第53話 幻姫と茨姫
<戦いの技式>
第53話 幻姫と茨姫
“──ボカーーーーーーン…ッ!!”
「──っ!?なんだ今の衝撃は…一体何が起きている…!?」
-1階- <〔Perspective:カラシナ〕>
今の衝撃と揺れからして…爆発があったのは同じ1階か…。位置的には正反対っぽいが…崩れたりしないだろうな…。
それに今の爆発は何だ…、奴等の仕掛けた爆弾か…?いや…そんな荒い手を奴等が使うとは考えられない…、十中八九…能力によるものだな…。
グレナもアザミもリンドウもクロユリも…そんな芸当は出来ない筈だが…、まさか誰かやられたのか…?──クソ…!状況がまるで分からん…!
「何か考え事…?雑念が永刃からでも伝わってくる…よっ!」
“ガキンッ!”
「く…っ!ハッ…貴様には関係のない事だ…!」
他がどうなっているかは知らんが、まずは縮を片付けない事には何も進まない…。信じて今は戦いに専念する…!
「 “怒れる姫の茨” …!!」
「おっと…!危ない危ない…、私じゃその才式は切れないからね…。また攻めれるチャンスを窺うとするよ…!」
そう言ってまた自分の幻覚を複数見せ、それぞれが別々の方向へ散った。もう何度目かの同じ手段だが…全く良い打開策が浮かばん…。
コイツ…かなり至近距離まで近付かないと足音が全然聞こえない…。それのせいで…斬りかかられるまで本体か幻覚かの見分けが付かん…。
独特な低い姿勢…その動きを完璧に幻覚に写してやがる…。それに一番の問題は…幡式で全く居場所を特定出来ないって事だ…。
遮蔽式で自身の永気を隠しているのなら…探知式では無理だが、感知式で大まかな方向なら判別がつく…。
妨害式を使っているんなら…探知式でも感知式でも意味はない。しかし妨害式で身を隠しているのなら…まともに能力を使える筈がない…。
一定範囲に妨害電波の様なものを出す事で、外部からの幡式から身を守っている…。だがそれは発動者にも適用され…、能力や才式は大きく乱される…。
なのにコイツは…!平然と能力を使いながら…それでいて完璧に索敵から逃れていやがる…!どうなっているんだ…!
探知式は発動しっ放し…、カルミアには感知式を使わせている…。なのに何故一切動きが分からない…!?奴は何をしているのだ…!?
“──…タッタッタッタッ…”
「──っ!そこか…っ!」
足音のする背後に向かって永刃を振ったが、刃は虚しく体をすり抜けた。これも…!この幻覚に伴う幻聴も腹が立つ…!
「キャアアアア…ッ!!」
カルミアの悲鳴が聞こえ視線を移すと、案の定カルミアは腹部から血を流していた。狙いはそっちだったか…、不規則に攻撃を仕掛けられるとまた厄介だな…。
剣術じゃあカルミアは圧倒的に不利…、実戦経験も足りていない…。今のままだとすぐにやられてしまう…仕方ない…。
「カルミア…っ!感知式はもういい、強化式に切り替えろ…っ!奴がどうやって索敵から逃れているか知らんが、幡式を使っているのなら強化式は使えまい…!」
さあこれでどう動く…。私に攻めてくれば茨が、カルミアに攻めれば強化式がそれぞれある…、少しずつ貴様を追い詰めてやるぞ…!
奴は今も変わらず幻覚に紛れて様子を窺っている。私はしなやかな姫の茨に切り替えて手当たり次第に攻撃をして奴を待った。
“──…ダッ!”
今までは背後などの死角から近付いてきていた足音が、突然前方から…しかも隠す気が無い大きな歩行で一気に接近してきた。
咄嗟に永刃を立てることで、攻撃を寸前で防ぐことが出来た。大胆…一切攻め方から癖が見抜けない…。次も防げるか怪しいラインだ…。
とはいえなんとか鍔迫り合いに持ち込めた…。茨で一斉攻撃したいが…またここで離されると厄介な為、奴の付近で茨を待機させる。
「──そいっ!」
「うお…っ!?」
両手で斬りかかってきた縮は、左手の親指で永刃を押さえながら突然私の手も押さえつけてきた。
突然の事に一瞬体が硬直したその僅かな隙に顔に右手を当てられ、後ろに押されると同時に縮の左脚を掛けられて勢い良く転倒した。
受け身は失敗し、強く後頭部を打った。視界が一瞬チカッとする程の衝撃…それに意識を向ける間もなく、縮は追撃の構えを取っている。
私は無意識に周囲の茨を集めて、防護服の様に身に絡ませた。
「 “ユ禮戰突” !!」
「うぐあああ…っ!!?」
永刃での防御がしにくい突きでの容赦ない攻撃は、当然永刃には当たらず…茨の防御をも貫いて体に突き刺さった。
怒れる姫の茨なら止められた筈だが…、範囲攻撃の為に切り替えたのが仇になった…。
だが直撃じゃない分傷はまだ浅い…、このチャンスを逃す手はない…!
