第54話 熾烈な闘争
<戦いの技式>
第54話 熾烈な闘争
「──痛っ! …ぐぅぅ…しくじったなぁ…」
<〔Perspective:縮〕>
異能犯2人を倒し、永刃を没収した上で拘束し終えた私は、少し離れた場所で負った傷口の処置をしていた。
うーむ…、能力者を倒したから多分毒の効果は消えたと思うけど…まだ全然血が流れてるなぁ…。勢いは弱まってる気もするけど…。
最初の額と肩からの出血の時に違和感に気付けてたら…ここまで体力を失わずに済んだのに…、それにちょっと無茶し過ぎたかもしれない…。
私の遮蔽式は並大抵の感知式じゃ補足されない。だからずっと発動させっぱなしでいたけど…それが出血をより促してしまった…。
出血が止まらないって分かった時点で遮蔽式を解除してれば…最後のアレを使う必要もなかったし、永気が乱れることもなかったかな…。
永気が乱れてるせいで小さな傷なのに全然塞がらないし…、永気が安定するまでは包帯で応急処置するしかないか…。──痛ァっ!
痛みに耐えながら左腕をミイラみたいにぐるぐる巻きにした。これで出血によって体力を削られる心配はなくなったけど、少し体力を回復させないとダメかも…。
──皆大丈夫かな…。桃乃ちゃんと白唯ちゃん…あと帆野さんは大丈夫だろうけど…、朝凪ちゃんと胡桃ちゃんが心配だなぁ…。さっきの爆発も気になるし…。
朝凪ちゃん…無事だと良いけど…──
「 “特攻吹砲” !!」
「うはあああ…っ!!?」
<〔Perspective:グレナ〕>
渾身の特攻吹砲を腹部に食らわせ、朝凪は吐血しながら後方の店舗に突っ込んだ。
苛烈な攻防戦が続き、お互いかなりのダメージを抱えている状況…。永気量でならアタシに分があるけど…朝凪のスタミナとタフさで押し切られる危険もある…。
事実…攻撃回数はアタシの方が多いのに、何故かアタシよりも全然ピンピンしてる感じがあるしね…。恐ろしいもんだよ…若さってやつは…。
「── “〝気鋭士魂〟疾風” …!」
「ぐ…っ!?かはァ…っ!!?」
店舗の中に一瞬姿が見えたかと思えば、高速で突きの攻撃。反射的に両手をクロスさせて直撃は避けれたが、今度は私が後ろの壁までぶっ飛ばされた。
壁をぶち抜きはしなかったが、そのせいで受けた衝撃を上手く逃がせなかった…。全身に小さな電気が流れた様に痺れが走る…。
初めて目にする技だね…、ありゃあ厄介だ…。強化式を使った朝凪のあの速さに…ピンポイントで攻撃を合わせるのは至難だよまったく…。
アタシは今の衝撃で崩れた壁の欠片を1つ手に握って立ち上がった。朝凪も印を結びながらこっちに走ってくる…、強化式を入れ替えたようだね。
対抗する為にこっちも強化式【集】で右腕を強化した。恐らくまたアレが始まる…これで何度目かの衝突が…!
「 “〝気鋭士魂〟円芍” …!!」
「 “砲撃轟烈砕” …!!」
互いの全力が宙でぶつかり、また周囲の空気を震わせる。これに押し勝った方に…次の攻撃を当てられる大チャンスがやってくる…!負けられない…!!
数秒に亘ってぶつかり合いは続き、床の亀裂が大きく広がっていくその時…、今回の勝者が決まった…。
負けはアタシ…。アタシの右腕は大きく弾かれ…防御の難しい体勢になった。今まで通りならば、この隙に攻撃を繰り出されるのだが…──そうはいかないよ…!
「 “瞬間加速砲” …!」
アタシは左手に握り込んでいた壁の欠片を、斬りかかろうとする朝凪の顔に向けて発射した。
特攻吹砲より威力は出ず、小さな物でなければ撃てないのだが…その分発射速度は特攻吹砲を大きく凌ぐ。
かなりの速度で飛んでいき、また今初めて使ったこともあって、防ぐことも避けることも出来ずに見事命中した。
「──…っ! …っはああああ…っ!! “〝気鋭士魂〟雲雀斬り”…っ!!」
「な…っ!?クッソ…っ!!ぐはああああああ…っ!!?」
弾かれた右腕を戻して構えるより速く、朝凪の攻撃は左腕の隙間を縫って大きく斜めに切り裂いた。
噓だろう…!?硬い欠片があの速度で右頬に直撃しておいて…ほんの一瞬怯んだだけかい…!?頬骨が折れてたっておかしくない攻撃だった筈なのに…!
