ解るけれど…そんな感じもしなかった…。


私の能力が【髪】だと知っていたのなら…、カラシナの茨をいとも簡単に切断した桃乃(あの隊員)だって適任な筈…。偶然なんてそんな…──


「お前が〝対女性の負荷代償〟を科しているってのは予想してた…、正確には可能性の1つとして考えてた。だから確実に私がお前とぶつかるように仕向けた、仲間に無理言ってな…?」


予想してた…!? 何をバカなことを…!?


「地下駐車場にお前が到達するより先に、朝っちを仕向けて仲間と分断させたろ? あれもお前の負荷代償を警戒しての私の指示だ。万が一朝っちが人質に取られでもしたら大変だからな…、他の支部の隊員ともなれば尚更な…」


説明されても信じられなずにいる私は…何も言えずにただ話を聞いていた…。


「それにもしその仮説があってるとしたら、私も生半可な力で戦ってられない…、でも本気になり過ぎると逆に仲間が危ない…。だからモール内の人間が誰も居なくなるまでじりじり粘る必要があった…」


最初一方的にやられてたのも…本気で私を倒すための作戦だったってことなのね…。掌の上で踊らされてた気分だわ…。


「だから私の部下に〝モール内の人間を全員退避させたら、私のスマホに2回コールを入れてくれ〟って指示を出してた。あとはそれを待って、思う存分本気で戦うだけだ…! 簡単な話だろ?」


苦戦してるフリをしてたのも…私の気を引き付ける為の演技…。もし私が負荷代償(性別の縛り)を科していなかったら…サッと倒してそれでお終いってわけね…。


偶然じゃないってこういう意味か…。どっちに転んだとしても…確実に私はここで捕らえられてしまう運命にあったのね…。


「──人は見かけに寄らないものね…侮ってたわ…。そのふざけた眼帯にも…ちゃんと意味があったのね…」


「いや別にこの眼帯にそんな意図はないんだが…」


「──あらそうなの…、なんかごめんなさいね…。気を悪くしたなら謝るわ…、ごめんなs────」


“────ガラガラガラ…ッ!!”


それは何の前触れもなく突然どこかから聞こえてきた…。何かが勢い良く崩れる様な…聞いていて不安を煽る嫌な音が…。


帆野(隊員)も足を止めて音の出所に耳を傾けている。謎の音はここから離れて聞こえているが、少しずつこっちに近付いているように思える…。


──これは…もしかして…、まさか…──


「ねえ貴方…、ひょっとしてこれ…凄くマズい事態なんじゃないかしら…? この崩れる様な音…本当に崩れてるんじゃない…? モール(ここ)が…」


私は帆野(隊員)と目が合った。まだ確信を持てていなかった私と違い、帆野(隊員)はもう確信している様子だった…。顔が引くほど青ざめている…。


「──ふぅ…、逃げろォォ…っ!!!!」






-地上駐車場- <〔Perspective:(‐朝凪視点‐)朝凪〕>


「──むぅ? あれっ!? あれあれあれっ!? ちょっ白唯さん! 縮さん桃乃さん胡桃さ~ん! モールが…モールがどんどん崩れていきますゥ!!?」


「「「「えェっ!?」」」」


モールの方から聞こえていた轟音が止み、帆野さんの戦いが終わったんだなーっと思っていたら、今度は違った轟音と一緒に塵埃(じんあい)が舞い上がる。


一目瞭然の危機を目の前に、常に落ち着いている白唯さんも驚きを隠せずにいる。他の関係者たちもざわつき始め、大きな騒ぎに発展した。


“ドォーーーンッ!!”


ひときわ大きな崩れる音が聞こえ、直後東側が一気に倒壊した。空高く舞い上がった塵埃、それに紛れてガレキが降り注いでくる。


「ヤバッ!? 白唯ちゃんお願いっ!!」


「はっ…はい…! “爆裂散光弾(シューティングスター)” …!!」


白唯さんが放った何発もの光弾が、雨の様に降り注ぐガレキを爆散させていく。これが白唯さんの能力かぁ…、なんか倒壊の原因になりそうな能力だなぁ…。


白唯さんはその後も撃ち続け、降っていたガレキをあらかた撃ち落としてくれた。ついでに爆風がモール周囲に漂っていた塵埃を晴らしてくれた。


どうやら全壊は免れたようだけど…それでもガッツリ半壊…。あの綺麗だったオープン間近のモールが…見るも無残な光景に…。


「──なんて思ってる場合じゃない…!? 帆野さんは…、帆野さんは大丈夫ですか…!? ペッチャンコになってたりしませんか…!?」


「──分かりません…、流石にこれは…私にも…」


さっきよりは落ち着いているが…白唯さんは動揺の色が隠せていない…。縮さんたちも口元を押さえて驚愕している…。


嫌な汗が流れ…半壊したモールから目を離せない…。ただ心の底から帆野さんの無事を願うことしか出来ない…。


お願い…無事でいてください…! 神様…仏様…荒神様…! ついでに閻魔様もお願いします…! 帆野さんを助けてください…! どうか…どうかー…──


「──うおおおお…っ!! “禍牙(かげ)(ぬい)ィ” …!!!」


“ドゴォーーーーン!!”