「今だ…カルミア…っ!コイツをぶった斬れェ…っ!!」
縮は私の発言を聞くなりすぐにその場から離れようとするが、突き刺さった永刃をガシッと掴み、茨を巻き付けて逃げるのを拒んだ。
その間もどんどん距離を詰めるカルミア。さあどうする…!永刃を手放して離れるのか、それとも大人しく斬られるか…!
間合いまで近付いたカルミアは、永刃を振るえない縮を確認して永刃を振りかぶり、勢い良く横に振った。
「──ハッ!」
小さく声を上げた縮は、その場から一切動くことなく右脚の蹴りを完璧にカルミアの手に合わせた。
強化式を使っているとは言え…今の蹴りでほんの少し狙いがずれた。そこに間髪入れず左脚の回し蹴りが…綺麗に顔に入った…。
思わぬ反撃を食らい手で顔を覆ったカルミアに、縮は容赦ない追撃を仕掛けた。小さくジャンプしての頭部を狙った右脚の二連蹴りは、これまた完璧にヒットした。
反撃を終えて両脚が地面についた瞬間、間を置かず私の方を向き直し、奴は突然思いっ切り左脚を上げた。
「──っ!?クソ…ヤベえ…っ!」
瞬間的に手と茨で腹に刺さった永刃を抜き、転がってすぐにその場から離れた。
直後振り下ろされた左脚は永刃を捉え、勢い良く床に突き刺さった。あそこに居たら今ので確実に戦闘不能になっていただろう…。
縮は突き刺さった永刃を引き抜くと、まださっきの蹴りで怯んだままのカルミアを狙って一歩踏み出した。
「──カルミア…っ!倒れ込めェ…!! “毒犯す姫の茨” …!!」
私は限界まで茨を放出した。勢い良く伸びる茨は瞬く間に部屋中に広がり、高い天井にまで届いていた。
なんとかほんの少し床との間に隙間を作れたおかげで、指示通り倒れ込んだカルミアは無事だが…肝心の奴はどうだ…?
一度茨を解除して周囲を確認すると、奥の壁のところに立っていた。右肩と額から小さな出血をしてるのを見るに、流石に避けきれなかったようだ。
負わせた傷は小さいが…今はそれで十分だ…。ここからじわじわ削っていく…!最早勝機はそれしかない…!
縮は呼吸を整えると、また低い姿勢で足音を消しながら接近してくる。だが今度はまだ幻覚が見えない…何か企んでいるのか…?
奴の能力は厄介だが…それより警戒すべきは奴のあの体術だ…。柔道の様な崩しに空手の蹴り技…今までに戦った誰とも違う戦い方…。
恐らくまだ何か隠している筈だ…、1秒たりとも気が抜けん…。
「カルミア…!私が茨でサポートするから、お前は恐れず攻め込め…!腕でも脚でもいい、とにかく奴にダメージを…──カルミア…?」
カルミアは真っ直ぐ走ってくる縮の方に顔を向けて待ち構えているが…何か様子がおかしい…。なんだ…どこを見ている…?
走ってくる方を向いているだけで、頭が全くその動きを追っていない。体もその場で固まったまま…よく分からんが何かマズい…!?
念の為に茨でカルミアの前に壁を作り、私は前に出て永刃で迎え撃った。激しい金属音が響いて、再び鍔迫り合いになった。
また崩しを狙ってくるか…!? だがそうはさせん…!逆にここで貴様のペースを崩してやるぞ…!!
縮が行動にでるより速く、私は右手で奴の左腕を掴んだ。そしてそこから3本の毒犯す姫の茨を伸ばし、左腕に巻き付けた。
永刃を強く前に押して反撃されないようにしてから、私は一気に茨を引いた。
「──っつう…!うぅ…!」
茨に生えている鋭く小さな棘が、皮膚をズタズタに切り裂きながら腕の上を滑る。完全に茨が無くなった後の左腕は血に染まり、ペンキをこぼした様に紅い。
傷の1つ1つは小さく、あれだけじゃあ致命傷にはなりえない。だがそれでいい…!直に奴は止まる…!
「──っ!今のは…なぁに…!?」
「カルミア…!一体何をしていた…!?戦闘中にボーッとするな…!」
分かってはいる…ただボーッとしていたわけがない…。だが同じ位何が起きていたのかが分からない…、カルミアに何をした…?
なんとか答えを見つけたいが…考える時間をくれる筈もなく、縮は再び永刃を構えて攻撃の意思を見せてくる。
私も茨を展開して奴を牽制する。今すべきことは攻めじゃなく待ち…、なんとしてでも粘り勝たねばならん…!