ちょいとマズいねぇ…、少しダメージを受けすぎてる…。このまま考えなしにガンガン戦ってると…、先に倒れるのはアタシかもね…。
幡式を解いて傷を治したいけど…反対に朝凪はガンガン強化式で攻めてくるだろうし…、ちょっと無理してでもペースを崩さないとね…。
アタシはバッと前に飛び出し、引かれる前に右腕を掴んだ。まだ【集】を解いていない以上、きっと振り払おうと反撃してくる筈だ…、そこを衝く…!
「うぅ…!うりゃああああ…っ!!」
予想通り掴まれたまま強引に永刃で攻撃してきた。半歩退いて出来るだけ傷を浅く済ませようと試みるも…左肩にかなりの痛手を負ってしまった…。
だが食らった分こっちも反撃させてもらう…!体を前に出して、右手の握りこぶしを思いっきり腹に押し込んだ。
アタシの能力【砲撃】は、永刃に1秒以上触れているものをぶっ放すシンプルな技功派能力。様々な才式に繋げられる良い能力さ。
今からやるのは、強化式で得られる力を全て砲撃の力に上乗せするアタシ一番の才式…!ぶっ飛べ…っ!くたばれ…っ!!
「 “特攻突貫吹砲” !!」
「うわあああああ…っ!!?」
目でギリギリ追える程の速度でぶっ飛んでいき、何枚もの壁を勢い良く突き抜けて姿が見えなくなった。
初めて戦ったあの日はこれで勝負が決したが…、今はこれで倒れるなんて到底思えない…。直に姿を現すだろうね…。今のうちに準備しておくかい…。
特攻突貫吹砲は、使用してしばらくの間…一切強化式が使えなくなる欠点がある…。今のままじゃ丸腰同然だ…。
だがここで朝凪のペースを崩す…!せめてアタシの強化式が戻るまでの間はそれでやり過ごす…!
「── “幡 強化式 【脚】” …!」
壁の穴の向こうから聞こえてくる声からは、まだまだ生気が感じられる…。本当に強く成長したもんだね…、見違えるほどに…。
徐々にこっちに向って勢い良く走って来る音が聞こえ、やがて立ち込める塵埃の中から姿を現した朝凪の眼には、色あせない闘志が浮かんでいる。
下手に接近されて反撃を受ける前に、アタシは準備しておいた秘策を発動させた。
「 “幡 妨害式 【幡】” …!」
「──わわ…っ!?なん…だ…っ!?」
妨害式によって強化式が乱れ、朝凪は不意の減速に前屈みになってバランスを崩した。狙い通り…早速攻撃のチャンス到来…!
「 “砲撃砕” …!」
空気を撃ち、それによって得られた推進力を乗せた拳は、体勢の崩れた朝凪の脇腹に容易にヒットした。
派手にぶっ飛び、床の上を滑りながら柱に衝突した。今のは我ながら完璧な一撃、強化式がなくても十分内部に響いた筈だ。
起き上がるのにほんの少し時間が掛かるだろう…、だからここは容赦なく攻め続ける…!アタシがターンを握る…!
「 “連射撃砕” …!」
砲撃砕を連続で繰り出し続ける才式…、腕の負担が大きいけど…ここは限界までぶち込む…!
立ち上がる前に攻撃を繰り出せた為、今朝凪は片膝立ちの状態で連撃に耐え続けることしか出来ない。片腕だけでも折れてくれれば後が楽なんだけど…ね…っ!
攻撃を防ぐ為に盾の様に揃えている腕を重点的に狙って拳を振るう。連撃の限界まではあと数十秒…アタシは更にペースを速めていく。
──5…4…3…2…1…、ラスト一発…!思いっ切り振るった最後の一撃は柱を粉々にし、朝凪を更に遠くへとぶっ飛ばした。
腕がつる直前まで殴り続けたが…、果たして効果の程はどうかね…。
「──ハァ…ハァ…、まだだ…っ!絶対にやり返してやんだからなァ…!!」
──まったく…どうしたもんかね…。妨害式を使えば…素の筋力でアタシのが有利…、だが強化式を使わないと決定打に欠ける…。本当にどうしたものかね…。
サンドバッグでももうちょいへこたれるってのに…、やっぱり朝凪を完璧に仕留めきるには…アレしかないね…。
そうと決まれば…まずは腕の疲労を少しでも回復させないといけないね…。幸いにもさっきの攻撃中に強化式は回復したし…キツいけど時間を稼がないとね…。
「 “幡 強化式 【流】” …!」
「──っ! “幡 強化式 【流】” …!!」
当然朝凪も使ってくる…、正念場だ…ここを踏ん張るよアタシ…!どれだけ攻撃を食らっても…アレさえ当てれれば最後に立ってるのはアタシ方だ…!