突然モール近くの下の方、恐らく地下駐車場の入口があったとこから塵埃が立ち上った、聞き慣れた声と一緒に…。


「──どうじゃゴラァ…!! 倒壊如きでこの帆野様が殺せるかよォ…!! アーハッハッハッハッ…ゴホゴホ…ッ! オエーー…」


自信に満ち溢れた声と、大きな笑い声と、咳き込んだ挙句えずく声が聞こえる。なんか緊張感が一気に吹き飛んじゃったけど…まあ無事でなによりです…。


少し待っていると、こっち向かって歩いてくる帆野さんの姿が見えてきた。埃にまみれ、両脇に人を抱えている。


「──おいしょー…オイッ! 誰かコイツ等を連行してくれっ! 私はもう疲れたー、あと誰か手当してくれー」


「ちょっと痛いじゃない…! もっと優しく下ろしなさいな…」


優しさの欠片もない雑な下ろし方に…片方の女の人は文句をつける。実際酷い…レジ袋みたいにボトッって…。


地面に横たわる2人に同情の眼差しを向けていると、文句をつけていた女の人と目が合った。何故か私のことを見つめている…、えっ…何…?


「──貴方…あの時の…、──そう…グレナを倒したのね…。なんだか…貴方を見てると不思議な気持ちになるわ…、(けが)れのない真っ直ぐな瞳…」


なんだか心の奥底まで見つめられてる様な感じがする…。だけど不思議と不快感はなく…、むしろその目からは悲愁の色が見て取れた…。


「──昔の…若い頃の自分を見てるみたい…。まだ道を踏み外す前の…一番輝いていた幸せだった頃の(わたくし)をね…」


そう言葉を残し終えると、女の人は関係者の人たちに連行されていった。敵だったことに変わりはないけど…、ちょっと複雑な気持ち…。


各々様々な想いはあれど…、始まりはほとんど同じ…。全員…一度は被害者だった身だからなのかな…、純粋な悪意が一切見えない…。


 ──────辛い…。


「すみません、そちらの方も拘束・連行しますので…よろしいですか…」


「──はい…」


「あっ…沙月ちゃん…」


私は関係者に拘束具を付けられた沙月ちゃんの腕を咄嗟に掴んだ。こうなる事は分かっていたけど…やっぱりまだ受け止められてない証拠だった…。


「──大丈夫…心配いらないわ朝凪…。私はちゃんと自分の罪を償うって決めたの…、だから朝凪も…静かに見送って…。──お願い…」


「──沙月ちゃん…」


今にも泣きそうな私に…沙月ちゃんは優しい眼差しと微笑みを見せた…。私は少しの間腕を離せずにいたが…沙月ちゃんの気持ちを汲んでようやく腕を離せた…。


でも完全に引っ込めることができず…腕が空中でとどまっている…。眼もうるうるしてきて今にも涙が零れそう…。


そんな私を見つめていた沙月ちゃんは、バッと私の胸に優しく飛び込んできた。


「──ありがとう…私を止めてくれて…。──ありがとう…こんな道を間違えた私のことを…変わらず友達と想っていてくれて──本当にありがとう…」


そう耳元で囁かれた瞬間、私の目には涙が浮かんだ。だけど…大きな声で泣き出したい気持ちをグッと堪え、左手で涙を拭った…。


「──うん…! これからもずっと友達だから…、だから──戻ってくるのをずっと待ってるから…。──またね…沙月ちゃん…」




──沙月ちゃんが乗せられた車がどんどん離れていき、見えなくなるまで車を見つめ続けた…。なんだか心にポッカリ穴が開いたみたいだ…。


生気が抜けて元気を失っていると、それを察してか帆野さんが近付いて来て私の肩をポンッと叩いた。


「──そんな気ィ落とすな…、そこまで心配は要らねえよ。傷害罪は…まあ仕方ねえけど…、永刃未所持だし人も殺してねえんだろ…? 初犯で反省の色も見えっから…情状酌量で刑も軽くなるだろ…、まあ信じて待て…な…っ?」


「はい…、待ち続けます…ずっと…」


ちょっとだけ心が立ち直った気がした…、そうだ…切り替えよう…! 信じるって決めたもんね…! ハイッ! くよくよするの終ー了ー!!


