第52話 剣才
<戦いの技式>
第52話 剣才
“ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!!”
-3階- <〔Perspective:桃乃〕>
「 “〝気鋭士魂〟流月裂き” !」
「──く…っ!この…っ!」
戦闘が始まって十数分、アザミの部下を7人倒して…残りは部下4人とアザミ自身…。始めに比べてだいぶ楽になりましたね…。
アザミはかなり強いですが…剣術の腕だけなら私の方が上。今のところは優勢ですが…まだ能力を使ってこないのが気になりますね…。
負荷代償の関係なのか…それとも何か別の狙いがあるのか…。どちらにせよ…警戒はしながら出来るだけ速く倒さないとです…!
背後からの不意打ちに注意しながら攻撃を畳み掛けていく。カウンターに注意にながら可能な限り防御の難しい角度からの攻撃を。
そして頃合いを見て私は永刃を高く上に持ち上げ、振り下ろそうとする仕草を見せた。押され気味な今の状況に、反撃のチャンスを見せてあげれば…恐らく…
「──っ!ここだァ!!」
アザミは腕を上げた私に対して永刃を横に振ってきた。同じ立場なら私もそうする…、まんまと誘いに乗ってきましたね…!
私は素早くしゃがみ込み、横振りの攻撃を躱した。脚を前後に開いて永刃を握り直し、防御される前に永刃を振り上げた。
「 “輪天=逆薙ぎ”!」
「ぐぅ…!クソ…っ!」
手応えはありましたが、直前に後ろに跳ばれたせいで恐らく傷は浅い…。中々厄介になりそうな瞬発力です…。
「──ハァ…ハァ…、想像以上の強さだ…やはり貴様を教祖様に近付けなくて正解だった…。なんとしてでも…貴様はここで殺していくぞ…!」
──能力を使う気ですかね…。もしかして今ので能力の発動条件を満たしてしまったんでしょうか…、うーん…困りましたね…。──んっ?
殺すとまで豪語したアザミの顔に、何故か葛藤の意志の様なものが見えた。どうしたんでしょう…、ぐむむ~!って顔してます…。
「アザミ様っ!もう意地を張っている場合ではないですよっ!」
「その女を確実に殺す為には、もう能力を使う以外に方法はありません!」
「うぐ…、それはそうだが…しかし…──」
部下の人が能力を恐れるのなら話は分かりますが…本人が使うのを渋るのは初めてのパターンかもです…。
部下を巻き込んでしまうのを恐れているのか…、それとも能力を使う事で人柄が豹変してしまう…とかですかね…?
その後も少しの間アザミは、ずっとぐむむ~!っと何かを葛藤していましたが…ようやく決心がついたのか、永気が増幅していった。
「──やむを得ない…!全ては教祖様の為に…!ハアアアアアッ…!!」
アザミの永気がどんどん漲っていく。やがてその永気は徐々に徐々にある一点に集まっていった。そして──
「 “幻猫の三鞭尾” !!」
し…尻尾が生えた…、猫みたいな尻尾が3本…──
「アザミ様っ!今日もかわいいですよっ!」
「心配する必要はありません!ちゃんと似合ってます!」
「ふさふさですっ!」
「かわいいですっ!」
「ガァーー!!その反応が嫌なんだよ私は…っ!だから使いたくなかったんだよこの能力…!嫌いなんだよこの能力…!」
──…だいぶ思ってたのと違いますー…。もっとこう…見るからに恐ろしい能力だと思ってましたが…、まぁ…とりあえず…。
「──えっと…似合ってますよ…、ちゃんと…」
「気を遣うな貴様ァ…!それが嫌だと言っているんだ…!」
顔が真っ赤っか…本当にただ恥ずかしかっただけみたいですね…。朝凪ちゃんなら喜んでふりふりしそうですー…。
ですがアレが能力である以上、油断は禁物…。どう動いてどんな攻撃がくるのか…よく見極めなければ…。
そう思っていた矢先、ゆっくりと真ん中の尻尾が伸びてきて、アザミはその尻尾に永刃を近付けた。
尻尾は永刃を巻き取り、まるでサソリの様になっている。そしてアザミは腰に付けていたナイフを2つ両手に握った。
刃が3つ…空いている尻尾が2つ…、まるで5本の手があるよう…。想像以上にずっと厄介な能力ですね…。
「いくぞ…っ!覚悟しろォ…っ!」
3本の尻尾をゆらゆらと立たせながら、アザミは距離を詰めてきた。最優先で警戒すべきは永刃を持っている中央の尻尾…!