「 “〝気鋭士魂〟雲雀斬り”…っ!!」
先に仕掛けてきた攻撃を最小限の動きで躱して腹部に拳を伸ばすが、それを誘っていたかの様にひらりと跳んで避けられた。そして──
「 “〝気鋭士魂〟円芍月輪” …!!」
宙で縦に1回転しての攻撃は、見事にアタシの右半身を縦に斬り込んだ。やはり誘われていたのか…、徐々に戦い方がこなれてきている…。
しかも反撃させない為に念入りに蹴りまで付け加える徹底ぶり…、マズいね…戦いの中でどんどん成長してるのが伝わってくるよ…。
ちょいと危ないけど…一旦攻撃は後回しにして、腕の回復を早める事に専念した方が賢明かもしれないね…。
様子を窺いながら後ろに跳び、追って来る前に両の握り拳を床につけた。そして両方同時に特攻吹砲を発動させた。
勢い良く飛び散る床の破片と、大きく舞った塵埃がアタシの姿を完璧に覆い隠した。この隙に静かに移動して近くの店舗の中に身を潜める。
朝凪と戦ってみた感じ…恐らく幡式は強化式以外ろくに使えない筈…。いずれ見つかりはするだろうが…きっとすぐにバレはしないだろう…。
アタシには遠距離攻撃があるし…実際何度もして見せてる。死角からの攻撃に備えて…警戒してその場から中々動けない筈だ…。
入口から突然出て来ることにだけ意識を向けていれば…先手を打たれてもまず対応が間に合う。むしろカウンターが狙えるかも──
「 “〝気鋭士魂〟雲雀斬り”…っ!」
「がはァ…っ!!!? ぐっ…クソ…!!」
突如背中に走った激痛…、壁ごと斬られたのは明らかだった。すぐに壁の方に攻撃を繰り出して穴を開けるも、朝凪は既に距離を取っていた。
「侮ってた…、てっきり強化式しか能が無いと思ってたけど…まさか探知式も使えたとはね…。思ったより多彩じゃないか…」
「あっ…えっとその…違うんだ…。私何もしなくてもある程度永気を感じ取れるだけで…探知式とかはからっきしダメなの…。今のだって割と偶然だし…」
──思ってたのと結構違っていたけど…それでもかなり厄介な才能な事に変わりはない…。強化式を使いながら索敵が可能って事だからね…。
結局腕もほとんど回復出来ず…むしろ余計なダメージを負う羽目になるなんて…。中々予定通りに物事は進まないもんだね…。
しょうがない…もう腕の骨折を覚悟でやるしかないね…。アタシももう限界が近い…ここから逃げ出すだけの体力だけ残して…あとは全て朝凪にぶつける…!
「もう終わらせるよ…!最後に言い残す言葉はあるかい…!?誰にも伝えやしないが…せめて想いを吐き出して死んだ方が悔いは少なく済むよ…!!」
「お気遣いどうも…!直接伝えに行くことにするよ…あなたを倒してね…っ!」
永気を滾らせ、朝凪と同じタイミングで一歩足を前に出した。決着は単純…全力の攻撃を決めて立っていた方の勝ち…!
今行くよ…──花月…──
「来なァ…!!死ぬ覚悟が出来たのならねェ…!!」
「勝つのは私だ…っ!! “〝気鋭士魂〟──無閃新斬” …っ!!!」
流れる様な素早い動きで距離を詰め、勢い良く振るった鋭い刃に胸と背中を大きく切り裂かれた。
今までで一番深い傷は、意識を持っていかれる様な激痛をもたらした。だがまだアタシには意識が残っている…!反撃する力も…失われてはいない…!
アタシはバッと振り向いて大きな一歩で距離を詰め、握った両手の拳を万力の様に使って朝凪の頭を挟んだ。
構えが遅れた相手にとって、間合いの内側は最も危険で…攻撃をまともに防ぐ術もない。即ち…この攻撃は絶対に避けられない…!!