頬を叩いて気持ちを切り替えると、こっちに向かって歩いてくる足音が聞こえてきた。その方向に体を向けると、そこには関係者に連れられたグレナの姿があった。


グレナは私の前でピタリと足を止め、私もグレナと顔を合わせた。


「アンタ…名前は…?」


「──朝凪…!」


「そうかい…──敵も捕える…友も救う…、あれが…アンタの選択の結末(こたえ)かい…」


グレナはそう静かに問いかけた…。私は一切目を逸らさず、ただ力強く頷いた…。


「──そうかい…、完敗だよ…アタシの…。いや…最初から戦いにすらなっていなかったのかもね…。──…花月(はるな)を止めてくれてありがとね──朝凪…」


グレナは全てを言い終える前に私に背を向けて行ってしまった。──きっと最後に吐いた言葉は…グレナが心の奥底にしまい込んだ本心なのだろう…。


哀薔薇の集──最初から最後まで…本当にやりづらい敵だった…。奴等の悪事は全て終わらせたのに…ちょっとまだモヤモヤしてる…。


「──ま、難しく考えてもしょうがないか…。縮さん桃乃さんっ! 片付きましたし、さっさと帰りま──…縮さん…? 桃乃さん…?」


一旦モヤモヤを忘れて縮さんたちに喋り掛けると、先輩2人がなにやら引きつった表情で同じ方向を見ている。


「いったい何を見て…──ああ…、そういえばスルーしてた…」


眼前に広がっているのは半壊のショッピングモール…いやもうただの崩れた廃墟…。これはぁ…叱られますねぇ…。


チラッと右の方を見ると、青ざめた表情でモールを見つめる白唯さんと胡桃さん…、そして青ざめを通り越して真っ白になっている帆野さんの姿が…。


「あぁー…、また反省文提出かよ…。うえぇぇ…だりぃぃ…」


今まで見たことがないくらいに落ち込んでる…。じゃあ何故こんなことしたんだ…、っというか何をすればこうなるんだ…。


「──はぁ…、それじゃあ帆野(支部長)…くれぐれも提出期限を守ってくださいね」


「厳守ですよ厳守…!」


あっ、突き放した。もう知らん顔してる…、そっぽ向いてる…。


「オイオイ待てよお前等…! お前等がモール内で派手に爆発したりさせたりしてんの知ってるからな…!? お前等もちょっと書け…!」


爆発したりさせたり…、戦ってる時に聞こえた大きな爆発音の原因って白唯さんたちだったの…? 結構モール揺れてたよ…?


あとなんだ爆発したりって…? 人間爆弾…? どんな能力なのそれ…?


「別にいいでしょう…結局帆野(支部長)の被害にのみ込まれてるんですから、実質何もしてないのと同義じゃないですか」

「違うぞ? それただの結果論だし、やったことに変わりないからな?」


「わ…私は不可抗力と言うか…、勝手に爆発しただけですし…へへへっ…」

「何笑ってんだ、それなりの力で殴るぞ」


凄い…全力で自分の行いをなかったことにしようとしてる…。反省文を書きたくないという強い意思を感じる…。


そして私もちょっと冷や汗をかいている…。何故なら私も結構色々やっちゃってるから…、天井くり抜いたりしてるから…。


──だ…黙っておこう…。※隠蔽


「──ぉーい…! 縮角位ー、楪桂位ー、桧凪香位ー! 帰りの準備が整ったッスよー! いつでも発車オッケーッス!」


「おっ! だってさ2人共、それじゃ行こっか。帆野さん、私たち先に行きますね。今日はお疲れ様でした」


「んっ? おうそうか、手伝ってくれてありがとな。桃っちと朝っちもちゃんと治療受けて傷癒せよ、そんじゃな」


帆野さんたちに別れを告げて、私たちは車に乗り込みモールを後にした。哀薔薇の集との戦いはこうして終わりを迎えたのだ…。


疲れ果てた私の体は…車に揺られながら眠気を誘い込んでいき、橋の街灯に照らされながらゆっくりと瞼を閉じた──






──場所はとあるビルの屋上。他のビルの明かりを背に受けながら、双眼鏡を覗いて半壊のショッピングモールを見つめる影が──


「あーあ…、もっとやれると思ってたのに…捕まっちゃったかぁ…」


その人物は黒いローブに身を包み、双眼鏡を覗いたまま大きなため息をついた。それからも少しの間見続け、やがて飽きた様に双眼鏡を下した。詠


「〝醜い男共を粛清し、この世の男と女の力関係をひっくり返す〟…だったっけ…。水詠(みずなが)花月(はるな)…君は素晴らしい悪だった…、選択を誤らなければもっと素晴らしくなれる素質があったのに…残念ザンネン…」


そう言いながら小さく首を振り、「よいしょ…」と呟きながらゆっくりと腰を上げた。それでも視界だけはずっとショッピングモールに向いている。


「──まあ今回はこれくらいで十分か…、十分に君はボクの役に立ってくれたよ。お疲れ花月…、これでまた一歩…この日本はボクの理想郷に近付いた──」


黒ローブの人物は夜空を仰いで不敵な笑みを浮かべた…。


今宵──1つの悪が消えた…。だがそれはほんの序章…、まだ小さな1つの蕾を刈り取ったに過ぎない…──




【第58話 1つの終わり 完】

戦いが終わり、物語は新たな章へ…! 次回に続く!

[宜しければ、感想やブックマーク等をよろしくお願い致します!]

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