私は両手のナイフを上手く捌きながら攻撃のチャンスを伺う。日本刀より小さくて振りが細かいナイフを2つ相手にするのは…中々骨が折れる…。
その後も隙を窺って攻撃を防いでいると、突然アザミはバッと身を屈めた。直後左右の尻尾が伸び、私の両腕に巻き付いた。
永刃が振れないそんな私の顔目掛けて、サソリの様に勢い良く永刃を突き刺しにきた。警戒していた攻撃だ…!
私は咄嗟に右脚で蹴り上げ、尻尾の軌道をずらした。そして片手で印を結び、強化式【集】の力で無理やり右腕を動かす。
中央と左腕に巻き付く尻尾目掛けて永刃を振り下ろすが、真ん中の尻尾には素早く躱され、結局切れたのは1本のみ…。
「ウガァ…ッ!クソ…痛ってェ…!」
痛みに反応してか、切り落とす前に右腕に巻き付いていた尻尾が解けた。血が出たりはしないようですが…どうやら痛覚は共有しているみたいですね…。
だが当然あの尻尾は永気を形どったもの…、切った尻尾がみるみるうちに再生していく…。これが気功派の能力で一番厄介なんですよね…。
「──まだまだいくぞォ!」
再びナイフでの攻撃が始まった。だがさっきのでだいぶ動きに慣れたきた私は、タイミングを見計らって相手の右腕を掴んだ。
右腕を私の方に強く引っ張って足を掛けると、アザミは思った通り前にバランスを崩して、攻撃の隙を見せた。
直接本体を攻撃したい気持ちを抑え、私はまず3本の尻尾に永刃を振り下ろした。流石に根本は硬かったが、なんとか一太刀で切り落とせた。
痛みに悶え…背後がら空きのアザミに向けて、私は今度こそ攻撃をしようと永刃を強く握った。──だが…
“ガキンッ!”
攻撃に転じようとした瞬間、背後から部下の1人が斬りかかってきた…。その後ろからもう1人…やはりそう上手くはいきませんか…。
私は脛を少し蹴り、ほんの少し生じた隙に永刃で斬りつけた。その勢いを殺さず、後ろに控えていたもう1人の部下にも連撃を加えて斬り伏せた。
「──っ!お前たち…、クソ…!もう許さんぞ貴様ァ…!」
復帰したアザミは倒れた部下を見て強い怒りを露わにし、凄まじい量の永気が臀部に集まっていく。 ※臀部…─お尻の事
「 “銀狐の五靭尾” !!」
猫の様な細長かった尻尾は、一転して狐の様なふさふさの尻尾に変わった。3本だった尻尾も5本に増え、銀色の毛は美しく光を反射させている。
さっきのように腕に巻き付いてはこなさそうですが…きっとアレにも何か秘密がある筈…。簡単に切ることも出来なそうですね…。
アザミはナイフをしまい、永刃を手に持って斬りかかってきた。さっきよりだいぶ戦いやすくはなったが、やはりあの尻尾が気になる…。
怒りのせいなのか、最初に比べてアザミの永刃の振りはだいぶ雑になっていた。そこを付いて私は僅かな隙に永刃をのばした。
幻猫の三鞭尾ならば、この攻撃で戦いを終えられる一振りだったのだが…そこで懸念していた尻尾が立ち塞がった…。
永刃が当たる直前にアザミはくるっと体を回して尻尾の後ろに隠れた。そして永刃が尻尾に当たった瞬間、思わぬ硬度に永刃が弾かれた。
一見ふさふさに見えるのに、その実まるで鋼鉄の様な硬さをしていた。全力で振った分…弾かれた衝撃は比例して大きく返ってきた。
まるでそれを狙っていたかの様に、尻尾の陰から身を出したアザミは永刃を斬り上げて攻撃を仕掛けてきた。
防御は出来ず…咄嗟に後ろに退いたものの、胴を斜めに斬られてしまった…。内蔵へは届いていないが、浅いとも言えない傷を負った…。
「ふん…っ!見た目に騙され侮ったな…っ!貴様に銀狐の五靭尾を切ることは叶わん…!観念するんだな…っ!」
確かに普通の攻撃であの尻尾を切ることは…恐らく不可能…。──であるなら…次は強化式の力でぶった切るのみ…!