「 “双重圧攻吹砲” !!!」
「うわああああああああ…っ!!!?」
挟みこんだ両の拳で同時に特攻吹砲を発動させられる才式が、逃れようのない頭部に炸裂した。
両サイドから同じ力で押されているせいで衝撃の逃げ場はどこにもない…。これを受けた朝凪は痙攣を起こした様に震えている。
今にもばたりと倒れ込んでしまいそうな様子だが、確実にとどめを刺しておく。アタシは【集】を発動させ、静かに右拳を腹に当てた。
「 “特攻突貫吹砲” …!」
もはや抵抗すらしてこない無防備なところに繰り出した大技は、小柄な体を無慈悲に遠くへとぶっ飛ばした。何枚もの壁に穴が開いていく音が聞こえる…。
アタシは少しの間その方向を向いて立ち尽くしていたが…、そこに朝凪が姿を現す事はなかった…。
それを確認した瞬間…、無意識に片膝をついた…。双重圧攻吹砲で生じる逃げ場のない衝撃は…アタシの腕にも大きな負担となってしまう…。
腕の回復が十分でなかった事も相まって…腕全体をハンマーで余すことなく叩かれた様な耐え難い痛みが襲ってきた…。
「ハァ…ハァ…、行かないと…花月のとこに…。朝凪の仲間が…ここに来る前に…」
根性で体を持ち上げ、アタシはゆっくりおぼつかない足取りで移動を始めた。目立たない様に慎重に移動しながら傷を癒していけば…もう少しまともに動けるようになるだろう…。
花月は無事だろうか…、まあアイツの負荷代償を考えれば…帆野とか呼ばれてた追手に負ける事はないだろうけどね…。
むしろアタシがこの様なんじゃあ…返って心配させちゃうかも…────
アタシは足を止めた…。何かが見えた訳でも聞こえた訳でもない…、ただ何かの…ただならぬ予感を感じた…。
途轍もなく良からぬ予感を…。
「────…どこ行くつもりだ…グレ…ナ…! まだ私は死んでない…、まだ…負けちゃいないぞォ…!」
良からぬ予感は的中した…。声のする方に顔を向けると…血だらけの朝凪が、壁に寄りかかりながら開いた穴の奥から姿を見せた。
あれだけやって…まだ死なないのかい…。マズいね…かなりマズい…、向こうもほぼ瀕死の状態なのは見て取れるが…強化式でゴリ押してくる可能性がある…。
まだ特攻突貫吹砲の影響で強化式が使えないこの状況…、文字通り死ぬ気で耐えるしかない…!
「“────”…! “────────”…! “────────”…!」
距離が離れているせいで上手く聞き取れなかったが…、片手印を結んでいた…間違いなく強化式で攻めてくるだろう…。
【流】で堅実に攻めてくるか…、【脚】で一気に間合いを詰めてくるか…、それとも強引に【集】で決めにくるか…。
どれであってもしっかり対応が出来れば…また攻撃のチャンスはやってくる…!焦らず…慎重に立ち回る…!
アタシが構えを取ると、朝凪も永刃を構えて一歩踏み出した。そして次の瞬間…朝凪の姿が消え、一瞬で目の前まで近付いてきた。
そこから間もなく攻撃が繰り出されるも…ギリギリ左手で防ぐ事が出来るだろう。
あれ程の速度…【脚】か【集】で脚の片方を強化しなければ出来ない。即ちこの永刃の攻撃でアタシが力負けする事は有り得ない…!
左腕で受け止め、返しの右腕で息の根を止めてやる…!来なァ…!!
朝凪の永刃とアタシの左手がぶつかり、カウンターを決めてやろうと思った瞬間…アタシの体は後方へぶっ飛ばされて壁に衝突した。
何が起きたのかすぐには理解できない程…これは予想外の事態だった…。
間違いなく朝凪は【脚】か【集】の力で近付いてきた…これは絶対に間違いない…!でなければ説明がつかない…!
なのに…!さっきの攻撃…あれは【流】の手応えだった…!──まさか…まさかアレを使ったのかい…!?だけどアレは…──
そう考えていたアタシに向けて、朝凪は苦し気な表情のまま永刃を構えた。そんな朝凪の眼は…何故か燃えるような赤色に染まっていた。
「〝強化重ね"──“煌列強化”…!! ファイナルラウンドだグレナ…!!」
【第54話 熾烈な闘争 完】
それはかつて苦しみに悶えた禁断の力…! 次回に続く!
[宜しければ、感想やブックマーク等をよろしくお願い致します!]