「 “幻園彩華” …!」
そう意気込んだの束の間、縮が一歩足を前に出した瞬間…突然視界が広がり、そして私は知らない場所に立っていた。
快晴の空に、辺り一面を覆いつくす程咲き誇る薔薇に囲まれた道。ずっと先の方まで続く道の真ん中に、ポツンと私が1人だけ。
幻覚かと疑う程に鮮明な光景は、さっきまで戦っていたことを忘れてしまいそうな美しさだった。
ただ前を向いて景色を見ていると、1頭の蝶がひらひらと私の方に向かってくる。薔薇の花によく似た綺麗な赤い羽が美しい。
少しずつ近付いてきていた蝶だったが、手を伸ばせば届きそうな距離のところで突然、体がバラバラになって蝶は地面へと墜ちていった。
「キャアアアア…ッ!!」
次の瞬間私の視界は元の場所に戻っていて、目の前ではカルミアが縮に斬られて悲鳴を上げていた。
「貴様…何をしたァ…!!」
私はカルミアを引き寄せて茨を放ち、縮を遠ざけた。カルミアの傷はそこまで深くはないが…これまでのダメージが溜まっている筈…、早めに決着を着けねば…。
だがそろそろだ…そろそろ奴にも限界が見え始める筈だ…。
「ハァ…ハァ…──…っ?」
私たちから離された縮は、不意に額の傷に手を当てた。そしてそこで何かに気付いたのか、表情に疑問の念が浮かんだ。
「ハァ…、これは…もしかして毒…?」
「ああ…正確には違うが似たようなものだ…!気付くのが少し遅かったな…っ!」
毒犯す姫の茨の茨には、つけた傷の治りを遅らせる効果と血液の凝固を妨げる効果がある。奴が違和感に気付いたのもそれだろう。
ズタズタの左腕はもちろんだが、初めに傷をつけた右肩と額からも未だに血が止まることなく流れ続けている。
それが原因で奴は今必要以上に体力を消耗させられている状態だ。自分で気付いているかは知らんが、最初の負傷から僅か短時間でかなり息が上がっている。
このペースならあと数分で体力切れを起こすだろう。例えそうでなくとも…もうあの俊敏な動きでの体術は使えまい…。
「さあ次はどうするつもりだァ…!?また幻覚に紛れて攻撃か…?それともさっきのよく分からん才式でも使うか…!?」
だがどんな手段を使おうとも…私等2人を完璧に倒し切る事は不可能だ…!真新しい才式を使ってこようが…最後に立っているのはお前じゃないがなァ…!
「──この状態での攻撃は…出来て…あと数回かな…。ハァ…、まだやらなきゃならない事が多いから…これ以上体力を失う訳にはいかないの…。だから…気は乗らないけど永気を捨てる…!悪いけど…一瞬で方を付けさせて貰うよ…!」
「あァ…?そんな状態で何をほざいてやがる…!一瞬で方を付けるだァ…?息絶え絶えのちんけな幻覚使いが調子に乗ってんじゃねえぞ…っ!」
出せる限界量の茨を放とうとすると、こっちが茨を仕向けるより速く縮はまた自分の幻覚に紛れ、バラバラに走り出した。
相も変わらず四方八方に散って機会を窺うつもりか…芸のない奴だ…。本当に今の自分の状況が理解出来ているのかコイツは…?
残り少ない体力であんなに動けば、攻撃に回せる体力がすぐに尽きる…。まさか本当に一瞬で方を付けようとしてやがるのか…?──いいだろう…やってみろ…!
幻覚は左から右から、更には上からも飛び掛かってくる。これだけなら茨でどうにでもなる…さあ見せてみろお前の秘策を…!
「 “ーーーーっ!” 」
──…っ!なんだ…?何か喋った声が聞こえたが…良く聞こえなかったぞ…。何をした…何を狙ってやがる…!
考える時間もなく幻覚はどんどん距離を詰め、ついに間合いへと入ってきた。カルミアと背中を合わせて、迎え撃つ準備を整えた。
そして奴の幻覚が永刃を振り下ろそうとした瞬間──
消え…た…!?何故だ…!?何故このタイミングで…!?意味が分からん…一体何故だ…、何の為にわざわざこんな事を…!?
「カラシナ様ぁ…、奴が…奴が消えましたぁ…」
「なんだと…っ!?そんなバカな…っ!?」
辺りを見渡してみるが、カルミアの言う通りどこにも縮の姿が見当たらない。幻覚と一緒に消滅したかの様だ…。
まさか…逃げたのか…?それともどこかに身を潜めて奇襲のチャンスを窺っているのか…?クソ…やはり探知式でも居場所がつかめん…!
一体何を考えている…、一体どこに──
“スタッ、スタッ、スタッ──ザシュッ!!”
「 “静虚の断” …!」
「がはァ…!!?」
それは一瞬だった…。奴はまるで空気の様にただそっと私とカルミアの間を通り抜け、永刃で深く切り裂いた。
斬られるまでそのことに一切気付けなかった…、まるで幽霊の様に…。
「クソ…、何を…しやがった…!貴様…答…え……ろ…──」
私とカルミアは力なくその場に倒れ込んだ…。意識も少しずつ朦朧としていき…出していた茨も薄っすらと消えていった。
──…申し訳ありません…教祖様…。
「スッキリしない決着だろうけど、悪く思わないでね…。これが経験ってやつだよ…、一芸だけじゃ務まらないの…角位はね…」
【第53話 幻姫と茨姫 完】
幻しく惑わす、これが角位の格…! 次回に続く!
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