攻撃と万が一の回避を考えて【流】を発動させ、私は痛みをかみ殺してアザミとの距離を詰める。
案の定アザミはまた後ろを向いて尻尾での防御を狙っている。望むところです…!切り裂いてやります…!
「 “〝気鋭士魂〟壊牙” !」
二撃目のことを考えない力任せの一振りが尻尾と衝突し、周囲に小さな衝撃波が走った。火花が散る中で、私は永刃を振り切った。
切ることは出来なかったが、アザミをぶっ飛ばすことは出来た。あの速度で壁や柱に衝突すれば無事では済まない筈。
あれだけ硬ければクッションの役目も果たせないでしょうし…才式の維持が難しくなる程度のダメージが入ればいいのですけど…。
ぶっ飛ぶアザミは真っ直ぐ壁に近付いていく。だがまたくるっと体を半回転させたかとおもうと、予想外の事が起きた…。
“ボフンッ!”
鋼鉄程の硬さの尻尾が、なるでふかふかのお布団の様にアザミの体を包み込んだ。恐らく衝突のダメージはほとんどカットされてしまっている…。
「残念だったな隊員…!銀狐の五靭尾は強靭かつしなやか…、真っ直ぐ張れば鋼鉄の盾に、たゆらかにしならせればクッションになる…!」
つまりぶっ飛ばしても無駄で…斬りかかっても弾かれるって事ですか…。基本剣技だけで戦う私にはちょっと辛いですね…。
──今回は一応支部長からの許可は貰ってますけど…出来ればアレは使わずに倒しきりたい…。
次の一撃でダメなら使いましょう…、だから次の一撃でなんとしてもあの尻尾をぶった切ります…!その為には…多少の負荷は我慢ですね…。
私は覚悟を決めてアザミに攻撃を仕掛けた。焦ってはダメ…、相手が確実に私の攻撃を尻尾で防ごうとする瞬間を狙う…!
永刃の打ち合いが続き、それは次第に激しさを増した。アザミは体をしならせて尻尾を鈍器の様にも使ってきて、かなり攻め辛い状況が続いた。
ここままでは埒が明かないと考えた私は永刃の攻撃を防ぎ続けて、定期的にしてくる尻尾攻撃に合わせて強引に構えを取った。
右頬に強烈な一撃をもらったが、避けずに構えを取った私に何かを感じ取ってかアザミは尻尾を盾に待ち構える姿勢を見せた。
明らかなカウンター狙い…ですがさっきの様にはいきませんよ…!これで全て…邪魔な尻尾もろとも切り裂いてやります…!
両の手で永刃を握り、そのまま右手の指で強化式の印を結んだ。
「幡 強化式 【双】…!」
発動と同時に両腕の永気が荒れ狂い、血管が浮き出る程の激痛が走った。長くは維持出来ない…、意識を真っ直ぐ整え、寸分のブレもなく永刃を振った。
「 “〝覇亟士魂〟!無頼白天緘” !!」
「うあああ…っ!!!?」
鋼鉄に並ぶ硬さの尻尾を全て切り裂き、私の刃は背中に届いた。背中のダメージと尻尾の痛みが合わさってか、アザミは膝を付いて静かに倒れた。
強化式を解除し、腕の痛みを堪えながら私は残った部下2人の方を向いた。目が合うと一度は武器を構えたものの、無理と悟ってか武器を手放して降伏した。
「──私は…負けたのか…」
「わわ…っ!?もう気が付いたんですか…!?──貴方も随分タフですねー…」
ようやく全員を拘束し終え、外で待機している本部の人たちに連行のお願いをしようと思っていると、意識を取り戻したアザミに話しかけられた。
「そうですよ、ですのでもう大人しくしていてくださいねー。くれぐれも逃げようなんて思っちゃダメですよー…!」
「足も縛られてんだぞ…どう逃げるんだこれで…。あとなんか…貴様拘束具の扱い方が下手じゃないか…?なんでこんな関節が痛むのだ…」
割と色んな人に言われるんですよねー…それー…。ちゃんと手足揃えてないからなのでしょうか…それとも拘束具の不備なのかー…。
拘束具を持ち上げて不備がないかを確認していると、そんな私を呆れるような目で見ながらアザミは喋りかけてきた。
「──羨ましいよ…、私も今のお前みたいに…気楽そうに生きてたかった…。何にも支配されずに…ただ普通に生きてたかった…」
「…?それなら普通に生きれば良かったんじゃないですか?」
「………。」
視線が何故かさっきよりも呆れられた様に感じます…、変な事は言ってない筈なんですけど…何ででしょうー…。
「そういうとこが気楽だと言うんだ…、そんな簡単な話じゃない…。怒りに飲まれ…復讐に憑りつかれ…後ろ向きで生きていく辛さ…、貴様には分かるまい…」
「──分かりますよ…私にも…。復讐心とかは分かりませんが…前を向けない苦しみは私にも分かります…」
「…っ!分かるだと…っ!?ふざけるな…っ!貴様に何が分かると言うんだ…貴様は今しっかり前を向いて生きてるだろうが…っ!知ったような口を聞くな…っ!」
アザミは傷が更に開きそうな程声を荒げて私に罵声を浴びせてくる。余程許せなかったのか、私を見る目が血走っている。
「…分かりますよ…ちゃんと…。でも…だからこそ前に進まないと何も変わりませんよ…!いつまでも立ち尽くしてるだけじゃ…支配からは逃れられません…!」
「うるさい…うるさいうるさい…!何も知らない癖に…!大した苦しみでもない癖に…!偉そうな事を言うなァ…!」
アザミは縛られた両足で近くに転がっていたガレキを蹴り飛ばした。ガレキがぶつかった額からは、ぽたぽたと血が流れ出る…。
「今でこそ…ちゃんと前を見て前に進めていますが…、私だって…昔は…」
“おかあさん…!おとうさん…!”
“さっさと働けっ!─ったく…使えない奴だ…!”
“君は…ただ私の言う通りにしていればいいんだ…楪…”
“君の事は聞いてます、歓迎しますよ桃乃くん。ようこそ、東京第三支部へ──”
「──前を向いていようと…後ろを向いていようと…、踏み出す一歩が同じ向きなら、進む方向だって同じです…! 前を向けぬと言うのなら…一歩ずつ足元を確かめながら、後ろ向きで前に進めばいいんです…! 後ろ向きの人が…ただ黙って立ち尽くしているだけでは…、次の景色は見えてきませんよ…」
「──ぅるさい…」
〚勝者:桃乃〛
【第52話 剣才 完】
邪悪を切り裂くは正しき心。 次回に続く!
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